木走日記

場末の時事評論

「経団連」の代弁者になりさがっているマスメディア

 5日付けの読売新聞社説から。

雇用対策 意欲ある若者や女性に仕事を(7月5日付・読売社説)

 高齢者の増加と15歳から64歳までの生産年齢人口の減少が、猛烈な勢いで進んでいる。

 消費を盛り上げ、経済の持続的な成長を可能とするためには、若者や女性が意欲的に働き、賃金面などでも適切に処遇されるような社会にしていくことが重要だ。

 ところが、失業率が5%台で高止まりするなど、足元の雇用情勢は依然として厳しい。

 過当競争、値下げ競争の激化から、正社員は増やさず、従業員の残業や非正規雇用で対応する傾向も様々な業界で広がっている。

 こうした問題の深刻さを踏まえれば、参院選公約で各政党が成長戦略による雇用創出策を打ち出したのは、当然のことだ。

 民主党は、「公共事業中心」でも「偏った市場原理主義」に基づく政策でもない「第三の道」に取り組むという。具体的には、喫緊の課題の解決策を通じて10年間に約500万人の雇用を創出し、成長につなげるとしている。

 要は、環境・エネルギーや、医療・介護サービスの分野で新たな雇用を増やそうというのだが、雇用危機のたびに打ち出されてきた自民党政権時代の対策と大同小異で、新味に乏しい。

 成長への道筋も曖昧(あいまい)だ。一応、今年度や来年度に実施すべき施策を定めてはいるが、それぞれの施策が生み出す単年度ごとの雇用創出効果や財源の裏づけなどを、もっと具体的に示すべきだ。

 政府の成長戦略には、最低賃金について、時間給で「できる限り早期に全国最低800円を確保し全国平均1000円を目指す」ことも盛り込まれた。現在の最低629円、全国平均713円からみれば、極めて高い目標だ。

 最低賃金の方が生活保護より低い地域がある。非正規労働者も増加する中で、賃金の底上げは必要だが、地域や業界の実態を顧みずに強行すれば、かえって雇用の場が失われてしまう。

 成長産業を育て、産業構造の転換を進めてこそ、目標に近づくこともできるのではないか。

 製造業派遣などを禁じる労働者派遣法改正案は、先の通常国会で継続審議となったが、もう白紙に戻してはどうか。雇用への悪影響が懸念されている。中小企業の経営にも打撃を与える事態になっては取り返しがつかない。

 政府は、各産業の置かれた状況をもっと直視して対策を考えるべきだ。量と質の両面で雇用を改善するには、政府と産業界の一致協力が不可欠だ。

(2010年7月5日01時35分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100704-OYT1T00843.htm

 「若者や女性が意欲的に働き、賃金面などでも適切に処遇されるような社会にしていくことが重要」なことはごもっともなれど、策としては「成長産業を育て、産業構造の転換を進めてこそ、目標に近づくこともできるのではないか」という抽象論しかなく結語で「量と質の両面で雇用を改善するには、政府と産業界の一致協力が不可欠」としてますが、私に言わせればこの社説で読売が主張したいことは「最低賃金の方が生活保護より低い地域がある」から「地域や業界の実態を顧みずに強行すれば、かえって雇用の場が失われてしまう」から強行すべきでないということと、「労働者派遣法改正案」この際「もう白紙に戻し」たほうがいい、という「経団連」大企業の主張2点の押し売りだけです。

 最近の新聞メディアの「経団連」さんとうりふたつの「消費税増税推進偏向報道」も目に余るものがありますが、この読売社説もひどい内容で一般読者を導こうとしている意図が感じられて不快であります。

 「過当競争、値下げ競争の激化から、正社員は増やさず、従業員の残業や非正規雇用で対応する傾向も様々な業界で広がっている」とまとめていますが、「経団連」などに加盟している日本を代表する大企業が率先してこの流れを作っていることをこの社説はまったくふれていません。

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 先日ある地方の商工会の招きでセミナーの講師として訪れたのですが、自治体と地元商工会が共同して「IT技術を活用した商店街復興策の成功事例」の話をさせていただいたときのことです、IT技術を活用して地域振興券を電子カード化して地元住民サービスを実現したある自治体の成功例をお話ししたのですが、セミナーの後の懇親会でのこの地方都市の地元商店主さん達との話は印象的でした。

 「IT技術の活用もいいと思いますがもうこの街では手遅れかも知れません」。彼らの話では地元商店街はシャッターの降りた「ガレージ商店街」からさらに悪化して「パーキング商店街」と化してきているというのです。

 いつまでまってもテナントが入ることのない店舗を地主が嫌気して、更地にして24時間パーキングにして現金収入を得ようとする動きが目だっているというのです。

 ある大企業製造メーカーの工場閉鎖も痛かったといいます、少なからずの下請け地場企業が雇用縮小せざるをえず、その影響で飲屋街でもお店を閉めるところが多かったといいます。

 私の体感としても実際地方経済の疲弊化は酷い状況にあると思います、「成長産業を育て、産業構造の転換を進め」(読売社説)る以前の深刻な状況なのであります。

 この国のメディアは日本経済を語るとき、東京中心・大企業中心の視点でしか語りませんが、それでは多くの問題点が隠されてしまい、上記の読売社説のように「経団連」代弁者になってしまっています。

 日本経済は多くの地場産業も含めた中小零細企業が底辺でささえている事実を忘れてはなりません、就業者の雇用の8割をこの中小零細企業が支えているのです、ここを活性化させなければ日本経済の復興、地域経済の復興はありえないのです。

 
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 6日付けの日経新聞紙面連載記事でさらりと小さく取り上げていましたが、実は日本の大企業の現預金残高(金融を除く)が3月末時点で過去最高の202兆円に膨れ上がっていることをマスメディアはほとんど取り上げません、彼らが主張する消費税増税法人税減税にとって、触れたくない数字だからかもしれません。

 純利益が拡大した大企業は、その利益を株主に配当しています、上場企業の11年3月期の株主配当は5兆3710億に拡大しています。

 自社の株価を上げ企業価値を高めるために大企業は株主の配当を優先しています。

 一方、雇用や賃金は徹底的におさえ、設備投資の大半は海外生産拠点にまわしています、つまり、グローバル大企業は得た利益を国内には還元していないのです。

 株主配当と海外拠点への設備投資には積極的ですが、国内の設備投資や賃金・人件費は抑制したまま、現預金残高(金融を除く)が過去最高の202兆円に膨れ上がっているわけです。

 お金が大企業にプールされ国内に還元されていないのです。

 この状態で「過当競争、値下げ競争の激化から、正社員は増やさず、従業員の残業や非正規雇用で対応する傾向も様々な業界で広がっている」(読売社説)のが実状なのであり、大きくお金を循環させる方策が求められるのです。

 いま消費税増税などとんでもないことです、法人税減税もよく考えた方がいいのです。

 赤字の中、雇用を護りつつ歯を食いしばって耐えていらっしゃる全国の中小零細企業、日本経済を底辺で支えるこれらの企業に対し、大新聞メディアはまったく眼中にないようです。

 必要な情報も報道せず「経団連」の代弁者になりさがっているのです。



(木走まさみず)