木走日記

場末の時事評論

NHKは放送法で守るべき「国民的」メディアとしての地位をすでに失っている

 テレビを持つ人はNHKと受信契約をしなければならない

 受信料支払いの根拠となる放送法のこの規定は、契約の自由を保障する憲法に違反しないのか。議論が続いていた問題に、最高裁が初めて判断を示しました。

 勝ち誇ったかのように最高裁「合憲」判断と、6日付けNHKニュースが報じています。

NHK受信契約訴訟 契約義務づけ規定は合憲 最高裁大法廷
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171206/k10011248431000.html

 うむ、判決は「憲法が保障する表現の自由の下、国民の知る権利を充足すべく採用された」と、受信料制度の合理性を認めました。

 また受信契約を義務付けた放送法の規定についても、「公平な受信料徴収のために必要だ」と結論付けたのです。

 これはある意味想定された判決でして、この最高裁で「違憲」判決が出てしまうとすると、全国800万世帯にものぼる受信料未払い世帯に法的「お墨付き」を与えてしまうだろうし、72.5%まで下がってしまっている受信料回収率がさらに落ちかねないわけです。

(参考サイト)

受信料の都道府県別世帯支払い率
NHKが初めて推計,全国平均は72.5%
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/focus/523.html

 現在のNHKの受信料徴収制度が破綻してしまいます、間違っても「違憲」判決は出さないだろうと大方の予測どおりではあります。

 法治国家でありますから判決結果は無論尊重されるべきです。

 しかしです。

 この最高裁判決でNHKは慢心してはいけません。

 メディア論的には納得がいかない点があります。

 まず1950年公布の67年前の古い法律「放送法」の時代錯誤的条文を、この21世紀の2017年に適用していること自体の矛盾であります。

 1950年といえばNHK受信契約世帯は8,650,037世帯ですが、うちテレビ契約世帯はゼロです、当たり前ですがテレビ放送は3年後の1953年からで、その契約世帯数はわずか1,485世帯でした。

(参考サイト)

NHK受信契約数の推移
http://www.geocities.jp/yamamrhr/NHK-1.pdf

 つまり、放送法ができた当初の契約媒体はラジオ放送が主であり、そのテレビ契約世帯が爆発的に増えて、ラジオ放送は1968年に受信料が廃止されます。

 1953年2月1日、NHKがテレビ本放送を開始、8月28日には民放のトップを切って日本テレビが本放送を開始しました。 しかし、当時はテレビ受像機の価格が高く、なかなか受像機が普及しませんでした。そこで登場したのが『街頭テレビ』です。

 このような時代にできた放送法が、「テレビを持つ人はNHKと受信契約をしなければならない」とし、それをもって「利用者の公平な負担を実現」したとしてもそれは道理がありました。

 テレビの絶対数が少なかったし放送の選択肢もほぼNHKかいくつかの民放だけでありましたので、

テレビのアンテナを立てた世帯=NHKテレビ視聴者

 この等式はほぼ成立していたのです。

 しかし放送法公布から67年、現在はどうでしょう。

 地上波テレビ契約はピークの1989年の32,839,193世帯から、2008年には 22,759,000世帯までになりました(衛星放送契約にした世帯もあります)し、下記ライブドアニュース記事を見れば、ここ15年、NHK民放問わず主要テレビ局の視聴率が長期低落傾向が顕著なことが見て取れます。

主要テレビ局の複数年に渡る視聴率推移をグラフ化してみる(最新)
http://news.livedoor.com/article/detail/13843053/

 つまり、メディアとしてのテレビははっきり衰退傾向にあり、そもそもメディアとしてのテレビを視聴しない世帯が急増しているうえに、たとえば賃貸マンションなどの集合住宅で共同アンテナなどの場合、テレビを設置しているかの判断は、それこそ家の中を調べなければ実際には判断できない状況にまでいたっています。

 つまり「テレビのアンテナを立てた世帯=NHKテレビ視聴者」という等式も成り立たなくなっているし、そもそもメディアとしてのテレビが、放送法で守られるべき「普遍的媒体」としての地位を維持しているのか、という一番肝心なそして重大な問題を、この最高裁大法廷の判決では一切語られていないのです。

 あらゆる統計資料が示す事実として、テレビというメディアははっきりと利用者が減少しています、衰退期に入っています。

 この衰退メディアで有料放送を維持しようとするならば、契約者だけが視聴するスクランブル放送に移行することが、もっとも利用者の負担という意味で「平等」なのではないでしょうか。

 NHKは、公共放送という立場から経営努力をないがしろにしてきた「放漫経営」の体質が指摘されています。

 背景に受信料という安定収入に甘えた希薄なコスト意識などがあることははっきりしています。

 職員の平均年収1800万などいかなる理由をつけても異常な高報酬だといえましょう。

(参考サイト)

NHK 平均年収1780 万円!30歳2000万円以上?部長3000万も? 契約アナ150〜200万
https://matome.naver.jp/odai/2140668190325213801

 当ブログとしては、この問題、以前より「いい加減スクランブル放送を導入したほうがいい」とNHKを批判してまいりました。

2017-09-14 NHKはいつから生活必需品になったのだ?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20170914/1505376845

 ・・・

 まとめます。

 最高裁が認めた「合憲」判決は尊重しますが、しかし根本的にはNHKはスクランブル放送に移行すべきであると考えます。

 今後テレビ視聴者はますます減少していくであろう予測の中で、利用者負担の「平等性」を維持するためには、NHKを見る人だけが契約する、これしか手段がないと考えます。

 NHKの「公平な受信料徴収」は最高裁判決とは裏腹に、今後ますます困難になっていくことでしょう。

 テレビを持つ人はNHKと受信契約をしなければならない

 この判断ではこれからますます「平等性」を担保できないだろうことは自明です。

 今論じましたように、テレビ地上波放送は放送法で守るべき「国民的」メディアとしての地位をすでに失っており、旧態依然とした67年前の法律では、残念ながら受信料徴収制度の維持は困難なのであります。

 繰り返します。

 NHKテレビは放送法で守るべき「国民的」メディアとしての地位をすでに失っているのです。



(木走まさみず)