木走日記

場末の時事評論

仲良く安倍村山談話踏襲発言を無視する朝日社説と産経社説の呉越同舟

●6日報道インタビューで安倍氏村山談話踏襲明言せず

 7日の朝日新聞から・・・

村山談話踏襲、明言せず 安倍氏、大戦評価「歴史家に」

 安倍官房長官は6日、朝日新聞などのインタビューに応じ、「植民地支配と侵略」を反省し、謝罪した95年の村山首相談話について「歴史的な談話だ」としつつ、自らの政権で「村山談話」を踏襲するかどうかについては、「次の内閣では、その内閣において過去の戦争についての認識を示すべきではないかと思う」と明言を避けた。安倍氏は昨年10月の官房長官就任以降、先の大戦に対する評価を避けており、首相就任後も「歴史家に委ねる」との従来の姿勢を続ける考えを示したものだ。

 村山談話は、過去の「植民地支配と侵略」について「アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」として「痛切な反省」と「心からのおわび」を表明している。小泉首相も国会答弁で、村山談話について「同じ認識を共有している」と明言している。

 しかし、安倍氏村山談話や、談話をもとに歴代首相が謝罪を繰り返してきたことへの違和感を周辺に漏らしてきた。

 6日、インタビュー直後の記者会見で、新たな歴史認識を出す場合、どのような形式を考えているかを問われ、安倍氏は「村山談話は歴史的な談話になっている。さらに何か談話を出すことは必要ないのではないか。歴史認識については本来、歴史家に任せるべきものではないか」と語った。自らの歴史認識を談話の形で示す考えはないことを明らかにしたものだ。

 さらに「村山談話を踏襲しないのか」と問われ、安倍氏は「(談話が)戦後50年の終戦記念日に、政府として内外に示したものであるということは、その通りだ」などと述べるにとどめた。

 歴史教科書の検定をめぐって近隣国に配慮するとした政府の「近隣諸国条項」については、「近隣諸国がどういう感情を持っているか、頭に入れながらということになる。今、その条項を直ちに廃棄するということは考えていない」と述べた。

2006年09月07日00時10分
http://www.asahi.com/international/update/0907/001.html

 安倍官房長官は6日、報道各社のインタビューに応じ「自らの政権で「村山談話」を踏襲するかどうかについては、「次の内閣では、その内閣において過去の戦争についての認識を示すべきではないかと思う」と明言を避けた」そうであります。

 この朝日記事は安倍氏村山談話や、談話をもとに歴代首相が謝罪を繰り返してきたことへの違和感を周辺に漏らしてきた」と指摘した上で「「村山談話を踏襲しないのか」と問われ、安倍氏は「(談話が)戦後50年の終戦記念日に、政府として内外に示したものであるということは、その通りだ」などと述べるにとどめた」と、「村山談話踏襲明言せず」と、安倍氏の発言にご不満のようであります(苦笑)

 この6日のインタビュー内容は朝日以外のメディアでも一部報道され、安倍政権が「村山談話」を踏襲しないのではないかと、憶測を呼んだようです。



●翌7日官房長官記者会見で軌道修正する安倍氏歴史認識村山談話の精神引き継ぐ」

 一部メディアからの「村山談話」を踏襲しないのではないかという懸念を重く見たのでしょう、安倍氏は翌7日の記者会見で「村山談話」の精神を引き継いでいくと明言し事実上発言を軌道修正いたします。

 日本経済新聞から・・・

安倍官房長官歴史認識村山談話の精神引き継ぐ」

 安倍晋三官房長官は7日の記者会見で、歴史認識に関する1995年の村山富市首相談話については「政府として出した談話で、基本的にはその精神を引き継いでいく」と表明した。同時に「政権ができる時にそういう認識をさらに示す必要があるのかという気がする」と述べ、首相に就任した場合に自らの歴史認識を談話の形で示す考えはないことも強調した。

 安倍氏は「先の大戦で多くの国々に大きな被害を与え、傷跡を残したことに対する率直な反省の中で平和で民主的な国をつくってきた」と指摘。そのうえで「戦争の歴史的な評価や原因については歴史家に任せるべきではないか」と語った。 (22:00)

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20060907AT3S0701A07092006.html

 読売新聞から・・・

「率直な反省の中で平和な国造った」安倍氏歴史認識

 安倍官房長官は7日の記者会見で、先の大戦昭和戦争)に関する歴史認識について「国民の多くが塗炭の苦しみの中にあり、多くの国々の国民に対して大きな被害を与え、傷跡を残した。そうしたことに対して、(日本は)率直な反省の中で平和的な国を造ってきたとの認識を持っている」との考えを示した。

 その上で「戦争についての歴史的な評価は歴史家に任せるべきだ」とした。任せるべき具体的な対象として「戦争(を始めたの)はどういう原因だったか、どういう相互作用があったか、例えば国策の決定とかかわりがあったか」と例示した。

 戦後50年の1995年に閣議決定した村山首相談話について、「政府の(考えを)内外に対して出したものだ。基本的にその精神を引き継いでいく」と強調した。

 一方、先の大戦に関して中国や韓国が謝罪を求めることに対して、「中国や韓国に(日本に対する)刺激的な言葉を言わせようとしているよこしまな人々がいるのも事実だ」と指摘した。

(2006年9月7日23時10分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060907i213.htm

 村山首相談話について「政府の(考えを)内外に対して出したものだ。基本的にその精神を引き継いでいく」と強調したそうでありますがあらためて「戦争についての歴史的な評価は歴史家に任せるべきだ」という考えも添えています。

 「国民の多くが塗炭の苦しみの中にあり、多くの国々の国民に対して大きな被害を与え、傷跡を残した。そうしたことに対して、(日本は)率直な反省の中で平和的な国を造ってきたとの認識を持っている」

 事実上安倍政権になっても村山首相談話の歴史認識や精神を継承していくと宣言したわけであります。

 ・・・

 6日の報道各社へのインタビューでは、自身これまでに積極的には評価してこなかったであろう村山首相談話に関して明言を避けた安倍氏でありますが、機を見て敏なるはなかなかのバランス感覚でありまして、翌7日には「政府の(考えを)内外に対して出したものだ。基本的にその精神を引き継いでいく」として村山首相談話の精神を継承すると明言したのでした。

 この二日間の安倍氏発言の常識的な軌道修正というか変容は、別に目くじらを立てるほどのことではなく、いい足りなかった発言をメディアに揚げ足とられないように補足したわけで、まあ私たち一般国民からしてみれば、安倍氏の腹のウチがどうであれ、歴代政権の歴史認識を安倍政権も継承するという常識的選択を明言したわけで、私などは評価したいと思います。

 ・・・

 でもね、朝日と産経はどうも気に入らないようですね(苦笑

 まったくなあ・・・



●安倍発言 村山談話を葬るな〜朝日社説

 今日(8日)の朝日社説から・・・

安倍発言 村山談話を葬るな

 「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」

 「疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、あらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫(わ)びの気持ちを表明いたします」

 95年、50回目の終戦記念日に村山内閣が示した首相談話の一節である。

 先の大戦が近隣国との間に残したわだかまりを何とか解きほぐしたい。節目の年に政権を担った村山首相としては、そんな願いを込めたけじめだったろう。

 それ以降の歴代内閣では、これが日本政府の歴史認識として内外に定着してきた。戦後半世紀を迎えた日本が、ようやくたどりついた明快な認識であり、国内的にも、近隣国との信頼を築くうえでも重要な役割を果たしてきた。

 だが、次の首相の座をほぼ手中にした安倍晋三官房長官は、この談話がどうもお気に召さないようである。

 きょう告示される自民党総裁選に向けた報道各社のインタビューや、官房長官としての記者会見で「次の政権で村山談話を踏襲するか」と繰り返しただされたが、答えはあいまいだった。

 談話に盛り込まれた「植民地支配と侵略」をどう評価するかを聞かれても「歴史家に任せるべきだ」と口を濁した。

 「自虐史観」を批判する議員グループで活動してきた安倍氏である。日本の過去の行為を「侵略」と認めたり、詫びたりすることは避けたいのかもしれない。よりあいまいな表現の戦後50年国会決議でさえ、安倍氏は採決を欠席した。

 だが、あの戦争、とりわけ中国や東南アジアでの戦争が「侵略」だったことは多くの歴史家を含めて、一般の常識ではないのか。中曽根首相以降、侵略を認めなかった首相はいない。

 もともとこの談話は、社会党出身の村山氏の名前が冠されているとはいえ、政府としての公式見解である。自民党も加わった、当時の社会党新党さきがけとの3党連立内閣で閣議決定された。

 それからの日本外交では、歴史認識を示すときの決定版として使われてきた。例えば、98年に小渕首相が金大中大統領と出した日韓共同宣言のベースになったし、中国の江沢民国家主席と交わした共同宣言は直接、村山談話に言及して「遵守(じゅんしゅ)する」と表明した。これは国家間の約束だ。

 小泉首相日朝平壌宣言や、昨年のアジア・アフリカ首脳会議での演説など、さまざまな機会にこの認識をなぞってきた。戦後60年の昨年の終戦記念日には、ほぼ同様の首相談話を出した。

 こんな基本的なところであいまいな認識しか示せなければ、安倍政権のアジア外交は根本から揺らいでしまう。日本外交が苦労して積み上げてきた信頼を一気に失うのは明らかだ。

 これが安倍氏のいう「主張する外交」なのか。安倍外交が大いに不安だ。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

 いやはやなんとも・・・

 「だが、次の首相の座をほぼ手中にした安倍晋三官房長官は、この談話がどうもお気に召さないようである。」として一連の安倍氏発言が「どうもお気に召さないようである」朝日社説なのであります(苦笑

 しかしなあ、7日の記者会見であれだけ村山談話の精神を継承すると明言しているのに、どこをどう捉えて「村山談話を葬るな」という結論になるのかなあ。

 社説の結語。

 こんな基本的なところであいまいな認識しか示せなければ、安倍政権のアジア外交は根本から揺らいでしまう。日本外交が苦労して積み上げてきた信頼を一気に失うのは明らかだ。

 これが安倍氏のいう「主張する外交」なのか。安倍外交が大いに不安だ。

 この朝日社説は事実上7日の記者会見の内容を無視して6日のインタビュー内容だけを捉えてそれが安倍氏の本音なんだと警鐘を鳴らしているように思えます。

 この朝日社説だけ読んだ読者は7日の記者会見で村山談話に対して「政府の(考えを)内外に対して出したものだ。基本的にその精神を引き継いでいく」と安倍氏が明言した事実は読み取ることはできないのではないでしょうか。

 「日本外交が苦労して積み上げてきた信頼を一気に失うのは明らかだ。 」という結論は、かなり強引で恣意的な誘導であります。



村山談話 正すべきは意を尽くして〜産経社説

 一方、今日(8日)の産経社説から・・・

■【主張】村山談話 正すべきは意を尽くして

 自民党総裁選を前に、安倍晋三官房長官は平成7年の村山富市首相談話について、「戦後50年を機に出された歴史的な談話だ」としたうえで、「戦争の歴史的な評価は歴史家にまかせるべきだ」と語った。

 安倍氏は次期政権の課題などを聞かれた6日のインタビューでは、村山談話にこだわらず、新政権として歴史認識を打ち出す可能性も示唆したが、7日の会見では「政権が変わるたびに、いちいち談話は必要ないのではないか」とも述べた。村山談話に対する安倍氏の微妙な思いがうかがえる。

 村山談話は自社さ政権時代の11年前の8月15日に発表された。日本の過去を「植民地支配と侵略」の歴史とし、「痛切な反省」と「心からのお詫(わ)び」を表明している。旧社会党出身の村山首相、故野坂浩賢官房長官ら一部の閣僚と官僚だけで検討された後、突然、閣議に出されたものだ。

 当時、国会でも「謝罪・不戦」を柱とした戦後50年決議が論議されたが、衆院新進党欠席のまま議員数の半数に満たない賛成で可決されたものの、参院では採択が見送られた。このように国論が分かれているときに、社会党らしさを示すために考え出されたのが村山談話だったという。

 村山談話は中国や韓国には、あたかも外交文書のように受け取られ、その後の歴代内閣の歴史認識を縛ってきた。その意味で、村山談話の罪は重い。しかし、歴史認識というものは、学問や言論の自由が保障された社会では百人百様で、時の内閣の首相談話によって縛られるものではない。

 平成5年8月に当時の河野洋平官房長官が出した談話も、同じことが言える。その後、河野談話にある「従軍慰安婦・強制連行」説は破綻(はたん)したにもかかわらず、それを批判しようとする閣僚の発言を封じてきた。

 村山談話は「遠くない過去の一時期、国策を誤り」とも言っている。その時期を村山首相は明示しなかったが、そもそも、戦後の一時期の内閣が過去の歴史を一方的に裁いていいのか、極めて疑問である。

 政府の連続性から首相談話の見直しは慎重になされなければならないが、正すべきは意を尽くして正すのが政府の責務であろう。

http://www.sankei.co.jp/news/060908/edi001.htm

 うーん、なんだかなあ、こっちもこっちでどうやら、一連の安倍氏発言が「どうもお気に召さないようである」産経社説なのであります(苦笑

 この産経社説のどこにも7日の安倍氏村山談話の精神を継承するとの強調発言が登場してこないのであります(苦笑

 なんだかこの産経社説も事実上7日の記者会見の内容を無視して6日のインタビュー内容だけを捉えてそれが安倍氏の本音なんだと「正すべきは意を尽く」せと、安倍氏に訴えているように思えます。

 産経社説の認識では「村山談話は中国や韓国には、あたかも外交文書のように受け取られ、その後の歴代内閣の歴史認識を縛ってきた。その意味で、村山談話の罪は重い。」のであり、その精神など安倍政権は継承してほしくないのでしょうが、どうなんでしょう、7日に村山談話継承を明言した安倍氏発言に全く触れないでの、この産経社説の主張もかなり恣意的で強引な自己主張と言えましょう。

 ・・・



●仲良く安倍村山談話踏襲発言を無視する朝日社説と産経社説の呉越同舟

 興味深いのは朝日も産経もそれぞれ自説を展開するために全く別の理由ですが、安倍氏の6日のインタビュー内容だけを捉えて、7日の軌道修正発言には触れていないのであります。

 朝日にしてみれば6日のインタビューにこそ安倍政権の歴史認識の本音が見え隠れするということで7日の村山談話継承発言は無視して、批判したのでありましょう。

 産経にしてみても、「罪は重い」村山談話安倍氏が継承発言した7日の記者会見内容はおもしろくないので触れなかったのでありましょう。

 おもしろいですね。

 私など一般人からすれば、この二日間の安倍氏の発言のゆらぎは、最終的に村山談話を継承するという明言で不要な憶測を遮断するという、極めてバランス感覚の働いた軌道修正であると評価したいのですが、朝日も産経も気に入らないようであります。

 朝日にしてみればお前の本音はわかっているんだぞと、7日の発言を強引に無視して「村山談話を葬るな」社説を打ち立てたわけです。

 産経にしてみれば村山談話は罪深いのだから正せと、やはり7日の発言を強引に無視して「正すべきは意を尽く」せ社説を打ち立てたわけです。

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 なんだかなあ、社説ですから自社の主張を展開することを否定するわけではありませんが、一部の発言を意図して無視したり恣意的な解釈もここまで露骨だと、一般読者はドン引きしてしまうのであります。

 仲良く安倍村山談話踏襲発言を無視する朝日社説と産経社説の呉越同舟ぶりは、こっけいですらあるのです。



(木走まさみず)