「東横イン設備改造」問題を冷静に検証してみる〜高級ホテルもビジネスホテルも一律に規制する条例側に問題はないか
●NHK夜7時のニュースも大間違い〜たしかに紛らわしいぞ「東横イン」と「東急イン」(爆)
昨日(28日)夜七時のNHKニュースを観ていたら思わずお茶を吹き出してしまいました。
東横インの西田社長がインターネットのホームページで一昨日の記者会見での自らの発言に対し一部身障者の人に不適当な発言があったとお詫びコメントを載せたという報道でしたが、テレビの字幕を観てびっくりでした。
「東急イン」西田社長と社名を間違えているのであります。(爆)
いや、確かに似ているけどこれは全国ニュースで流してはやはりしゃれにならないわけでして、NHKは9時過ぎのニュースで早速訂正していましたが、「東急イン」にしてみれば、本当に迷惑な話なのであります。
で、東急インを経営している東急ホテルズは早速昨日HPで全面的に関係を否定するコメントを掲げて誤解を解くのに必死なのであります(苦笑
東急ホテルズおよび東急グループは、「東横イン」とは一切関連がございません。
2006年1月27日の朝日新聞で偽装工事が報じられている「東横イン」は、「東急ホテル」、「エクセルホテル東急」、「東急イン」、「東急リゾート」の4つのブランドホテルを展開する私ども「東急ホテルズ」とは関連の無い全く別のホテルチェーンでございます。また、東急グループとの関連もございません。平成18年1月27日
株式会社東急ホテルズ
http://www.tokyuhotels.co.jp/ja/reserve/alert/20060127.html
いや心情お察しいたします。
で、「東横イン」のホームページを観てみれば社名の由来はこうです。
<会社沿革>
当社は、昭和61年(1986年)1月の設立ですから歴史は比較的新しい会社です。電話で「東横イン」といいますと、よく東急インに間違えられますが、東急グループとは関係がありません。中堅の独立したビジネスホテルチェーンの会社です。京浜東北線で品川から横浜に向かって三つ目の駅の蒲田が発祥の地であり、本社も蒲田にあります。東京と横浜の間ということで、東横インとしたまでです。
(後略)
『電話で「東横イン」といいますと、よく東急インに間違えられますが、東急グループとは関係がありません。』などと脳天気なことが書かれていますが、社名の由来は『京浜東北線で品川から横浜に向かって三つ目の駅の蒲田が発祥の地であり、本社も蒲田にあります。東京と横浜の間ということで、東横インとしたまで』だそうであります。
・・・
ひとつつっこみをさせていただければ、蒲田は東急東横線沿線じゃなくて、京浜東北線か京浜急行線ですから、本来ならば「東横イン」じゃなくて「京浜イン」じゃないんですかね。(苦笑
●大ひんしゅくを買ったが、はっきりとした物言いで気分がよかった西田社長の記者会見
それはさておき西田社長のお詫びコメントはこちら、
お 詫 び
この度の法例違反につきましては誠に申し訳なく、深くお詫び申しあげます。
現在行政当局のご指導に従い全力を挙げて対処させていただいており、一刻も早く社会に対する信用を取り戻すよう努力をいたしております。もとより今後は法令の遵守を徹底する所存でございます。
また記者会見の際の発言内容、態度について、多くの方からご叱責をいただきました。動揺を隠せぬままカメラの前に立ち、身体障害者の皆さまに対し不適当と思われる言動があったことを深く反省しております。
この点につきましても衷心よりお詫び申しあげます。
なにやらいたく反省されています。
「記者会見の際の発言内容、態度について、多くの方からご叱責をいただきました。動揺を隠せぬままカメラの前に立ち、身体障害者の皆さまに対し不適当と思われる言動があったことを深く反省して」いるのだそうです。
・・・
で、西田社長のインタビューでの発言を観てみましょう。
一昨日(27日)の朝日新聞から・・・
東横イン社長、駐車場「とっちゃえ」 報告受け承諾
「ほかにも2、3改造した」。ビジネスホテルチェーン大手「東横イン」の偽装工事問題で、同社の西田憲正社長は27日陳謝し、別のホテルでも無届け改造をしたことを明かした。横浜市は、朝から緊急の対策会議を開くなど対応に追われた。
「条例違反をしました。どうもすみません」。父親から受け継いだ電気工事会社を、ビジネスホテルの全国チェーンに成長させた西田社長は、会見の冒頭であっさりと非を認めた。主なやりとりは次の通り。
――なぜ駐車場や身障者用部屋を撤去したのか
「正面が駐車場だとホテルとしての見てくれが悪い。報告を受けて僕も、まあいいだろう、とっちゃえと考えた。やったことは仕方がない」
「身障者用客室を造っても、年に1、2人しか来なくて、一般の人には使い勝手が悪い。うちのほかのホテルでもロッカーやリネン庫になっているのが現実だ」
――いつごろから、無断改築をしているのか
「うちも創業当初は改築の際に、行政ときちんと話し合っていた。次々とホテルが建つようになって、忙しくなった。行政と話し合うと時間がかかるから。そのへんが僕の甘さだ」
――自らの責任問題は
「今辞める気はない。全部調べてきっちりと直して、世間の評価を受けてから判断したい」
「どんなちっちゃな条例違反でも、違反は違反だから、軽く考えてはいけない。時速60キロ制限の道を67〜68キロで走ってもまあいいかと思っていたのは事実。これからは60キロの道は60キロできっちりと走ると肝に銘じる」
2006年01月27日15時13分 朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/0127/TKY200601270220.html
あっさり「条例違反をしました。どうもすみません」と認めた上で、悪びれもせず「正面が駐車場だとホテルとしての見てくれが悪い。報告を受けて僕も、まあいいだろう、とっちゃえと考えた。やったことは仕方がない」 と本音で語っています。
で身障者に対しての「不適当発言」はこれですね。
「身障者用客室を造っても、年に1、2人しか来なくて、一般の人には使い勝手が悪い。うちのほかのホテルでもロッカーやリネン庫になっているのが現実だ」
いやハッキリとした物言いで気分がいいです。(苦笑
不肖・木走としてはこのまま開き直り通していただきたかったのですが、よほど抗議が殺到したのでしょうね、翌日にはホームページでの謝罪となったわけです。
この物言いでは抗議が殺到してもいたしかたないと思います。
・・・
しかし、朝日新聞が27日一面トップでスクープしたこの問題ですが、私としてはここは冷静に議論したい深い内容があると感じています。
●「百貨店」的シティーホテルと「家電量販店的」ビジネスホテルの違い〜「東横イン」のキャッチフレーズは「駅前旅館の鉄筋版」
私は国内出張の時にしばしばビジネスホテルを利用していますが、「東横イン」も「東急イン」もとてもよく利用しています。
ご存知のとおりビジネスホテルの最大の特徴は普通のシティーホテルに比べて宿泊料金が「低価格」であることであります。
駅前の好立地の場所に、設備投資を最低限に抑えシングルルームの部屋中心に建てられたビジネスホテルは、おそらく利用者の大半も寝るだけの宿泊施設として割り切っているのです。
つまり夜ゆっくり寝れてあさ朝食を食べたらチェックアウトするだけの利用者が大半なのであります。
シティーホテルがレストランや売店やプールやいろいろな付帯するサービスも用意しその施設内で生活に必要なモノをほぼ完結して提供できる「百貨店」であるとすれば、ビジネスホテルは寝ることと朝飯を食うことだけに特化した「家電量販店」みたいなものであります。
価格で比較すればシングル一泊で1万5千円以上するシティーホテルに比し、例えば「東急イン」などでは場所にもよりますがまず一万円以下(7千〜8千円が相場か)で宿泊できるのです。
実は「東急イン」などはビジネスホテルの中でも格付けが上位でありまして、問題の「東横イン」などは一泊4千円代の低価格で急成長してきた「駅前旅館の鉄筋版」をキャッチフレーズにしてきた新興ビジネスホテルなのでした。(画像も東横イン4000円キャンペーンより)
・・・
報道によれば、これら「駅前旅館の鉄筋版」廉価がウリのビジネスホテルに対しても、「ハートビル法」や「横浜市バリヤフリー条例」が厳格に適用されていて、今回の違法改造もこれらの条例検査の終了した跡で確信犯として行ったようであります。
●「横浜市福祉のまちづくり条例」の内容を徹底検証する〜改正ハートビル法に準拠した厳しい19項目に及ぶ整備内容
横浜市のホームページで調べてみると「横浜市福祉のまちづくり条例」が平成9年3月に制定されています。
■ 横浜市福祉のまちづくり条例の概要
横浜で生活するすべての人が安心して、自らの意思で自由に行動でき、さまざまな活動に参加できる人間性豊かな福祉都市の実現を目指して、「横浜市福祉のまちづくり条例」が平成9年3月に制定されました。一般都市施設を新設又は改修する場合は、それぞれの種類及び規模に応じた整備基準に適合するように必要があります。一般都市施設のうち、指定施設となる建築物を新築、改修(確認申請が必要な増築、改築、大規模の修繕若しくは模様替え又は用途変更)しようとする場合には、確認申請前に「事前協議」が必要となります。
http://www.city.yokohama.jp/me/machi/houmen/sinsa/fukumat1.html
で、少し細かく調べてみると条例の対象となる建築物に宿泊施設の説明が載っています。
24 宿泊施設
(1) ホテル、旅館及び簡易宿所
(2) その他これらに類する施設用途に供する部分の床面積の合計が1,000平方メートル以上の施設
条例の対象となる建築物(別表第1の1建築物)
http://www.city.yokohama.jp/me/fukushi/chifuku/fukumachi/beppyou1.html
つまり床面積の合計が1,000平方メートル以上の宿泊施設が対象なのであります。
で、整備を義務づけられている項目なのですが、19項目に及ぶ細かい指定が明記されており、宿泊施設においてはその内の18項目が義務化されています。
敷地内通路
駐車場
外部出入口
廊下
居室の出入口
階段
傾斜路
手すり
エレベーター
便所その1
便所その2
浴室・シャワー室及び更衣室
客室
客席及び舞台
案内標示
視覚障害者の安全かつ円滑な利用に必要な設備
聴覚障害者の安全かつ円滑な利用に必要な設備
警報設備及び避難口誘導灯
附帯設備整備項目(別表第9の1建築物)
http://www.city.yokohama.jp/me/machi/houmen/sinsa/fukumat1.html
例えば敷地内通路では車椅子同士ですれ違うことが可能な幅を確保するとか、駐車場では最低1台以上車椅子利用者用のスペースを確保するとか、まあ、内容は国土交通省が音頭をとって普及に努めている「改正ハートビル法」とほぼ同様なのです。
改正ハートビル法パンフレット
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/kensetu.files/hbl/50pamphlet.pdf
●高級ホテルもビジネスホテルも一律に規制する条例側の問題はないのか
高齢者や身障者に優しい社会、バリヤフリー社会を実現するための国や自治体の取り組みはよく理解しております。
その上で敢えて問題提起させていただきますが、今回のシティーホテルもビジネスホテルも一緒くたにした条例側に、実態にそぐわないきめの粗い適用があるのではないかと思うのです。
宿泊施設と言っても用途や料金でそれこそ多様な形態があるわけでして、それを一緒くたにいきなり厳しい条例の対象としてしまう乱暴なやり方には釈然としないモノを感じてしまいます。
低料金を売り物にしたビジネスホテルだからといって、バリヤフリーの流れに合わせて施設を対応していく必要があるのは認めるモノですが、西田社長の発言「身障者用客室を造っても、年に1、2人しか来なくて、一般の人には使い勝手が悪い。うちのほかのホテルでもロッカーやリネン庫になっているのが現実だ」 は、これはこれで重い事実なのでありましょう。
・・・
私がここで指摘したいのは、バリヤフリー社会を実現するという条例の主旨に反論したいのではありません。
問題はその方法論であり、利用実態に即したきめの細かい実現可能な条例にしなければまた今回のような条例違反が繰り返されるのではという疑念であります。
シティーホテル並みにビジネスホテルにおいても厳しく条例規制するのであれば、カプセルホテルやラブホテルやモーテルにも一律適用すべきであります。
私はバリヤフリーのカプセルホテルも身障者用駐車場の用意されているラブホテルもよく知りません。
・・・
ようは、あまりにも強引にバリヤフリー社会を実現するために、現実の社会の有り様を無視したような法律の強引な適用は、かえって違反者を増やすだけではないのか、他にもう少し緩やかな賢い法律運用は無いのかということであります。
読者のみなさまはこの問題いかがお考えでしょうか。
(木走まさみず)
<参考サイト>
魁!清谷防衛経済研究所 ブログ分室
【問題の本質はどこにある】東横イン、無断改造など15ホテル…全121棟調査へ
http://kiyotani.at.webry.info/200601/article_35.html