木走日記

場末の時事評論

鬼気迫る迫力の地元沖縄「琉球新報」社説〜残念ながら主義主張がない鳩山政権では地元の声に真摯に対峙することは不可能

 鳩山由紀夫首相は17日、名護市辺野古キャンプ・シュワブ内陸上部への滑走路建設を盛り込んだ「陸上案」を「検討に値する」と語りました、全国紙の社説が沈黙する中、沖縄のメディアが悲痛な社説を掲げています。

 20日付け沖縄タイムス社説から。

[シュワブ陸上案]いいかげんにしてくれ
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2010-02-20_3730/

 新政権の迷走ぶりには「うんざり」だと論説は始まります。

 新政権の米軍普天間飛行場をめぐる迷走ぶりにはうんざりしてきた。

 政府が普天間の移設問題で、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ陸上部にヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)を造る代替案を検討していることが明らかになった。

 しかもすでに米側へ打診しており、それが名護市長選で基地反対の新市長が誕生した直後の2月上旬だったというから絶句する。民主党は米海兵隊飛行場のために民主主義を投げ出すつもりなのか。

 世界中でこれほど米軍基地が集中する「島」はほかにない。日米安保が重要と言い、海兵隊の継続駐留を見直さないのなら、当然の論理として沖縄以外で基地移転先を探すべきだ。ところが政府と本土の他地域はその議論から目を背けている。

 「世界中でこれほど米軍基地が集中する「島」はほかにない」

 「日米安保が重要と言い、海兵隊の継続駐留を見直さないのなら、当然の論理として沖縄以外で基地移転先を探すべきだ」

 「ところが政府と本土の他地域はその議論から目を背けている」

 「政府と本土の他地域はその議論から目を背けている」というのは東京都在住の私にとっても痛い指摘です、沖縄県民地元の声を代弁しているとみてよろしいでしょう。

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 19日付け琉球新報社説は、名文といってもよろしいのではないでしょうか。

普天間返還 シジフォス神話を終えよう
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-157784-storytopic-11.html

 「政府は何度同じ議論を繰り返せば先に進めるのであろうか」と、沖縄タイムス同様、地元として新政権の米軍普天間飛行場をめぐる迷走ぶりを憂いる文章で始まる社説なのですが、ポイントはここ。

 10余年前の過去案にもさかのぼり、再検討を進める政府の姿勢に、「シジフォスの岩」というギリシャ神話をみる。
 オリンポスの神々に敗れた巨人シジフォスは、罰として大岩を山頂まで運びあげる苦役を科せられる話だ。大岩は頂上近くになると急に重みを増し、支えきれなくなり、ふもとまで転げ落ち、また一からやり直しとなる。
 永遠に終わることなく繰り返される苦役。「シジフォスの岩」は「徒労」を意味する。無益で希望のない労働、絶望的状況などのたとえに使われる。自公前政権から続く政府の普天間移設作業は、まさに無益で希望のない労働に映る。苦役は神でなく米国が与えたものだ。知恵ある者は岩を砕き、苦役を終える。
 そもそも普天間問題の源流は、街中の大石ならぬ危険な“爆弾”の「移設」ではなく「撤去」という全面返還だった。原点に戻ろう。

 「永遠に終わることなく繰り返される苦役」

 「「シジフォスの岩」は「徒労」を意味する」

 「無益で希望のない労働、絶望的状況などのたとえに使われる」

 「自公前政権から続く政府の普天間移設作業は、まさに無益で希望のない労働に映る」

 「苦役は神でなく米国が与えたものだ。知恵ある者は岩を砕き、苦役を終える」

 自公前政権から延々と続く政府の普天間移設作業をギリシャ神話「シジフォスの岩」にたとえて「永遠に終わることなく繰り返される苦役」であるとし、この「苦役は神でなく米国が与えたものだ。知恵ある者は岩を砕き、苦役を終える」べきであると主張します。

 いや、これらの社説の持つこの悲痛なほどのおそらく地元沖縄の多くの人々の代弁者たる地元メディアの強い基地拒否感情は、十分に伝わってきました。

 鬼気迫る迫力も感じました、その主張を支持するか否か以前にですが、当事者としての憤りは実に明快に伝わってきます。

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 情けないのはこの三日間沈黙しているマスメディアです。

 私には、ここ一両日の沖縄タイムス琉球新報のこれら悲痛な社説掲載と、その地元の熱き論説とは真逆に、朝日・読売・毎日・産経・日経等、本土主要全国紙の社説がこの三日間(18日,19日,20日)、この問題ではまったく沈黙していることは、まさに「政府と本土の他地域はその議論から目を背けている」(沖縄タイムス)ことのなによりの証左であるようにも思えます。

 大新聞や沖縄以外の我々本土の人間にとって、所詮普天間基地問題は日米安保を機軸とした安全外交上問題でありどこに落ち着くにしろこれ以上日米関係をこじらせなければ沖縄のどこでもいいじゃないかと考えており、オーバーな言い方をすればですが直接自分の生活に関わる問題ではないプライオリティの高くない問題なのでしょう。

 しかし地元沖縄の人々にとっては、普天間問題はその心象には 「シジフォスの岩」つまり「永遠に終わることなく繰り返される苦役」にしか写っていないのであります。

 しかもこの「苦役は神でなく米国が与えたものだ。知恵ある者は岩を砕き、苦役を終える」べきと喝破するこの迫力ある主張に、民主党政権はどのように応えるのでしょうか。  

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 今ひとつだけ言えることは、鳩山政権中枢がこの問題を「シジフォスの岩」「永遠に終わることなく繰り返される苦役」だとする地元の悲痛な認識を理解していないならば、どのような決着をつけようとも本件はたいへんな遺恨を地元沖縄に残すだろうことです。

 現時点で沖縄入りすら予定していない鳩山さんです、この問題に対する真摯さ必死さ真剣さで、残念ながら主義主張がない鳩山政権では地元の声に真摯に対峙することは不可能でしょう。



(木走まさみず)