大阪府の「借金返済の先延ばし」にみるディスクロージャー(情報開示)とアカウンタビリティ(説明責任)の欠如
●大阪府が「赤字隠し」 3年間で2600億円〜行政としてのアカウンタビリティがまったく示されていない大阪府
昨年暮れに発覚した大阪府の「赤字隠し」でありますが、12月30日付け朝日新聞関西版紙面記事から。
大阪府が「赤字隠し」 3年間で2600億円
2007年12月30日大阪府が04年度以降、府債(借金)の返済を一部先送りして3年間で総額約2600億円の資金を捻出(ねん・しゅつ)、財政赤字を実態より少なく見せかけていたことが朝日新聞社の調べで分かった。こうした操作をしなければ、府は今年度にも財政再建団体へ転落する恐れがあったが、捻出資金を一般会計に繰り入れることで転落を回避した。事実上の「赤字隠し」とも言える手法で、府はこうした実態を議会や金融機関、投資家に情報開示していなかった。府幹部は「違法ではないが、適切なやり方ではなかった」と説明している。
大阪府は構造的な赤字財政体質のため、01年度から、将来の借金返済のために積み立てている減債基金から、毎年度500億〜1000億円程度を一般会計に繰り入れ、赤字を圧縮してきた。この手法については「やむを得ない措置」として、以前から公表していた。
府は98年度から9年連続で赤字だが、これまで再建団体の水準はクリアしたと説明してきた。例えば03年度では、赤字額が585億円以上なら再建団体に転落したが、減債基金からの繰り入れで普通会計の赤字額は約300億円にとどまった。
しかし、04年度以降、10年間の満期を迎えた縁故債(銀行等引受債)が急増し、減債基金を取り崩して返済に充てていくと、07年度にも基金が底をつく恐れがあった。基金が枯渇すると一般会計への繰り入れもできなくなり、その年度の赤字額を圧縮できず、財政再建団体に転落する水準に達してしまう。
このため府は一部の借金の返済を先送りすることを決定。府幹部によると当時、太田房江知事にはこうした資金操作は報告しなかったという。
満期一括償還方式の地方債の返済方法については、旧自治省が92年、都道府県に通知し、10年目に元金の42%を返済し、残りは借り換えることになっている。返済のための資金には減債基金が充てられるため、その分は目減りする。
府も02、03年度は適正に返済していた。だが、朝日新聞が入手した総務省の資料によると、04年度以降、返済割合が急激に減少。04年度は13.5%、05年度は12.8%、06年度は13.2%しか返していなかった。
実際の返済額は、本来返すはずの額よりも、04年度で489億円、05年度で1193億円、06年度で915億円少なく、3年間では総額2597億円少なかった。府は同額分を借り換え、その分の返済を先送りしたが、そうした事実は公表していなかった。
府幹部は朝日新聞の取材に「財政再建団体に転落しないために、こうした手法を取らざるを得なかった」と認めた。そのうえで、「返済方法について対外的に説明してこなかったのは事実だが、隠す意図はなかった。国の指導通りではなく、適切なやり方だとは思っていないが、違法ではない。府債はきちんと返しており、投資家のご理解はいただけると思っている」と説明した。
《財政再建団体》 地方財政再建促進特別措置法に基づき、実質収支の赤字額が一定割合(都道府県で5%、市区町村で20%)を上回った自治体が対象。指定されると、国の指導で増税や公共料金値上げ、人件費削減などの歳出カットを含む財政再建計画を立て、赤字解消を目指す。今年3月には北海道夕張市が指定された。
《減債基金》 自治体の「積立金」の一種で、本来は将来の借金返済に充てるため計画的に使われる。大阪府の場合、07年度末見込みの残高は7755億円だが、一般会計繰り入れ分を差し引くと2241億円になる。
これは看過できない大阪府当局による「国の指導通りではなく、適切なやり方だとは思っていないが、違法ではない」財政「操作」であります。
要約するとこういうことのようです。
そもそも大阪府は98年度から9年連続で赤字であり大変財政状況が厳しいのでありますが、長年に渡る過剰投資の借金(府債)の返済に、あらかじめ用意しておいた借金返済準備金(減債基金)を切り崩してきたものの、とうとう減債基金残高がこのままでは底をついてしまうという状況に追い込まれ、3年前から実際の返済額をごまかすために借金の借り換えをしてきたというのです。
実際の返済額は、本来返すはずの額よりも、04年度で489億円、05年度で1193億円、06年度で915億円少なく、3年間では総額2597億円少なかった。府は同額分を借り換え、その分の返済を先送りしたが、そうした事実は公表していなかった。
しかし府債を返済することができないのであらたに借り換えてごまかすとは、サラ金の借金返済に苦しむ多重債務者が借金返済のために新たに別のサラ金に借金をし債務が膨らんでいく愚かな状況とどこが違うのでしょう。
多重債務者がこのような状況に陥ったら、債務を整理し家計支出も大幅に見直し収入に見合う返済計画を自主的に立て直すか、それが不可能ならば自己破産手続きをして借金の清算を法に基づき権力に強制的に行ってもらうことの二者択一を迫られることになるでしょう。
この年末に大阪府の場合も財政破綻寸前のまさに後のない財政状況であることが発覚したわけです。
もし予定どおりまともに府債を返済していたら大阪府が公表してきた過去3年の財政赤字金額は一気に膨らむこととなり、実質収支における赤字額が5%を越えてしまい、夕張市と同様の財政再建団体に陥ってしまっていたというわけです。
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しかし、私がより問題だと思うのは、このような状況にまで追いつめられていながら、府はこうした実態を府民や議会や金融機関、投資家、挙げ句には当初は知事にまで隠していたという事実であります、行政としてのアカウンタビリティ、会計責任と説明責任がまったく示されていないのであります。
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●呆れる大阪府財政課ホームページによる偽善説明
行政としてのアカウンタビリティ・説明責任がとられていないと指摘しましたが、大阪府の取ってきた広報行動はもっと悪質かも知れません。
Q12 財政再建団体(準用再建団体)に転落したらどうなるん?
A12 財政再建団体(準用再建団体)になると、国の同意を受けた計画に基づいて、過去に生じた赤字を一定期間内に解消する必要があります。その場合、国の強い関与の下で、財政再建を最優先した行財政運営を余儀なくされます。
また、計画を作成し同意されなければ、地方債の発行が制限され、道路や河川の改修、交通安全施設の整備、府営住宅・府立高校の改築など、府民の暮らしや安全に関わる事業の多くが実施不可能となり、これらの事業を実施する場合には、地方債に代わる財源が必要になります。いずれにしても、教育や福祉をはじめ、さまざまな分野で実施している独自の施策の休廃止や見直しが必要となることはもちろん、大阪再生のために必要な投資が自らの判断のみでは充分行えなくなるなど、府独自の政策判断は極めて制限されると考えられ、府民生活や大阪の経済活動に多大な影響を及ぼすと見込まれます。
(参考)「準用再建団体」について
◎大阪府では、財政再建団体転落の回避をめざした行財政改革をすすめてきましたが、当面の危機を回避できる見通しとなったことから、赤字構造からの脱却と次世代に負担を送らない持続可能な行財政構造への転換を新たな目標に掲げた「大阪府行財政改革プログラム(案)」(平成18年11月公表)を策定し、今後も不断の改革をすすめることとしています。
わざわざ「財政再建団体(準用再建団体)に転落したらどうなるん?」という問いに対し、財政再建団体(準用再建団体)になるといかに厳しいことに陥るか説明をしたうえで、最後に「大阪府では、財政再建団体転落の回避をめざした行財政改革をすすめてきましたが、当面の危機を回避できる見通しとなった」と明記、府民を安心させる為なのか、わざわざ『(参考)「準用再建団体」について』とリンクを張って大阪府の準用再建団体への転落ラインまで説明しています。
「財政再建団体(準用再建団体)」について
1.「準用再建」とは
地方財政再建促進特別措置法に基づき同法を準用して財政を再建することです。
企業でいえば、会社更生法の適用を受けて企業を再建することに相当します。前年度の赤字額が一定割合(標準財政規模に対する割合。都道府県の場合は5%)以上の団体については、総務大臣に協議し、その同意を得た財政再建計画に従って財政再建を行う場合でなければ、建設事業等の財源に充てるための地方債を起こすことができなくなります。
〇大阪府の標準財政規模⇒約1兆4,345億円(平成19年度)
〇準用再建団体への転落ライン(標準財政規模の5%)⇒約717億円
〇大阪府の赤字額(普通会計ベース)⇒約127億円(平成18年度)
大阪府の標準財政規模は約1兆4,345億円(平成19年度)であり、したがって準用再建団体への転落ラインは約717億円であるが、大阪府の赤字額(普通会計ベース)は約127億円(平成18年度)だからまだ大丈夫だと府民を安心させているのです。
さて3年間で総額2597億円の「赤字隠し」をしていなかったら、そもそも大阪府の普通会計ベースの赤字額は約127億円になどとどまってはいなかったのです、府当局も認めているとおり間違いなく約717億円の準用再建団体への転落ラインを突破してしまっていたことでしょう。
大阪府財政課はかたや府民や議会や金融機関、投資家、知事にまでアカウンタビリティ(説明責任)を放棄しつつ、胡散臭い赤字縮小の「会計操作」を裏で行い、その偽善的数値でもって表ではインターネットなどで府民に「大阪府では、財政再建団体転落の回避をめざした行財政改革をすすめてきましたが、当面の危機を回避できる見通しとなった」などと偽善的説明をしてきたのです。
大阪府が過去3年でしてきたことは「財政再建団体転落の回避をめざした行財政改革」というよりも、「財政再建団体転落の回避をめざした」悪質な「赤字隠し」であったのであります。
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●一般会計ベースで約3兆円規模の自治体が約5兆円の借金を背負いつつ、しかも借金の残高は年々増え続けている厳しい現実
大阪府の現在の財政規模と借金(府債)の残高や返済状況を検証しておきましょう。
大阪府では予算の詳細及び概要について公表しています。
平成19年度当初予算について
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/19yosan/index.html
このページの以下のPDFファイルに平成19年度当初予算のあらましが掲載されています。
平成19年度当初予算について
http://www.pref.osaka.jp/zaisei/19yosan/1-3.pdf
この資料によれば19年度当初の予算規模は、一般会計ベースで3,255,548(百万円)、特別会計ベースで1,042,728(百万円)、合計で4,298,276(百万円)とあります。
府としての純粋な予算である一般会計ベースで約3兆2千5百億円、下水道事業などの独立した会計をしているその他の特別会計ベースで約1兆4百億円という規模であります。
「一般会計の内訳」の「歳出」の「性質別内訳」で見ると「義務的経費」の中の「公債費」が320,602(百万円)、つまり3200億円とあり、全歳出に占める割合は9.8%となっております。
一方「歳入」でありますが、「府債」ですが245,149(百万円)とあり約2450億円、全歳入に占める割合が7.5%とあります。
一般会計の内訳だけで素人の見立てでは、3200億円返済しつつ、2450億円新たに府債を歳入しておりますので、利子や手数料その他の費用が含まれているとしても、単年度の「府債」残高は減っていても不思議ではないと思います。
しかしながら、「府債発行額(一般会計)の推移」表によれば、大阪府の府債残高は過去10年増え続けているのであります。
・府債発行額(一般会計)の推移(単位億円)
11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年 18年 19年 府債発行額 3,287 3,253 3,326 3,155 3,737 2,896 2,160 2,223 2,293 府債残高 38,321 40,695 43,098 45,031 47,626 49,228 49,410 49,913 50,450 ※平成11〜18年は決算時、平成19年は当初時
平成19年度にはとうとう50,450億円、つまり5兆円を超えてしまう見込みなのであります。
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うーん、一般会計ベースで約3兆円規模の自治体が約5兆円の借金を背負いつつ、しかも借金の残高は年々増え続けているということなんですね。
これは例えれば年収300万円の家庭が9年連続で家計が大赤字で累積で500万円の借金を重ねてきていて借金の利子払いでしのぎながら借り換えをしつつ生活をやりくりしているという状況なわけです。
しかも借金も増え続け状況は年々逼迫していてもうすぐ新たな借金が借りることができなくなるまでに赤字の割合が増しているということなのであります。
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●行政のディスクロージャー(情報開示)とアカウンタビリティ(説明責任)が強く求められている
8日付けの朝日新聞から関連記事をふたつ。
大阪府の「赤字隠し」、来年度以降も2800億円
2008年01月08日16時25分大阪府が今年度までの4年間で総額3500億円の府債の返済を先送りして財政赤字を少なく見せかけていた問題で、来年度以降も4年間で2815億円の返済先送りを計画していることが明らかになった。04年度に始めた「赤字隠し」の総額は6315億円にのぼることになる。太田房江知事は財政再建で10年度に単年度黒字を達成すると表明しているが、巨額の債務負担の先送りが前提になっていた。
府では財政再建団体への転落を回避するために「赤字隠し」を続けてきたが、来年度以降も毎年度870億〜494億円の返済を先送りし、満期時に100%借り換える計画だ。来年度以降も危機的な財政状況は変わらず、再建団体転落を回避するにはやむを得ないとの判断だ。
府が06年11月に発表した行財政改革プログラムは「次世代に負担を送らない持続可能な行財政構造」との目標を掲げ、10年度に単年度黒字を達成するとしている。府は「プログラムは借り換えを前提に組まれている」とし、目標を達成するにも先送りが必要としている。
http://www.asahi.com/politics/update/0108/OSK200801080057.html
「隠したわけでない」 太田知事、赤字隠し否定 大阪
2008年01月08日23時16分「赤字隠しではなく借金返済の先延ばし」。大阪府の太田房江知事は8日の記者会見で、府が府債の返済を先送りして巨額の「赤字隠し」をしていた問題について、こう語った。金融市場を欺いたのではないかと問われると「金融市場の人は資料から読み取っておられる」と述べた。
太田知事は一連の会計処理を財政再建団体に転落しないために「財政当局が見つけた技術的な手法」と説明。返済先送りで将来の財政悪化を招くとの指摘にも「経済情勢や税収によっては、一概にそうなるとは言えない」と反論した。
府が10年度に単年度黒字を達成する目標を掲げていることについて、太田知事は「返済の先送りが前提」と認めたうえで、「黒字化した後に本当の財政再建に進むというのが私の考えた道筋だった」と述べた。
http://www.asahi.com/national/update/0108/OSK200801080110.html
府債の返済先送りですが、「来年度以降も4年間で2815億円の返済先送りを計画していることが明らかになった」そうであります。
「次世代に負担を送らない持続可能な行財政構造」との目標を掲げ、10年度に単年度黒字を達成するとしている大阪府の行財政改革プログラムでありますが、府は「プログラムは借り換えを前提に組まれている」とし、目標を達成するにも先送りが必要としています。
また太田房江知事は「赤字隠しではなく借金返済の先延ばし」とし、返済先送りは「財政当局が見つけた技術的な手法」と説明、返済先送りで将来の財政悪化を招くとの指摘にも「経済情勢や税収によっては、一概にそうなるとは言えない」と反論したのだそうであります。
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「赤字隠し」であろうと「借金返済の先延ばし」であろうと些末な表現の問題であり、本質的には大阪の逼迫している財政には何も関係ありますまい。
大阪府が自力で自主再建の道を歩むのか、あるいは潔く財政破綻団体として国の関与を求めるのか、もちろん大阪府及び府民が決めることでありましょう。
大阪の場合、人口一万2千の夕張市と比し、財政規模も関わる府民の数も桁違いに大きく、もし大阪が財政破綻したならば、関西経済だけではなく日本経済において極めて深刻な影響が出るでしょうし、財政再建の処理スキームも夕張市のようなわけにはいきますまい、府民のためにも日本国のためにも自主再建の道を歩むとするならばそれはよく理解できます。
しかしその手法は広く公開されるべきであり、「借金返済の先延ばし」を実行するならばしっかりと事前に納税者たる府民に説明すべきであります。
斯様な厳しい財政事情であるならばあるほど、行政のディスクロージャー(情報開示)とアカウンタビリティ(説明責任)が強く求められているのであります。
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今度の知事選でどなたが知事になられたとしても、おそらく大阪府の財政再建はいばらの道となるでしょう。
厳しい施策を採るには府民の理解と協力が不可欠となりましょう。
それがためにも新しい知事は、どのような財政再建策を講じるにしても府民に対し徹底的な情報公開と説明責任を示していただきたいです。
(木走まさみず)
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http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060627/1151387326