木走日記

場末の時事評論

経団連が描くTPPで外国人労働者大量流入の地獄絵

 どうもTPP参加反対のエントリーを繰り返し起こしているので多くの読者に誤解を与えているようですが、以前も語りましたが、当ブログは自由貿易を肯定しています。

 自由貿易はすべての国にとって基本的にはメリットがあることは、何も経済学の教科書を紐解かなくても、戦後日本の奇跡の経済復興、あるいは改革解放後の中国経済の目覚しい発展を見れば、誰も否定はできないことでしょう。

 もし中国が蠟小平の指導体制の下で、1978年12月に開催された中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議で提出した対外開放政策を仮に取っていなければ、今日のような経済発展は望めなかったでしょうし、10億の人民を抱えた最貧国として北朝鮮のような停滞を余儀なくされていたかもしれません。

 では、なぜTPP参加に反対なのかといえば、今の日本にTPP参加は経済的にマイナス要因しか考えられないからです。

 日本経済は今は平時ではない、ただでさえ戦後最高の超のつく円高に、これも先進国で唯一のいつ終わるともわからない長引くデフレ、おそらく戦後最悪の萎縮傾向にある日本経済に、追い討ちをかけるように3.11の大震災と福島原発事故の発生で、これから何十兆円も掛けて復興事業と原発事故後の始末をしなければならない状況にあるわけです。

 いわば長く慢性病(円高、デフレ)を患っていた患者が交通事故(震災、原発事故)にあい、体力はないのだが早急に外科手術をしなければならない、そのような危機的状況といっていいでしょう。

 TPPなどの非関税同盟や経済連携の目的は、域内の障壁をすべて取りさらって、ヒト、モノ、カネ、サービスを自由に流通させよう、例外なく自由に交易しようというものです。

 これは格闘技で言えば、極限までルールを簡素化した上で体重制限なく、無制限1本勝負で殴りあうのと同じことです。

 弱者は淘汰されます。

 各国で起こること、国際競争力を有する産業は伸びていき、逆に競争力ののない産業は淘汰されていくのは必然です。

 経済学はそれでも自由貿易は双方の国に必ずメリットがあると教えています。

 しかし半病人である日本経済が無制限1本勝負(TPP)に今参加した場合、フルボッコにされるのは目に見えています。

 たちが悪いのは自由貿易の結果、日本経済全体がフルボッコにされるわけではなく、弱点(競争力ののない産業)が集中的に狙われるということです。

 経済学の教科書は、そのように後進的産業は淘汰されても競争力のある産業に労働者は移行し結果的に自由貿易は参加国を豊かにすると教えています。

 だが半病人である日本経済に失業者を受け入れる余地はあるのでしょうか。

 競争力のない産業で正社員が失業し、失業者になるか別産業につけても非正社員に甘んじるしかないでしょう。

 TPP参加で確実に所得格差は拡大するはずです。

 ・・・

 それだけではありません。

 TPPで自由に動くのはモノだけではありません、ヒトもサービスも動くのです。

 TPPの主旨からすれば、参加すれば外国人労働者が大量に流入するのは必至です。

 TPP参加9カ国の全労働者人口の中の外国人労働者比率をご存知でしょうか。

 アメリカが16%、オーストラリアが26.5%、シンガポールにいたっては27.9%です。

 これらの国は移民大国でもあります。

 就労ビザ取得に高いハードルを設けて事実上「人材鎖国」を国是にしてきた日本は、OECDの中で最低、全労働人口約6300万中、外国労働者数は33万人で、その割合は僅か0.5%です。

 日本の場合、正規登録者と同数規模の不法滞在外国人が働いているので、倍と考えたとしても、たかだか1%です。

 日本以外の国ではすでに大量の外国人労働者を受け入れているのです。

 TPPの交渉の席で外国人労働者受け入れ問題で、間違いなく一人日本だけが孤立するはずです。

 その際、日本政府は米国やオーストラリアを相手にタフな交渉ができるのでしょうか。

 「非関税障壁」である就労ビザのハードルを下げれば、ただでさえ超円高なので外国人労働者は日本で稼いで本国に送金すれば、非常に効率がいいわけで、就労したい外国人労働者が殺到することでしょう。

 私は長期的には少子高齢化労働人口が減少続ける日本は、海外労働者を受け入れなければ社会保障などのシステムを維持することは不可能だと考えている者の一人なのですが、今この日本で急激に外国人労働者を受け入れることは、まったく国として体制が備えていない中で大変な混乱を招くと考えます。

 そうなれば、アメリカやオーストラリアの若年層の絶望的な失業率が、まだましなこの日本に「輸出」されることは確定的です。
 日本人若年失業者は増加、さらに大量の外国人労働者流入・移民によりさらなる賃金圧縮が起こり、絶望的に所得格差が拡大することでしょう。

 労働市場ひとつ考えてもTPP参加は拙速に決めてはならないのであり、しっかりとした国民的議論と対策が必要なのです。

 すべての関税障壁を取り払うTPPは、現在それに対して備えがまったくされていない、そして震災後の危機的状況の日本経済にとり、マイナス面のほうがはるかに大きいと考えます。

 今この超円高の状況でTPPに参加したら、ヒトとモノが日本市場に殺到することでしょう。

 そんな外国からの圧力は事前交渉で日本が拒否すればいいって?

 ・・・

 ふう。

 わかってほしいのですが、移民を求めているのは悲しいかな日本の財界なんですよ。

 8日に経団連会長が記者会見でTPP参加で「外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」と派手にぶち上げているのです。
 
 読売新聞記事から。

経団連会長、TPP参加で労働力として移民奨励

日本経団連米倉弘昌会長は8日の記者会見で、「日本に忠誠を誓う外国からの移住者をどんどん奨励すべきだ」と述べ、人材の移動が自由化される環太平洋経済連携協定(TPP)への日本の参加を、改めて促した。

米倉会長は「将来の労働力は足りず、需要をつくりだす消費人口も減る」と述べ、積極的な移民の受け入れが必要との考えを強調した。

(2010年11月8日19時58分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20101108-OYT1T00983.htm?from=top

 経団連にしてみれば、人件費を抑制できる安価な労働力はのどから手が出るほどほしいのでしょう。

 日本人の雇用など利益第一主義の彼らの経済合理性からは関係ないのでしょう。

 この経団連会長の「移民奨励」が今実現したら、不況の中、日本人労働者にとって地獄絵となりましょう。

 ・・・

 何度も何度も警鐘を鳴らしておきます、このままではTPP参加は大企業のみが肥え太るだけです。

2011-10-25 経団連にだまされるな!〜TPPは大企業のみが肥え太るだけだ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20111025/1319524112

 経団連は日本人労働者のことなど何も考えてはいないのです。



(木走まさみず)