木走日記

場末の時事評論

いつまでも小沢私党では民主党政権は間違いなくもたない

●野党連立政権に懸念あり〜産経新聞社説

 17日付け産経新聞社説から。

【主張】民主党大会 野党連立政権に懸念あり
2009.1.17 03:42

 民主党は18日、定期党大会を開き、総選挙後の野党連立政権樹立を想定した「国民政権」構想を盛り込んだ今年の活動方針案を正式決定する。

 現段階で生煮えなのはやむを得ないが、日本をどうするかなどはほとんど言及されていない。民主党などが政権を奪取したあと、内政や外交の諸懸案にどう対処するかは重大な国民の関心事だ。残念と言わざるを得ない。

 危惧(きぐ)するのは、国民政権が現実的な安全保障政策をまとめることができるかどうかだ。民主党内ですらまとまりを欠く。民主党執行部は社民党などと政策協定を結ぶかどうかを含め、国民政権の具体像を早急に明らかにすべきだ。

 13日の党常任幹事会で承認された活動方針案は、9月までに実施予定の衆院選について「与野党逆転を必ず実現する」「新しい政権・国民政権をつくる」とうたっている。同時に「政権の主役は民主党議員、協力・連携して戦った野党議員など」と明示している。

 民主党参院単独過半数を確保していない。多数派のためには社民党国民新党の協力が必要なだけに野党連立政権を打ち出さざるを得なかったのだろう。

 だが、民主党がそれを言い出す以上、自らのマニフェスト政権公約)と国民政権の基本政策のいずれを優先するのかが求められる。憲法改正についても、容認している民主党と反対姿勢の社民党は折り合いがつくのか。

 昨年12月、民主党幹部と米国のジョセフ・ナイ元国防次官補などが会談した。ナイ氏は「民主党が安保政策でインド洋での給油活動をやめ、日米地位協定などの見直しに動いたら反米と受け止める」と述べたと伝えられている。こうした懸念は当然だろう。

 民主党はまた、「政治・行政の仕組みを変える」としているが、自治労などの官公労からの支援を受けながら、抜本改革ができるのだろうか。

 輿石東参院議員会長は14日、日本教職員組合日教組)の会合で「教員の政治的中立はありえない」とあいさつした。教育や教員の政治的中立は教育基本法などで定められている。参院民主党の責任者が違法行為を公然と求めた発言に耳を疑う。

 政権交代を求める声が強まっている。それだけに小沢一郎代表は「日本丸」の舵(かじ)取りをきちんと語る説明責任がある。

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090117/stt0901170342001-n1.htm

 主要紙で唯一「保守派」を自認している産経ならでは社説といっていいでしょう、民主が目指す「国民政権」構想にいち早く懸念を示す社説を掲げました。

 しかし「現段階で生煮えなのはやむを得ないが、日本をどうするかなどはほとんど言及されていない」と、活動方針案を正式決定する前段階でのこの論説はいささか拙速感は否めませんが、政権交代が現実味を帯びてきた現在、社説の結びの言葉、「小沢一郎代表は「日本丸」の舵(かじ)取りをきちんと語る説明責任がある」という指摘は正論でありましょう。

 産経社説子の懸念は、

 憲法改正についても、容認している民主党と反対姿勢の社民党は折り合いがつくのか。

 ナイ氏は「民主党が安保政策でインド洋での給油活動をやめ、日米地位協定などの見直しに動いたら反米と受け止める」と述べたと伝えられている。こうした懸念は当然。

 自治労などの官公労からの支援を受けながら、抜本改革ができるのだろうか。

 といったところのようです。

 保守派から見れば、護憲派社民党憲法問題で意見の一致が図られるのか、政権交代により特に対米外交の継続性が破綻し信頼関係が損なわれないか、公務員制度改革などにおいて自治労などの官公労組の思惑に足が引っ張られないか、などなどこのような点が懸念されるのはよく理解できます。

 そもそも民主党自体がその各議員の出自がまさに「寄り合い」と揶揄されていますし、「インド洋での給油活動」ひとつとっても党内の保守派をまとめきれてはいないのが現状です。

 共産党からは自民となんら変わらない民主も「保守」だと批判されたりもしています。

 NHK党首インタビュー共産党志位委員長の発言から。

共産党にできて民主党に絶対できないことは

大企業に正面からモノを言えるか言えないか、「自民か民主か」の枠には閉じ込めきれない大きな選択が問われる

 (前略)

 影山 党勢が拡大しているといっても、選挙に向けて麻生政権への逆風が強まれば強まるほど結果的に民主党に票が流れる。そこはジレンマじゃないかと思うんですが、最後にひとつ、共産党にできて民主党政権には絶対できないこと、これをもし一つ挙げるとすればなんですか。

 志位 大企業に正面からモノを言えるか、言えないかですね。

 影山 いまの民主党にはできませんか。

 志位 言えないと思います。私たちはこれは正面から相手が経団連であれトヨタであれキヤノンであれ、堂々とモノを言っていますけれども、民主党には言えない。

 なぜかといいますとね、日本経団連から要求項目を突きつけられて、そして通信簿を付けてもらって、そして献金をあっせんしてもらっていますでしょ。やはり大企業から献金を受け取りながら大企業の横暴を正すことはできない。

 ですからよく「自民か民主か」といわれますけれども、その枠にはもう閉じ込めきれない、もっと大きな選択が問われていると思います。

 (後略)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2009-01-12/2009011203_01_0.html

 保守派からは官公労の支援受けてては公務員改革などできるものかと批判され、共産党などリベラル派からは、大企業から献金を受け取りながら大企業の横暴を正すことはできないと批判されております。

 民主の野党連立政権がこれらの懸念や批判にどうこたえるのか、たしかに今こそ「小沢一郎代表は「日本丸」の舵(かじ)取りをきちんと語る説明責任がある」といえましょう。

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民主党の「寄り合い所帯」ぶりが随所に浮かび上がる毎日新聞のアンケート

 ここに最近の国会議員の政策志向性をアンケートで調査した興味深い分析結果があります。

クローズアップ2009:衆院選候補者、揺らぐ政党の枠
毎日新聞 2009年1月6日 東京朝刊

http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090106ddm003010074000c.html

 長文の記事なので全文引用は省きますが、毎日新聞のアンケートに基づく分類で、次期衆院選立候補予定者は政党の枠を超えた9グループに分けることができ、このうち自民系、民主系を詳しく分析すると、境界のあいまいさが浮かび上がったのだそうです。

 また民主系を分析すると、民主党の「寄り合い所帯」ぶりが随所に浮かび上がる結果になりました。

 当該箇所を抜粋。

◇統一感乏しい民主

 民主系を分析すると、民主党の「寄り合い所帯」ぶりが随所に浮かび上がる。

 93%を民主党が占めた民主系2は鳩山由紀夫幹事長、岡田克也前原誠司両副代表、渡部恒三最高顧問、山岡賢次国対委員長ら党の中心メンバーが多く、民主党の主流を表すグループと言えそうだ。

 しかし「日本の安全を守るために重要」と考えるものを三者択一で聞いた質問への回答は三分。「日米同盟」21%、「国連中心主義」27%、「近隣諸国との協調などの平和外交」25%という結果で、民主党の外交方針が固まっていないことをうかがわせた。

 これに対し、民主系3は赤松広隆選対委員長ら旧社会党メンバーが名を連ねるほか、社民党辻元清美政審会長代理ら15人なども含まれ、左派色の強いグループとなった。

 憲法9条改正への反対は民主系2が65%だったのに対し、民主系3は91%。集団的自衛権憲法解釈を「見直す必要はない」との回答も民主系267%、民主系390%だった。拉致問題解決の手段は民主系2は圧力派が63%だったのに対し、民主系3は対話派が75%を占めた。

 民主党主流ですら外交方針が固まっていない様子であり、憲法9条改正、集団的自衛権憲法解釈、拉致問題解決の手段などでは、民主内の各グループで大きく政策の志向性が異なっていることがうかがわれます。

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民主党政権の本当の課題

 議会制民主主義の制度の下である程度の議員数を有する政党に政策の志向性によるグループ化が生まれること自体は悪いことではありません。

 アメリカの二大政党を見ても共和党であれ民主党であれ、党内に左派から右派まで存在していますし、考えて見れば現在の自民党もいろいろな政策集団を内包しておるわけで決して一枚岩というわけではありません。

 それどころか、戦後55年体制以後、長期にわたって単独で政権を維持してきた自民党でありますが、与野党による政権交代がない代わりに党内における派閥闘争が自民党内の幅広い政策を時代に合わせて打ち立てていく原動力となったきた側面もあるわけです。

 上述したように民主党はたしかに寄り合い所帯ですし、民主党主流ですら外交方針が固まっていないありさまなのは事実でありましょう。

 しかし党内に多くの意見や政策の志向性を有すること自体は、それ自体は決して悪いことではありません。

 現実に政権を取って国をつかさどっていくとすれば、教条主義的な理想論だけでは個別の課題をこなしていくことは不可能なのであり、政権は現実主義者として政策のウィングを幅広くもっていたほうがよいでしょう。

 いろいろな意見をボトムアップで収集しておき、適切な政策の選択を民主主義的手続きをへて決定すれば、今度はトップダウンで一致団結して政権を運営していけばよいのです。

 今の民主党にとって懸念されることは、寄り合い所帯である事実ではない、党内に多種多論が存在することそれ自体は政党を活性化させるし、政策ウィングの幅を広める利点のほうが大きい、それよりも政策の決定手段としての民主主義的手続きが確立できていないこと、それにともない党内のガバナビリティ(被統治能力)が残念ながら低いことであります。

 強い組織は強力なリーダーシップのもとで組織員が高いガバナビリティを発揮した時に生まれます。

 小沢氏のリーダーシップのもとで一応まとまっていますが、その唱えている政策が、党内でボトムアップで収集して適切な政策の選択を民主主義的手続きをへるというステップが欠落したまま、独断に近い形でトップダウンで決められている印象が強いのですが、民主党にとってここは大きな課題だと思います、そのような組織では党内のガバナビリティは維持できず、ちょっとした問題で離反者が発生する可能性が大きいからです。

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●いつまでも小沢私党では民主党政権は間違いなくもたない

 産経社説が「日本をどうするかなどはほとんど言及されていない」と懸念しているのは、保守派としての見解としてはよく理解できます。

 たしかに憲法改正問題に対する姿勢ひとつしても民主党内部ですら意見の一致はみられていません。

 ここで「小沢一郎代表は「日本丸」の舵(かじ)取りをきちんと語る説明責任がある」のは、来るべき選挙で一票を投じる国民にとっても判断材料として必須のことであります。

 ただ、その際に民主党は産経社説の求めているインド洋での給油活動など安全保障政策において、迎合して応じる必要はないでしょう。

 産経の懸念に全て迎合しては民主党自民党になってしまいます、それでは共産党の指摘どおり自民党がふたつになってしまいます。 

 アメリカに共和党がふたつ必要ないように、この国に保守政党はふたついりません。

 今、民主党はその政策を堂々と国民に示し自公政権との違いは何がかを明らかにするときです。

 そして、現実に政権を運営するために、党内の政策の決定手段としての民主主義的手続きの確立を早急に行うべきです。

 いつまでも小沢私党では民主党政権は間違いなくもたないでしょう。

 ガバナビリティは維持できず、ちょっとした問題で離反者が発生する可能性が大きいからです。

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 現在国民は長期にわたる自民党政権に辟易していますが、また受け皿が民主党しかないことにも不満を示していることは、世論調査で「民主党中心政権」にたいする支持が伸び悩んでいることにも示されています。

 安易な審議拒否による国会での議論放棄など、旧来の手法から脱却し、民主党自体が責任ある行動をする政党に変貌する絶好の機会がきているのだと思います。

 産経社説にまで民主党政権が現実味を帯びて語られだした今、民主党こそ真摯な姿勢が求められているのだと思います。



(木走まさみず)