木走日記

場末の時事評論

大阪市長選:平松邦夫前市長に光あれ!〜前市長の残した実績を最大限の賛辞を持って称えたい

 うむ、40年ぶりの大阪ダブル選は、大阪都構想をかかげる大阪維新の会の大勝利に終わりました、市長となる前知事の橋下徹さん、後継の知事に当選した同会幹事長の松井一郎さん、当選おめでとうございます。

 そして市長選で敗れた平松邦夫さん、4年間の大阪市政、本当にご苦労様でした。

 東京都在住の私はもちろん今回の選挙を見守るだけでしたが、今回の地元大阪府民・大阪市民の府知事と市長の政治選択結果を、敬意をもって尊重、支持いたします。

 その上で大阪維新の会が掲げる「大阪都構想」ですが、今はニュートラル・中立の立場を表明しておきます。

 しばらくお手並み拝見としておきます。

 今回の選挙結果の分析や「大阪都構想」の評価などはメディアにおいてもネットにおいても多くの論客が色々な素晴らしい論を展開されていますので、例によって当ブログは少し角度を変えてそもそも大阪市を無くしちゃえという過激な発想が誕生した経緯について掘り下げてみたいのです。

 そして平松前市長の残した実績を最大限の賛辞を持って「静かに」称えたいのです。

 ・・・

 まずは現状の維新の会の主張を確認しておきましょう。

大阪の危機

大阪の危機は深刻である。府内総生産はこの10年で2.41兆円減少している。
一人当たり県民所得も平成8年の357万円から平成18年の308万へ約50万円減少している。大阪市だけみれば減少の幅はさらに大きく約68万円となっている。
東京と比較すると大阪市の凋落ぶりは鮮明さを増す。平成8年の大阪市の一人当たり所得は412万円で、東京の427万円と遜色なかった。ところが、平成18年には東京482万円に対し大阪市344万円と約140万円もの差がついてしまった。
優秀な人材の流入や将来性のある企業立地を促すこともできず、企業流出に歯止めをかけることもできなかった。その結果、多くの生活指標が悪化し(全国最高の生活保護率、低い消費支出、高い完全失業率等)、貧困家庭の子弟が十分な教育を受けられず、そのため世代を超えて貧困から抜け出せない、いわゆる貧困の再生産という最悪の事態が進行している。
国家自体も未曾有の危機に瀕している。2010年の国・地方を合わせた財政収支赤字はGDP比で10%程度にまで拡大し、公的債務残高はGDP比で200%にも達すると予測されている(OECD推計)。政府は全国一律のバラマキ(再分配政策)を始め、財政赤字をさらに拡大させようとしている。日本経済はまさに破綻への道を転がり落ちている。しかし、中央の政府も政党も危機の深刻さを理解しようとせず、どのように窮状から抜け出すのか短期的なビジョンも示せずにいる。

大阪が持つ潜在可能性

大阪は一地域でありながらアジアや中東の中規模国家、例えば台湾やサウジアラビア並みのGDPを擁している(府内GDPは約38兆円)。
環境、エネルギー、エレクトロニクス等の分野では世界をリードする技術を誇り、産業基盤も充実している。これからの日本経済を牽引できる潜在可能性は十分ある。
しかしながら、市町村は旧来の地域経営モデルとフルセット主義を改めることもなく、また広域的な調整も十分に機能していないため、府市を初め様々な取り組みがバラバラで、その潜在可能性を十分発揮することができないでいる。いまこそ、地域が自らの発展を戦略的に目指すことのできる枠組みを構築する必要がある。

http://oneosaka.jp/policy/

 なるほど、「市町村は旧来の地域経営モデルとフルセット主義を改めることもなく、また広域的な調整も十分に機能していないため、府市を初め様々な取り組みがバラバラで、その潜在可能性を十分発揮することができないでいる。いまこそ、地域が自らの発展を戦略的に目指すことのできる枠組みを構築する必要がある」としています。

 いやー、スケールが大きいなあ、これは敗れた平松さんには申し訳ないですが、政策論争の次元の違い・スケールの違いを感じるわけで、大阪市民・大阪府民はこのスケール感に掛けたのでしょうね(余談ですが、この構想そのものが維新の会・政策ブレーンの堺屋太一氏の発想が色濃く反映されていることがよく理解できます)。

 ・・・

 話を7年前、平成16(04)年11月に戻します。

 すべての発端は、大阪のMBS毎日放送:TBS系列)のテレビの夕方のニュースワイド番組において地味なスクープ報道を流したのがきっかけでした。

 それは「大阪市役所職員のカラ残業の実態」を報道するものでした。

 最初はよくある公務員の不正事件ぐらいの報道だったのですが、MBSの情報源はおそらく内部告発者だったのでしょう、その後も精度の高い不正情報が次々に報道され、やがて他のメディアも追随、全国レベルでの大報道合戦となっていきます。

 その不正内容は、条例に規定のないヤミ退職金・ヤミ年金、五種類のヤミ昇給、厚遇のヤミ福利厚生費、ヤミ組合専従、さらには大量の天下り団体の発覚などなど、もうやりたい放題、最終的には全国紙の社説でも大阪市および市職員は厳しく糾弾されることになります。

 多くの国民が激怒したのはこの一連の不正が役所ぐるみで巧妙に行われてきたことに対してだけではありませんでした、財政破綻ギリギリの当時の赤字自治大阪市において、報道によって大阪市職員の厚遇ぶりも報道されたからです。

 優良企業でもありえないこのような高待遇や不正が財政破綻寸前の自治体で行われていることに、国民やメディアがこぞって批判したのだと思われます。

 では当時大阪市はどのような財政状況だったのでしょうか、公式の資料で検証しておきます。

 平成16年当時、全国の政令指定都市は北は北海道・札幌市から南は九州・福岡市まで13存在しました。

 その中でもお荷物的存在というか特に財政悪化が顕著だったのが、大阪市と神戸市の関西政令2都市だったわけです。

 当時(平成16年)の政令都市の財政状況を比較する詳細資料は総務省サイトにあります。

〈財政比較分析表(平成16年度決算)一覧〉
http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei/bunsekihyo.html#LinksSeireishi 

 この内容を一枚の表にまとめてみました。

 この表では6つの指標・インデックスによって13の政令都市の財政状態を比較しているのですが、ほとんどの指標の最下位を関西の神戸市と大阪市が争うように占めていることが理解できます。

 6つの指標・インデックスは地方自治体の財務の健全性を図る上でどれも重要と思われるので簡単に説明しておきます。

(1)まず一番左の【財政力】(財政力指数)ですが、これは地方税などのその自治体の歳入を行政サービス費用や人件費などのその自治体の歳出で割った指標であり、

 財政力指数 = 歳入 / 歳出

 の式で表します、当然ながら財政力指数が1.0を超えれば、歳入のほうが歳出より大きい「黒字自治体」であり、1.0未満なら逆に「赤字自治体」、つまりこの財政力指数が小さい自治体ほど体力がないことを示しています。

 表で確認できますが1位の川崎市ですら1.0のトントン、あとの12の市はすべて赤字自治体、大阪市は0.86で7位、神戸市は0.65で12位にあります。

(2)次の【財政構造の弾力性】(経常収支比率)(%)ですが、これは自治体において自由に使えるお金のうち、人件費や生活保護費、借金返済などの避けられない支出にどれだけ充てているかを示しています、したがって値が低ければ低いほど、懐に余裕があり、独自の政策のために使うことができるのです。

 表で確認しますと、最下位の大阪市と、その次の神戸市だけが100%を超えていますね、これは本来なら自治体独自で使用可能なお金がまったくない状態であることを示しています。

(3)3番目の【公債費負担の健全度】(起債制限比率)(%)ですが、この起債制限比率は、地方税収など経営的な一般財源のうち地方債の返済に充てる割合をさします、そして起債制限比率が20%を超えた場合には、一般単独事業における地方債の発行の許可が制限されるのです。

 表で確認しますと、9位の大阪市は15.9%、最下位の神戸市は26.0%で一般単独事業に地方債の発行制限を受けていることがわかります。

(4)4番目の【将来負担の健全度】(人口一人当たり地方債現在高)(円)ですが、これはそのままでその自治体の借金残高を人口で割ったもので、市民一人当たりどの位の自治体の借金が残っているかがわかります。

 表で確認しますと、最下位の神戸市が119万0719円、次の大阪市が114万8806円、市民一人当たり100万円を超える借金を抱えていることが分かります。

(5)5番目の【給与水準の適正度(国との比較)】(ラスパイレス指数)ですが、このラスパイレス指数とは、

 ラスパイレス指数 =その自治体職員の平均給与 / 国家公務員の平均給与

 であり、国家公務員とその自治体職員の給与を比較した値です、小さければ小さいほど国家公務員より給与水準は低く抑えられ、この数値が大きければ大きいほどその自治体職員の平均給与は国家公務員より高給なわけです。

 表で確認しますとこのラスパイレス指数において、当時の関西赤字政令都市である神戸市と大阪市の姿勢の違いが顕著に見えて興味深いです。

 1位の神戸市は95.6であり、この段階ですでに一人当たり人件費の削減に努力していることが推測できますのに対し、最下位から2番目の大阪市は101.4、国家公務員よりも高給であることがわかります。

(6)最後6番目、表では一番右の【定員管理の適正度】(人口千人当たり職員数)ですが、これはその自治体の職員総数そのものが自治体規模からして適正なものかを計る指標となっています。

 表で確認しますと、1位の横浜市の5.96人に対して、最下位の大阪市は12.29人と、この指標において大阪市民は横浜市民に比べて倍以上の市職員を抱えていることになります。

 神戸市も最下位から2番目の9.01人と、やはり他市と比較して職員数が多いことがわかります。

 ・・・

 まとめますと、今、検証したとおり、当時つまり平成16年度(04年4月〜05年3月)における大阪市の財務状況は、赤字自治体で経常収支比率が103.6%と最悪で自治体において自由に使えるお金などまったくない状況で、かつ市民一人当りの借金も114万8806円と膨大に膨らんでいる中で、なんと国家公務員よりも高給(101.4)な職員を政令地方都市の中で一番(1000人当たり12.29人)多く抱えていたわけです。

 そしてこのようなただでさえ財政破綻状況の中の厚遇を受けているのに、さらに条例に規定のないヤミ退職金・ヤミ年金、五種類のヤミ昇給、厚遇のヤミ福利厚生費、ヤミ組合専従、さらには大量の天下り団体の発覚など、自治体ぐるみの不正が次々と発覚したのであります。

 当時、大阪市民でなくともこんなデタラメな自治体はいらないと多くの国民が憤ったのは無理からぬわけです。

 今回は大阪市を無くしちゃえという過激な発想が誕生した経緯について検証して見ました。

 なぜ検証したのかといえば、冒頭にも申しましたが、私は「平松邦夫さん、4年間の大阪市政、本当にご苦労様でした」と言いたかったからです。

 平松前市長、あなたの残した実績は地味ですが素晴らしいものです。

 大阪市が市民ほったらかし赤字垂れ流しお構いなしで組織ぐるみで自分達だけを厚遇しこのような腐臭漂う不正を行うような体質になったのは、実は1963年から2007年まで44年間、5代(中馬馨、大島靖、西尾正也、磯村隆文、關淳一)連続で前の助役が次の市長になるというひどい馴れ合い人事も遠因であると言われています。

 そのような悪臭漂う完全アウェイ状態の中、2007年、平松邦夫(くしくも不正をスクープしたMBS毎日放送出身)さんは市長として多くの市民の熱き期待を背負いて登場したのです。

 1963年以来助役(=市職員)が市長に納まっていた大阪市に完全な外様(とざま)・よそ者として平松さんは市政を司ることになりました。

 そして彼は大阪市の体質改善に努めました、その人柄もあり市議会とうまく調和を取りながら、地味ですが4年間で素晴らしい成果を挙げています。

大阪市長 平松邦夫 オフィシャルサイト
市政改革の実績
http://www.hiramatsu-osaka.jp/results/

 詳しくはオフィシャルサイトをご覧いただくとして、残念ながら「大阪市長」とありますのでこのサイト閉鎖されるのも時間の問題だと思われます。

 後の世に残すために、多くの実績の中で大阪市の財務改善に関わるいくつかグラフを再掲しておきます。

 この4年間で累計8961億円の経費を削減しています。

 そして市債残高を4000億円以上減少させています。

 結果、実質公債比率は約10%までに減少しています。

 人事にも大鉈を振りました。

 まず職員数の4分の1を2年後までに圧縮する計画が実行されています。

 さらにあれだけ高かった平均給与も現在19法令都市に増えましたが、その中で15位にまで下げることに成功しています。

 ・・・

 いかがでしょうか、読者の皆さん。

 平松さんは派手さはありませんでしたが、破綻寸前の大阪市の財政を4年間でここまで改善してきたのです。

 彼が一地方自治体における残した実績は地味ですが素晴らしいものです。

 その間にリーマンショックの大不況もある中でこれらの実績を残した平松さんの政治手腕を、同時期国政において無策にも何も財政問題で対応できなかった麻生、鳩山、菅、野田政権の体たらくと対比して見てください。

 私は平松前市長の残した実績を最大限の賛辞を持って称えたい。

 平松邦夫大阪市長に光あれ!

 本当にご苦労様でした。



(木走まさみず)