変わらずにあるのは彼が類い希な「政局の人」であること
●駐日米大使の会談要請、小沢氏側が断る テロ特措法巡り〜朝日新聞記事
昨日(2日)の朝日新聞記事から。
駐日米大使の会談要請、小沢氏側が断る テロ特措法巡り
2007年08月02日10時08分民主党の小沢代表がテロ対策特別措置法の延長に反対する考えを表明したことを受け、シーファー駐日米大使が1日、小沢氏に面会を申し入れたことが分かった。参院選で大勝した民主党など野党が過半数を占めた参院で反対を貫けば、同法の延長は不可能になる。シーファー氏は小沢氏と会談して反対しないよう求める意向とみられるが、小沢氏側は「会う必要はない」と断り、当面は会うつもりはないようだ。
関係者によると、米大使館側が1日、民主党にシーファー大使と小沢代表の会談を要請した。
民主党は過去3回の延長に反対しており、小沢氏も7月31日、「反対したのに今度賛成というわけない」と表明した。
シーファー氏は05年4月に駐日大使に着任したが、関係者によると、これまで小沢氏と面識がないという。米共和党のブッシュ政権と民主党の関係が疎遠なのも、小沢氏が断った理由の一つとみられる。
http://www.asahi.com/politics/update/0802/TKY200708010476.html
シーファー駐日米大使が1日、小沢氏に面会を申し入れ、テロ対策特別措置法の延長に反対しないよう求める意向だったところ、小沢氏側は「会う必要はない」と断ったそうであります。
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どうなのでしょう、せめて国際儀礼的には駐日大使直々の面会申し入れなのですから、会うだけでも会うのがよろしいことかと思うのでありますが、小沢氏は頑なでありますね。
この小沢氏の頑なな「テロ特措法」延長反対の姿勢に、読売・産経両紙は本日(3日)付け社説にてそれぞれ「民主党は延長反対を再考せよ」(読売社説)、「国益考え責任政党の道を」(産経社説)と強く訴えています。
【読売社説】テロ特措法 民主党は延長反対を再考せよ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070802ig90.htm
【産経社説】テロ特措法 国益考え責任政党の道を
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070803/shc070803001.htm
それぞれの社説の主張のポイント。
【読売社説】
日本の平和と安全にかかわる外交・安全保障政策で責任ある態度を取れないようでは、政権担当能力が疑われる。特措法改正案への対応は、民主党にとって重大な試金石となる。
【産経社説】
日米同盟や日本の国際的信用など、国益を考えた対応をとれないようでは、参院選で民主党を勝たせた有権者の多くが「やはり政権は任せられない」と見放すに違いない。
カーボンコピーのようなそっくりな主張ではありますが、これは今までの日本の日米同盟重視の安全保障政策を堅持したい親米保守派としてはもちろん理にかなっている当然の主張でありましょう。
朝日・毎日・日経が本件で様子見している中で親米保守的論調の読売・産経が期せずして社説により民主を牽制していること自体も興味深いのであります。
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テロ対策特別措置法の延長問題、はたして小沢民主党はどのような戦略を描いているのでしょうか?
●小沢民主党の政略として想定できる3つのケース
政府は9月に臨時国会を召集し、特措法の期限を1年間延長する改正案を提出する予定でいます。衆院は簡単に通過しても、民主党が主導権を握る参院で可決、成立させることは極めて困難と見られているのです。
本件に関する小沢民主党の政略を3つのケースを予想・考察していきましょう。
【ケース1】本気でテロ対策特別措置法を潰し自衛隊を戻す
民主党が参院で早期に改正案を否決した場合は、与党が衆院で3分の2以上の多数で再可決し、成立させられることになります。
従って小沢民主党が本気でこの法案を潰そうと思えば、意図的に審議を60日引き延ばせば、特措法は11月2日に失効してしまうことになります。
参議院議長も押さえ参議院の運営権を持つ民主党ならば可能なのであります。
読売・産経も正にこの民主の意図的な審議・引き延ばし作戦による特措法の11月2日の失効を警戒しています。
このケースの場合、デメリットは特措法延長賛成の前原前代表をはじめとする党内右派がおそらく猛反発するであろうこと、その手法も含めて国民の民主への風当たりが厳しくなるであろうこと、この当たりであろうと思います。
【ケース2】建前でテロ特措法に反対し、結果的には延長を認める
民主党が参院で早期に改正案を否決すれば、与党が衆院で3分の2以上の多数で再可決し、成立させられることになります。
私はこのケースが可能性としては高いのではないかと思っています。
自民・民主双方がそれまでの主張をまげずにすみ、小沢民主も行動としては今までの公約に従っておりおそらく支持者の反発は少なく、かつ本音では「国際社会が一致団結してテロ撲滅に取り組むことの重要性」を認めているであろう小沢さんにとっても実を取ることができるのであります。
【ケース3】自民の妥協案を飲みテロ特措法に賛成する
自民党がかねがね民主が反対してきた理由をすべて飲み込んで、国会検証や国会承認を制度化し大幅に民主が受け入れるような修正案を出してきて、かつ参議院審議に民主が協力した場合、参議院にて民主が延長に賛成するケースです。
このケースの場合、デメリットは特措法延長絶対反対の党内左派が猛反発すること、同じく絶対反対の社民・共産との関係が著しく損なうことです。
参院第一党となったといっても民主は参院の過半数を押さえているわけではなく野党優位の運営をしていくためには、社民・共産との協調は大前提であります。
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以上想定できる3ケースを考えてみましたが、おそらくデメリットの最も少ないと思われる【ケース2】建前でテロ特措法に反対し、結果的には延長を認める戦術をとるのではないでしょうか。
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●類い希な「政局の人」
しかしながら、「おそらく」としたのは、策士小沢のことであります、【ケース2】を選択した場合にも、限りなく【ケース1】を選択しているように「演技」しながら、自民を揺さぶりに掛けることも十分にあり得ましょう。
つまり衆議院に戻して再可決する日程をぎりぎりまで延ばす作戦です。
支持率低迷にあえぐ安倍政権の行方はとても不透明であり、改造人事による新内閣の顔ぶれ、そのときの国民の評価、自民内部での「安倍降ろし」の動向、おそらく小沢さんはときの状況により、多様なやり方で自民に揺さぶりを掛けれるよう、当面は「テロ特措法反対」の一点張りで余計な言説はしないことでしょう。
相手の様子を見ながら手の内は最後まで明かさないのではないでしょうか。
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今日の産経社説はこう指摘しています。
この際、小沢氏は「政策より政局の人」という不本意なレッテルを返上すべきである。
それは無理というモノでしょう。
彼が安倍さんのように「政策だけの人」であったならば、今回の与野党逆転もなかったことでしょう。
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小沢さんは代表に選出される際、映画「山猫」のクライマックスの台詞を引用しています。
変わらずに生き残るためには、変わらなければならない。
”We must change to remain the same.”
民主党を改革しなければならない、まず私自身が変わらなければならないという意味で引用したそうですが。
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確かに生き残るために自民党時代、自由党時代からいくつかの「政策」を変えてきた小沢さんなのであります。
しかし、変わらずにあるのは彼が類い希な「政局の人」であることでしょう。
今後の安倍新政権が「政局」にたけた側近を配置できなければ、弱体化している自民が小沢民主の揺さぶりに対抗するのは極めて困難なことになりましょう。
(木走まさみず)