木走日記

場末の時事評論

異常としか思えない総裁選候補者も入閣予定者も世襲議員だらけの自民党

●「麻、垣、三」、世襲議員という点では一様だ〜朝日新聞天声人語

 9日の朝日新聞天声人語】から・・・

天声人語】2006年09月09日(土曜日)付

 「麻、垣、三」。自民党の総裁選に立候補した3人がそろって記者会見した。そのたたずまいや語り口は三者三様だが、世襲議員という点では一様だ。以前、「康」と言われた人もそうだった。もし4人がそろったら、色合いはさらに濃くなっていた。

 とても高齢とは言えない3人が並んだのに、やや清新な印象が薄いと感じたのは、それぞれの姿に父祖の世代を重ねて見るからかも知れない。古来、地盤、看板、鞄(かばん)といわれてきた議員当選への三条件が整っているようなところも、古い時代にさかのぼるような気にさせられる。

 資金力を示す鞄では、安倍官房長官の急伸が著しい。安倍氏が代表を務める政治団体が昨年に集めた政治資金は、3億円近くあった。官房副長官、党幹事長、官房長官と、小泉政権の中枢のポストを務めるにつれて増え、5年で2倍近くになった。まさしく、看板に鞄がついてきている。

 衆院選での地盤の強さはそれぞれ秀でているはずだが、自民党の国会議員団という「地盤」での強弱は、かなりあるという。総裁選後のポストや発言力の確保などを狙って、永田町の草木は安倍氏安倍氏へとなびいているようだ。

 19世紀英国の保守党の大物ディズレーリは首相も務めた。スエズ運河の株買収で知られ、安倍氏も自著に彼の言葉を引用している。

 そのディズレーリは若い日、これといった地盤も看板も鞄も無く、国会議員に挑戦した。落選、落選また落選、もう一度立っても落選で、ようやく5度目に当選した。3候補の方は、一様に一発当選組だった。

http://www.asahi.com/paper/column.html

 うーん、「麻、垣、三」、自民党の総裁選に立候補した3人とも世襲議員という点では一様であり「清新な印象が薄いと感じたのは、それぞれの姿に父祖の世代を重ねて見るからかも知れない」とし「古来、地盤、看板、鞄(かばん)といわれてきた議員当選への三条件が整っているようなところも、古い時代にさかのぼるような気にさせられる」のだそうです。

 結語には「3候補の方は、一様に一発当選組だった」とし、天声人語子としては、どうやら安倍・麻生・谷垣3氏ともに世襲議員であり、苦労知らずで迫力不足じゃないかと言いたいようです。

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 確かに安倍・麻生・谷垣3人とも世襲議員であるのは事実なのであります。



世襲議員だらけの異常な自民党総裁

 どうなんでしょう、どうも考えてみると小泉首相も3世議員であるわけですが、近年の日本の首相(候補も含めて)は世襲議員が急増してきている点がとても気になるのです。

 現に小泉首相までの4代の首相のうち森氏を除く、橋本、小渕、小泉と3人が世襲議員であり、森氏も父親が全国町村会長だったということですから半分世襲議員とも言えそうです。

 今回の総裁選候補も、3人だけでなく、出馬をとりやめた福田、推薦人が集まらず断念した河野太郎、まだ正式に断念していない鳩山邦夫も含めて、総裁選に名前を連ねた6人全員が2世、3世議員なのであります。

 総裁選に名を連ねた候補6人(出馬しなかった福田氏をあえて含めますが)が全員2世議員と言うのは、どう見ても異常ではないでしょうか。

 34年前のポスト佐藤で総裁候補だった三角大福中は、5人ともその後に首相になりましたが、全員が1世、たたき上げだったわけですが、年を追うごとに自民党内に世襲議員が増えてきて、特に総裁候補となる人は世襲議員が主流になってきたのはここ10年のことであります。

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 一般に国家の政治が特定の一族による政治支配から脱却している体制ほど、近代的で健全であるとする単純なものさしを持ち出せば、政治家たる事を家業となる風土が生まれ、世襲であることのメリットによって、特定の一族が政治家になりやすい傾向が浸透することは、必ずしも歓迎できる傾向とは言えません。

 もちろん、いうまでもないことですが、2世や3世だからといって、世襲政治家が著しくその資質に欠ける人物であると決め付けるわけにはいかないのでありますし、世襲を禁じてしまう規制を行うことは議員の子にだけ被選挙権を制限することになるため、判断は選挙民の良識に委ねられているわけです。

 しかしです。

 それにしても自民党の総裁候補者全員が世襲議員であるというのは、異常としか思えません。

 一般国民と乖離した育ちの世襲政治家が増えることは、一方で政治家の家庭で育つことから早くから政治に目覚め、鞄持ち・秘書等を経て優れた政治手腕を発揮する政治家もいることは認めながらも、あくまでも程度の問題であり、議員の中には優秀な世襲議員が少数含まれるぐらいが適正なバランスなのではないでしょうか。

 今回のように世襲議員だけの総裁選となると、私には強い違和感を感じてしまいます。

 世襲議員だらけの総裁選を眺めるに付け、候補者のうちの特定の誰がいけないという閉じた議論では全くないのですが、私には自民党議員の世襲制が、あたかも特定の貴族は世襲によって政治家を引き継ぐことが可能であった英国の貴族院のような閉鎖性を帯び始めているようにも感じられてしまうのです。

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 自民党という組織の人事が著しく硬直化・劣化してきているのではないか、これは組織論として考えると興味深いのです。

 一般に停滞する組織は人事から硬直していきます。

 能力主義が機能しなくなり、派閥や血脈、人間関係だけでトップ人事が左右されるようになると、適材適所の原則が崩壊し組織は雪崩的に機能不全に陥り人心は荒廃し上部の統治能力と下部の被統治能力ともに急速に劣化していくのです。



●総裁選候補者も入閣予定者も世襲議員だらけの自民党

 9日の読売新聞から・・・

安倍氏人事構想、幹事長に中川秀直氏が有力

 自民党総裁選が8日に告示されたことを受け、当選が確実視される安倍官房長官は、新政権発足に向け、党役員・閣僚の一部人事の検討に着手した。

 来年夏の参院選対策を担い、挙党体制作りの要にもなる幹事長には、安倍氏と同じ森派中川秀直政調会長の起用が有力だ。閣僚人事では、派閥横断で安倍氏支持の流れを作った甘利明・元労相(山崎派)の再入閣、「再チャレンジ支援議員連盟」会長の山本有二・党経理局長(高村派)の初入閣が検討されている。

 安倍氏は、8日の共同記者会見で、次期臨時国会で首相指名を受けた場合の人事の方針について、「謙虚に、どういう人材がいるかをくまなく見ながら、場合によってはいろいろな意見も聞き、最後は一人で決めたい」と述べた。

 幹事長については、6日の読売新聞などとのインタビューで「(総裁と幹事長の出身派閥を違える)総幹分離は、かつての派閥の論理の延長線上でしかない」と述べ、森派からの起用があることを示唆している。

 安倍氏は「老壮青が力を合わせることが大事だ」と強調するが、党長老らには「中川氏を重要ポストで処遇したい」との考えを伝えている。

 安倍氏は、来年の参院選で与党の過半数割れを防ぐには挙党体制の構築が不可欠と考え、世代や派閥を超えた調整能力を中川氏に期待している。

 以前に安倍氏と距離があった古賀誠・元幹事長、二階経済産業相らの間にも「中川氏に安倍氏とのパイプ役になってほしい」との声がある。

 閣僚人事では、首相官邸の機能強化と絡み、官房長官に、森派から町村信孝・前外相を推す声が強く、安倍氏は自身に近い石原伸晃・前国土交通相(無派閥)や塩崎恭久外務副大臣丹羽・古賀派)の抜てきの可能性も含めて調整を図る。

 閣僚候補の甘利氏は、安倍選対の事務局長。所属する山崎派会長の山崎拓・前副総裁が「反安倍」の勢力結集を模索する中、早くから派内の中堅・若手を安倍氏支持に振り向けたほか、党政調会長代理として政策の取りまとめにあたった。

 山本氏は今年春、安倍氏が自ら、派閥横断の議連会長への就任を要請した。甘利氏と同様、福田康夫・元官房長官が総裁選出馬を模索していた時期に安倍氏の支持拡大に中心的役割を果たした点を、安倍氏が評価している。

(2006年9月9日3時2分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060909it01.htm

 うーん、これは冗談なのでしょうか、私には異様な「安倍氏人事構想」なのであります。

 この読売新聞記事の安倍政権人事構想で登場してくる政治家の名前をご覧ください。

 この記事で入閣が検討されている6名の政治家のうち、山本有二氏以外の、中川秀直政調会長甘利明氏、町村信孝氏、石原伸晃氏、塩崎恭久氏、5人全員が2世・3世、つまり世襲議員なのであります。

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 総裁選候補者も全員世襲議員、入閣予定者も大半が世襲議員・・・

 異常としか思えません。

 自民党はどこに向かおうとしているのでしょうか。

 106万8665人。

 今回の総裁選で投票資格を持つ党員数は、前回(2003年)の140万2621人から2割以上も減り、97年の336万人から比べるとこの10年で3分の一に減っております。

 去年の衆院選大勝で霞んでしまいがちですが、実は地方組織の弱体化に伴う自民党の長期低落傾向は歯止めが掛かってはいません。

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 今回選ばれる世襲議員首相の最初の正念場は来月に待っています。

 10月の衆院神奈川16区補選。

 官僚出身者を候補とする民主党に対して、自民党は死去した議員の息子を立て臨みます。

 新首相が初陣を飾れば、自民党にまた一人世襲議員が増えることになります。



(木走まさみず)