イメージ戦略がまったく欠落しているとしか思えない民主党の不思議
一週間前の菅首相はこんな発言をしていました、30日付け産経新聞記事から。
菅首相が自民マニフェスト評価 消費税率10%「勇気はたたえたい」
2010.6.30 13:00菅直人首相は30日午前、青森市内で街頭演説し、自民党が参院選公約(マニフェスト)に消費税率を10%に引き上げることを盛り込んだことについて「私はその勇気はたたえたい」と評価した。
首相はその上で、「私が消費税について言うと、選挙が終わってからにした方がいいという人もいる。しかし、正面から、選挙が終わったら他党の人たちとも議論をしようと言っている」と述べ、超党派の協議に意欲を示した。ただ、自身が掲げた「消費税10%」には直接言及しなかった。http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100630/plc1006301302007-n1.htm
消費税率10%を明記した自民マニフェストを「私はその勇気はたたえたい」とし、「選挙が終わってからにした方がいいという人もいる」との助言には、愚直にも「正面から、選挙が終わったら他党の人たちとも議論をしようと言っている」と述べております。
今にして思えば、発足後政権支持率60%というV字回復の余韻も残っての余裕の発言と感じられます。
この発言自体今となっては当時はあまり臭わなかった「おごり」のようなものをかもしだしています、つまりこの一週間でもますます世論は大きく消費税増税反対に流れつつあります、菅首相の消費税発言はその後の発言の揺らぎもあり民主党に取り完全にアゲインスト・逆風のうねりとなり始めましたことをあらためて感じますです。
過去この国の国政選挙では「消費税増税」を唱えた内閣は必ず選挙で民意につぶされてきたわけですが、私にすれば、菅首相のほうこそその「勇気はたたえたい」です、選挙直前に消費税増税を発言するとは、「火中に栗を拾う」行為というかなんというか、彼なりの政治哲学・美学があるのでしょうか、政治家として政治生命を掛けての発言だとは思うのです。
がしかし有権者からしてみれば4年間消費税は上げないと主張して政権交代を成し遂げた民主党政権が、1年もたたないうちに鳩山さんから菅さんに変わったらいきなり消費税増税を言い出しちゃったという唐突感、違和感、騙された感は払拭できないものがあります。
同じ増税を提起するにしてももう少し良いやり方はなかったのか、戦略・戦術という意味では大失敗のようであります。
増税に関してはこの国の世論は正直に反応します、わずか一ヶ月で管政権の支持率・不支持率が逆転してしまいました。
5日付け朝日新聞記事から。
2010年7月4日22時46分
朝日新聞社が3、4の両日実施した全国世論調査(電話)によると、菅内閣の支持率は39%で、1週間前の6月26、27日に実施した前回調査の48%から大きく下落した。不支持率は40%(前回29%)。「いま投票するなら」として聞いた参院比例区の投票先は民主30%、自民17%、みんな6%。民主がなお自民に差をつけているものの、前回の39%から大きく減らした。(後略)
http://www.asahi.com/politics/update/0704/TKY201007040329.html?ref=reca
朝日調査によれば発足後わずか1ヶ月という短期間で60%あった政権支持率が21ポイントも下落、遂に支持39%、不支持40%と逆転を許してしまったわけです。
民主党支持率も急落していますが、興味深いのはその受け皿としてどの党が支持を伸ばしているのか、という点です。
朝日は6月12、13日の第1回調査(左の数字)と今回の7月3、4日調査(右の数字)を比較しています。
◆こんどの参議院選挙の結果、どの政党に議席をのばしてほしいですか。
民主党 40 − − 26
自民党 17 − − 20
公明党 4 − − 4
共産党 3 − − 4
国民新党 0 − − 0
新党改革 0 − − 1
社民党 3 − − 3
たちあがれ日本 0 − − 1
みんなの党 7 − − 10
幸福実現党 0 − − 0
その他の政党 0 − − 0
答えない・分からない 26 − − 31
世論調査―質問と回答〈7月3、4日実施〉
http://www.asahi.com/politics/update/0704/TKY201007040328_02.html
ここ1ヶ月で民主が一人−14ポイントと大きく支持を下げているわけですが、その受け皿は、自民+3、共産+1、新党改革+1、たちあがれ日本+1、みんなの党+3、答えない・分からない+5となっております。
有権者の迷いが数字で出ていますね、予想通りみんなの党あたりが受け皿としては浮上していますが、一番多いのは答えない・分からない+5、つまり民主に投票はやめたが新たな投票先を見いだせていない層が生じているようです。
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参議院選挙まであと一週間を切ったこの段階でのこの調査結果、民主党執行部にとって深刻な事態でしょうが、怖いのは日を追うごとに支持率を下げている感が強い菅政権なのです、ここで下げ止まったとする保証はまったくなく下手すると選挙までにさらに支持率を下げる可能性も否定できないことです。
それにしても不思議なのは民主党には企業で言うところのマーケティング戦略、イメージ戦略がまったく欠落しているとしか思えないところです。
「ポピュリズムでは増税など国民の耳に痛い政策はとれない、長期的政治課題に取り組めない」という正論はここではいったん無視しましょう、ここは戦略論として、なぜ菅さんはこの時期に消費税増税に触れて世論の支持をここまで急速にみすみす失ってしまったのか、この一点に注目したいです。
私はここまで急激に支持率を下げてしまった一番の理由は、消費税増税発言そのものだけではないと考えています。
各種世論調査の結果でも、国民の中には増税に対する理解は深まりつつありましたし、以前のような増税何でも反対という極端なアレルギー反応をもつものは少数派になり増税への理解者も少なくありませんでした、その必要性と目的を真摯に議論する政治的土壌は熟成しつつあると思いました。
国民がここまで政権を見限ったのは、一言で言えば政権交代を実現した民主党の大事にすべきイメージを、国民を裏切る形でぶち壊してしまったからだと推測してます。
民主党は「国民の生活を第一」をスローガンとし消費税は4年間は上げないと公約、増税の前にすべきことがある、景気の自律的回復と国民が納得できる行政改革の成果をまず挙げると約束したわけです。
官僚言いなりの自公政権では不可能な税金の無駄使いを民主党政権は根絶することを約束しました。
菅首相自身も昨年財務相に就任した当時は、無駄使いは「逆立ちしても鼻血も出ないほど絞り取る」と喝破していたのです。
その見事なイメージ戦略で国民の圧倒的支持を受け政権交代成しえたのが今の民主党です。
このイメージ戦略で得た高支持率はしっかりとした選挙地盤を持たない民主党にとって「風」のようなものです、この「風」が凪(な)いでしまえば民主党政権は持たなくなることは民主党自身が百も承知していたことでしょう。
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その「風」を自ら止めてしまったのが今回の菅発言だと思います。
今回の財務省言いなりとも見られる菅首相消費税増税発言は、これまでの民主党が成功してきたイメージ戦略をぶちこわしてしまいました。
風任せの凧(たこ)は風が凪いだら落ちるだけですが、この期におよんでイメージ再構築をせまられた民主党です、果たしてこの危機をどう乗り越えようとするのでしょうか。
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(木走まさみず)