木走日記

場末の時事評論

無垢な世論と胡散臭い読売を味方にした鳩山邦夫氏は手強いぞ

 読者のみなさま、リアルが超多忙だったため、エントリーが滞っておりましたが、ようやく一息つくことができましたので、今日から本格的再開となります、よろしくお願いいたします。

 書きたいことはたまっているのでありますが、まっさきにまずは国民の関心の高いこのたびの鳩山辞任劇を徹底的にとりあげたいと思います。

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鳩山邦夫総務相更迭・西川善文社長続投という決断で世論の動向をミスジャッジし支持率急落した麻生政権

 15日付け産経新聞記事から。

麻生内閣支持急落17% 自民支持も過去最低水準に
2009.6.15 16:31

 共同通信社が13、14両日に実施した全国緊急電話世論調査で、麻生内閣の支持率は17・5%と5月の前回調査から8・7ポイント急落、不支持率は10・4ポイント増の70・6%となった。
 政党支持率も民主38・5%に対し、自民は19・8%。電話世論調査を開始した宮沢内閣以来、野党時代を除いて最低となった。次期衆院選比例代表の投票先でも47・8%の民主が、18・7%の自民をリードした。
 西松建設巨額献金事件をめぐる民主党小沢一郎前代表の対応という「敵失」で回復していた支持率が、再下落したことで麻生太郎首相の衆院解散戦略に影響を与えるのは必至。今後、与党内で「麻生降ろし」が再燃する可能性もある。
 日本郵政西川善文社長の進退に関しては「辞任すべき」が75・5%で、「社長を続けるべき」の17・2%を大幅に上回った。

http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090615/plc0906151634002-n1.htm

 共同通信世論調査麻生内閣の支持率は17・5%と5月の前回調査から8・7ポイント急落、不支持率は10・4ポイント増の70・6%となったわけでありますが、他紙の世論調査でも同様の傾向にあるようですが、興味深いのは「日本郵政西川善文社長の進退に関しては「辞任すべき」が75・5%で、「社長を続けるべき」の17・2%を大幅に上回った」点でありまして、日本郵政西川善文社長の続投に反対姿勢を崩さなかった鳩山邦夫総務相麻生首相が事実上更迭した件が少なからずの国民の不評を買っておるようです。

 自民党執行部も、国民の大多数が西川氏続投よりも反対する鳩山氏を支持していたというこの世論調査の結果にはかなり動揺している模様であります。

 いずれにしても、麻生首相はなぜ西川氏(民間人)ではなく政権中枢を担う鳩山氏(盟友政治家)の首を切ったのか。

 当初麻生首相も西川氏辞任の方向で考えていた節があります。

 それを裏付けると思われる15日付け読売新聞記事から。

首相が西川氏の後任リスト、手紙で受け取ったと鳩山氏

 自民党鳩山邦夫・前総務相は15日、総務省で離任の記者会見を行い、麻生首相から今年春に手紙で、日本郵政西川善文社長の後任候補者のリストを受け取っていたことを明らかにした。


 首相が当初、西川氏を交代させる意向だったことを裏付ける証言で、具体的に誰の名前が挙げられていたかは「記憶にない」としながらも、今後、公表する考えを示唆した。

 鳩山氏によると、手紙には「西川後継の人事でお悩みではないかと思います。ついては自分なりに後継にふさわしい(と考える)人が何人かいるので、リストを同封します」と書かれていたという。

 鳩山氏は「(この手紙などで)麻生首相も社長交代は既定路線とお考えと、私が安心しきっていたのがバカだったかもしれない」と振り返った。

 鳩山氏の証言の事実関係について、首相は15日夕、「コメントはありません」と述べ、正否を明らかにしなかった。首相官邸で記者団の質問に答えた。

 一方、鳩山氏は今後の離党や新党結成の可能性に関し、「今は念頭に全くないが、(政党の)あるべき姿が別にあると考えれば、そうした行動は取らせていただきたい」と述べ、含みをもたせた。

(2009年6月15日19時40分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090615-OYT1T00614.htm

 首相がノーコメントである限り真偽のほどは現時点では不明ですが、西川氏の後任リストを首相から手紙で受け取っていたとする鳩山氏のこの発言が正しいとすれば首相はいつ西川氏続投に判断を変えたのでしょうか。

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●「読売VS日経」社説戦争で局地戦勝利した日経〜本件で胡散臭いメディアの論調を検証しておく

 今回の麻生首相の判断のぶれの理由を考察する前に、日本のいくつかのマスメディアの本件に関わる胡散臭い論調を検証しておく必要があります、それらの報道が麻生首相の判断のぶれと因果している側面があると考えられるからです。

 過去の読売と日経の論陣をトレースしてみます、少し長くなりますが、おつきあいください。

 昨年暮れからの一連の騒動ですが、「かんぽの宿」の一括譲渡先にオリックスグループを選んだのに対し鳩山邦夫総務相が待ったをかけたことに、最初に敏感に反応したのは日経社説であります。

社説2 総務相の「待った」に異議あり(1/9)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090108AS1K0800308012009.html

 当該社説はすでに時間も経過しておりすでにリンク切れしていますが、当時の当ブログで取り上げているのでそこから抜粋。

(前略)

 この点で、主要メディアでただ一紙、9日付けの日経新聞社説が、鳩山氏のオリックス売却「まった」に、強烈に批判しています。

社説2 総務相の「待った」に異議あり(1/9)

 日本郵政が赤字続きの宿泊施設「かんぽの宿」の一括譲渡先にオリックスグループを選んだのに対し、鳩山邦夫総務相が待ったをかけた。オリックス宮内義彦会長が小泉政権規制改革・民間開放推進会議の議長を務め、民営化議論を主導していたとして「国民が出来レースと受け取る可能性がある」という。譲渡手続きの認可を拒むことも示唆した。
 総務相の姿勢は到底納得できない。両社はともに「公正な競争入札を経た決定」と説明し、譲渡契約も調印済みだ。不正の疑いがあるなら徹底的に調べればよい。だが対象企業の経営者の公職歴や主張を盾に入札結果を拒むのは筋が通らない。
 かんぽの宿郵政民営化前の簡易保険事業が余資運用の一環として全国に整備した福祉施設である。採算の合わない投資やずさんな運営が重なり、2007年度は40億円、08年度上期も26億円の赤字を出している。日本郵政株式会社法は民営化から5年となる12年9月末までにかんぽの宿の施設を譲渡・廃止すると決めている。
 総務相が認可した08年度の事業計画に沿い、日本郵政は昨年4月に譲渡先の募集を始めた。27社が名乗りを上げ、2回の入札を経て、最も高い金額を提示したオリックスに70施設を一括譲渡することを年末に決めた。4月に予定した譲渡後も施設に勤める約3000人の雇用は維持する。赤字事業を極力早く手放すのは経営健全化を急ぐ日本郵政として合理的な判断だ。オリックスにはホテル再生のノウハウもある。
 鳩山氏はかんぽの宿を「国民共有の財産」と呼び「売却には一点の曇りもないようにしなければ」と言う。宮内氏が小泉純一郎元首相の改革路線を支えたのは事実で、それを批判するのは自由だ。しかし、随意契約でなく入札という手続きを経た結果を、十分な根拠もなく「お手盛り」のように言うのは明らかに行き過ぎである。こんなことでは公職を引き受ける経営者もいなくなる。
 郵政民営化の見直し論や国会での野党による追及をにらんでの発言だろうが、所管大臣が入札結果に堂々と介入するのは常軌を逸している。譲渡をやめてもかんぽの宿の赤字は消えない。重荷は誰が負うのか。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090108AS1K0800308012009.html

 「対象企業の経営者の公職歴や主張を盾に入札結果を拒むのは筋が通らない」

 「所管大臣が入札結果に堂々と介入するのは常軌を逸している」

 かなりきつい批判の言葉が並びますが、法的に問題がおそらくないだろう点では日経社説の言い分は一理あると思います。

(後略)

2009-01-13 『かんぽの宿』売却問題で今再び問われる小泉郵政民営化の是非 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20090113/1231829063

 当初から今日まで日経は一貫して鳩山総務相批判を繰り返し西川続投支持の論陣を張ってきました。

 これはもちろん日本経団連はじめとする財界の主張そのままなのであります。

 一方、読売ですが当初は本件では朝日とともにスタンスがふらつき論説にぶれがみられましたが、ここ一ヶ月ほどで鳩山支持を鮮明にしていきます、それはナベツネこと渡辺読売主筆が本件で鳩山支持に動いた時期と同期しています。

 週刊誌報道等によれば渡辺読売主筆が本件で複数の自民党有力政治家と接触、鳩山氏の西川辞任支持の方向で暗躍していたとあります。

 例えばジャーナリストの上杉隆氏の週刊朝日6月26日号の記事には、なぜ読売が鳩山を支援したのか、その理由が2つほど挙げられています。

(前略)

 ではなぜ読売が鳩山を推したのか。ある財界人が種明かしをする。
渡辺恒雄さんの西川嫌いは有名です。理由はその背後にいるオリックス宮内義彦会長。プロ野球の1リーグ制問題では歩調を合わせたようにみえる二人ですが、実際は犬猿の仲です」
 さらに別の理由もある。3月7日、鳩山一郎元首相の没後50年の会で挨拶した渡辺はこうも語っている。
「いつかは鳩山兄弟(由紀夫民主党代表、邦夫氏)二人で手を握って安定政権を作ってほしい」
 渡辺の政治記者としての初仕事は、初代自民党総裁鳩山一郎番記者だった。秘書の石橋義夫(現・共立女子学園理事長)とともに、鳩山兄弟の「馬」になって音羽の庭で這いつくばったほど鳩山家と親しいのだ。

(後略)

週刊朝日6月26日号『鳩山邦夫総務相”罷免”の内幕』記事 P19より抜粋

 若かりしナベツネが「鳩山兄弟の「馬」になって音羽の庭で這いつくばったほど鳩山家と親しい」のは有名な話ではありますが、この読売の動きの背景に、渡辺読売主筆持論の胡散臭い大連立構想が見え隠れしているわけです。

 6月6日には鳩山氏を強く支援するために、西川氏の経営責任を糾弾する社説を読売は掲げます。

日本郵政人事 核心は不祥事の経営責任だ(6月6日付・読売社説
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090605-OYT1T01191.htm

 社説のポイント部分を抜粋。

(前略)

 総務相への批判で多いのが「民間の決定に政治が介入すべきではない」というものだ。だが、日本郵政は政府が全株式を保有する特殊会社だ。業務内容に疑義があるのに何も口を挟まないようでは、かえって問題だろう。

 「郵政民営化を後退させる」という指摘も、論理に飛躍がある。総務相は「社長交代は民営化推進のため」と繰り返している。

 この問題の核心は、「かんぽの宿」をオリックスに売却しようとした手続きに不明朗な部分があったことだ。

(後略)

 ここでは、読売は「民間の決定に政治が介入すべきではない」とか「郵政民営化を後退させる」という西川擁護派の論調を「論理に飛躍がある」と斬って捨てていますが、もちろんこれは西川支持の日経の論陣を強く意識しての指摘だと思われます。

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 この「読売VS日経」社説戦争ですが、12日、麻生首相が西川継続・鳩山更迭の決断を下すことで日経の局地戦勝利となります。

 鳩山更迭の翌13日の読売・日経の社説が実に好対照で興味深いです。

鳩山総務相更迭 日本郵政は体制を一新せよ(6月13日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090612-OYT1T01025.htm
社説1 鳩山氏更迭を民営化再加速につなげよ(6/13)
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20090612AS1K1200312062009.html

 鳩山更迭を受けても西川氏続投は許せないと「日本郵政は体制を一新せよ」と主張する読売社説であります。

 読売社説の結語から。

 こうした不祥事についても、西川社長以下の現経営陣の責任は極めて重い。

 今回、事態がここまでこじれたのは、首相が指導力を発揮せず、土壇場まで鳩山氏と西川社長の対立を放置したためだ。

 首相は、西川社長の責任問題について、自ら明確な判断を示す必要がある。

 首相に西川社長辞任の判断を強く促してるわけです。

 一方、日経社説の冒頭から。

 日本郵政西川善文社長の続投に反対姿勢を崩さなかった鳩山邦夫総務相が事実上更迭された。麻生太郎首相は西川氏続投を認めるよう説得したが、受け入れなかった。後任は佐藤勉国家公安委員長が兼務する。

 郵政民営化路線を後退させないために、私たちは西川氏の続投で、首相が早期に事態を収拾するよう求めてきた。もっと早く決断すべきだったが、鳩山氏の罷免も辞さぬ姿勢で収拾に動いた首相の判断は是とする。鳩山氏の更迭を契機に、民営化路線を再加速させる必要がある。

 「郵政民営化路線を後退させないために、私たちは西川氏の続投で、首相が早期に事態を収拾するよう求めてきた」とし、「鳩山氏の罷免も辞さぬ姿勢で収拾に動いた首相の判断は是とする」とこのたびの首相の決断を支持しています。

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 こうして、経団連はじめ財界の主張の代弁者たる「日経」の西川氏続投支持の主張と、主筆であるナベツネの個人的思惑から西川氏退陣をせまった鳩山氏支持を明確にした「読売」の主張ですが、結果として麻生首相は鳩山更迭・西川続投を決断し、胡散臭い「読売VS日経」社説戦争は日経の勝利となったわけであります。

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●無垢な世論と胡散臭い読売を味方にした鳩山邦夫氏は手強いぞ

 当初、西川氏辞任の方向で考えていた麻生首相は、なぜ西川氏(民間人)ではなく政権中枢を担う鳩山氏(盟友政治家)の首を切ったのでしょうか。

 一部報道によれば、鳩山更迭の前日、安倍晋三元首相と菅義偉選対副委員長が密かに首相官邸を訪れ鳩山更迭を熱心に説いたとされていますが、そのとき渡辺恒雄読売主筆の動きも話にでてナベツネの影響力を剥ぐためにも鳩山だけを切るべきと進言したといわれています。

 だとすれば、まだ記憶に新しいだろう、ナベツネの暗躍による福田当時首相と小沢当時民主党代表の極秘会談を経ての自民・民主の大連立構想を、麻生首相が想起したであろうことは想像に難くありません。

 そのナベツネが今度は鳩山兄弟を利用して、自民・民主の大連立構想を自分を無視して再現しようと暗躍している可能性を、麻生さんが勘ぐったとしても不思議ではないでしょう。

 鳩山一郎元首相の没後50年の会で「いつかは鳩山兄弟二人で手を握って安定政権を作ってほしい」と明言しているナベツネさんであります、吉田元首相を祖父にもつ麻生さんにしてみれば、読売主筆の渡辺氏の鳩山家贔屓(びいき)は無視できなかったのではないでしょうか。
 
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 こうして最終的には喧嘩両成敗ではなく鳩山氏だけを更迭した麻生首相の決断ですが、その後の世論調査で、内閣支持率は急落し国民の過半数が鳩山支持に動いているのは、大きな誤算だったといえるでしょう。

 鳩山邦夫総務相更迭・西川善文社長続投という決断で世論の動向をミスジャッジし支持率急落した麻生政権でありますが、たちが悪いことに、読売は一三日の社説でも主張しているように、西川氏の退陣の論陣を張り続けています。

 無垢な世論と胡散臭い読売を味方にした鳩山邦夫氏は、結果的にですがフリーハンドを得たのも同然です、これは手強いです。

 そして麻生陣営としては、鳩山邦夫氏が自民内に残り反麻生の勢力の結集をするにしろ、有志ととも自民党を飛び出し兄が率いる民主との連携を模索するにしろ、今後の鳩山氏の動向に揺さぶられる危険性が大きいのです、そして世論の動向とともに、渡辺読売主筆の陰をも気にすることになりましょう。

 情けないことですが、1メディアの代表にすぎないじいさんに一国の首相が振り回される図式ができあがろうとしています。



(木走まさみず)