町場のSEに求められる素養の第一は「技術」ではなく「人柄」
最近ネットでは、「日本のプログラマの生産性は高いか?」とか、「優秀なSE(システムエンジニア)の条件は?」といったテーマが話題になっているようですね。
今日は、業界歴だけは長い町場の零細IT企業オヤジの視野の狭い(苦笑)「よいSEとは」話をしたいと思います。
●本来優秀な営業マンたるもの、かかわるすべての人々から好感を持たれるように努めるべき
私の知り合いにマンション業界のトップ・セールスマンであるY氏がいます。
Y氏は月に10件の契約を取ったこともある凄腕営業マンであり、実は私の義理の妹夫婦もY氏からマンションを購入しているのであります。
Y氏は言います。
「木走さん、これは誰にもいえない私の本音ですが、私は売れといえば「つけもの石」でも「隅田川の汚水」でも売る自信があります」
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彼いわく優秀な製品を売るのは誰でもできます。
オーバーな話、みなが認める素晴らしい商品ならば、営業マンなど必要がないのでしょう。
優秀な営業マンとは、優秀ではない平凡な商品を、売りさばいていく人を指すのでしょう。
そしてたいした商品でもないものをお客様に信用されて売ることのできる人、お客の評価を勝ち取れる人は、それなりの人柄でなければならないのであります。
彼いわく営業力とは、彼の全人生で培った人間力そのものであり、お客様に好かれるためには、上司に好かれ、同僚に好かれ、部下に好かれ、家族に好かれ、友人に好かれ、人生において関わる全員に好かれるよう絶え間なく努力してきた集大成なのだそうです。
日常の中で、他人のせいにしたり相手によって話し方が変わったりしては、長い時間を経てみれば営業成績に必ず負の作用としてマイナス要因となるのだそうです。
「私はお客様に誠意を持ってマメに対応する努力を惜しみません。普段から人と接するときに常に意識してそのトレーニングをしています。」
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Y氏によれば最大のコツは「お客様から愛されること」なのだそうです。
で、「お客様から愛される」ためには、なによりもこちらが心からお客様に関心を持ち「愛する」ことなのだそうです。
Y氏は言います。
「木走さん、これは誰にもいえない私の本音ですが、私は売れといえば「つけもの石」でも「隅田川の汚水」でも売る自信があります」
「人は自分のことを「愛している」と感じた相手には必ず好感を抱きます。これは男女の恋仲だけではない、お子様からお年よりまで通用する普遍の心理だと思っています。」
「ですから私は商品そのものを売ろうとする、いわゆるセールストークは最初まったくしません。それよりも、お客様の話を熱心にうかがい、お客様が今何にお悩みなのか、何でご苦労されているのか、我が身のことのように一緒に考えさせていただきます。私自身がお客様の親族のように接し、お客様に好意を持つことだけに努めます。」
「おもしろいもので人は自分のことを「愛している」と感じた相手には必ず好感を抱きます。これは男女の恋仲だけではない、お子様からお年よりまで通用する普遍の心理だと思っています。」
「熱心に話しているうちにやがて私の熱意が伝わるとお客様は心開かれ、私自身に好意を持っていただけるようになるのです」
「私に唯一人より優れた才能があるとすれば、それはお客様が自分に好意を抱いてくれるその瞬間、お客様が心を開いていただいた瞬間を見逃さない、洞察力でしょうか」
「私はお客様が心開いてくれたその瞬間を見逃さずに商品をさりげなく宣伝いたします。 もう熱弁はいらないのです。好意を持っていただけたら90%契約をいただいたも同じです。さりげなく紹介させていただくのです」
「人とは単純なものです。自分が「愛している」相手が、この「つけもの石」は素晴らしいと薦めれば、うん、きっとこの「つけもの石」は素晴らしいにちがいない、と思い込むものなのです」
「ちなみに学歴の高い人、たとえば医者や企業経営家ほど私の得意なお客様です。頭がいい自信家であるほど実におだてに乗りやすい(笑)」
トップセールスマンが語る、興味深い話であります。
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不肖・木走の本業は零細IT企業の経営者でございます。
仕事柄、いろいろな業界の営業職の人と会話しますし、私自身も時に営業マンとしてシステムや企画を売り込むこともしばしばであります。
で、私の知り合いのIT営業マンたちの多くは飲むとよくこんな愚痴をこぼします。
「私は上司の受けはいいんだが部下の信望がないのが弱みなんです」
「部下を守るためにときには上司とぶつかることがある」
まずはこのような中間管理職特有の悩みというか愚痴が多いのであります。
で、このような愚痴をこぼす人の中には肝心の営業成績は振るわない人が多くいる傾向にあるようです。
「思うようにお客様に信用されない」
「リピートオーダーがなかなか取れない」
で、営業成績が振るわないその理由をどう自己分析しているかというと、
「システム部門の連中の精度が悪い」
「お客がわがままで無理難題を押し付ける」
10中八九、部下とかお客とか上司とか関わる自分以外の第三者のせいにするのであります。
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これじゃあ、営業成績が振るわないのもしょうがないなあ。
私から言わせれば、「上司の受けはいいんだが部下の信望がない」とか「部下を守るためにときには上司とぶつかる」とか、ある種の人には受けがいいがある種の人には受けが悪いというような表現自体、すでに営業マンとしてはその姿勢がよろしくないのであります。
万人に評価されることなんか絵空事と決め付けてはいないでしょうか。
本来優秀な営業マンたるもの、かかわるすべての人々から好感を持たれるように努めるべきですし、現実がそれにいたらないならば、まず何よりも他者を批判する前に自分の努力不足を恥じ、自己分析を冷静にして営業マンとして自分に足らない要素は何か、そこにこそ意識を集中して改善すべきなのでしょう。
自分の売る商品、ITシステムを売るのであるならば自社のIT技術者たち、つまり人そのものを売るわけですが、それを「システム部門の連中の精度が悪い」と決め付けてはダメでしょう。
また商品を売る相手のお客様のことを「お客がわがままで無理難題を押し付ける」などと決め付けては、その意識が次から態度や言動に出てしまいついつい無意識にお客様の熱意に冷や水を浴びせてしまうような冷めた提案になってしまいがちなのではないでしょうか。
それではリピートオーダーを獲得することは難しいことでありましょう。
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●優秀なSEとは、優秀な「営業力」を有している人のこと
優秀なシステムエンジニア・SEとはどのような人を指すのでしょうか?
いろいろな考え方や定義があることだと思います。
私はといえばですが、SEの素養の大半はその「営業力」で評価しています。
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私の知っている優秀なシステムエンジニア・SEであるK本氏はすべからく、上司からも部下からも評価が高いのであります。
この場合の「評価が高い」とは、単に技術スキルが優秀であるといった技術力に対するものではありません、もちろん彼の技術スキルは素晴らしいのですが、それよりも実は「彼がとても好感を呼んでいる」ぐらいの意味なのでありますが、とにかく、お客(私もそうです)からはみんなに信頼され、彼の所属会社の彼の上長も彼の部下もみんなK本氏のことを信頼しているのです。
それだけではありません、飲み屋に行けば飲み屋のオヤジにも、2次会に行けば店のオネイチャンにも好かれるのであります。
不思議なことに彼は分け隔てなく関わる人々に好かれるのであります。
それはなぜなのか。
ひとつには、彼は仕事とか遊びとかTPOの区別なく、人と接することそのものを心から楽しんでいるのであります。
基本的にとても聞き上手なのでありますね。
自己主張は二の次で満面の笑みで相手の話に相槌を打ちながら聞き入ります。
相手が大会社の社長であろうと道を尋ねられた見ず知らずのおばあちゃんであろうと、その姿勢は一貫しています。
彼は自分が今話している人間、その人そのものをとても素直に受け入れるという、姿勢の持ち主なのであります。
私も体験したことですが仕事上の話であれ酒の席の話であれ、彼と話していると自分の話に関心を持って熱心に聞いてくれるだけでも実に気分がいいのです。
もちろん彼も自己主張はします。
例えば彼の関わるプロジェクトに遅れが生じている場合、その理由の説明とか打開策とかをお客様の前で当然するわけですが、しかし彼は決して第三者の悪口につながるような表現は使用しません。
例えば、私も関わったあるプロジェクトにおいて、彼のチームのプログラマ・スキルに問題があって工程がかなり遅れてしまい納期を間に合わせるのは極めて厳しい状況になってしまいました。
そのときお客様を前にしての彼の言い回しはとても印象的でした。
私ならあるがままに「用意したプログラマ・スキルに問題があった、はっきり言って能力の無い技術者のせいで遅延してしまった」と言って説明するであろうところ、彼はこう表現したのです。
「私の責任です。PM(プロジェクトマネージャー:この場合K本氏自身を指します)の配置ミスにより開発内容と用意した要員スキルにギャップがあり遅延が発生しています。」
うまい。
すべての責任を自分にかぶせるのです。
まさにその人柄で好かれているのであります。
少々バグを出しても「あの人なら守ってあげよう」とお客からも上司からも部下からもそう思わせる「人間力」であります。
結果、彼はシステム部門であるにもかかわらず、極めて高いリピートオーダー率を誇っています。
「K本さんにこのシステム開発もしてもらいたい」
「K本さんとならもういちど仕事をしたい」
次から次へと彼の元へ仕事の依頼がひっきりなしです。
その会社には技術的には彼よりも優秀なSEはいっぱいいるのに、です。
技術者K本氏は、そこいらの営業マンよりもはるかに優秀な「営業マン」なのであります。
彼は人柄で勝負しているのであります。
なるべくかな、彼は若いのに事業本部長の要職に抜擢されることになりました。
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●町場のSEに求められる素養の第一は「技術」ではなく「人柄」
K本氏の例を見ると優秀なSEとはどのような人物をさすのか、私なりに結論が見えてきます。
研究職や専門技術開発職ならば少し事情が違うのでしょうか、エンドユーザー相手の町場のSEに求められる素養の第一は「技術」ではなく「人柄」であります。
少々バグを出しても「あの人なら守ってあげよう」とお客からも上司からも部下からもそう思わせる「人間力」であります。
それはつまり技術力というよりは「営業力」と括られるべき素養なのかもしれません。
その意味で優秀なSEとは、優秀な「営業力」を有している人のことなのです。
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エンドユーザー相手の町場のSEに求められる素養の第一は「技術」ではなく「人柄」なのでありましょう。
(木走まさみず)