木走日記

場末の時事評論

実効性のあるデフレ対策を講じるための民主党の懸念材料〜中小零細業の事情を熟知した叩き上げの実業家がいない

 『子ども手当』を公約にして政権交代を成し遂げた鳩山首相自らが、実は母親から11億円の『子ども手当』を受けていたという間抜けな構図にドッチラケな庶民なわけですが、首相の億円単位の『子ども手当』が報じられるその中で、皮肉にも庶民の間には10円単位を競う「食のデフレ」「衣のデフレ」が急速に進行しているのであります。

 1日付け読売新聞社説はいつもは2本掲げる社説を一本に絞っての渾身の論説を掲載しております。

デフレ危機 政策総動員で景気の悪化防げ(12月1日付・読売社説)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20091130-OYT1T01322.htm

 社説は、東京のコンビニなどで展開されている300円前後の安売り弁当競争を取り上げています。

 ◆格安チキンで節約ランチ◆

 「カップめん+チキン」

 コンビニで最近、こんな節約メニューの昼食を選ぶサラリーマンが増えている。

 東京・大崎駅前にあるローソンゲートシティ大崎店の昼時は、サラリーマンやOLでにぎわう。確かに、時間とカネの節約からか、男性にはカップラーメン派が少なくない。

 でも、カップめんだけではさすがにわびしい。ほとんどの人が「あと1品」を買う。そのヒット商品が、今春発売したフライドチキンの新製品「Lチキ」だ。

 約100グラムと従来品とほぼ同じ量で、値段を168円から128円へ下げた。小林亮介店長(26)によると、安くて食べ応えがあると評判で、「以前の1・5倍から2倍も売れている」という。

 値下げできたのは、安いブラジル産鶏肉が大量に出回り、国産も含め値崩れが起きたためだ。昨年来の世界不況でブラジルの得意先だった欧米の需要が減り、格安の鶏肉が日本に流入した。

 こうして、コンビニに安いフライドチキンが並び、ライバルの弁当チェーンも300円前後のから揚げ弁当で安さを競う。

 「カップめん+チキン」に、「300円前後のから揚げ弁当で安さを競う」ですか。

 いや、たしかに。

 私が週に一度講師をしている工業系の学校は東京・池袋にありますが、今、池袋界隈では昼の弁当の「350円戦争」が勃発しております。

 デパ地下から公園そばのワゴン車売りまで、色とりどりの弁当が350円前後で競うように売られ始めたのは私の記憶ではこの夏当たりからだったでしょうか。

 350円という価格はありがたいのですがしかも結構おかずが豊富なのには驚かされます。

 ありがたく食しながらもこんなんで利益出てるのかなと心配になるほどです。

 「衣のデフレ」もすさまじいですね。

 読売社説にもありますが、結果としてユニクロが仕掛け人になったかっこうですが、格安ジーンズの値段は、イオンとダイエーが880円、西友850円、ドン・キホーテ690円とどんどん下がっています。

 「節約需要」を取り込むための価格競争は、激化の一途であります。

 で、この安売り合戦が体力のない中小企業を容赦なく襲っているわけです。

 ◆中小企業を襲う価格競争◆

 東京・板橋の鶏肉販売会社「鳥新」の磯田孝義社長(74)は「このブラジル産は、去年のほぼ半値に落ちた」と嘆く。

 扱う輸入鶏肉の9割はブラジル産。大手が安売り攻勢を仕掛け、取引先からは「悪いけど1円でも安いところで買う」と言われる。販売単価の下落で業務用を中心に売上高が減った。

 需要期の年末を控えた11月も価格は回復せず、売り上げは前年の7割程度に低迷している。磯田社長は「50年商売して、こんな不振は初めて」と、頭を抱える。

 結局「節約需要」の美名の裏で起こっていることは、この東京の鳥の唐揚げランチ値引き合戦が好例でありますが、廉価な海外産が大量に出回り、国内流通業が東京・板橋の鶏肉販売会社「鳥新」のように価格破壊のもとで損失を被り、また国内養鶏業にも深刻な影響を及ぼす、結果力のない国内産業が経営を維持できなくなり市場から淘汰されていき、セイフーなど一部外資含む勝ち組流通だけが生き残る、といった図式であります。

 「衣のデフレ」の仕掛け人であるユニクロにしても徹底的な製造コストと流通コストの低減化を計った結果、その商品はすべて中国や東南アジアなどの海外生産であります。

 もちろん短絡的にユニクロなどを批判する意図はこのエントリーにはありません。

 彼らは彼らの企業経営理念のもとにコストダウンに成功しただけであり、この「節約需要」の下でたまたま勝ち組になったわけですが、誰に批判されることもない経済合理性、先駆性を有していたということでしょう。

 10年ほど前ですが、私は本業のITシステムコンサル業で、さるベンダーからの依頼で当時のユニクロインボイス(国際交易系)システムの開発をお手伝いした経験があります。

 当時、今ほど有名ではありませんでしたが、すでにユニクロはその生産をすべて海外に委託していました。

 私がお手伝いしたシステムは、日本本社から主に中国や東南アジアなどの海外生産委託拠点との間の船積み物流を管理するシステムでしたが、毎日の為替レートを睨みながらユニクロの国内受注と独自の予測に基づき、いかに効率的に発注を掛けて商品当たりの海外からの船積みコストを削減するか、リアルタイムに海外拠点に指示を送るという当時としては画期的なものでありました。

 一技術者として当時ユニクロのその徹底したコスト管理意識に驚くとともに深く感嘆したのを覚えております。

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民主党の人材に中小零細業の事情も熟知した叩き上げの実業家出身者がいないことは懸念材料

 今日のユニクロの成功は長年に渡る企業努力の賜物であります。

 しかし私が問題にしたいのは勝者ユニクロではなく、「衣のデフレ」「食のデフレ」のもとで、市場から駆逐されかねない、決して国際的水準の生産性を伴ってはいない国内の中小零細業含む製造業・流通業・販売業であります。

 新自由主義指向で語れば「淘汰されるべき企業を保護することは結果的に国の活力を奪う」ことにつながるわけで「顧客利益優先の競争原理に従った自由競争を尊重すべき」と簡単に結論づけれますが、このデフレ下において懸念されるデフレスパイラルにこの国が陥らないためには、ここは非常時です、政府による強力なデフレ対策が求められるのです。

 しかし以前のエントリーでも指摘しましたが、この中小零細業対策が現民主党政権のアキレス腱ではないかと、私は懸念しています。

2009-10-22 直嶋経産相に平野官房長官中小零細企業に対する理解はないのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20091022/1256197943

 現在の民主党政権には、官僚出身者、大企業労組出身者、マスメディア出身者は多数いますが、叩き上げの実業家はほとんどいないと言っていいでしょう。

 従って、政権の取るいくつか政策は、大企業と中小零細企業の体力差に伴う、政策の矛盾、しわ寄せが中小零細業を圧迫しかねません。

 「子ども手当」の原資に地方自治体や企業に負担させよう、最低賃金を高めて労働者の生活を守ろう、民主党にとっては大企業を念頭に置いた「生活者重視」の政策や政策調整が、中小零細業には大きな障害に成りかねないのです。

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 今回のデフレ対策は日銀を含めた金融政策とともに実業社会の実態に即したきめの細かな政策が不可欠です、

 しかし民主党の人材に中小零細業の事情も熟知した叩き上げの実業家出身者がいないことは懸念材料だと思われます。



(木走まさみず)