教育再生会議:教育問題を語らせるには超個性的な「特異点」な人たち
まずは今話題の、「親学」提言のポイントを押さえておきましょうか。
教育再生会議:親向けに「親学」提言 母乳、芸術鑑賞など
(前略)
◇「親学」提言のポイント
(1)子守歌を聞かせ、母乳で育児
(2)授乳中はテレビをつけない。5歳から子どもにテレビ、ビデオを長時間見せない
(3)早寝早起き朝ごはんの励行
(4)PTAに父親も参加。子どもと対話し教科書にも目を通す
(5)インターネットや携帯電話で有害サイトへの接続を制限する「フィルタリング」の実施
(6)企業は授乳休憩で母親を守る
(7)親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞
(8)乳幼児健診などに合わせて自治体が「親学」講座を実施
(9)遊び場確保に道路を一時開放
(10)幼児段階であいさつなど基本の徳目、思春期前までに社会性を持つ徳目を習得させる
(11)思春期からは自尊心が低下しないよう努める
毎日新聞 2007年4月26日 3時00分
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070426k0000m010157000c.html
教育再生会議が4月25日、親に向けた子育て指針である「『親学(おやがく)』に関する緊急提言」の概要をまとめたことが物議をかもしているようですが、たしかに最近の給食費未納問題などにみられる一部の親の振る舞いは問題なのでしょうが、政府がここまで家庭に干渉する提言をする意味があるのか、賛否が分かれるところなのでしょうね。
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昨日(17日)の産経新聞社説から。
政府の教育再生会議で検討されている親学や徳育の充実に対し、一部で異論が出されている。親学も徳育もこれからの教育改革に欠かせない課題だ。教育界のしがらみにとらわれない思い切った提言を期待する。
再生会議は当初、親学について連休明けに「保護者は子守歌を歌い、おっぱいをあげ、赤ちゃんの瞳をのぞく」「母乳が十分に出なくても、赤ちゃんを抱きしめる」「授乳中や食事中はテレビをつけない」という内容の緊急提言を行う予定だった。
しかし、これに伊吹文明文部科学相が「人を見下したような訓示や教えは適当ではない」などと苦言を呈し、政府・与党からも、参院選を前に働く母親らの反発を招きかねないとする懸念の声があがった。このため、緊急提言は見送られた。「親学」という言葉への抵抗もあったとされる。
学校現場では、給食費未納問題に見られるような責任感や規範意識の欠如した親が増えている。保護者会を開いても、親同士がおしゃべりに夢中で、学級参観が成立しない。運動会で親が酒盛りをしたまま、あとかたづけをしないで帰る。こうしたケースが増え、「保護者崩壊」ともいわれる。
昨年暮れに成立した改正教育基本法は、家庭教育の充実をうたっている。再生会議でも、子育てに関する具体的な指針を示すべきである。
道徳教育について、中央教育審議会会長の山崎正和氏は先月下旬の講演で「個人の意見」と断りつつ、「教科書を使い、試験をし、採点をするという教科の範囲の中では無理がある」「現在の道徳教育も要らない」などと述べた。さらに、「道徳は教師が身をもって教えることだ」とした。
すべての教師が身をもって子供に道徳を教えられるような大人であれば、道徳教育は要らないかもしれないが、現実はそうではない。
現行の道徳の時間は昭和33年に設けられ、小中学校で週に1時間行わなければならないとされるが、日教組の反対闘争もあり、形骸(けいがい)化している。
再生会議は(1)数値評価をしない(2)教科免許を設けない−でほぼ合意した。通信簿での評価は無理にしても、貴重な道徳の時間を実りある授業にするための有効な方策が急務である。
(2007/05/17 05:26)
http://www.sankei.co.jp/ronsetsu/shucho/070517/shc070517000.htm
うーむ、「親学と徳育は喫緊の課題」と題されたこの産経社説ですが、産経社説子さんは「親学や徳育の充実に対し、一部で異論が出されている」ことにいたくご不満のようです。
学校現場では、給食費未納問題に見られるような責任感や規範意識の欠如した親が増えている。保護者会を開いても、親同士がおしゃべりに夢中で、学級参観が成立しない。運動会で親が酒盛りをしたまま、あとかたづけをしないで帰る。こうしたケースが増え、「保護者崩壊」ともいわれる。
産経社説は「責任感や規範意識の欠如した親が増えている」現状を列記した上で、こう結論づけます。
昨年暮れに成立した改正教育基本法は、家庭教育の充実をうたっている。再生会議でも、子育てに関する具体的な指針を示すべきである。
「再生会議でも、子育てに関する具体的な指針を示す」のは当然である、といいたいようです。
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●教育「井戸端会議」なら全くいらない〜日経新聞社説
対して、今日(18日)の日経新聞社説から。
社説1 教育「井戸端会議」なら全くいらない(5/18)
この迷走ぶりは目に余る。教育再生会議が発足して7カ月。近く第二次報告をまとめるが、会議では思いつきの発言や印象論、観念論が相次ぐばかりだ。教育の構造改革につながるような本質的議論は影を潜めており、憂うべき状態である。
それを象徴しているのが「親学」をめぐる混乱だ。再生会議は先月から、おもに育児についての保護者向け緊急提言づくりを進めた。「子守歌を歌い、赤ちゃんの瞳を見ながら授乳する」「食事中はテレビを消す」といった項目が並んでいた。
誰もが思いつきそうな手引書を政府の審議会がまとめ、保護者に指南する必要はない。母乳での育児奨励も配慮に欠ける。そんな指摘が政府内からも相次ぎ、結局、緊急提言としての公表は断念した。
当然の結果だが、問題はこうした深みのない論議に時間を費やしていることだ。再生会議に求められるのは親へのおせっかいではあるまい。子育てをしやすくするための政策提言を打ち出すことではないのか。
道徳教育を「徳育」として正式な教科に格上げする問題も混迷の度を深めている。教科に格上げしても数値での評価はせず担当教員の免許も設けないという方向というが、極めてあいまいで場当たり的である。
社会規範が揺らぐなかで、徳育が重要性を増していることは論をまたない。ただし、その中身は学校現場の創意工夫に委ねるべき部分が大きい。いたずらに教科という「形」にこだわっても実は上がるまい。
再生会議は二次報告に、こうした課題のほか学力向上のための土曜授業、大学の9月入学拡大、国立大補助金の見直しなどを盛り込む。
しかしこれまでの流れをみる限り、教育制度の抜本的改革を見据えた提言は期待できそうにない。議論は文部科学省出身の委員や事務局官僚が巧みに制御し、都合のよい意見だけを「つまみ食い」している。さきの教育委員会改革をめぐる経緯にも、それは如実に表れている。
文科省から教委への上意下達システムに基づく画一的な教育は、様々な弊害を生んできた。地方分権と規制緩和の下で、その硬直性を打ち破ろうとする試みも盛んだ。再生会議が文科省とは別の存在である以上、そうした観点からも改革策を探るべきなのに、井戸端会議のような議論に終始しているのが実情である。
再生会議は年末に最終報告を出す予定で、まだ設置期間の折り返し点を過ぎたところだ。今からでも立て直しは遅くない。それができないなら存在価値はない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20070517AS1K1700217052007.html
うーむ、「教育「井戸端会議」なら全くいらない」と題されたこの日経社説ですが、産経社説とは180度逆の批判が展開されています、日経社説子さんは「この迷走ぶりは目に余る」と冒頭から「会議では思いつきの発言や印象論、観念論が相次ぐばかり」なことにいたくご不満のようです。
誰もが思いつきそうな手引書を政府の審議会がまとめ、保護者に指南する必要はない。母乳での育児奨励も配慮に欠ける。そんな指摘が政府内からも相次ぎ、結局、緊急提言としての公表は断念した。
「誰もが思いつきそうな手引書を政府の審議会がまとめ、保護者に指南する必要はない。」と言い切ります。
そしてこうつづけます。
当然の結果だが、問題はこうした深みのない論議に時間を費やしていることだ。再生会議に求められるのは親へのおせっかいではあるまい。子育てをしやすくするための政策提言を打ち出すことではないのか。
「再生会議に求められるのは親へのおせっかいではあるまい。子育てをしやすくするための政策提言を打ち出すことではないのか。」と強烈に今の再生会議の有様を批判しています。
社説の結語。
今からでも立て直しは遅くない。それができないなら存在価値はない。
「それができないなら存在価値はない」ですか、いやきつい(苦笑
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●教育再生会議の「有識者」は教育問題を語らせるには超個性的な「特異点」な人たちばかり
40代オヤジである不肖・木走も二児の父親でありまして、この問題決して人ごとではないのでありますが、どうなんでしょう、新聞等の報道を見ればたしかに目に余る親の身勝手なひどい事例が増えているようにも見えますが、政府がここまで家庭に干渉する提言をする意味があるのか、と問われれば産経社説子さんには悪いですが効果など期待できないという点で疑問なのであります。
別に政府機関がこのような「提言」をしたところで、私個人は日経社説ほど目くじらを立ててはいませんが、かといってこんな「提言」でどんな効果が期待できるのかという点では極めて懐疑的なのであります。
そもそもこの「教育再生会議」のメンバーは次のみなさまなのでありますが。
浅利慶太 劇団四季代表・演出家
○ 池田守男 株式会社資生堂相談役
海老名香葉子 エッセイスト
小野元之 独立行政法人日本学術振興会理事長
陰山英男 立命館大学大学教育開発・支援センター教授、
立命館小学校副校長
葛西敬之 東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長
門川大作 京都市教育委員会教育長
川勝平太 国際日本文化研究センター教授
小谷実可子 スポーツコメンテーター
小宮山 宏 東京大学総長
品川裕香 教育ジャーナリスト
白石真澄 東洋大学経済学部教授
張 富士夫 トヨタ自動車株式会社会長
中嶋嶺雄 国際教養大学理事長・学長
◎ 野依良治 独立行政法人理化学研究所理事長
義家弘介 横浜市教育委員会教育委員、東北福祉大学特任講師
渡邉美樹 ワタミ株式会社代表取締役社長・CEO、
学校法人郁文館夢学園理事長
(注) ◎座長 ○座長代理
これね、こんな個性的な「有識者」をごちゃまぜにみたいに集めちゃったら、そりゃ日経社説じゃないですが、「思いつきの発言や印象論、観念論が相次ぐ」のは仕方ないじゃないですかね。
落語家の林家こぶ平、失礼、じゃなかった九代目林家正蔵のお母さんの肩書きが「エッセイスト」なのは知りませんでした(苦笑)が、ノーベル化学賞受賞者を座長に、東京大学総長から劇団四季代表の浅利慶太さんに、トヨタ自動車株式会社会長に元ヤンキー先生こと義家先生に百ます計算の景山先生ですか(苦笑
あのね、みなさんりっぱな人生の成功者であり「有識者」なことは認めるものですが、はっきりいって、この人たち、みんな教育問題を語らせるには超個性的な「特異点」な人たちばかりですから。
ここに並んでいる人たちは教育問題の「有識者」などほとんどいません、通常の真摯な議論の会議のときどきに、広い視点で「教育」を捉えるためにオブザーバー的に立場にとらわれない自由な闊達な独自のご意見を披露いただき、会議の参考にさせていただく、という意味ならば、このメンバーの各人の意見はとても参考になることでしょう。
しかしこのような個性的な「特異点」の人たちばかり集めちゃ、まとまる話もまとまらんでしょう。
例えば、民間人の普通のお父さんやお母さんや、小学校や中学校の現場の先生(理事長とか校長じゃなくて)とかを、なぜ呼ばないのかな?
この問題、現場を知らない「有識者」の人たちがトップダウンで「印象論、観念論」を発信してもしようがないわけで、現場で日々問題を抱えている担当者の意見をまずボトムアップで収集すべきなんじゃないでしょうかね。
そんな一般人は「有識者」とは言えないから入れないんでしょうかね。
だとすればこのあたりにも問題ありそうですね。
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いずれにしてももう少しバランスある人選にすべきだったんじゃないかなあ。
このメンバーじゃあ、「子守歌を聞かせ、母乳で育児」とか「早寝早起き朝ごはんの励行」とか、とんちんかんな提言ばかりでてきてもしようがないんじゃないかな。
あ、最後に余談ですが、提言の七番「親子でテレビではなく演劇などの芸術を鑑賞」ですが、これ間違いなく劇団四季代表・演出家である浅利慶太さんの発案ですから、たぶんネ。
そうでしょ、浅利さん?(苦笑)
(木走まさみず)