木走日記

場末の時事評論

社会弱者を守るというセイフティネットが機能しなくなりつつある現代日本〜真の問題は国民所得の減少と破綻寸前の地方行政

生活保護世帯、6年連続で過去最高を更新

 9月28日付けの読売新聞記事から。

生活保護世帯、6年連続で過去最高を更新

 2006年度の生活保護世帯数(月平均)は107万5820世帯と前年度より3・3%増え、6年連続で過去最高を更新したことが28日、厚生労働省社会福祉行政業務報告で明らかになった。

 生活保護世帯数は14年連続の増加で、被保護者数も11年連続の増加となる151万3892人だった。厚労省は「雇用情勢の改善で世帯数の伸びは緩やかになっているが、高齢者の増加が全体を押し上げている」としている。

 生活保護世帯の内訳は、「高齢者世帯」が47万3838世帯(前年度比4・8%増)と最も多かった。「障害者・傷病者世帯」は39万7357世帯(同1・9%増)、「母子世帯」は9万2609世帯(同2・3%増)だった。

(2007年9月28日23時32分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070928it17.htm?from=navr

 「2006年度の生活保護世帯数(月平均)は107万5820世帯と前年度より3・3%増え、6年連続で過去最高を更新」したそうです。

 厚労省は「雇用情勢の改善で世帯数の伸びは緩やかになっているが、高齢者の増加が全体を押し上げている」と分析しているようですが、「高齢者の増加が全体を押し上げている」のは統計的事実(「高齢者世帯」が47万3838世帯(前年度比4・8%増))だとして、高齢者の働く機会が減少しているという社会的側面も見逃せないでしょう。

 この記事が掲載された9月28日には、国税庁民間給与実態統計調査の速報値が公表されたわけですが、「民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円」で、「9年連続で減少した」のであります。

 当日の当ブログエントリーより。

(前略)

 今日(28日)の朝日新聞記事から。

年収200万円以下、1千万人超える 民間給与統計

2007年09月28日08時00分

 民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円で、前年に比べて2万円少なく、9年連続で減少したことが国税庁民間給与実態統計調査で分かった。年収別でみると、200万円以下の人は前年に比べて42万人増え、1023万人と21年ぶりに1000万人を超えた。一方、年収が1000万円を超えた人は9万5000人増加して224万人となり、格差の広がりを示す結果となった。

 年収300万円以下の人の層は5年前の34.4%から年々増加しており、昨年は全体の38.8%を占めた。男女別では、年収が300万円以下の男性は21.6%と5年前から4.6ポイント増え、女性は66.0%で5年前から2.3ポイント増えた。アルバイトや派遣社員など給与が比較的少ない非正規雇用者が増えている状況を浮き彫りにした格好だ。

 一方、年収300万円から1000万円以下の人の割合は一昨年の57.6%から56.3%に減少した。

 また、1年を通じて働いた給与所得者は4485万人と前年に比べ9万人減少した。男性は01年から減少傾向にあるが、女性は逆に03年から増加傾向にあるという

http://www.asahi.com/life/update/0927/TKY200709270647.html

 うーむ、国税庁民間給与実態統計調査の速報値が公表されたわけですが、「民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円」で、「9年連続で減少した」そうであります。

 まあ大方の予想通りの結果でありまして、今回の好景気によるお金が大企業を中心とした上流でせき止められちゃって、一般の労働者の給与所得増には結びついてはいない、それどころか平均所得は9年連続で減少しているのであります。

 ・・・

(後略)

■[社会]不思議な経済大国ニッポン〜企業経常利益は5年連続過去最高更新中なのに民間企業平均給与は9年連続減少中 15:51 317
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070928/1190962278

 なんとも皮肉なことに、この9月28日の前日には、財務省から日本の法人の経常利益、売上高がバブル期を越えて過去最高を更新していることが発表されています。

 同じく当日の当ブログエントリーより。

(前略)

昨日(27日)の読売新聞記事から。

経常利益、売上高が過去最高を更新…06年度法人企業統計

 財務省が27日発表した2006年度の法人企業統計調査によると、全産業の経常利益は前年度に比べて5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、過去最高を更新した。

 売上高も3・9%増の1566兆4329億円と4年連続のプラスで、同じく過去最高となった。製造業、非製造業とも増収増益となり、景気回復に伴う企業業績の好調さを示した。

 また、全産業の設備投資は14・3%増の44兆1365億円で、2年ぶりにプラスに転じた。

 経常利益は、製造業では携帯電話などの情報通信機械や一般機械が好調で9・3%増だった。非製造業は、不動産業や運輸業が増益で2・2%増となった。

(2007年9月27日12時44分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070927i105.htm?from=main1

 ・・・

 財務省によれば全産業の経常利益が前年度比5・2%増の54兆3786億円と5年連続で前年を上回り、空前の過去最高を更新している中で、国税庁によれば民間企業で働く会社員やパート労働者の昨年1年間の平均給与は435万円で、9年連続で減少中なのであります。

 うーん。

 考えてしまいますね。

 ・・・

 企業の経常利益が5年連続で前年を上回り過去最高を更新中なのに民間企業の平均給与が9年連続で減少中である不思議な経済大国ニッポンなのであります。

 9年連続で民間企業の平均給与が減少中である事実からして、「生活保護世帯、6年連続で過去最高を更新」したのは、厚生省のいう単に高齢化の問題とするのはすこしこの問題を矮小化しているきらいがあると思います。



生活保護、不正受給が過去最高89億円・昨年度〜5年連続で増加

 1日付け産経新聞記事から。

長野市役所で刃物男 生活保護申請受け付けられず立腹
2007.10.1 14:04
 1日午前8時半ごろ、長野市長野市役所第二庁舎1階にある厚生課で、窓口に来た男が突然包丁を取り出し、自分の体に突きつけるなどした。約20分後に駆け付けた長野中央署員が男を取り押さえ、銃刀法違反の現行犯で逮捕した。現場には厚生課の職員約30人と別の相談者1人がいたが、けが人はなかった。

 調べでは、男は住所不定、無職、石川秀明容疑者(42)。生活保護の申請をするために窓口に来たが、受け付けられなかったため腹を立てたとみられる。警察が到着するまでの間、自分の首などに包丁を突きつけ、大声で不満を述べる石川容疑者を、厚生課の職員らがなだめていたという。

 市役所の酒井国充厚生課長は「人が少ない時間帯が幸いして、けが人もなくて良かった」と話している。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/071001/crm0710011404012-n1.htm

 「生活保護の申請をするために窓口に来たが、受け付けられなかったため腹を立て」、「自分の首などに包丁を突きつけ、大声で不満を述べ」たそうですが、なんとも短絡的行動であります。

 くわしい事情はわからないので安易な断定はできませんが、まだ42歳という若さからして病気などで働けない理由でも有していたのでしょうか、いずれにしてもいかなる事情があろうとも公的場所で刃物を持ち出す犯罪行為はまったく許されることではないでしょう。

 地方自治体が厳しい財政の中で生活保護の申請を受理するかどうか厳格な対応をしていることは、たとえば、今日(5日)の以下の記事などを読むと理解できます。

 今日(5日)の日本経済新聞記事から。

生活保護、不正受給89億円・昨年度

 収入があるにもかかわらず申告しないなどして不正に受給された生活保護費は、2006年度で総額約89億7600万円に上り、前年度に比べ約3割増えたことが4日、厚生労働省のまとめで分かった。件数は同約2割増の約1万4600件。不正受給額は01年度の約46億7000万円から5年連続で増加、約1.9倍になった。

 生活保護世帯数(月平均)は昨年度、過去最高の約107万5800世帯だった。厚労省指導監査室は「保護世帯が増えたことで不正請求の件数も増えた」と分析している。(07:01)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20071005AT1G0403F04102007.html

 6年連続で過去最高の勢いで増え続ける生活保護者でありますから、当然分母が増えるに従い、厚労省指導監査室は「保護世帯が増えたことで不正請求の件数も増えた」と分析しているそうですが、それはそのとおりなのでしょう。

 この問題、感情論で言えばどうしても「弱者に厳しい行政」という視点になりがちですが、世の中にはたしかに不埒な輩がいることも、私達は十分に認識しておく必要があります。

 ・・・



●問題の多い北九州市生活保護行政

 今日(5日)の朝日新聞電子版速報記事から。

生活保護申請書渡さず 女性、自殺寸前に 北九州市
2007年10月05日10時13分

 生活保護の申請を容易には受け付けない「水際作戦」が批判された北九州市で、3回も福祉事務所を訪れながら申請書すら渡されず、自殺寸前まで追い込まれた女性(47)がいた。3回目は、市が設置した第三者委員会が検証を進め、問題点の指摘を始めた矢先の7月だった。女性の携帯サイトへの書き込みで窮状を知った弁護士らが申請を支援。一命を取り留めた女性は保護を受け、小学3年の次男(9)と暮らしている。

 同市小倉南区に住む女性は05年夏、突然両手の感覚を失い、職をなくした。原因不明で服薬治療を続け、児童扶養手当などで暮らそうとしたが、行き詰まった。家賃や国民健康保険料を滞納し、06年2月に小倉南福祉事務所を訪ねた。

 窓口の職員に長男(23)や親兄弟に援助してもらうよう言われ、面接室に1人残されたという。後に入手した記録には「申請意思なし」に○がついていた。

 家賃滞納のまま食事にも事欠いていた今年3月、次男が41.5度の熱を出した。救急車を呼び、ことなきを得たが、医療費がない。「このままではこの子を殺してしまう」。再び福祉事務所へ行ったが、保険証の発行を受けただけだった。

 近所の住民が食事を分けてくれた。しかし、光熱費の滞納は続き、まずガスが止められた。水風呂に入る日々が続き、電気も水道も停止日の通知が届いていた。狭心症うつ病の疑いもあった。でも、金がない。

 7月6日、また福祉事務所に足を運んだ。職安に通っていたが、まともに働ける状態ではない。それでも相談は国保の話に終始し、保護の申請書はもらえなかった。「これは死ねってことか」。帰宅後、電気が止められた。

 市内では05、06年に申請書をもらえずに男性が相次いで孤独死した。今年2月に就任した北橋健治市長は保護行政の検証を表明し、5月に第三者委を設置。6月には同委のメンバーが「申請書を渡すべきだった」と指摘していた。

http://www.asahi.com/national/update/1005/SEB200710040014.html

 なんといういたましい事例なのでしょう。

 生活保護は「国で定める最低生活費を下回る場合に、足りない部分について保障する」制度です。
 
 病気になって、仕事ができなくなり、収入もなくなり、どうしようもなくなった最後の最後の生きるための行政サービスが生活保護制度であるとすれば、この女性の場合、十分にその資格があったと思われますし、少なくとも「不正請求」とは考えづらいケースであると思われます。

 北九州市生活保護行政は、「生活保護申請の拒否、あるいは廃止されて餓死・孤独死した男性三人の事件」をかかえ、市民からの批判を受け5月に第三者委を設置していた矢先なのであります。

 2日付けの「しんぶん赤旗」記事から。

2007年10月2日(火)「しんぶん赤旗

生活保護
「北九方式」は問題多い
検証委が中間報告“孤独死招いた”

 北九州市生活保護行政検証委員会(稲垣忠委員長)は一日、二〇〇五年から〇七年にかけて生活保護申請の拒否、あるいは廃止されて餓死・孤独死した男性三人の事件を検証し、提言を盛り込んだ中間報告を北橋健治市長に答申しました。

 中間報告は、同市の生活保護行政について「対応に不適切な点があることが次々と明るみにでた。要は生活保護法の精神や規定を尊重し、社会常識をもって対処する『当たり前の行政』の必要性が浮かびあがってきた」と指摘。数値目標をもって生活保護の開始や廃止をおこなってきた「北九州方式」の問題点を明らかにしています。

 中間報告では、二度にわたる生活保護申請を扶養義務が先だとして拒否され、〇六年五月に遺体が発見された門司区の男性(56)の事件について、「申請書を交付すべき」で、申請を受け付けず排除する「『水際作戦』と呼ばれても仕方がない」と判断しています。

 要介護認定を受けていた一人暮らしの男性(68)が「土下座もして」生活保護を求めたのに、市が保護を認めず〇五年一月、遺体が発見された八幡東区の事件についても、「申請の意思表示があれば申請を指導すべきだった」と指摘しています。

 辞退届で生活保護を打ち切られ今年七月に痛ましい姿で発見された小倉北区の男性(52)の事件では、男性を「健康と即断し、自立申し出を受け入れた対応は過ちだったというべき。辞退届の受理にあたって、就職先や勤務時間、収入などについて見通しさえ尋ねていないことは極めて不適切」と断定しています。

 生活保護行政全体についても、かつて「不正」防止にとりくんできた経緯をのべながら、数値目標が実態としてあり「職員をしばっている」と提起。「生活保護からしめ出された人たちが相次いで孤独死という結果に追い込まれた」として、申請書の交付や生活保護廃止のあり方などについて提言しています。

 検証委員会は市民から意見を募り十二月初めに最終報告を行います。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-10-02/2007100201_02_0.html

 ・・・



生活保護という社会弱者を国民みんなで守るという最低限のセイフティネットが機能しなくなりつつある現代日本

 生活保護世帯が6年連続で過去最高に増え続ける中で、生活保護の不正受給も5年連続で増加し続け昨年度には過去最高の89億円に達したのであります。

 そのような中で、長野では生活保護の申請受理されないとはらを立てた男が役所で刃物を振り回し、北九州では生活保護の申請すら認められなかった女性が自殺未遂をしています。

 この問題、私達国民は冷静な議論をするべきであります。

 北九州の事例など明らかに行政側に行き過ぎた対応があったわけで改善すべき点は改善すべきなのは当然ですが、真の問題は国民所得の減少と破綻寸前の地方行政にあると思うのです。

 生活保護という社会弱者を国民みんなで守るという最低限のセイフティネットが機能しなくなりつつある現代日本

 そこにはこの経済大国でいま何が起こりつつあるのか。感情的な議論ではなく冷静な分析が必要でありましょう。

 いくら経済的に発展しても、企業が空前の黒字を出しても、いくら海外で軍事協力したとしても、生活弱者を守ることのできないような国は、世界から尊敬されることはないでしょう。



(木走まさみず)