木走日記

場末の時事評論

ある意味有権者がぶれていないことを証明した「みんなの党」大躍進

 まあ予想通りの結果と申してよいでしょう、民主党敗北はそのとおりなのですが、この結果を「大敗」あるいは「惨敗」と表現できるかは少し微妙ですね、個人的には44議席とは民主がふんばった敗北と考えます。

 比例ではいまだ民主が得票数第一位でしたし、東京選挙区などの複数区の結果でも民主全滅という選挙区はありませんでした、また野党側にしても自民・みんな以外は「敗北」と表現してもいいような結果になっております。

 大敗かどうかの表現はともかく政権党民主にとって参院過半数を大きく割り込んだことは、今後の政権運営を考えると痛恨の敗北なのは事実であります。

 これでまたしても「ねじれ国会」になるわけですが、自民党政権時代の「ねじれ」では、参院で否決されても衆院で与党が「3分の2」の議席でもって再可決するという「奥の手」がありましたが、今回の「ねじれ」では与党側は衆院で再可決する頭数はありません、衆院で通過した法案も野党主導の参院で否決されればそこまでです、つまり民主党政権は野党の協力無くしてはひとつの法案も成立させることは不可能となりました、政権党にとりより事態は悪化した「ねじれ」と申せましょう。

 その意味で民主党政権は「連立」の枠組みを増やして参院での多数派を構築するか、政策単位で同調する野党と「部分連合」いわゆる「パーシャル連立」をそれぞれ計るか、現在のところ各党幹部の発言では閣僚を出す本格連立にはみな否定的ですから、後者の道を歩まざるを得ないとの見方がメディアでは大勢のようですが、これはこれで「いばらの道」と言えましょう。

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 それにしても「消費税増税」を論点とするならば奇妙な結果にもなったわけです、同じ増税10%案で勝った自民にそれに乗った負けた民主の明暗、また増税反対でも、負けた共産・社民・公明などに一人勝ち状態のみんなの明暗、消費税増税で色分けすると勝者と敗者の関係がまだら模様なんであります。

 今回の選挙結果、民主党の敗因のひとつは菅首相の消費税発言にあることは明らかです、あの発言が無ければ支持率20%割れしていた鳩山・小沢体制から一気に60%とV字回復した政権発足直後の支持率をもしキープしていれば、結果は大きく変わっていたことでしょう。

 その意味ではうかつな発言だったでしょうが、もし鳩山・小沢体制が継続して選挙に突入していたらそれこそ「大惨敗」となっていた可能性は大きかったことでしょう、その意味では今回民主がふんばった敗北とも言えそうです、従ってこれを持って一部小沢支持者が菅政権を揺さぶり小沢復権を唱え党内抗争に持ち込むことは民主党からますます民意を遠ざけることになりかねません、愚策ということです。

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 民主敗北、自民・みんな勝利といえるこの結果ですが、自民党の本格的復調と見なすことはできなそうです。

 勝敗を決した二十九の一人区対決は、自民党が二十一勝八敗と圧勝したわけですが、これは前回の民主党圧勝(二十三勝六敗)からオセロゲームよろしく形勢逆転したもので、たしかに今回の自民党勝利の大きな要因となりました。

 しかしながら比例代表では自民党の得票数・得票率ともに前回を大きく下回り長期凋落傾向に歯止めが掛かっていないことが数字ででています。

 今回の確定値をもとに政党別の得票数・得票率を前回・前々回の推移とともにまとめてみました。

政党 今回 前回 前々回
民主党 得票数 18,450,140票 23,256,247票 21,137,457票
  得票率 (31.56%) (39.48%) (37.79%)
自民党 得票数 14,071,671票 16,544,761票 16,797,686票
  得票率 (24.07%) (28.08%) (30.03%)
みんな 得票数 7,943,650票 ----- -----
  得票率 (13.59%) ----- -----
公明党 得票数 7,639,432票 7,765,329票 8,621,265票
  得票率 (13.07%) (13.18%) (15.41%)
共産党 得票数 3,563,557票 4,407,933票 4,362,574票
  得票率 (6.10%) (7.48%) (7.80%)
社民党 得票数 2,242,736票 2,634,716票 2,990,666票
  得票率 (3.84%) (4.47%) (5.35%)
たち日 得票数 1,232,207票 ----- -----
  得票率 (3.84%) ----- -----
新党改 得票数 1,172,395票 ----- -----
  得票率 (3.84%) ----- -----
国民新 得票数 1,000,036票 1,269,209票 -----
  得票率 (3.84%) (2.15%) -----
創新党 得票数 493,619票 ----- -----
  得票率 (3.84%) ----- -----
女性党 得票数 414,963票 673,559票 903,775票
  得票率 (3.84%) (1,14%) (1,77%)
幸福実 得票数 229,026票 ----- -----
  得票率 (3.84%) ----- -----
合計 得票数 58,453,432票 58,913,700票 55,931,785票
  得票率 (100.00%) (100.00%) (100.00%)

 民主・自民2党をみますと、前回に比し民主党は480万票、8ポイント近く下げておりますが、自民党も250万票、4ポイントの下落であり、過去最低を更新しています。

 つまり一人区では二十一勝八敗と民主党に圧勝した自民党ですが、これは他の選択肢がなく民主批判票の受け皿として自民党候補が機能したのであり、しかし比例代表では自民党の得票率には結びつかずむしろ前回より下げており、その分みんなの党などに流れていることが数字に出ています。

 残念ながら自民党は、政権を奪うほどの本格的支持率復調とはまだいえない状態だと言えましょう。

 さて、公明・共産・社民の既存政党も後退、国民新党も0議席みんなの党以外の新党も1議席確保がやっとの中で、こうしてみると実質今回の選挙はみんなの党の一人勝ちとも言えそうです。

 躍進するみんなの党と特に明暗のコントラストを分けたのは、同じ消費税増税反対を唱えながら今回も得票を下げた、共産・社民リベラル勢力の憂うべき退潮傾向であります。

 比例代表の得票数では「みんな」(得票数7,943,650票)に比し、共産(3,563,557票)社民(2,242,736票)2党合わせても580万票ほどで遙かに及ばず、前回に比べ2党合わせて比例代表で120万票もの得票数を落としています。

 菅政権の消費税増税発言はある意味でリベラル両党にとりみんなの党と同様の順風になったはずにもかかわらず、有権者の受け皿としてはみんなの党一人にさらわれてしまったわけです。

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 みんなの党は何を主張して躍進したのか。

 増税の前にやることがある」

 今回のみんなの党の主張は彼らが繰り返してきたこのワンフレーズに尽きています。

 彼らの「増税の前にやること」とは徹底した税金の無駄使いの排除・行政改革であり、「まず国会議員や官僚が身を切るべきだ」と主張します。

 「国民の手に政治を奪還する」とは、まず、政治家や官僚の利権・既得権益に食いつぶされている国民の貴重な税金を、本来の持ち主である国民の手に取り戻すということだ」、と言い切ります。

 そう、これはまさに昨年の総選挙で民主党が主張し政権交代につながった内容と同じなのだということです。

 つまり有権者はぶれていない、ということであります。

 ぶれたのは民主党政権ということでありましょう。



(木走まさみず)