木走日記

場末の時事評論

米大統領選オバマ氏勝利〜真の敗北者は金融危機を招いたネオリベラリズム

オバマ氏当選、米史上初のアフリカ系大統領誕生へ

 朝日新聞5日午後13時の電子版速報記事から。

オバマ氏当選、米史上初のアフリカ系大統領誕生へ
2008年11月5日13時12分
米大統領選 開票状況

 オバマ候補(民主)  36,836,306(297)

 マケイン候補(共和) 34,688,070(139)

(日本時間5日午後1時現在=CNN集計、カッコ内は獲得予測選挙人数)

 米大統領選は4日夜(日本時間5日午前)、民主党バラク・オバマ上院議員(47)が激戦州のオハイオバージニア州などを制し、獲得選挙人で過半数の270人を上回り、当選した。共和党から政権を奪回し、米史上初のアフリカ系(黒人)大統領となる。CNNによると、獲得予測選挙人数は290人を超えた。「変化」を掲げたオバマ氏はそのほか大票田のカリフォルニア、東部主要州のニューヨーク、ペンシルベニア、地元イリノイの各州、首都ワシントンDCなども制した。一方、共和党政権の「継続」を訴えたジョン・マケイン上院議員(72)は南部大票田のテキサス州などで勝利を確実にしたものの、選挙人の獲得予測人数でオバマ氏を大きく下回り、敗北した。

 それぞれが選挙人の獲得を確実にした州(または首都)は以下の通り。

 【オバマ氏】ペンシルベニアイリノイ、バーモント、メーン、マサチューセッツコネティカットニュージャージーデラウェア、メリーランド、ニューハンプシャー、ニューヨーク、ミシガン、ウィスコンシンミネソタロードアイランドオハイオニューメキシコアイオワバージニア、カリフォルニア、オレゴン、ワシントン、ハワイ、ワシントンDC

 【マケイン氏】サウスカロライナ、ケンタッキー、テネシーオクラホマアラバマノースダコタ、ワイオミング、ジョージアウェストバージニアルイジアナ、ユタ、カンザスアーカンソー、テキサス、ミシシッピ、アイダホ

http://www.asahi.com/international/update/1105/TKY200811050008.html

 いやこんな早いタイミングでの勝利確定とは驚きです。

 この勢いは私の想像以上のものです。

 私は大方の予測とは逆にかなりの接戦になると予想しておりました、理由はいわゆるBradley effect(ブラッドリー効果)、つまり選挙において非白人候補者の得票率が世論調査を下回る現象が今回も起きるだろうと考えていました。

 しかしこの結果を見ると、想像以上にアメリカの有権者が経済的危機感を持って投票行為をしたということでありましょう、人種など意識するゆとりもなく。

 今回はアメリカ大統領選におけるオバマ氏の勝因とマケイン氏の敗因について触れてみます。

 やはり、潮目を変えたのは今回の金融危機でありましょう。



●潮目を変えた金融危機オバマ氏の勝因とマケイン氏の敗因

 米CNNテレビが4日実施した出口調査によると、62%の有権者が「経済」が最大争点と答え、「イラク戦争」は10%、「テロリズム」は9%にとどまっています。

 また、現地報道によれば、過去最高の投票率となる模様であります。

 明らかに今回の金融危機は、アメリカ市民の米大統領選に対する意識を大きく様変わりさせ、経済問題がイラク戦争をしのぐ有権者の最大の関心事となったわけですね。

 両候補とも、7000億ドルの公的資金を投じる金融安定化法を支持したわけで、金融危機の処方箋(しょほうせん)に明確な政策の違いが見られたわけではありません。

 しかしながら、リセッション(景気後退)入りが確実となった経済情勢はブッシュ政権の経済失政を批判し続けたオバマ氏に追い風となったのは確実でしょう。

 今回のような100年に一度という世界同時株価暴落の震源地であるアメリカの実体経済の急速な萎縮から、ブルーカラー労働者層や非白人低所得者層などに雇用不安を与えており、これらの層が過去最高の投票率に今回の大統領戦を押し上げた主要因でありましょう。

 最終盤になってマケイン氏は、中間層への減税と国民皆保険を実現するため、「年収25万ドル以上の富裕層を対象に増税する」と公言するオバマ氏の税制に絞って「社会主義だ」と批判攻撃を繰り返しました。

 この攻撃は、オバマ氏のリベラル色の強さに不安を持つ一部の有権者の揺さぶりに成功したものの形勢を逆転することはできなかったようです。

 かつて1929年の株暴落で始まった世界恐慌の時、「社会主義的」とも申せましょう、ニューディール政策によりフランクリン・D・ルーズベルト民主党大統領がアメリカの雇用を守ったように、今回の不況でも、労働者層など市民の多くは政府に大胆な「社会主義的」政策を求めているのだと思います。

 そのような推測は、自動車産業の拠点のミシガン州で、全米最悪の失業率になり、民主党支持が急速に広がり、マケイン氏が事実上選挙戦の撤退に追い込まれたことにもあらわれていると思います。

 ・・・

 この金融危機をきっかけに62%の有権者が「経済」が最大争点と考え出した状況は、逆に、共和党のマケイン氏には完全にアゲインストにはたらきました。

 彼の持つ安全保障と外交分野の豊富な実績やベトナム戦争捕虜からの生還体験を支持拡大に生かしづらい状況となった上に、結果として金融危機を招いた共和党ブッシュ現政権の負のイメージを背負うはめになったわけです。

 マケイン氏の敗因を付け足せば、アメリカメディアの露骨な民主党オバマ贔屓(びいき)も上げて良いかも知れません。

 ニューヨークタイムスを筆頭にメディアの民主党贔屓は、別に今回に限ったわけではありませんが、今回は特に露骨にオバマ偏向報道をするメディアが多かったようです。

 象徴的なのはペイリン氏とバイデン氏の両副大統領候補のメディアでの扱いでした。

 自らの変な発言が招いた側面は確かにあるのでしょうが、共和党ペイリン氏へのネガティブな報道は目に余るものがありました、対して民主党の副大統領候補ジョセフ・バイデン上院議員にはほとんどネガティブ報道は見受けられませんでした。

 ・・・



●真の敗北者は金融危機を招いたネオリベラリズム

 アメリカにおいて、Change(変化)を合い言葉にした民主党オバマ氏の勝利は、日本の政局にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

 政権が変わったという意味では大きくは自民党より民主党に好影響がありましょうが、選挙の制度も国民性もまったく違う日本においてどこまで米大統領選の結果が影響を与えるのか、衆議院選の実施時期も不明確な現時点であまり過度の影響力があるとは考えづらいです。

 しかし、日本と同レベルの先進国アメリカにおいて、やはり日本と同様の深刻な金融危機のただ中で選挙したわけです、有権者オバマ氏を選択した理由は分析する価値はあるでしょう。

 米CNNテレビが4日実施した出口調査によると、6割を超える有権者が「経済」が最大争点と答えています。

 はっきりしていることは、ブッシュ政権2期がもたらした政策、ネオリベラリズム新自由主義的市場開放政策への強烈な拒否感情が有権者を動かしたことです。

 米国民は今回の深刻な金融危機共和党ブッシュ政権の経済政策の失策と見なしました。

 経済政策の大きなChange(変化)を期待しているのでしょう、

 オバマ氏の訴えていた富裕層をターゲットにした増税政策や低所得者層をターゲットにした雇用政策は、確かにマケイン氏が批判したように「社会主義的な」色の濃いモノであります。

 富の新たなる創造を訴えたマケイン氏に対し、オバマ氏の政策は富の再分配が中心であります。

 言い方を変えればアメリカの有権者は、「小さな政府」よりも「大きな政府」を選択したとも言えましょう。

 そこには、小さな政府のもとに制度規制を緩め民間の競争市場原理にのっとり経済を活性化するネオリベラリズム新自由主義的政策が今回の金融危機をもたらしたという認識があるのでしょう。

 ・・・

 今回のアメリカの大統領選の勝者は民主党オバマ氏に決定されました。

 そして敗者は共和党のマケイン氏ですが、真の敗北者は金融危機を招いたネオリベラリズム新自由主義)と言えましょう。



(木走まさみず)