木走日記

場末の時事評論

リベラルな学者さんは企業=大企業=性悪説に立ちやすい〜9割以上が中小零細企業だって事忘れないでね

 菅財務相が、消費税を含む税制の抜本改正について、本格的な議論を始める方針を表明いたしました。

 これを受けて16日から17日にかけて各紙は一斉に社説で取り上げています。

【朝日社説】財務相発言―消費税封印の呪縛を解け
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】消費税論議 菅財務相がやっと腰を上げた
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100215-OYT1T01449.htm
【毎日社説】消費税議論 説明してから始めよう
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/archive/news/20100216ddm005070131000c.html
【産経社説】消費税発言 参院選前に工程表を示せ
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/100217/plc1002170254001-n1.htm
【日経社説】民主党政権は野党との税・年金協議を
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20100215ASDK1500415022010.html

 えっと、菅氏が会長を務める政府税制調査会で議論に入るとしたのは、税制改正の本格的な議論であり、所得税法人税に加え、消費税や環境税についても議論に入るという大がかりなモノのはずですが、日経を除いては各紙社説タイトルは「消費税封印の呪縛」(朝日)、「消費税論議」(読売)、「消費税議論」(毎日)、「消費税発言」(産経)と他の税制は完全無視してまるで消費税UPしか眼中にないような見出しなのはどういうことでしょうか(苦笑)、「消費税封印の呪縛を解け」(朝日)、「菅財務相がやっと腰を上げた」(読売)、ああそうですか、メディアとしては待ちに待っていたというそういうことですかネ。

 社会保障の安定財源を確保するには消費税UPしかないという決めつけ論説が朝日や読売の社説には踊っています。

 少子高齢化が急速に進む日本社会では、働き手の数が減って、年金・医療・介護の受給者が増える。膨らむ社会保障の安定財源を確保するには、景気の動向に左右されにくい消費税は最も有力な手段といえる。(朝日社説)

 年に1兆円ずつ増える社会保障負担を賄いつつ、危機的な財政を立て直すには、消費税率の引き上げは避けて通れない。現在の景気情勢ではただちに増税するのは難しいが、これを機に議論が進むなら意義ある決断といえよう。(読売社説)

 毎日は「より総合的な体制、戦略が必要」だと政府に注文を付けています。

中長期的視点から、年金を含む社会保障制度全体とセットで検討すべきテーマであり、税調の域を超えている。無駄削減の努力も税の議論と並行し当然、続けなければならない。環境税の導入も議論するというのであれば、より総合的な体制、戦略が必要になってくる。(毎日社説)

 一方産経は「財務相発言は当然すぎるほど当然」としつつ、民主党は消費税引き上げ工程を明らかにし参院選で民意を問えと注文します。

 民主党は前回の参院選勝利を民意の結果と喧伝(けんでん)した経緯がある。本気で消費税に取り組むつもりなら、その引き上げ工程と財政健全化目標を示し、夏の参院選で民意を問うべきなのである。(産経社説)

 いやしかし産経さん、あんた選挙前に増税話はこの国では御法度なのは百も承知でしょうに、いやあいかわらず民主政権には意地悪なんだなあ(苦笑)

 で日経ですが少し切り口を変えて超党派論議してはと提案しています。

 もっとも、税制改革は年金制度の立て直しをはじめとする社会保障の財源確保、先進国で最悪の中央・地方政府の財政再建、経済成長の促進など国の基本政策と密接にからむ。二大政党の時代の幕を開けた民主党政権だからこそ、自民党を交えた超党派協議の場を設けるべきである。(日経社説)

 うむ、でもね日経の本音はその結語に醸し出されています。

 だが税調の専門家委員会は成長を促す税制に不熱心な学者が目立つ。それも、自民党を巻き込んだ、より広い協議の舞台がいる理由だ。

 とりわけ、政策通として政権を担う枝野幸男行政刷新相、古川元久内閣府副大臣大串博志財務省政務官らは税制・年金の超党派協議の大切さがよくわかっているはずである。

 枝野さん、古川さん、大串さん、名指しでご指名でございます。

 ・・・

 日経が指摘する「税調の専門家委員会は成長を促す税制に不熱心な学者が目立つ」のは、政府税調の専門家委員会委員長の神野直彦氏(関西学院大学教授)らのことを指しているのは明らかです。

 日経は「法人税を欧米並に日本も下げるべき」が持論でありますが、リベラルな社会保障重視策を唱えてきた神野氏らはおそらく法人税を下げるどころか増税しかねないと日経は危惧しているのでしょう。

 不肖・木走は本業のほうで中小零細企業の経営コンサルティングをさせていただいてるわけですが、私も日経とは違った意味で民主党の税制論議を危惧を持って見守っております。

 失礼ながら経団連すなわち大企業の代弁者たる日経が断固反対なのは法人税増税ですが、中小零細企業代弁者を自負する当ブログはそこにはあまり関心はありません、そもそも私のクライアントの中小零細企業もその9割は赤字で法人税を払うどころではありませんもの。

 私が危惧するのは社会保障ずばり年金の企業負担増です。

 ご存知の通り現在の年金の負担は個人5割会社5割ですが、もし消費税を増税しそれを社会保障の財源とする目的税扱いとする議論があれば、間違いなく社会保障・年金の企業負担増の議論が持ち上がることがこのメンバーからは予想されるのです。

 日本の会社の法人数で9割以上そして従業員ベースでも8割以上は中小零細企業です。

 内部留保などの余裕がないこれら体力のない赤字零細企業に年金の企業負担増を背負わせたら一体何が起こるか、考えてみてください。

 零細企業の財務を極度に圧迫し、経営者は経費を抑制せざるを得ず、つまり人件費をますます抑制することは必定です、正社員雇用はますます減ることになります。

 内部留保金などに恵まれた大企業相手のこの施策は、この国の法人の9割以上である中小零細企業の雇用情勢を直撃することでしょう。

 リベラルな学者さんは企業=大企業=性悪説に立ちやすいし、民主党の大企業労組関係者もその論調に親和性を有している人が多いのがとても気になります。

 この国の経済は多くの中小零細企業が底辺で支えてきたことを民主党は忘れてはなりません。



(木走まさみず)