木走日記

場末の時事評論

全国紙朝日新聞が口ごもったガルトゥング博士の『プランB』の恐怖

 さてと。

 23日付け朝日新聞記事から。

「積極的平和、沖縄から提案を」 ガルトゥング氏が講演
2015年8月23日01時24分

 ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング博士(84)が22日、沖縄県浦添市で講演し、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の県内移設計画に関連し、「政府が嫌がるのは、『積極的平和』の考えに基づく新たな提案を沖縄側からすることだ」と述べた。

 博士は、貧困や差別といった構造的な暴力のない状態を「積極的平和」と定義。移設計画について、「日米両政府が進める『プランA』(第一案)は東京やワシントンから遠いところに軍事基地を置こうとするもの。軍拡は他国を刺激し、戦争につながる可能性もある。積極的平和を通じた『プランB』(別の提案)が大事だ」と訴えた。

http://www.asahi.com/articles/ASH8Q65QJH8QTPOB003.html

 さて元祖『積極的平和主義』提唱者でありますヨハン・ガルトゥング博士でありますが、横浜に続いて22日、沖縄県浦添市で講演したのであります。

 さてこのガルトゥング博士の沖縄講演でありますが、主要紙では朝日新聞以外取り上げていないのであります。

 さらにこの朝日新聞記事、実に『謎めいた尻切れトンボ状態』で終わっています。

 まずは博士、「政府が嫌がるのは、『積極的平和』の考えに基づく新たな提案を沖縄側からすることだ」と主張します。

 で、「日米両政府が進める『プランA』(第一案)は東京やワシントンから遠いところに軍事基地を置こうとするもの」と批判し、「積極的平和を通じた『プランB』(別の提案)が大事だ」と主張します。

 うむ、『積極的平和』の考えに基づく新たな提案を沖縄側からしろ、と。

 それには、積極的平和を通じた『プランB』(別の提案)が大事だ、と。

 で肝心の『プランB』の内容は???

 朝日記事には記述がないのであります。

 今回は当ブログとして、この『積極的平和』の考えに基づく新たな沖縄側からの提案、『プランB』のその興味深い内容をさぐります。

 ・・・

 カギを握るのは沖縄のメディア『琉球新報』です。

 ここに「琉球民族独立総合研究学会(The Association of Comprehensive Studies for Independence of the Lew Chewans: ACSILs)」のホームページがあります。

琉球民族独立総合研究学会
http://www.acsils.org/gaiyou

 うむ、「琉球の独立が可能か否かを逡巡するのではなく、琉球の独立を前提とし、琉球の独立に関する研究、討論を行う」知る人ぞ知るトンデモ(失礼?)学会であります。

琉球は日本から独立し、全ての軍事基地を撤去し、新しい琉球が世界中の国々や地域、民族と友好関係を築き、琉球民族が長年望んでいた平和と希望の島を自らの手でつくりあげる必要がある。・・・。琉球の独立が可能か否かを逡巡するのではなく、琉球の独立を前提とし、琉球の独立に関する研究、討論を行う。独立を実現するためには何が必要なのか、世界の植民地における独立の過程、独立前後の経済政策および政治・行政・国際関係の在り方、琉球民族に関する概念規定とアイデンティティ琉球諸語の復興と言 語権の回復、アート、教育、ジェンダー、福祉、環境、マイノリティ差別、格差問題、在琉植民者の問題等、琉球独立に関する多角的および総合的な研究、討論を行い、それらを通して人材の育成を行う。 ・・・。学会の研究成果を踏まえて、国連の各種委員会、国際会議に参加し、琉球独立のための世界的な運動等も展開する。 (本学会設立趣意書より)

 で、琉球新報であります。

 琉球新報は日本のメディアの中で唯一、この琉球民族独立総合研究学会を紙面でしかも社説で支持を繰り返しています。

 2年前、学会が発足した時の琉球新報の社説は鮮烈でした。

琉球独立学会 選択広げる研究深めよ
2013年5月17日 8:15
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-206664-storytopic-11.html

 社説は「歴史の局面が転換した」と檄文調で始まります。

 歴史の局面が転換した。そんな感を禁じ得ない。琉球民族独立総合研究学会が発足した。独立論は過去、酒席での憂さ晴らしの類いだとやゆする意味で「居酒屋独立論」などと称されてきた。それが学問的な、公的な言論空間の中で論議される時代に入ったのだ。

 1879年の「琉球処分」以降、沖縄は日本の「材料」「捨石」に利用されてきたと主張します。

 1879年の「琉球処分」以降、沖縄は常に多数派たる日本国民のための「材料」として扱われてきた。沖縄戦では捨て石にされたし、1952年に日本が「主権回復」する際は引き替えに米国に差し出された。国土の0・6%の沖縄に74%の米軍専用基地を押し付け、今後も沖縄にだけ押し付けようとしている点から見ても、扱いは現在進行形と言ってよい。

 社説は後半、「沖縄の将来像を決めるのは沖縄の人々」だとし、「残る議論は、その」「形態について」であり、「特別県制か、道州制の単独州がよいか」、「あるいは独立か、連合国制か、国連の信託統治領か」、「さまざまな選択肢がありえよう」と激を飛ばしています。

 政府による過去の基地政策の理不尽、振興策の数々の失敗に照らせば、沖縄の将来像を決めるのは沖縄の人々であるべきだ。言い換えれば沖縄の人々の幸せには、自己決定権拡大こそが欠かせない。
 残る議論は、その拡大した形態についてであろう。特別県制か、道州制の単独州がよいか、その際に持つ権限は何か。あるいは独立か、連合国制か、国連の信託統治領か。さまざまな選択肢がありえよう。

 どうですか、読者の皆さん。

 この檄文ですが、場末のブログのトンデモ文ではないのですよ、2年前の日本の新聞社のれっきとした社説なのであります。

 さて前振りが長かったです。

 ガルトゥング博士の沖縄講演の『プランB』の謎解きです。

 実はガルトゥング博士の沖縄講演を主催したのは琉球新報であります。

 従ってガルトゥング博士の沖縄講演は琉球新報自身が詳細を伝えています。 

首相は積極的平和の言葉「盗用」 平和学の父・ガルトゥング氏
2015年8月23日 9:46

 「平和学の父」として世界的に知られるヨハン・ガルトゥング氏は22日、浦添市のてだこ大ホールで開かれた「戦後70年 ガルトゥング氏が語る『積極的平和』と沖縄」(琉球新報社、新外交イニシアティブ主催)の講演で来県した。講演に先立ち、新基地建設が進む名護市辺野古を視察し「安倍首相は『積極的平和』という言葉を盗用し、私が意図した本来の意味とは正反対のことをしようとしている」と政府姿勢を批判した。講演では、国会で議論されている集団的自衛権の行使について「時代遅れの安全保障」と、世界の潮流に逆行すると断じた。その上で「北東アジアの平和の傘構想を沖縄から積極的に提起していくべきだ」と強調した

(後略)

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-247704-storytopic-3.html

 記事後半に朝日記事がいう『プランB』の概要が説明されています。

 世界の趨勢(すうせい)は軍事基地をなくしていく「新しい平和秩序」に向かっているとし、ヨーロッパ共同体(EU)や東南アジア諸国連合ASEAN)などに遅れて北東アジアも2020年には共同体形成へ向かうと予測した。
 日本、ロシア、韓国、北朝鮮、中国、台湾の6カ国・地域による北東アジアにおいて「沖縄は地理的に非常に重要な位置にある」と指摘。尖閣諸島竹島北方領土の問題で日本は台湾以外とは好ましくない関係にあるとし、核の傘ではなく「平和の傘を築く必要性がある」と述べた。その上で、独立の気概をもって特別県になるなどして国際機関を誘致し、共同体の本部を置けるよう早く名乗りを上げることも提唱した。

 おお、「日本、ロシア、韓国、北朝鮮、中国、台湾の6カ国・地域による北東アジアにおいて」「平和の傘」となる共同体を築け、と。

 沖縄は、「その上で、独立の気概をもって特別県になるなどして国際機関を誘致し、共同体の本部を置けるよう早く名乗りを上げ」よ、と。

 「独立の気概をもって特別県になるなどして国際機関を誘致」って・・・

 そうか、ガルトゥング博士のプランBは、『積極的平和主義』でもって、沖縄独立をうながしていたのか・・・

 全国紙、朝日新聞が口ごもったのも無理からぬことであります。

 ・・・

 読者の皆さん。

 琉球新報は本気なのであります。

 25日付け琉球新報社説は、さっそくこのガルトゥング博士の講演を取り上げています。

<社説>北東アジア共同体 「心に響く案」追求したい
2015年8月25日 6:02
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-247786-storytopic-11.html

 社説の中で『プランB』が取り上げれます。

「政府が一番嫌がるのは政府案よりいい『プランB』を出すことだ。それは単なる折衷案ではない。折衷案は『怠け者の案』だ。独創的な、人々の心に響く案を出せば、賛同が得られる」と述べた。世界200カ所以上の紛争の調停に携わった人の、経験に基づく提言には大きな説得力があった。
 そのためにどうすべきか。博士は「(1)合法的か(2)人権を尊重しているか(3)基本的必要性に基づくか−の3点に鑑みて、何が実現可能か、大きなビジョンを描くことだ」と述べた。その案には互恵性と平等性が大切とも述べた。

 そしてすごい意見が出ます。

 それは、例えば尖閣で、博士が述べたように「日中が40%ずつ資源を分け合い、残り20%を双方の市民活動や環境保護活動に充てる」というような案のことだろう。沖縄から見ると、沖縄と台湾を加えて日中沖台で4分の1ずつ分け合う案も考えられる。歴史的に、尖閣を領有する根拠を最も持つ沖縄の提唱には一定の説得力があろう。

 日中沖台で尖閣諸島を四分割って・・・

 いかん、琉球新報社説子の脳内では、沖縄が、日本・中国・台湾と同格の国扱いになっています。

 ・・・

 読者の皆さん。

 『積極的平和主義』の提唱者ガルトゥング博士の『プランB』「沖縄は独立の気概をもて」に琉球新報が乗せられたのか、それともそもそも独立志向の琉球新報にガルトゥング博士が利用されたのか、よくわかりません。

 しかし琉球新報は冗談ではなく真面目に沖縄独立の可能性を論説し始めているようです。

 いやはやなんともです。

 しかし、日中沖台で尖閣諸島を四分割って・・・

 マジですか?

 しかし、ガルトゥング博士の『プランB』です。

 ぜんぜん平和的じゃない(苦笑)じゃないですか。

 恐ろしいです。

 ふう。


 
(木走まさみず)