木走日記

場末の時事評論

世襲議員で固めた安倍改造内閣党執行部〜国家・国民の立場で問題を俯瞰することははたしてできるか?

 今日(27日)の朝日新聞電子版速報記事から。

官房長官に与謝野氏、外務・町村氏、厚労・舛添氏を起用
2007年08月27日14時43分

 安倍首相(自民党総裁)は27日午前、自民党幹事長に麻生太郎外相(麻生派)、政調会長石原伸晃幹事長代理(無派閥)、総務会長に二階俊博国会対策委員長二階派)を起用する党三役人事を決定した。午後には官邸で内閣改造に着手、官房長官与謝野馨政調会長(無派閥)、外相に町村信孝前外相(町村派)、財務相額賀福志郎政調会長津島派)、厚生労働相舛添要一参院政審会長(無派閥)をそれぞれ内定し、高村正彦元外相(高村派)と増田寛也・前岩手県知事の入閣が固まった。同夜には安倍改造内閣が発足する。首相は人事刷新で参院選大敗による求心力低下に歯止めをかけたい考えだが、党役員は安倍政権で要職にあった人材の横滑りや昇格が目立ち、「人心一新」を印象づけられるかどうかは不透明だ。

(後略)
http://www.asahi.com/politics/update/0827/TKY200708270171.html

 個々の閣僚内定者をどう評価するのか、「人心一新」と評価できるのかは、他のまじめな評論にお任せしたいと思います。

 当ブログとしてはあまりメディアが報道していない違う視点で新執行部を評論してみたいのです。

 幹事長に麻生太郎外相(麻生派)、政調会長石原伸晃幹事長代理(無派閥)、総務会長に二階俊博国会対策委員長二階派)を起用する党三役人事に注目したいのであります。

 この顔ぶれでは首相以下党三役すべてが100%世襲執行部となります。

 全員が2世・3世議員なのであります。

 世襲議員で固めた執行部の安倍改造内閣なのでありますが、はたしてこの顔ぶれで、国家・国民の立場で問題を俯瞰(ふかん)することはできるのでしょうか?



●ある中堅地場産業の2代目社長の問題解決能力

 私が最近経営コンサルしているある地方地場産業の会社なのでありますが、従業員100名規模のその地方としては中堅企業と言えるでしょう、ご多分に漏れず典型的な同族企業なのであります。

 先代が戦後の混乱期から裸一貫一代で起こした会社なのでありますが、現在は先代はすでに現役を退きその2男が跡を継いで社長をされています。

 で、2代目社長でありますが、年齢は不肖・木走と同年代の40代でありますが、有名大学卒業後留学経験もありなかなか知性的な紳士なのであります。

 彼が今経営に困っているのであります。

 ここ10年猛烈に冷え込む地方経済下、逆風をもろに受け、売り上げが急減、人員整理しつつ、新規ビジネス展開を計るも芳しい結果は得ることができず、経営に息詰まってしまったのであります。

 彼にしてみれば決して手をこまねいていたわけではなく、経費削減や生産性向上、営業力強化、新規ビジネスプラン立ち上げ、マニュアル通りの打てる手は打ってきたにも関わらず、ここ数年、赤字体質は悪化の一途をたどってきました。

 結果としてですが、残念ながらまるで彼の取ったいくつかの方策は赤字を逆に拡大してしまった、帳簿で見る限り厳しい悲惨な状況なのでありました。

 そんな矢先にその地方の商工会議所主催のセミナーで私が講師として招かれたのがきっかけでこの2代目社長と知り合い、今年の4月よりこの会社の経営コンサルとして私の会社が関わらせていただくことになりました。

 まず過去5年の経理資料を見て私はすぐに重大な問題を見つけました。

 経費削減策としてに確かに人件費総額は削減しているものの、売上総額も同様に減少しているために、従業員一人当たりの売上高は伸びていないのであります。

 つまり経費圧縮が生産性向上にいっこうに効果が出ていないのです。

 細かく調べてみると、従業員は150人から100人規模に三分の一近くも減じ、かつ一人当たり給与所得も減少しているのでこの5年で半額近くに抑制されています。

 しかしながらその時期の高額の7人の役員報酬はほとんど手を付けていませんでしたので、全従業員給与と役員報酬総額の比率が年を追ってぐんぐん高まり、赤字企業にあろうことか突出する形になっていたのです。

 これはいけません。

 実はこの会社が7人の役員のうち、実に5人が創業家一族で構成されている典型的な同族経営なのであります、本来ならば会社経営が危機的な状況であるならば役員報酬から歳出削減すべきところを、この会社では逆の手順で末端の労働者の待遇・給与から手を付けてしまっていたのであります。

 これでは決算が悪化するのも従業員の志気が落ちるのも無理からぬものでしょう。

 こうやってテキストにおこせば、読者のみなさまもそんな愚策をなぜ経営者達はしてしまうのかとお思いになることでしょうが、実際にはこの役員報酬、この問題にこの若い社長が対処できていない事実、実はこの会社にとって一番難しい問題がここに集約されていると思いました。

 7人の役員のうち2人は現社長にとっての叔父、つまり創業者の弟達であり、残りの4人もいとこなどすべて社長より年輩の親族、唯一の親族以外の役員も先代の時代の大番頭的存在であり、2代目の現社長が役員報酬に手を付けれなかったのは、実際には事情はよくわかるのでした。

 そこには、この社長には酷な表現でありますが、リーダーとしての問題解決能力の欠如が見て取れます。

 ・・・



●リーダーに求められる問題解決能力の中で一番重要なのは問題発見能力

 リーダーに求められる問題解決能力とは具体的にはどのような能力なのでしょうか?

 最近良く聞く言葉にリスクマネジメント:危機管理能力があります。

 組織のリーダーに必要な問題解決能力の多くが実はこのリスクマネジメント能力と同値であります、組織にとっての問題の多くが放置していれば組織の存続に影響を与えるリスクに他ならないからです。

 組織はそもそもステイクホルダーから集めた資源の適切な変換を通じて、組織目的実現を目指すシステムです。

 リスクは「組織目的に影響を与える不確実性」ですから、組織目的を達成しようとする以上、組織ガバナンスの一環としてリスクはマネージされなければなりません。

 「不確実性」を内容とするリスクの源泉は「変化」にあるといえます。変化のスピードの高まりは、組織環境におけるリスクを量的に増大させます。一方でリスクへの組織的対応である「統制」の整備は後手に回りがちになり、リスクと統制との隙間である「リスクギャップ」は拡大傾向にあります。

 さきの会社の例でいえば、ここ10年猛烈に冷え込む地方経済下、逆風をもろに受け売り上げが急減してきたという「外部環境変化」にそのスピードに対応できず、リスクへの組織的対応が完全に間違ったか後手に回った典型例でもあります。

 組織目的実現のためには、リスクギャップは十分に抑制されなければなりません。その具体的プロセスがリスクマネジメントであり、組織のリーダーに求められる問題解決能力なのであります。

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 さて問題解決能力でありますが、いろいろな定義や考え方がありましょうが、長年経営コンサルをしてきた私の立場から問題解決能力で重要な資質は大きく3つあると思っています。

 1:問題発見能力
 2:問題解決能力
 3:意思決定力

 です。

 まず、何が問題なのかリーダーは組織外の環境や組織内に埋もれている「問題」をいち早く「発見」して、それがどのような問題なのかしっかりと「設定」できなければいけません。

 その上でリーダーはその問題を解決する最も有効な「解決」方法をみいださなければなりません。

 そして肝心なことは、そのように問題を「発見」し「設定」し、しっかりと分析をして「解決」手段を見出したなら、責任者として躊躇することなくタイムリーに行動を示さなければなりません、リーダーの「意思決定力」が最後にはものを言います。

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 で私としては、問題解決能力の中で最も大切で幹(みき)をなす能力は問題を発見する能力であると確信しています。

 問題設定能力と言い換えても構わないでしょう。

 内在する問題を発見し、それがどのような問題で放置すればどのような事態を招く危険性があるのか、早期に問題を発見し設定できなければなりません。

 この問題を発見する能力が低いのであれば、いかに問題を解決する能力が高くても宝の持ち腐れとなりましょう。

 まずリーダーが問われるのは問題発見能力なのであります。

 問題とは「あるべき姿」と「現状」の「ギャップ」であります。

 問題が明確になれば、解決策の精度は大幅に向上いたします。

 しかし、ここに能力の低いリーダーが問題発見が出来ないいくつかのケースが存在します。

 まず、問題を定義する前提となる「あるべき姿」を、的確に描けない場合です。

 次に「現状」の認識・分析力が低く、正確な把握が出来ていない場合です。

 また「ギャップ」の構造を解明して、問題の本質を具体化・優先順位づけすることができない場合もあります。

 最後に実行可能な「解決策」から逆順で短絡的に問題を捉えるために、広がりを見失う場合があります。

 実際にはいろいろなケースがあるのですが、上記の社長は大学で経営学も学んだ聡明な方でありますが、悲しいかな実践経験が全くないのが痛かった、売り場での営業員達の生の意見、工場における生産現場の生の意見、これらがほとんど社長の耳には届いていなかったのです、社長の手元にあるのは統計処理された各現場の月別売り上げ表、工場の製造計画表の予算・実績対応表など、数字だけなのであります。

 商品が売れなくなっていく細かな遷移は把握されていました、そのために如何に経費を節減し合理化を進めたか、そしてその効果はどうだったか、個別対策の経緯とその効果も後追い対策の感は否めませんが、しかしリアルタイムに社長に報告されていました。

 しかしそこには、では「なぜ商品が売れなくなったのか」という肝心の問いに対する、つまり「現状」に対する本質的問題の認識・分析がまったく施されていませんでした。

 問題を適切に設定できなければ、そのあとの解決手段も的確な方法を用いることができないのは自明です。

 ・・・



●リーダーが正しく問題を設定するためには問題俯瞰力(Perspective)こそが重要

 問題を正しく設定するためには「あるべき姿」と「現状」のギャップを正確におさえなければなりません。

 このためには「あるべき姿」とはどうあるべきかしっかりと構想されていなければなりません、そしてしっかりと「現状」が把握されていなければなりません、この2点があるいはどちらかがあいまいならばその「ギャップ」は正確なものとはいえないわけで、「ギャップ」が正確でなければ、ただしく「問題」をとらえることは不可能です。

 あるべき姿を構想する戦略的問題発見のカギは、リーダーのパースペクティブ(Perspective)能力、つまり問題を俯瞰(ふかん)する力だと思います。

 例えば上記の会社の例で考えて見ましょう。

 なぜ「売り上げ」が急減したのか、そこには当然ながら外的要因「地方経済の急激な冷え込み」があったことは事実でしょう、問題はその「外的環境の急激な変化」でもって経営悪化の主因とみなしてそれ以上の解析・問題設定を放棄してしまったことにあります。
 営業現場で起こっていたこと、生産現場で起こっていたこと、何よりももっとも重要な顧客ニーズに関して、いっさいの生の情報は吸い上げられることなく「時代と環境」のせいにして、後追い的合理化策だけでことたれりとしてきた問題設定の失敗こそが最大の敗因であったことは明確です。

 そして経費の割合としては確かにたいした金額ではないでしょうが、従業員に比し役員報酬を優遇してきた愚策も従業員の生産性低下に影響があったのではないのか、少なくともそのような問題意識すら経営側からは出てこないのであります。

 まさに問題を空間的に広い視野で捉えなおす、つまり俯瞰(ふかん)する力の欠如であります。

 役員報酬の問題ひとつとっても明確にこのリーダーのパースペクティブ(Perspective)、問題俯瞰力の無さが目立ちます。

 論じる立場(目線)を経営陣にしぼれば、全売り上げ比役員報酬など小さな問題であり、役員報酬を下げたところで会社の赤字体質など改善されない、それならば功労者でもある現役員の待遇は温存したい、そのような閉じた内向きの論理が働いていたのかもしれません。

 しかし少しこの役員報酬の問題を俯瞰してつまり視野を広くして従業員の立場(目線)で考えた場合、ことは経営陣が考えるような甘い話ではなく大問題として写ることでしょう。

 労働者には首切りや給料ダウンを厳しく求めてきたくせに身内には優しいダブルスタンダードを多くの社員は感じたことでしょう。

 数字の絶対額、金額の大小ではないのです、従業員の士気も考えた場合、役員報酬も従業員と同率であるいはそれ以上の割合で下げることの意義は大きいと言えます。

 この問題は役員、従業員といった「会社」の立場から、さらに俯瞰して考えるべきです。

 顧客の立場(視線)です。

 このようないびつな役員報酬を実現し従業員の生産性が低下している会社の商品が「顧客」にとって魅力的な価格設定の商品であったのかどうか、この会社が顧客利益の実現を最優先しての「営み」をしてきたのかどうかという、企業にとって原点ともいえる自問自答をするべきなのです。

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●現場を知らず「問題設定」に限界があった2代目社長

 さて現実に先代の社長とこの2代目若社長を比べてみると問題俯瞰力に大きな違いがあるのでした。

 先代はまさに裸一貫でモノ作りの会社を創業したたたき上げですから、現場で物を売る人、工場で物を作る人、なによりもお客さんの声を大切に考えてきました、彼の考えは机上の理論では有りません、いわば実践に基づいた彼の経験則なのであり、無学の先代は、付加価値分析(コスト分析)もCS/CE分析(バリュー分析)も、パレート分析(20−80ルール)やABC分析ですら理解していません。

 しかし先代は実践を通じて、従業員の立場、顧客の立場でもってこの会社を俯瞰しその問題設定を怠らないで努力してきました。

 一方、2代目の若社長は、大学で学んだ学問を駆使して各種統計を元に、分析を施し対策を講じようとしてきました。

 ある意味で彼の方法は否定する必要は全く無いでしょう、グラフから各種分析を経営の次の一手を講ずることは世界中の経営者が行っている最先端の手法では確かに有ります。
 現場の一営業員や一工場作業員の立場からは判断できない総体としてのこの会社の経理情報が彼の机の上には数値として存在していたのであります。

 しかし彼は結果として「問題を俯瞰」することができませんでした。

 もちろん私は、親の会社を世襲した2代目の「苦労知らず」などと決め付けるつもりはありません、彼は彼なりに会社のためになると思って経営努力してきたわけです。

 ただ、無学ではあるが現場を知ってきたたたき上げの先代に比し、現場の生の情報を知る手段の無い若社長には、机上の数字を中心に経営してしまったゆえに、「問題設定」に限界があったとはいえないでしょうか。

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世襲議員で固めた執行部の安倍改造内閣〜国家・国民の立場で問題を俯瞰することははたしてできるか?

 今朝(27日)の朝日新聞電子版速報記事から察するに、閣僚内定者にも世襲議員の名前がありますが、注目したいのは党執行部の顔ぶれです。

 安倍首相のもとに、幹事長に麻生太郎外相、政調会長石原伸晃・幹事長代理、総務会長に二階俊博国会対策委員長を起用する方針、だそうです。

 ・・・
 
 安倍晋三麻生太郎石原伸晃二階俊博ですか。

 全員が2世・3世世襲議員なのであります。

 さらに、幹事長代理に細田博之経理局長(町村派)、国対委員長大島理森農林水産相高村派)、選対総局長に菅義偉総務相古賀派)、衆院議院運営委員長に笹川尭党紀委員長(津島派)をそれぞれ指名したそうであります。

 この細田博之大島理森菅義偉笹川尭の4名ですが、やはり菅義偉を除いては全員2世議員なのであります。

 つまり、発表になった党執行部人事では、安倍総裁以下8人中7人が2世・3世世襲議員なのであります。

 ・・・

 現役閣僚が4人も辞職(1人は自殺)し、参院大惨敗を受けての安倍改造内閣なのでありますが、首相はじめ党三役ら執行部が世襲議員で固められそうな様子であります。

 2世・3世議員のすべてが危機管理・問題解決能力に問題があるなどと、暴論を吐くつもりはさらさらありませんが、長年経営コンサルをして多くの2代目経営者の経営能力の問題を見てきた私としては、ここまで世襲議員で固めた執行部に、ある種の危うさを感じぜずにはいられません。

 この新内閣に、この国が抱えている諸問題を国会内の身内の問題としてではなく、また机上の理想論ではなく、本当の意味で国家・国民の立場に「問題を俯瞰」することができるのでしょうか。

 お手並み拝見といきましょう。



(木走まさみず)



<参考サイト>
■「経営者の俯瞰力」馬塲 孝夫
http://www.itc-kyoto.jp/itc/index0194.html
■問題発見プロフェッショナル − 構想力と分析力 斎藤嘉則
http://www.bekkoame.ne.jp/~j-kohno/management/mess12.htm
■リスクマネジメント
http://home.att.ne.jp/sea/tkn/Issues/Issue-RiskMgmt.htm



<関連テキスト>
■[政治]異常としか思えない総裁選候補者も入閣予定者も世襲議員だらけの自民党
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060910/1157817336