約束を反故にした小沢氏に対する読売の痛切なしっぺ返しスクープ
●孤軍奮闘大連立構想を無条件で支持する【読売社説】
福田首相が小沢民主党代表との党首会談で、「政策を実現するための新体制をつくることもいいのではないか」と、連立協議を持ちかけたことを、ここ一両日の各紙社説は一斉に取り上げました。
【朝日社説】「連立」打診―甘い誘惑にはご用心
http://www.asahi.com/paper/editorial20071103.html【読売社説】党首会談 政策実現へ「大連立」に踏み出せ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20071102ig90.htm【毎日社説】大連立提案 民主党が拒否したのは当然だ
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20071103ddm005070009000c.html【産経社説】大連立論 まず国益ありきが前提 民主党は成熟政党に脱皮を
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/071104/stt0711040245002-n1.htm【日経社説】ねじれ国会揺さぶる首相の連立提案(11/3)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20071102AS1K0200902112007.html
【朝日社説】は冒頭で「びっくりするような提案が、福田首相の口から飛び出した」とはじめていますが、別に大連立構想自体は先の参院選自民惨敗で衆参ねじれ状態が少なくとも向こう6年もしかすると9年は恒常化することを踏まえ、読売や日経などで社説にも登場していたわけで、【朝日社説】がいうほどには多くの国民は「びっくりするような」話ではなかったのではあります。
それはともかく各紙社説の論調をまとめておきましょう。
まず【朝日社説】ですが、突然の大連立構想は国民にとってキツネにつままれたような話であると、批判します。
大連立は、ドイツのメルケル政権など例がないわけではない。だが、今回の打診は多くの日本国民にとっては、キツネにつままれたような話だろう。
今の時点での大連立は、「国民にもうひとつの選択肢を示し、総選挙で政権を奪取する」と主張してきた民主党にとって「危険な誘い」であると指摘します。
だが、いまの時点での大連立はあまりにも唐突に過ぎる。とりわけ民主党にとっては、危険な誘いというほかない。
日本の政治には政権交代が必要だ。国民にもうひとつの選択肢を示し、総選挙で政権を奪取する――。民主党は国民にそう訴えてきた。
それなのに、肝心の勝負をしないまま、大連立で政権入りという甘い誘惑に負けたとなれば、有権者への背信だ。民主党がこの呼びかけを拒否したのは当然で、むしろ小沢氏がただちに断らなかったのが不可解である。
【朝日社説】の結語は、今回の構想を談合であると結んでいます。
談合のような「大連立」話はききたくない。
一方、【読売社説】は、メディアの中で孤軍奮闘といってもいいでしょう、今回の構想を無条件で支持しています。
社説冒頭、
衆参ねじれの下で、行き詰まった政治状況の打開へ、積極的に推進すべきである。
自民党総裁である福田首相が民主党の小沢代表との党首会談で、連立政権協議を提起した。いわゆる大連立である。実現すれば、日本政治に画期的な局面を開く。
実現すれば「日本政治に画期的な局面を開く」とは、さすが、今回の大連立構想を裏で取り持ってきたとされるナベツネこと読売新聞グループの渡辺恒雄会長が率いるメディアであります(苦笑)。
大連立しなければ「日本の将来は極めて危うい」と続きます。
国際社会も日本の経済・社会も大きな転換期にあって、国内の不安定な政治情勢のために、それに対応した政策の推進ができないとなれば、日本の将来は極めて危うい。
そして連立反対意見が主流の民主党に強く警告しています。
大連立を選択肢から排除することは、責任政党の取る姿勢ではない。
【毎日社説】は、今回の提案は「筋の通らない」ものであり、福田首相にも小沢氏にも批判が高まる可能性を指摘します。
民主党が協議を拒否したのは当然だ。筋の通らない提案をした福田首相はもちろん、協議に前向きだったとされる小沢氏にも批判が高まる可能性がある。
その上で、今回の提案は国民世論を無視するものであると批判します。
首相は2日夜、「政策を実現するための新体制を作ることもいいのではないか」と語った。それが国民のためだという論法だ。しかし、合意の実現にどれだけ成算があったのかはともかく、それは政権維持のため持ち出した自民党の勝手な都合であり、国民世論を無視する提案というべきだ。
今回の提案は「政権交代可能な2大政党化という流れをご破算にしてしまう」と批判を続けます。
理由を挙げるまでもない。第1党と第2党の連立は、ようやくここまで進んできた政権交代可能な2大政党化という流れをご破算にしてしまう。仮に大連立が実現すれば、野党勢力は極めて小さくなり、政権のチェック機能も失われることになる。
最後に「連立に前向きだったからと思われる」小沢氏の対応を「理解に苦しむ」と指摘して社説を結んでいます
それを承知で提案した首相の責任は大きいが、小沢氏の対応も理解に苦しむ。首相との会談を続けてきたのは連立に前向きだったからと思われるからだ。
次の衆院選で民主党が過半数を取れば民主党政権が誕生する。小沢氏は常々、選挙を通じて政権交代を目指すと言ってきた。次の衆院選に政治生命をかけるとも明言していたのである。今回の党首会談の経緯について、民主党も詳細に検証すべきである。
【産経社説】ですが、今回の読売ナベツネルート主導の大連立構想に戸惑いを隠さない論説が展開しています。
社説冒頭。
福田康夫首相(自民党総裁)と小沢一郎民主党代表との党首会談で浮上した両党の大連立論は、ひとまず立ち消えとなる情勢だが、いくつかの疑問点がある。
重要政策について、二大政党があらゆるレベルで協議を模索する努力は引き続き欠かせない。しかし、二大政党同士の大連立は、政権交代可能な政治状況の構築を目指して衆院に導入した小選挙区制の趣旨と矛盾しよう。
本来、政権は国民が選挙を通じて選択すべきものという観点からも、具体的な目的、内容が示されないままでの大連立論を支持することは難しい。
小沢氏の行動も不可解であると指摘します。
それにしても不可解なのは、参院選を大勝に導いたことで求心力を強め、衆院選を経て政権交代を目指す方針を明確にしてきた小沢氏が、なぜ今になって自民党との大連立論に乗ろうとしたかである。会談の席上、拒否しなかった点について、党内でも不満や疑念が生じている。
問題は中選挙区の復活議論にもあると注文します。
今回の大連立論で見逃せないのが、実現した場合には小選挙区制を中選挙区制に戻すというテーマが付随していることだ。首相も小沢氏も明確にしていないが、与党幹部からはそれを前提とした論評が相次いでいる。
中選挙区制復活という考え方は、政権交代可能な二大政党制を確立する道筋を放棄することにつながる。大連立に参加した議員らを、その後の選挙でどう振り分け、生き残りを図っていくかという側面が露骨に見える。
有権者を無視したものであり、大連立の目的が政権の延命にあると受け止められかねない。
いずれにせよ、党首会談の目的や内容について、有権者には分からない点が多すぎるから、党首討論を通じて両氏は国民に真意を説明すべきと結んでいます。
会期末を控えた国会の見通しは不透明だが、両党首による初の党首討論が予定されている。
両氏はこの場を使い、密室での党首会談を再現するような気持ちで、国政への思いを開陳すべきだ。
それなくしては、引き続き求められる政策協議の道は閉ざされかねず、対立ありきの不毛な現状からの脱却が困難となる。
最後に【日経社説】でありますが、今回の提案は与野党双方に動揺を与えたと始まります。
2大政党の大連立は衆参ねじれ国会の行き詰まりを打開する究極の手段である。民主党は同日夜の役員会で連立協議を拒否することを決めたが、福田提案がねじれ国会を揺さぶったことは間違いない。
大連立そのものは否定しないが今回の提案は時期尚早であるとします。
ただ、現時点での連立協議の提案には無理があるのも否めない。民主党は早期の衆院解散・総選挙を求め、次期衆院選で第1党となって政権交代をめざす立場にある。総選挙後ならともかく、現時点で民主党が連立協議に応じる可能性はもともと少なかった。
日経の主張はもともと「総選挙後の大連立」でありますが、「それでも、福田首相の連立提案の政治的な影響は大きい」と続きます。
それでも、福田首相の連立提案の政治的な影響は大きいとみられる。何よりも自民党と民主党の対決ムードを和らげ、国会に与野党の話し合い・協調の雰囲気をつくり出す効果を生み出した。10月30日の第1回党首会談以降、国会ではさまざまな課題について合意や妥協に向けた与野党協議がすでに動き出している。
・・・
●読売ナベツネルート主導の大連立構想〜実現へ暗躍した“妖怪”たち
そもそも今回の読売ナベツネルート主導の大連立構想でありますが、火付け役の“妖怪”たちのリアルな動きが以下の記事に載っています。
一日付け「日刊サイゾー」記事から抜粋。
「福田・小沢会談」の裏で、大連立実現へ暗躍したあの“妖怪”たち
(前略)
裏にうごめく3つの不気味な影
証言を総合すると、それは先週のことらしい。東京・千代田区の料亭「福田家」で、自民党の与謝野馨前幹事長を3人の大物が取り囲んでいた。その3人とは、“大勲位”こと中曽根康弘元首相、“ナベツネ”こと読売新聞グループの渡辺恒雄会長、そしてナベツネの盟友である日本テレビの氏家斉一郎議長だったという。
「その席で中曽根さんたちは『現状を打開するには、大連立しかない』と与謝野さんを焚き付けたというんだ。なかでもナベツネさんはかつて、犬猿の仲だった自由党党首の小沢さんと自民党の野中広務さんを引き合わせ、保保連合を組ませた連立フィクサー。3人の勢いに与謝野さんも重い腰を上げたんだよ」(幹部)
そこで与謝野氏は10月28日の日曜日、20年来の碁敵とされる小沢氏をわさわざ誘い出し、都内のホテルで囲碁対決をマスコミに公開。いわばアリバイづくりをした与謝野氏は、その際、公開されていない2人きりの時間を使い、“大連立”を説いたというのだ。
「しかも、この大連立工作の渦中、密かに福田さんと小沢さんを密会させたという情報もあり、確認に走っている」(政治部デスク)
(後略)
、“大勲位”こと中曽根康弘元首相、“ナベツネ”こと読売新聞グループの渡辺恒雄会長、そしてナベツネの盟友である日本テレビの氏家斉一郎議長ですか、この記事内容が事実とすれば、まさに保守産経も戸惑う見事な読売ナベツネルート主導なのであります。
・・・
●大連立は小沢氏が持ちかけ〜胡散臭い読売新聞スクープ記事
本日(4日)付けの読売新聞スクープ記事から。
「民主党内、絶対まとめる」大連立は小沢氏が持ちかけ
2日の福田首相と小沢民主党代表の会談で、議題になった自民、民主両党による連立政権構想は、実は小沢氏の方が先に持ちかけていたことが3日、複数の関係者の話で明らかになった。
「大連立」構築に向け、小沢氏がカギと位置づけたのは、自衛隊の海外派遣をめぐる「原理原則」だった。
関係者によると、小沢氏は当初から、首相側に連立政権の考えを持っていることを内々伝えていたという。
2日午後3時から行われた会談で、首相は新テロ対策特別措置法案への協力を要請。これに対し、小沢氏は「自衛隊派遣には原理原則が必要だ」と主張した。
さらに、自衛隊の海外派遣のあり方を定める一般法(恒久法)について、「『派遣は国連決議に基づくものだけに限る』と決めて欲しい」と求めた。内容の検討は、「内閣法制局に頼らない方がいい」などとも注文した。
首相は「与党が納得するかどうか確認したい」と答え、休憩を取ることにした。
直前に、小沢氏は「それさえ決めてくれれば、連立したい」と述べ、連立政権への参加を持ち出したという。
連立参加は、首相の方から要請した形とすることも小沢氏は求めた。民主党内の説得に有利と判断したと見られる。
会談が6時半から再開したところで、首相は小沢氏の主張に沿った文書を手渡した。
小沢氏は「これで決める。(連立参加で)私が党内をまとめます」と明言。首相が「大丈夫ですか」と問いかけると、小沢氏は「絶対にまとめます」と重ねて強調した。
そもそも、10月30日の最初の党首会談を持ちかけたのも小沢氏の側だった。
打診は10月半ば。30日の会談では、2日の再会談を確認するにあたり、31日の国会の党首討論をどうするかが話題になり、首相は予定通り行うことを主張したが、小沢氏は難色を示し、延期が決まった。
(2007年11月4日3時0分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071104i101.htm
驚くべき内容です。
「そもそも、10月30日の最初の党首会談を持ちかけたのも小沢氏の側」であり、「連立参加は、首相の方から要請した形とすることも小沢氏は求めた」というのです。
これは他ならぬ読売のスクープだけにかなり胡散臭いです。
・・・
●約束を反故にした小沢氏に対する読売の痛切なしっぺ返し
この記事の内容が事実だとすれば、読売ナベツネルート主導の大連立構想とは関係なく、そもそも民主小沢氏側から大連立構想を持ちかけたことになります。
うがった見方をすれば、与野党双方から批判が噴出している今回の大連立構想ですが、当面、構想を裏で主導してきた読売ナベツネ側が、批判の矢面に立つことを嫌い、民主小沢氏をスケープゴートにするために流したスクープとも考えられます。
・・・
この記事は政界に波紋を呼ぶことでしょう。
記事内容が正しいとすれば民主小沢氏の立場は党内で極めて厳しいものとなるでしょうが、他ならぬ大連立推進派の読売が流したところに、もしかしたら「これで決める。(連立参加で)私が党内をまとめます」とした約束を反故にした小沢氏に対する痛切なしっぺ返しなのかも知れません。
そんな大人げないことを大読売がとも思いますが、大人げないナベツネさんならやりかねません(苦笑)
・・・
今回の大連立構想、どうにも登場人物が胡散臭く(苦笑)、真相が見えない複雑怪奇なことになってきましたが、ここは興味深く成り行きを見守ることとしましょう。
(木走まさみず)