自民党の「報道圧力」に在京キー局が沈黙を守る理由〜その本質部分の問題点を触れようとしない朝日社説
ネットメディアである「ノーボーダー」が「【衝撃スクープ】安倍政権が在京キー局に報道圧力」と題してスクープしたのは26日でした。
2014年11月26日(水)【ノーボーダー編集部】
【衝撃スクープ】安倍政権が在京キー局に報道圧力 メディアは一切報じず
http://no-border.co.jp/archives/29109/
記事によればノーボーダー編集部は、自民党が萩生田光一筆頭副幹事長と報道局長の連名で在京テレビキー局各社に対して政権に不利な報道をしないよう要請する文書を入手したものであります。
そしてそこには4点について具体的な要望が箇条書きにされていたとのことです。
「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」と題し、在京テレビキー局各社の編成局長と報道局長に宛てた文書によると、2009年の民主党政権誕生時に偏向報道があったとした上で、以下の4点について要望を出している。
1.出演者の発言回数や時間を公平にする
2.ゲスト出演者の選定についても中立公平を期すこと
3.テーマについても特定の出演者への意見が集中しないよう公正を期すこと
4.街角インタビューなどの映像で偏った意見にならないよう公正を期すこと
記事にも指摘があるとおり、この文書は11月20日付けとなっており、在京キー各局自身は「このような政治的圧力を加えられていながら、少なくとも6日間一切報じてい」ないわけです、現時点でも状況は同じです。
ここポイントなのですが、本スクープが掲載されたのはマスメディアではなくネットメディアである点です。
この自民党の要望書が「安倍政権が在京キー局に報道圧力」に当たるとするならばです、当事者である在京キー各局は本件を報道して安倍政権・自民党に対して断固たる「権力へのチェック」を使命としている「社会の木鐸」たるメディアの姿勢を示すべきなのに、今日まで在京キー各局は沈黙を守っているのはなぜなのか。
あるいは系列に在京キー局を抱える大新聞はその情報を十分入手し得る立場なのに、なぜ1社もこの「安倍政権による在京キー局への報道圧力」を報道しなかったのか。
ここにこそ日本のマスメディアのどうしようもないチキン体質が表出しているのです。
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さて26日のこのネットメディア「ノーボーダー」によるスクープ報道ですが、まず系列にキー局を持たない共同通信などの大手メディアが27日夜から一斉にスクープとして同じ内容を伝え始めます。
そして新聞では、朝日新聞と毎日新聞、東京新聞が28日朝刊の「社会面」で報じ、日経新聞と産経新聞は小さいベタ記事のみで、読売新聞は一切報じません。
28日付け朝日新聞記事。
選挙報道「公正に」 自民、テレビ各社に要望文書
2014年11月28日05時31分
http://www.asahi.com/articles/ASGCW5W6VGCWUCVL010.html
朝日新聞のみ、29日付け社説で本件を取り上げます。
(社説)衆院選 TVへ要望 政権党が言うことか
2014年11月29日05時00分
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11480610.html
朝日社説は冒頭から「総務相から免許を受けているテレビ局にとって、具体的な番組の作り方にまで注文をつけた政権党からの「お願い」は、圧力になりかねない」と核心をついてきます。
衆院選の報道について、自民党がテレビ局に、〈公平中立〉〈公正〉を求める「お願い」の文書を送った。
総務相から免許を受けているテレビ局にとって、具体的な番組の作り方にまで注文をつけた政権党からの「お願い」は、圧力になりかねない。報道を萎縮させる危険もある。見過ごすことはできない。
社説は「テレビ局は、ふだんから政治的に公平な番組を作らねばならないと放送法で定められている」とこれまた正論を続けます。
選挙の際、報道機関に公正さが求められるのは当然だ。なかでもテレビ局は、ふだんから政治的に公平な番組を作らねばならないと放送法で定められている。日本民間放送連盟の放送基準、各局のルールにも記されている。政権党が改めて「お願い」をする必要はない。
社説は過去の「テレビ朝日が5年に1度更新する放送局免許にも一時、条件がついた」事例に触れていきます。
文書には〈具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあった〉ともある。
1993年のテレビ朝日の出来事を思い浮かべた放送人が多いだろう。衆院選後の民放連の会合で、報道局長が「反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようという考え方を局内で話した」という趣旨のことを言った問題だ。
仲間内の場とはいえ、不適切な発言だった。局長は国会で証人喚問され、テレビ朝日が5年に1度更新する放送局免許にも一時、条件がついた。
社説は「放送に携わる者の姿勢が放送局免許にまで影響した例を、多くの人に思い起こさせた威圧効果は大きい」と指摘したうえで、「テレビ局は受け取った要望書などを、公平に公表してほしい」と注文を付けて結ばれています。
放送に携わる者の姿勢が放送局免許にまで影響した例を、多くの人に思い起こさせた威圧効果は大きい。
選挙になるとテレビ局には与野党から様々な要望が寄せられるという。テレビ局は受け取った要望書などを、公平に公表してほしい。有権者にとっては、そうした政党の振る舞いも参考になる。
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一見正論に見えるこの「衆院選 TVへ要望 政権党が言うことか」と題する朝日社説ですが、その論理は実に矛盾に満ちた偽善に満ちた「国家権力から不当に圧力を受けたテレビ局」擁護の視点でしかありません。
なぜ朝日社説は、今回の自民党要望書の発覚がネットメディアからのスクープであり、既存メディアは当初誰も取り上げなかったのか、そして当事者であるテレビ局が今日に至るもメディアとして何ら報道せず本件では沈黙を守っているのか、その本質部分の問題点を触れようとはしません。
本当に「国家権力から不当に圧力を受けたテレビ局」が事実ならば、メディアとして在京キー局はこの重大な問題を当事者として真っ先に報道すべきでしょう、いや社会の木鐸としてあるいは権力のチェック機関として報道する義務が彼らにはあったはずです。
彼らが情けなくも沈黙していることは、朝日新聞はなぜ批判しないのか、できないのか。
彼らは権力の圧力を受けた「被害者」などではなく、たんに自らの特権利権を手放したくないだけの臆病者(チキン)なだけではないのか。
この問題の本質は、別にテレビ局だけではない新聞を含めたこの国のマスメディアが情けなくも共有している、「ある種の圧力への迎合」体質そのものではないのか。
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商業メディアがスポンサーに甘いのは万国共通の情けない問題ではありますが、特に日本のメディアがたちが悪いのは、日本のTVやラジオと新聞がグループ化してしまっている「クロスオーナーシップ」の悪弊のために、ある種の問題が、TV局もラジオ局も大新聞もみなが沈黙してしまうというマスメディア全体がチキン(臆病)になってしまっている点です。
欧米の先進国の多くでは、言論の多様性やメディアの相互チェックを確保するために、新聞社と放送局が系列化する「クロスオーナーシップ」を制限・禁止する制度や法律が設けられていますが、日本でも、総務省令(放送局に係る表現の自由享有基準)にクロスオーナーシップを制限する規定があるにはあるのですが、これは一つの地域でテレビ・ラジオ・新聞のすべてを独占的に保有するという「実際にはありえないケース」(岩崎貞明・メディア総合研究所事務局長)を禁止しているにすぎません。
その結果、読売新聞と日本テレビ、朝日新聞とテレビ朝日、産経新聞とフジテレビ、毎日新聞とTBSといった新聞とテレビ・ラジオの系列化が進み、新聞がテレビ局の悪質な電波利権の問題を一切取り上げない、テレビが新聞の再販問題を一切報じないことなどに見られるようにメディア相互のチェック機能がまったく働かず、新聞もテレビも互いをいたわりあう、互いの利権にかかわる報道をしないという弊害が生じているのです。
今回の問題も取り上げたのはネットメディアです、既存メディアはすべて沈黙していました。
日本のメディアはクロスオーナーシップのせいで馴れ合い相互批判をしませんから、メディアからの圧力は掛かりません。
彼らに掛かる圧力は主に三つです、一つ目はTVなら電波の免許制度、新聞なら再販制度で、許認可権を有している政府(官僚)からの圧力、株主や広告主としての大企業ならびにその広告を一手に扱う大手広告代理店からの圧力、最後に読者・視聴者からの批判圧力です。
政府(官僚)の権限者やスポンサー企業(代理店)からの圧力は非常に強く、逆に読者・視聴者からの圧力は、彼らには弱く感じられて来ました。
彼らは圧力を受けた(あるいは受けると彼らが想像した)場合、ある種の事実を曲げて偏向報道するか、最悪の場合、「沈黙」すなわち報道をすることを放棄します。
今回の自民党の要望はまさに在京キー局にとって「沈黙」を守る「圧力」と感じたのでしょう。
これでは「権力から圧力を受けた被害者」でも何でもない、メディアとしての使命を放棄した、立派な一種の「偏向報道」と考えていいでしょう。
電波利権に関わる騒動をチキンな彼らは社会記事として取り上げれないのです、すべての在京キー局がマスメディアグループが沈黙するわけです。
今までならば沈黙をしばらく続ければそれで解決でした。
しかしマスメディアではなく第二の公共圏として「ネット」が今日の状況を一変しました。
マスメディアが沈黙している情報が、ネットからスクープされるようになったのです。
ある種の圧力によりマスメディアがフィルターを掛けて偏向報道していた、あるいは沈黙し報道しなかった事象に対して、ネットメディアが国民に真実を知らせる機能を代行し始めたといえるでしょう。
ある種の事象をマスメディアが気味悪くも沈黙するのは、彼らがそれを報道することで発生するであろう圧力を恐れているためです。
そしてさらに本質は、自分たちが「社会の木鐸」でもなんでもなく、ただの圧力に弱いチキンな自己保身の既得権益擁護に汲々としている存在であることを知られることを恐れているのです。
今回の騒動は、ネットがマスメディアのチキンを見事に補完し始めている点こそ重要なのであります。
第二の公共圏として「ネット」が役割を果たし始めたと言えます。
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まとめます。
日本のマスメディアは「権力に対するチェック機関」を使命とする「社会の木鐸」でも何でもありません。
この国の奇妙な法律に守られた特権を必死で守ろうとしているただの臆病者(チキン)集団です。
自分たちが法律で守られた特権を享受している負目があるものだから、ある種の圧力にはめっぽう弱い情けない体質なのです。
そしてクロスオーナシップの弊害により、メディアによる相互批判は完全にタブーになっています、それどころか上記朝日社説のように互いにかばいあっているのです。
新聞はテレビ局の悪質な電波利権の問題を一切取り上げません、テレビは新聞の独禁法例外かつ再販問題・悪質な押し紙問題などを一切報じません。
ここで自民党の要望書の内容は問いません。
しかしです、「公平に報道しろ」と政権与党が要望しただけで、怖気づいて沈黙してしまい、政権与党に配慮するようなチキン集団ならば、誰が与党になっても「公平に報道しろ」と要望することでしょう。
圧力に臆病なメディアなど存在価値はないのです。
既存のマスメディアは本件で「被害者面(づら)」してはいけません。
(木走まさみず)