木走日記

場末の時事評論

この国の保守派のどのような主張が自民党をここまで衰退させたのか

●「日本に新時代の到来」〜米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)

 31日付け共同通信記事から。

【09衆院選】「日本に新時代の到来」 米紙

2009.8.31 11:21
 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は30日、「日本に新時代の到来」の見出しで、総選挙での民主党大勝を報道。選挙結果は事前の予想通りだったものの「日本の現代史の分水嶺(れい)として後世に伝わるだろう」と指摘した。
 記事は、日本の有権者は、政権担当の経験がない民主党に「弱体化した経済と高齢化社会」への取り組みを任せる選択をしたと解説。
 また、「指導者と政策優先事項の変化」により、米国などにとって、これまでの自民党政権に比べて対応が難しくなる可能性があると指摘。一方、民主党幹部が国連平和維持活動(PKO)や気候変動など国際問題での役割強化を約束しているとして、「より意欲的な同盟国となるかもしれない」とした。(共同)

http://sankei.jp.msn.com/politics/election/090831/elc0908311127119-n1.htm

 この度の民主党308議席という政権交代選挙の結果は、海外でも驚きをもって報じられています。

 「日本の現代史の分水嶺(れい)として後世に伝わるだろう」(ウォールストリート・ジャーナル)などと、いずれにしてもこれは日本の政治にとって歴史的転換期になるだろうと大げさなタイトルの報道が今回は目立っています。

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マニフェストに必ずしもこだわることはないんだと主張する各紙社説

 31日付け主要紙社説は、それぞれ普段2本掲げる社説を1本に絞りこの民主党の歴史的勝利を取り上げています。

【朝日社説】民主圧勝 政権交代―民意の雪崩を受け止めよ
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】民主党政権実現 変化への期待と重責に応えよ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090831-OYT1T00195.htm
【毎日社説】衆院選民主圧勝 国民が日本を変えた
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090831k0000m070273000c.html
【産経社説】民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090831/stt0908310524001-n1.htm
【日経社説】変化求め民意は鳩山民主政権に賭けた(8/31)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20090830AS1K3000530082009.html

 それぞれの主張は各社説を読んでいただくとして、私が興味深く注目したいのは、朝日、読売、産経の各社説が、早くもマニフェストにこだわるなという、貴重な一票を投じた国民からすれば、トンデモない(失礼)ような論陣を張り始めている点です。

 それぞれの社説から当該部分を抜粋。

【朝日社説】

 第二に、政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変(ひょうへん)の勇気をもつことだ。

 マニフェストを誠実に実行するのは大事なことだ。だが民主党が重く受け止めるべきは、その財源について、本紙の世論調査で83%もの人が「不安を感じる」と答えていることだ。高速道路の無料化など、柔軟に見直すべき政策はある。むろん、政策を変えるならその理由を国民にきちんと説明することが絶対条件だ。

【読売社説】

 ◆政権公約の見直しを◆

 鳩山新内閣は、政権公約マニフェスト)で示した工程表に従って、政策を進めることになる。だが、“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない。

 最大の課題は、大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せることだ。雇用情勢の悪化を考えれば、切れ目のない景気対策が欠かせない。

【産経社説】

 国の統治を担う以上、民主党には国益や国民の利益を守る現実路線に踏み込んでほしい。マニフェスト政権公約)で掲げた政策の修正を伴うケースも出てこようが、1億2千万の日本人の繁栄と安全を守り抜くことをなによりも優先させるべきだ。

 「政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変(ひょうへん)の勇気をもつこと」(朝日)、「“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない」(読売)、「マニフェスト政権公約)で掲げた政策の修正を伴うケースも出てこよう」(産経)と、表現は異なりますが、国民との約束事であるマニフェストにこだわる必要はないと説いています。

 確かにマニフェストに「間違った点や足りない点」(朝日)があったら国民のために修正すべきなのは一見正論でしょうが、それぞれの社説の続く文章で各紙の本音が出ているわけで、例えば朝日は、「その財源について、本紙の世論調査で83%もの人が「不安を感じる」と答えている」と、ズバリ消費税凍結を含めた財源問題を軌道修正すべきと暗に示唆しています。

 読売は「大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せること」、産経は「1億2千万の日本人の繁栄と安全を守り抜くこと」、これらが最重要なのであって、そのためにはマニフェストに必ずしもこだわることはないんだと主張します。

 これも一見正論であります、確かに今回の民主のマニフェストは一度も政権を取ったことのない民主党が机上で書いた絵空事(失礼)のような約束事であります、マスメディアが指摘するまでもなく、公約によっては矛盾や実現困難性などが当然表出して修正を余儀なくされることでしょう。

 それを否定的に公約違反ととるか、肯定的にやむを得ない現実的修正ととるかは、その軌道修正の内容と民主党による国民への明確な事前説明があるかないかにかかってくるでしょう。

 だが、これらマスメディアの主張、特に保守の読売・産経の主張には隠された二重基準ダブルスタンダードが見え隠れする点で、どうにも納得がいかないところがあります。

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●この国の保守派のどのような主張が自民党をここまで衰退させたのか

 保守派のどのような論法がこの国の政権党・自民党をダメにしたのか、2紙の社説にはその自覚がありません。

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 読売・産経の主張は、国民との約束であるマニフェストに対しては、「“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない」(読売)と、その国民への約束を”軽視”すべきと誤解を与えかねない主張を展開しているにもかかわらず、海外との約束は”重視”すべきであると、二重基準をもうけます。

 読売社説の当該部分を抜粋。

 外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故(ほご)にすることは許されない。外交の継続性に留意し、日米同盟を堅持しなければならない。

 民主党は、参院では単独過半数を持たないことから、社民、国民新両党と連立政権協議に入る。

 懸念されるのは、自衛隊の国際平和協力活動など、外交・安保の基本にかかわる政策をめぐって、民主、社民両党間に大きな隔たりがあることだ。

 少数党が多数党を振り回すキャスチングボート政治は、弊害が大きい。民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべきだろう。

 「外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故(ほご)にすることは許されない」のであり、社民党などとの協議においては「民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべき」だと、主張します。

 産経社説も同様に民主党にブレのない外交政策を求めます。

 政権を担う民主党の力量に不安があることも事実だ。本来、政権交代のたびに基本政策が大きく変わることは好ましくない。とくに外交・安全保障政策の基軸が揺れ動いては対外的信用を失う。

 民主党はこれまで、インド洋での海上自衛隊による補給支援を一時的に撤退させ、在日米軍駐留経費の日本側負担に関する特別協定に反対してきた。小沢一郎前代表の政局至上主義のためだが、「党利党略は水際まで」の原則を否定したのでは信頼は高まらない。

 その意味で、維持されるべき日本政治の方向性とは、日米同盟を基軸とした外交・安保政策の継続であり、構造改革の推進により経済や社会に活力を取り戻すことにほかならない。民主党が現実的な判断に立ち、これらを継承することができないなら、何のための政権交代かということになる。

 「本来、政権交代のたびに基本政策が大きく変わることは好ましくない」のであり、「とくに外交・安全保障政策の基軸が揺れ動いては対外的信用を失う」のだと主張しています。

 保守派二紙のこの主張はそれぞれあやういだろう民主党マニフェスト外交政策に、保守派の立場から、現実的な対応を民主に求めている点では理解します。

 しかしこれらの保守派の主張はまさに彼らが自民党政権に絶えず要求してきた、二重基準であることを自覚すべきです。

 彼ら保守派のこのような主張は、その主張自身は無自覚なのですが、政党の約束は、”国内”より”海外”を重視すべき、という本質的な二重基準ダブルスタンダードを政権党に求めているのであります。

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 国内問題を軽んじ海外との関係をのみ重視する結果がこの国に何をまねいたのか、そしてこの国の政権に何をまねいたのか。

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 国内の約束は修正してよい、海外の約束は絶対である・・・

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 読売・産経は民主党にまで悪しきダブルスタンダードを求めようと言うのか?

 この国の保守派のどのような主張が自民党をここまで衰退させたのか、この歴史的「日本の現代史の分水嶺」を迎えた今こそ、大局の議論を詰める必要がありそうです。



(木走まさみず)