IT技術者派遣業〜現代日本の「奴隷商人」達
2月と言えば日本では試験の季節でありますね。
不肖・木走は、本業のIT関連の零細企業経営の傍ら、工学系学校の講師をしていますので、この季節はゆううつなのでございます。
なんでゆううつなのかと言えば、担当科目の試験問題の作成とその採点があるからでございます。
私の現在の受け持ち科目はWebに関わるテクノロジー関連(科目名は内緒ネ(苦笑))なのですが、自分の得意である専門科目でありますから問題などすぐできるだろうと思われるのですが、それがそんな甘いもんじゃないのですよ、これが。
手を抜いて出題を「SGML、XML、HTML、XHTMLなどのマークアップ言語の詳細を述べよ」なんて記述問題にしちゃうと採点作業が地獄(苦笑)となっちゃうのでして、逆に採点を楽にしようとすれば問題を文章穴埋め問題とか手間暇掛けて作成しなければならないのであります。
先に苦労するか後で苦労するか、私のような本業掛け持ちの兼任講師には試験は試練なのでありますネ(苦笑
(↑教育者としての情熱が微塵も感じられないじゃないか?)
・・・(汗
ところでそんな私が教鞭をもつ工学系の学校ですが、ここんところの景気回復とやらでご多分に漏れず、求人数が激増しております。
一時期の「就職氷河期」が嘘のような活況を呈しておりまして、特にIT技術者系はもう完全に「売り手市場」なんでありますね。
でもね、業界内部を知り尽くしている不肖・木走としましては、一部の同業者のモラルも何もないひどい経営戦略には本当にはらわたが煮えくり返るほどの怒りを覚えておりますです。
そんなわけで今日は現代日本の花形産業、IT業界の奴隷商人達の話です。
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今日(6日)の日経記事から。
IT人材派遣料、4割上昇・技術者不足で
IT(情報技術)分野の人材派遣料金が前年同期比4割高となるなど、一段と上昇している。企業向けシステムや家電製品に組み込むソフト開発の需要が拡大し、技術者不足が深刻化しているためだ。人材派遣各社は需要増に対応し、新しい働き手を確保するため、未経験者に研修を受けさせるなどの人材育成策にも取り組んでいる。
スタッフサービスによると、IT派遣の求人数は昨年春の2.5倍になったが「スタッフを供給できている割合は1割未満」だという。需給の逼迫(ひっぱく)が派遣料金を押し上げている。 (07:00
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070206AT1D0507K05022007.html
「IT(情報技術)分野の人材派遣料金が前年同期比4割高となるなど、一段と上昇している」そうでありまして、「企業向けシステムや家電製品に組み込むソフト開発の需要が拡大し、技術者不足が深刻化しているため」と理由付けしております。
「企業向けシステムや家電製品に組み込むソフト開発の需要が拡大」というのは、これは業界人として実感でありまして、私の零細会社でも実は昨年来さばききれなくてやむを得ずお仕事をお断りしている状態が続いております。
まあ「IT人材派遣料、4割上昇」のほうはそれほど実感がないのは、私どもは自社内受託開発中心にやっているので、記事にある技術者派遣業はほとんど手を出していないからかも知れません。
しかし派遣業がすこぶる景気がいいのはその通りでして、私の知り合いのIT技術者専門で派遣業を営んでいる社長も「この世の春」とばかりに儲けまくっていて、正直ちょびっとうらやましいのでありますが、この記事にある「IT人材派遣料、4割上昇」をもって技術者の手取りまでが「4割上昇」してるなど勘違いしてはいけません。
利益の大半は派遣会社に吸収されてしまっているのであります。
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一言にIT関連業と言ってもその業態はそれこそいろいろありまして、中でもソフトハウスと呼ばれるソフトウエア開発業ですが、大ざっぱに形態を分けると、自社ブランドパッケージ商品を有していたり社内開発・受託中心の開発を主体とする受託型ソフトハウスと、人材をお客様に提供するいわゆる人材派遣型ソフトハウスに大別できます。
まあ多くのソフトハウスが受託型と派遣型の混成で成り立っているのですが、明確に両者を区分けする簡単な分別方法はそのソフトハウスの社屋を訪問すればよいだけです。
一般に受託型ソフトハウスでは、一般の会社と同様に技術者の数だけ机が並んでいますが、人材派遣型ソフトハウスでは、受付と応接の営業部隊のシマはありますが、技術者の机などないわけです。
まあ中には研修センターとか一部の技術者が常駐していたりはありますが、大半の技術者の机など自社内にないのが人材派遣型ソフトハウスでは当たり前のことであります。
で、良心的で誠実な人材派遣型ソフトハウスもたくさんある中で、ここ数年で社員数が急成長しているソフトハウスの中には極めて悪質な会社もあるのです。
武士の情けで社名は伏せておきますが、私の知っている東京にある設立後わずか数年で技術者数数百人規模にまで急成長したあるソフトハウスなどは、はっきりいってソフトハウスとは名ばかりの人身売買業、悪く言えば現代版「奴隷商人」として、技術者を売りまくって暴利を得、それを原資に新たに求人して雪だるま式に技術者をかき集めているのです。
「アウトソーシング事業部」とか名前だけはかっこいい耳障りの良い横文字ですが、その実態はあらゆる手段で人材をかき集めては社員教育もそこそこに顧客の現場に派遣しまくる、クレームがあって返された技術者は他の現場にすぐ送り出す、会社としての技術力を蓄えるのは二の次で、技術者を奴隷のようにこき使うだけこき使い、売上を伸ばすことだけを至上命題としている集団なのです。
当然定着率はすこぶる悪いのですが、辞める人間以上にかき集めればいいだけですから、利益だけに執着している経営陣にとっては少々技術者が辞めてもまったく問題ないわけです。
これでは、奴隷船に奴隷を詰めるだけ詰めて暴利を得ていた「奴隷商人」と何が違いますでしょう。
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奴隷商人に関しては、もう絶版のようですが、ダニエル・P・マニックスの『黒い積荷』が大変参考になります。
黒い積荷 大西洋奴隷貿の歴史
ダニエル・P・マニックス著 土田とも訳/平凡社/1976年初版発行/\2,000
http://w1.newgenji.co.jp/cgi-bin/search.pl?CID=1&ds=newsgenji09&sm=s&rc=50&of=1&gf=name&gk=黒い積荷&ff=1
18世紀後半の奴隷船総数は192隻、輸送能力4万7146人であったそうです。
1783年から93年までに、リバプールの奴隷船は30万3737人の奴隷を運び、純利益は1229万426ポンドで、利益率は30%であったといいいます。
アフリカからアメリカに運ばれた黒人奴隷は、300年の間に、1500万人といわれ、また、輸送中の奴隷の死亡率は、平均的には4分の1から3分の1といわれるので、300−500万人が海に捨てられたことになるわけです。
しかも、そうして運ばれた奴隷は18世紀末にはたった300万人しか生き残っていなかったといいます。
奴隷船商売に2つの方式があったのは有名な話であります。
初期の頃主流だったのはルーズパッカード方式と呼ばれ、200トンぐらいの当時の奴隷船に定員300名とゆったりとした環境で奴隷を運搬中の生存率を高めるやり方でありました。
しかし、後期になるとタイトパッカード方式という、船倉を二段に仕切って奴隷を寝返りもうてないような劣悪な空間に700人も押し込めるだけ押し込めて、航海中に少々死亡しても絶対数を確保するやり方が主流になったのだそうです。
たしかにタイトパッカード方式ならば700人のうち半分死んでも350人は輸出できるので生ちょっろいルーズパッカード方式よりも荒利をむさぼれるのであります。
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全ての派遣業、ソフトハウスが悪質であるわけではありません。
しかし・・・
「アウトソーシング事業部」とか名前だけはかっこいい耳障りの良い横文字ですが、その実態はあらゆる手段で人材をかき集めては社員教育もそこそこに顧客の現場に派遣しまくる、クレームがあって返された技術者は他の現場にすぐ送り出す、会社としての技術力を蓄えるのは二の次で、技術者を奴隷のようにこき使うだけこき使い、売上を伸ばすことだけを至上命題としている集団。
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IT技術者派遣業の中には現代日本の「奴隷商人達」がいるのも事実なのです。
(木走まさみず)