木走日記

場末の時事評論

寓話:いっちゃんの悩み

 本日は与太話です、軽く笑って読み流してくださいまし。



●寓話:いっちゃんの悩み

 ここナガタ町商店街のラーメン戦争に異変が起きたのは一週間前のことである。

 万年2位の塩ラーメン主体の『一郎軒』が初めて伝統的醤油ラーメンで人気一位の店『晋ちゃんラーメン』を抜いて売り上げ一位となったのである。

 どうやら理由は、『晋ちゃんラーメン』の店主の晋ちゃん(先代の人気者純ちゃんからお店を継いだハンサムボーイ)の腕が相当悪いらしく、常連の多くが今回『一郎軒』に鞍替えしたようなのである。

 町内きっての伝統のある『晋ちゃんラーメン』は、代々伝統の醤油ラーメン一本を売りにしている老舗(しにせ)だが、ここ10年の客足の伸び悩みから、最近10年は、本格とんこつラーメン『麺や おおた』と業務連携してきた経緯がある。

 それはともかく、『晋ちゃんラーメン』に今でもかよう常連は、「店主の晋ちゃんの腕が悪いんじゃないよ、店員がいけないんだ、中にはバンソーコーべたべた顔に貼ってる店員もいたしねえ」と店主の晋ちゃんをかばっているようだが、見限った旧常連によれば「いやいやあんな店員を雇っている自体店の責任だよ」と批判的だ。

 さて一方のはっきり言って敵の失敗による『棚ぼた』で、突然売り上げ一位になった『一郎軒』では、店は急に満員御礼行列のできる大繁盛になったのであるが、店を閉めた夜遅くまで店主のいっちゃんを囲んで店員達が明るい顔で協議中である。

店員イラカン『この期に及んでも、晋ちゃんは店主を変わらないようだね。店の味は支持されている、客足が落ちたことに関係なく本来の味の追及はしていく、ってなこと言っているらしいが、客商売がなんたるかわかっちゃいないようだね、晋ちゃんも』

老店員ズーズ『腕の悪い晋ちゃんが店主の間が我が『一郎軒』の大チャンスということだべ』

料理長ポッポ『とんこつラーメン『麺や おおた』も今回の売上減にはそうとう怒っているそうだし、むこうの店員からウチに来たいという話しもちらほらあるようだし、これからますますおもしろくなるよね』

 なんて好き勝手なことを店員がわめいている中で、店主いっちゃんがおもむろに話し出す、顔に笑みのない、真剣な口調だ。

いっちゃん『いいか、みんなよおくお聞き(←天空の城ラピュタのドーラン風』

 しずまる一同。

いっちゃん『みなも知ってるとおり、今回の売上一位は『晋ちゃんラーメン』の客サービスの悪さに怒ったお客さん達がウチに足を運んでくれている、言うならば『晋ちゃんラーメン』の敵失によるものだ、ウチの味が評価された結果じゃない』

いっちゃん『今ウチの店に来てくれているお客さんも、本当は『晋ちゃんラーメン』のしょうゆ味のフアンの人も多いことだろう、さて、彼らを一見(いちげん)ではなくウチの味の常連のお客様になってもらうことが至急の課題だ、そうでなければ、やがて元の通りウチは万年2位に後戻りしてしまうだろう、どうすればいいか、みんなの意見を聞きたい』

 『たなぼた』による今の状況が長くは続くまいと考えているいっちゃんなのだった。

料理長ポッポ『たしかに、なるべく晋ちゃんの代が続くように応援したい気分だね』

店員イラカン『ここは王道で行きましょう、今までどおり塩味一本で。ウチの塩味もしょうゆ味に負けないおいしさであることをお客様に理解してもらうことが一番です』

店員マエハラ『新たに増えたのはもともと『晋ちゃんラーメン』のしょうゆ味が好きなお客さんが多いのでしょ、だったらここは新たに増えたお客の好みを捉えてメニューにしょうゆ味を加えるべきです、いつまでも塩味だけにこだわってちゃこの店は伸びないでしょ』

料理長ポッポ『マエちゃんの言うのも一理あるけど、いまさらメニューにしょうゆ味を追加すると、今までウチと協力関係のあったお店がうるさいだろうなあ』

店員ロボ『客足は少ないが頑固にみそラーメンにこだわっている『みずほ亭』や『ラーメンしい』のことだね』

店員マエハラ『あんな人気のない店は見捨てるべきでしょ』

料理長ポッポ『まあまあ、今までのつきあいもあるから(苦笑』


 かんかんがくがく、店内の意見はなかなかまとまらない。

 ・・・

 そんな中で11月恒例の隣町の公園の大掃除の日が迫ってきた。

 大掃除には例年『晋ちゃんラーメン』が音頭をとって、商店街を挙げて協力してきた、もちろん業務提携中のとんこつラーメン『麺や おおた』も賛成してきた。

 一方、塩味『一郎軒』をはじめミソ味『みずほ亭』や『ラーメンしい』は大掃除の手伝いに毎年反対してきた、しかしそこは町内一の売上店である『晋ちゃんラーメン』に反対意見はいつも押さえられてきた経緯があった。

 『晋ちゃんラーメン』が毎年、隣町の公園の大掃除に協力してきたのには理由がある。
 隣町商店街の会長、ステーキハウスの店長ぶっちゃんと仲がいいからだ、ぶっちゃんステーキの売りもそのソースは『晋ちゃんラーメン』と同様、しょうゆ味テーストなのだ。
 おまけにぶっちゃんは大のミソ嫌いなのである。。

 ちょっと短気で喧嘩っ早いぶっちゃんは、この公園にたむろする浮浪者どもが地域全体の治安を悪くしているという理由でここ数年この公園の清掃を強行しているのだがあまり成果があがっていない、逆にその強引なやりかたで商店街によっては協力を拒否しているところもあるのであるが、ナガタ町商店街は今まで『晋ちゃんラーメン』のもと協力してきたのである。

 ・・・

 さて今年は『一郎軒』の売上が『晋ちゃんラーメン』を初めて抜いたので町内会は揉めに揉めることになりそうである。

 『晋ちゃんラーメン』は「地域の協調を優先すべきだ、清掃に協力しなくなったらナガタ商店街の良識が疑われる」とさかんに『一郎軒』に清掃参加を呼びかける。

 一方、ミソ味『みずほ亭』や『ラーメンしい』は、「そもそも公園の浮浪者たちが治安を悪くしている証拠など見つかっていない」とミソ嫌いぶっちゃん主導の公園の清掃そのものに大反対している。

 ・・・

 今、塩味『一郎軒』の店主いっちゃんは悩んでいる。

 塩味『一郎軒』にしょうゆ味のメニューを追加すべきかどうか?

 秋のしょうゆ味大好きなぶっちゃん主導の公園清掃に参加すべきかどうか?

 ・・・

 実はここだけの話だがいっちゃんは塩味にはこだわりがないのだ。

 それどころか個人的にはしょうゆ味が好きだったのだ。

 もともといっちゃんは、若い頃、しょうゆ味の老舗『角さんラーメン』(現『晋ちゃんラーメン』)で修行してきた、噂ではいっちゃん自身実はあまりとんこつ味やミソ味は好きでないという。

 いっちゃんはしょうゆ味が嫌いだから『晋ちゃんラーメン』(当時は『宮ちゃんラーメン』)を飛び出したのではない、『晋ちゃんラーメン』に変わる人気店がこの町に必要であると思って飛び出しただけなのである、そして数年前に塩味『ポッポ軒』(現『一郎軒』)にやっかいになったのである。

 ・・・

 今塩味『一郎軒』の味付けとその行動が問われている。

 いっちゃんの悩みは深いのだ。



<エピローグ>

 その頃、『国民ラーメン』のたみさんが、一人黙々と、しょうゆとしおのブレンドした新作出汁「ここ一番!!ぶれない」味の研究に没頭していることを知る町民は少ない。



 ジャンジャン。

※この寓話は実在の特定の個人・団体とはたぶん関係ありません(汗。

 お楽しみいただけたでしょうか。



(木走まさみず)