木走日記

場末の時事評論

愚かな読売・産経社説に反論する〜子供達に今必要なのは「規制強化」では断じてない、情報リテラシー教育でしょう

kibashiri2010-12-16




 性行為などを描いた漫画の18歳未満への販売・閲覧規制の強化を盛り込んだ東京都の「改正青少年健全育成条例」が都議会本会議で賛成多数で可決、成立いたしました。

 これを受けて15日付け読売社説、16日付け産経社説が本件を取り上げています。

【読売社説】都青少年条例 露骨な性描写の規制は当然だ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20101214-OYT1T01203.htm
【産経社説】都性描写規制条例 子供を守る当然の改正だ
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/101216/lcl1012160321001-n1.htm

 読んでみればなんだかなあなんですが、タイトルから論の流れ、結論まで「規制は当然」との瓜二つの論説なのであります。

 まずは両紙とも過激な性描写のある漫画が街の本棚に溢れているとの現状を問題視しています。

 過激な性描写のある漫画が、巷(ちまた)の書店やコンビニの棚に並んでいる。(読売)

 最近は教師と生徒の性行為や強姦、近親相姦を「恋愛」などと称して肯定的に描く漫画が目立つ。中高校生らに人気の漫画雑誌などに掲載され、一般書と同じ棚で買えることに問題がある。(産経)

 だから「青少年の健全育成」「青少年保護」のためには「規制強化は当然」なのであると論を進めます。

 青少年の健全育成の観点に立てば、規制強化は当然だろう。(読売)

 改正は青少年保護を目的とし、少女強姦(ごうかん)など社会規範に著しく反した漫画を「子供に見せない」という内容である。当然の改正であり、「表現の自由」を妨げるものではない。(産経)

 で、社説の結びですが、ネットの規制も含めて取り組みを進めるべきだと、大新聞にとって目の上のたんこぶであるインターネットの規制をも匂わす香ばしいまとめ方までそっくりなのであります。

 どんなに出版物の販売が規制されても、ネット上には過激な性描写の画像が氾濫している。 家庭や地域、各業界ぐるみで子どもを守るための取り組みを進めて行くことが肝要だ。(読売)

 漫画以外でもインターネットを含めて子供を性的対象とする映像が氾濫している。子供たちの心身を守るためにも、公共の利益を踏まえた取り組みが必要だ。(産経)

 大新聞社説がここぞとばかりにネット批判で結ぶのはご愛嬌としても、どうなんでしょう、この「青少年の健全育成」や「青少年保護」という古風な「大儀」の振り回し方は、あまり賢いとは思えない論説なのであります。

 読売・産経の社説子には申し訳ありませんが、私はこんな規制など何も役に立たない点でまったく無駄だと思っています。

 確かに際どい描写の漫画が増えているのかも知れませんが、どんなに規制を強化したところでこんなもの古今東西「青少年の健全育成」になど何の役にも立たないことはわかっていないのか、石原都知事は東京を警察国家にでもしたいのでしょうか、あほらしい。

 そもそも東洋の文化は古来より性描写に対しては実に大らかで解放的でありタブー視され出したのは、西洋的価値観が流入した明治期以後であり、例えば江戸時代の「春画」などは、異性間だけでなくホモの性交場面あり、獣姦あり、有名な葛飾北斎の『蛸と海女の図』ではタコも登場、もう今日の価値観であれば滅茶苦茶なわけですが、もちろん当時は18禁などの法も整備されてなかったしこのような「春画」が子どもの目にも晒されるようなこともあったと思うのですが、私は「春画」によって江戸時代に治安が悪化したとか性犯罪が増えたとかは寡聞にして聞いたことがありません。

 江戸時代にも、享保7年(1722年)の享保の改革により「春画」などの好色本が幕府により一時禁止されますが、それでも需要があるため結局、非公開で販売されつづけ、寛政のころには、錦絵により多色刷りの春画に進化しております。

 規制をどんなに強化したって無駄なのは歴史が証明しています。

 石原都知事も規制強化を評価するマスメディアも頑固な石頭しかお持ちになっていないのでしょう。

 本当に「青少年の健全育成」を目指すならベクトルを完全に間違えていると考えます。

 規制を強化しても結局いたちごっこに陥るのがヤマであり、そんな中国政府によるネット規制みたいなドンキホーテのような無駄な努力をするのではなく、「青少年の健全育成」を目指すなら、彼らの情報リテラシー能力を高める教育に力を注ぐべきです。

 臭い物にふたをして子供達に見せないのではなく、何が正しい情報で何が間違った情報なのか、自らの力で情報を整理でき自らの力で情報から思考していくこと、ここをしっかり訓練し情報リテラシー能力を高めてあげれば、性描写だけではない、その他の暴力描写も含めて、彼ら自身が正しく判断していくことでしょう。

 読売も産経も石原都知事の頓珍漢な規制強化に便乗して、「青少年の健全育成」のためにはインターネットも規制したいようですが、まったく中国政府と同レベルの愚かな思考だと批判しておきます。

 子供達に今必要なのは「規制強化」では断じてない、情報リテラシー教育だと思います。


(木走まさみず)