日本政府の行動計画の脆弱性〜抗ウイルス剤「タミフル」に頼っていいのか?
●新型インフルエンザはパンデミック警報フェーズ3〜新型ウイルスの出現は時間の問題
いよいよ新型インフルエンザが世界的に大流行(パンデミック)する気配が濃厚になってきたようであります。
パンデミック(pandemic)とは、世界的な流行病に対する医学用語。ある病気が世界的に流行することを言う。
歴史的なパンデミックとしては、14世紀にヨーロッパで流行した黒死病(ペスト)、19世紀から20世紀にかけて地域を変えながら7回の大流行を起こしたコレラ、1918年から1919年にかけて全世界で2500万人が死亡したスペイン風邪(インフルエンザ)などがある。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF
国立感染症研究所感染症情報センターによれば、世界保健機関(WHO)による現在のパンデミックインフルエンザ警報フェーズはフェーズ3であり「新しい亜型ウイルスによるヒト症例がみられるが、効率よく、持続した伝播はヒトの間にはみられていない」つまり新種のインフルエンザが人に感染し始めているが人から人への感染能力を有した新種はまだ見られていない状況なのだそうです。
国立感染症研究所感染症情報センター公式サイト
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/05pandemic/0511phase.html
しかしながら、世界保健機関(WHO)の李鍾郁(イジョンウク)事務局長に言わせれば事態は極めて危機的であり、鳥インフルエンザの流行が続く東南アジア・中国南部で人から人への感染力を持つ新型ウイルスが出現する可能性が高いと指摘し、「距離的に近い日本も無関係ではない」と警告しています。
WHO:鳥インフルエンザ感染、「日本も無関係ではない」
毎日新聞 2005年11月12日 17時19分 (最終更新時間 11月12日 21時40分)
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20051113k0000m030004000c.html
記事によれば、新型ウイルスによるインフルエンザの大流行が起これば、世界中で数百万人が死亡するとみられており、李事務局長の発言「新型ウイルスの出現は時間の問題。脅威かどうか議論する時期は既に終わった。今は大流行への備えをすべき時」は、新型インフルエンザ・パンデミック(世界的大流行)の発生が切迫しつつあるとの深刻な予測に裏付けられている警告であります。
世界各国でも、新型インフルエンザ・パンデミックはもはや必至であるとの認識のもとに、新型インフルエンザ対策を次々に打ち出しておりますが、我が日本政府も遅ればせながら政府の行動計画を策定したようです。
●対応遅れる日本政府の行動計画〜しかも抗ウイルス剤「タミフル」偏重
昨日(12日)の朝日新聞から・・・
新型インフルエンザ対策、治療薬の備蓄強化 集会制限も
強い感染力があり、流行すると多数の死者が出る恐れが指摘されている新型インフルエンザの対策で、政府の行動計画が11日、分かった。治療薬「タミフル」の備蓄について、国と都道府県が確保する割合を当初の2割から8割超に引き上げ、「国家備蓄」の色合いを強めた。国内で大流行が起きた際の治療の優先順位も明記し、海外渡航の自粛や学校の休業など社会生活の制限を盛り込んだ。政府は15日にも関係閣僚会議を立ち上げて対策を本格化させる。行動計画では、国内で流行した場合、感染者は4人に1人と想定。その前提で、死亡者は17万〜64万人、入院患者は53万〜200万、外来患者は1300万〜2500万人にのぼると予測した。
平常時から発生、流行に至るまでの6段階に状況を想定。国外で発生しているケースと、国内で発生しているケースとに分けたうえで、タミフルの備蓄(厚生労働省)、家禽(かきん)の発生予防対策(農林水産省)、渡航情報の発出(外務省)など関係省庁の役割を示した。
国内で人から人への感染が確認された段階では、厚労省が文部科学省など関係省庁と連携し、発生地域の学校などを臨時休業とするよう要請。緊急性のない大規模集会や、ホールなどの興行施設での不特定多数が集まる活動の自粛勧告、患者が出た企業の従業員に対する出勤停止や医療機関への受診勧告など、社会生活を制限する。
さらに、一部地域に限らず広く一般の人の間で感染が広がる大流行が起きた場合には、厚労相が国内非常事態を宣言。学校の臨時休業などの措置を全国に拡大する。
治療薬の量に限りがある場合に備え、大流行が起きた際に治療薬を使用する優先順位について、(1)新型インフルエンザ入院患者(2)感染した医師らと社会機能維持者(3)心疾患などがある緊急性の高い患者(4)児童、高齢者(5)一般の外来患者の順とすることを定めた。
具体的な社会機能維持者は明記されていないが、交通・通信、石油・電力などのエネルギー産業、警察・消防などが想定されそうだ。
タミフルの備蓄量は、当初の予定どおり2500万人分としたが、1人で3日間服用(1日2錠)する計算を国際的な標準に合わせ5日間服用(同)に見直した。
備蓄量の割り当ては、国と都道府県が2100万人分、病院やメーカーなどの市場が400万人分を持つ。これまでは、市場が2000万人分、国と都道府県が500万人分としていたが、市場分は通常のインフルエンザにも使われているため、大幅に見直した。
政府は11月中に行動計画を作る方針だったが、18〜19日に韓国・釜山で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、この対策が議題となることも予想されるため、計画のとりまとめを前倒しした。
◇
《新型インフルエンザ》
従来のインフルエンザウイルスと鳥インフルエンザウイルスが、人や豚の体内で混じり合って遺伝子が組み換わり、出現するなどの可能性が考えられている。ウイルスの型が違うため人間には免疫がなく、発生すれば大流行が予想されている。
過去にはスペインかぜ(1918年)、アジアかぜ(57年)、香港かぜ(68年)が出現。スペインかぜは、世界で推計6億人が感染し、3000万人が死亡した。現在は、衛生環境や医療水準は改善されているが、交通機関の発達や都市化・高齢化などにより、短期間で広がる恐れがある。
ベトナムやタイなど東南アジアではH5N1型の鳥インフルエンザウイルスの人への感染が相次ぎ、これまでに64人が死亡。ギリシャ、トルコ、ロシアでも、鳥からウイルスが見つかっている。このため、世界保健機関(WHO)は「大流行は時間の問題」として各国に警戒を呼びかけている。治療には、ウイルスの増殖を防ぐ「タミフル」が新型にも有効だと考えられており、米国は71億ドルをかけて治療薬の備蓄やワクチン開発を進める方針だ。
2005年11月12日09時10分 朝日新聞
http://www.asahi.com/life/update/1112/002.html
どうでしょう、抗ウイルス剤タミフルの備蓄量を2500万人分にするのを柱としたこの行動計画ですが、大丈夫なのでしょうか、実は調べてみると実現性におおいに疑問が残る計画なのです。
●新型インフルエンザワクチンの問題〜開発の困難さと世界的供給不足
そもそもインフルエンザ大流行に備えるには、感染前のワクチン投与と感染直後の抗ウイルス剤投与が有効とされております。
ワクチンを事前に投与すれば体内にウイルスに対する免疫ができ重症になることを抑制してくれるのですが、実際は、バイオ企業等が人類に大流行を引き起こす可能性のある鳥インフルエンザのワクチン開発を急いでいますが、これは非常に困難な仕事であるようです。常に変異し、複数存在する鳥インフルエンザウイルスに対し、適切なワクチンを開発することは可能なのか、そして十分な量を製造することは出来るのか、という二つの点で大きな疑問がつきまとっています。
バイオ企業による鳥インフルエンザワクチン開発競争
米国西海岸時間2005年10月20日
リサ・M・クリーガー記者:マーキュリー・ニュース
http://www.asahi.com/english/svn/TKY200510210162.html
それでも世界各国の予防の主流はワクチン投与でありまして、旧型のウイルス対象ではありますがしかしそれも世界的に供給不足のようです。
米で今季もインフルエンザワクチン不足か
【ワシントン=笹沢教一】過去2年続けてインフルエンザワクチンの深刻な不足を招いた米国で、今季も供給不足に陥る恐れが出てきた。
鳥インフルエンザ不安などで、例年以上にワクチン接種の希望者が殺到しているためで、米疾病対策センター(CDC)は10日、アリゾナ州で深刻な供給不足が起きていることを明らかにした。
米メディアによれば、同州のほか、コネティカット、カリフォルニア、テキサス各州と首都ワシントンで、供給不足による接種中止などが起きている。
米国内でこれまでに供給されたワクチンは約7150万人分で、今後、追加供給できる量は、最大でも1200万人分にしかならない。特に小児用は、今年の供給分をすべて放出してしまったので追加供給の見込みがないという。
(2005年11月11日21時51分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20051111id21.htm
予防にもつながるワクチンに対して、抗ウイルス剤の方は感染初期に投与すれば症状を軽くする効果が期待されている薬で、タミフルもその一つなのです。
しかし、このタミフル実はスイスの製薬会社が一社独占で製造している薬であり調べてみるとなんとも増産しにくい事情があるようなのです。
●実は日本ばかりで売れてきたタミフルの摩訶不思議
昨日(12日)の毎日新聞にはタミフルに関する非常に気になる報道がありました。
インフルエンザ治療薬:タミフルで異常行動死 服用の2少年、副作用か
インフルエンザ治療薬のリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)を飲んだ患者2人が、飲んで間もなく行動に異常をきたし、1人は車道に走り出て大型トラックにはねられ死亡、もう1人はマンションの9階から転落死していたことが11日、分かった。薬の添付文書には副作用として「異常行動」(自分の意思とは思えない行動)や「幻覚」などが起きる場合があると書かれているが、死亡につながったケースの判明は初めて。厚生労働省安全対策課も死亡例の一つを副作用として把握しており「異常行動の結果、事故死する可能性もある」としている。
(後略)
毎日新聞 2005年11月12日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20051112ddm001040003000c.html
この副作用の問題も気になるところですが、注目したいのは記事の後段の以下の記述であります。
タミフルはスイス・ロシュ社が開発した。ウイルスの増殖を妨げ熱がある期間を1日程度縮める効果がある。国立感染症研究所の医師によると日本での年間販売量は1500万人分で、世界の8割以上を占める。
これは摩訶不思議なのでありますが、タミフルは「日本での年間販売量は1500万人分で、世界の8割以上を占める」そうなのです。
胡散臭いとまでは言いませんが、日本一国で販売量が「世界の8割以上を占める」薬など他にあまり聞きません。
他国に比べて日本がワクチンよりも抗ウイルス剤を使用した治療が主流であることを考慮しても少し異常な数値であると思いました。
●スイス・ロシュグループの世界販売戦略の先兵である中外製薬
タミフル(リン酸オセルタミビル)は、タミフルカプセル75、タミフルドライシロップ3%として、日本では中外製薬が独占して販売しております。
おくすり110番
成分(一般名) : リン酸オセルタミビル
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se62/se6250021.html
スイス・ロシュ社が製造するタミフルの8割以上が日本で販売され、かつそれは中外製薬が一社が独占して販売しておるわけです。
スイス・ロシュ社のホームページを調べると10月19日付けプレスリリースで興味深い記述が発表されています。
Virology — Tamiflu sales surge forward
Worldwide sales of Tamiflu rose to 859 million Swiss francs, mainly as a result of increased orders for pandemic readiness supplies. Roche has donated 3 million packs of Tamiflu to the World Health Organisation (WHO) for use as a rapid response stockpile in the event of an outbreak of a pandemic strain of influenza. The Group has already significantly expanded its Tamiflu production capacity several times, and Roche will continue to take action, both on its own and with a significant number of suppliers, to increase production capacity for Tamiflu to meet seasonal and pandemic needs.
Basel, 19 October 2005
Roche continues to post strong growth through third quarter
http://www.roche.com/med-cor-2005-10-19
成長を続けるスイス・ロシュ社でありますが、中でも「Worldwide sales of Tamiflu rose to 859 million Swiss francs, mainly as a result of increased orders for pandemic readiness supplies.」というわけで、タミフル(Tamiflu)の売上げは実に8億5900万スイスフランに急増しており、その8割以上が、日本市場つまり中外製薬一社で売られているわけです。
裏付けるように中外製薬の『平成 1 7年 1 2月期第3四半期財務・業績の概況(連結)』を見ると、
[経営成績(連結)の進捗状況に関する定性的情報等]
当連結第3四半期における売上高は2,309 億65 百万円(前年同期比8.0%増)となりました。
本年2、3月におけるインフルエンザの大規模な流行のため、抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」が期初の業績予想を大幅に上回る売上増となったことに加え、主力製品であります遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤「エポジン」をはじめとする既存品も堅調に推移しました。さらに、平成16 年5月に上市しました骨粗鬆症治療剤「エビスタ」につきましても市場での認知度が高まり売上高の増加に寄与しました。
輸出を含む海外売上高につきましては、ヨーロッパ市場を中心としたノイトロジンの好調な売上増加等により、171 億62 百万円(前年同期比25.5%増)となりました。なお、当連結第3四半期における海外売上高比率は7.4%となりました。
利益面につきましては、売上高の増加、販売費及び一般管理費の圧縮等の相乗効果により、営業利益570 億44百万円(営業利益率24.7%)、経常利益599 億87 百万円(経常利益率26.0%)となりました。四半期純利益につきましては、特別損失として筑波研究所の閉鎖に伴う減損損失5億49 百万円と本社および米国子会社の移転等に係る費用7億60 百万円が発生しましたが、松永工場跡地と鏡石工場の売却益7億22 百万円および当社開発品である「MRA」のロシュ社との共同開発に伴うマイルストーン収入16 億67 百万円、厚生年金基金の代行返上益107 億17 百万円の特別利益の計上があり、これらの結果447 億98 百万円の四半期純利益となりました。中外製薬『平成 1 7年 1 2月期第3四半期財務・業績の概況(連結)』より抜粋
http://www.chugai-pharm.co.jp/pdf/brief_note/2005/3Q_2005.pdf
「抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」が期初の業績予想を大幅に上回る売上増となったこと」により極めて良好な決算状況なのですが、『主要製商品別売上高』を見てみると、17年12月期1-9月実績で対前年増減率で「タミフル」は実に223.6%という前年度比3倍以上の驚異的売上げ増を記録しております。
余談ですが中外製薬の株価も鰻登りでありまして、2月18日には1,515円だった株価が、11月7日には2,940円と10年来最高値を更新しています。(現在値2,710円)
NIKKEINET総合企業情報株価サーチ 中外製薬
http://company.nikkei.co.jp/indexs.cfm?scode=4519
以上、スイス・ロシュ社と日本の中外製薬が二人三脚で日本で抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」を売りまくっているわけですが、実はここにひとつのからくりが見えてきます。
2年前の通商白書から・・・
(6)グローバル展開に向けた競争力強化
―中外製薬・ロシュの事例―
1990年代後半以降、海外の製薬業界では世界的な再編が進展した。その背景には、ゲノム創薬(人間の遺伝子情報を活用した医薬品開発)をめぐって世界的な開発競争が激化し、また、新薬の研究開発に巨額の費用がかかることから、欧米の大手製薬メーカーは、規模の利益を追求してM&Aによる合従連衡を繰り広げた。外資系製薬メーカーは、大規模な費用を投じて開発した新薬の世界的な販路拡大と収益の最大化を求めて、有望な市場でもある日本にも進出し、従来の日本メーカーの販路を活用する体制から自社販売体制の構築へと積極的な事業を展開してきた。他方、日本企業においては、国内の薬価引下げや医療費抑制策による経営環境の悪化、バイオ医薬品等の研究開発費の巨大化等を背景に、今までの経営手法では成長が望めなくなり、かつ外資の力に圧倒され、守勢に回らざるを得ない状況になった。このような厳しい経営環境は、中外製薬においても例外ではなく、グローバルな競争に勝ち残るための企業戦略の再構築が不可欠となった。そのような状況下で、スイスを拠点とするロシュは、バイオ医薬品生産技術やゲノム情報に基づく創薬・医薬品ビジネスプラットホームの構築において世界有数の製薬企業であり、中外製薬にとっては、バイオ医薬品分野での研究開発・生産・販売の協力体制をグローバルな規模で構築できるメリットを有していた。2002年10月に、両社はロシュが中外製薬の株式を50.1%取得するという形で合併した。両社の合併により、中外製薬はロシュグループの一員となることで経営基盤の強化を確保するとともに、海外開発・販売面においてはロシュのグローバルネットワークを活用することで効率的な事業展開が可能となったほか、国内トップクラスのグローバルな事業基盤を有する研究開発型製薬企業として飛躍することが期待された。他方、ロシュにおいても、世界第2位の日本市場における新薬開発・販売基盤を確立するとともに、日本発の創薬パイプラインへのアクセスを通じてR&D機能の多様性を拡大し、グローバル競争における優位性を一層強化することが可能となった。つまり、中外製薬とロシュの両社にとって、合併は製品研究開発及び販売面において相互補完体制を構築できるというメリットがあった。なお、合併後の新生中外製薬の売上高2,530億円(2000年度実績ベース)は、国内医療用医薬品売上げランク第5位となり、また、中外製薬を含むロシュグループ全体の推定売上高(同)は約2兆3,000億円となり、世界ランク10位以内の企業となる。さらに、研究開発面では、研究開発費比率の高い(対売上高比率20%)の中外製薬が加わることで、ロシュグループ全体の研究開発投資額は年間約3,000億円を超える等、世界的競争力の強化が期待される。
2003年通商白書 第3章 日本経済の活性化に向けての取組み より抜粋
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2003/15tsuushohHP/html/15313600.html
つまり、中外製薬はロシュグループの一員となることで、ロシュグループ全体の世界販売戦略に乗るかたちで、スイス・ロシュ社の独占商品「タミフル」を世界第二位の医薬品市場である日本で売りまくっているわけです。
ただ、ロシュグループと中外製薬の名誉のために補足しますと、日本で「タミフル」が販売急増しているのはそれなりに納得できる理由はありそうです。
「タミフル」以外の抗インフルエンザウイルス剤では、「シンメトレル」と「リレンザ」がありますが、何故日本で「タミフル」ばかり売れるのかと申しますと、「シンメトレル」はインフルエンザA型にしか効き目が無くB型には効果がないという欠点があることと、「リレンザ」は錠剤ではなく吸入粉末剤であり取扱が面倒であることが、要因として上げられています。
抗インフルエンザ薬の比較(2001.3月現在)Medical Digest 2003 Jan vol 52 p52 松本慶蔵 長崎大学名誉教授より、極一部変更
http://www.m-junkanki.com/diseases/influenza6.html
つまり、A型にもB型にも効果がありかつ錠剤やシロップの形態で飲みやすい抗インフルエンザウイルス剤は「タミフル」だけであるわけです。
●日本政府の行動計画の脆弱性〜「タミフル」原料「八角」の供給不足はかなり深刻
今日の毎日新聞の興味深いコラム記事から・・・
八角とインフルエンザ 青野由利(論説室)
八角といえば中華料理に欠かせない香辛料だ。トウシキミと呼ばれる植物の実で、豚肉の角煮などによく合う。お星様のような形からスターアニスという名前も持つ。
この昔ながらのスパイスの意外な使い道を最近知った。今をときめく抗インフルエンザ薬「タミフル」の原料だ。八角からはシキミ酸という物質が抽出される。これがタミフル合成の出発点になっているという。
製造元のロシュ社によると、中国南西部で育つ特別な八角を使う。シキミ酸を作る大腸菌も利用しているが、それでも八角は大量にいる。昨年は全世界で使われたタミフルの8割を日本が輸入した。インフルエンザを甘く見てはいけないが、乱用も気にかかる。
一方で、日本の「新型インフルエンザ対策」には不安がある。厚生労働省は2500万人分のタミフルの備蓄を計画する。ところが、「5日処方」で承認しているのに、「3日処方」で換算していた。しかも、2000万人分は製薬企業の在庫をあてにしてきた。
厚労省は備蓄量を増やす方針という。しかし、タミフルは万能ではない。重症化を防ぐが、効果のない人もいる。副作用も気になる。なにより、新型への効果は試験管内や動物実験で示されているだけだ。
新型インフルエンザ出現についての研究はここ数年で格段に進んだ。問題は、そのリスクを適切に評価し、多面的に手を打てるかどうかだ。
八角の産地である中国では鳥インフルエンザが流行し、新型出現の震源地となる恐れもある。タミフル大量消費国の日本は、アジア支援にも心意気を示したい。(論説室)
毎日新聞 2005年11月13日 0時12分
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/hassinbako/
実に意外なのですが、中華料理に欠かせない香辛料「八角」が抗インフルエンザ薬「タミフル」の原料なのであります。
10月15日付けの英Independent紙では、この八角(英名:スターアニス)を小さな東洋の木の変わった実として記事にしております。
Why an exotic fruit is the world's only weapon against bird flu
By Jeremy Laurance, Health Editor
Published: 15 October 2005A rare herb grown in China used to flavour duck dishes and treat infants for colic is at the centre of a worldwide search for a cure for avian flu.
Star anise, the unusual fruit of a small oriental tree, is sold in supermarkets in the UK to consumers seeking its pungent, liquorice-like flavour.
(後略)
http://news.independent.co.uk/uk/health_medical/article319716.ece
掲載より時間経過しており全文を読むのは有料なのですが、タイトル「Why an exotic fruit is the world's only weapon against bird flu」『なぜエキゾチックな果実が世界で唯一の鳥インフルエンザに対する武器なのか?』と題して、タミフルの原料である八角(英名:スターアニス)の供給不足を警告している記事なのであります。
記事を要約しますと、
あひる料理にも使用される中国の薬草八角(英名:スターアニス)は、鳥インフルエンザに対する治療薬Tamifluを作るシキミ酸の源として利用されている。
しかし鍵となるスターアニスの不足が深刻である。
スイスの製薬メーカーロシュによると中国の4つの地方で育てられるスターアニスだけはTamifluに製造にふさわしく、しかし、収穫の90パーセントがロシュによってすでに使われている。
同社は、他のメーカーが生産を許すために薬の特許を軽くさせるという要求に直面している。
ロシュは原料の不足のため、もう一つのメーカーが生産を準備することは、非常に難しいと返答した。
英国政府はTamiflu(人口の25パーセントに十分な)の1460万本の備蓄を命じたが、しかし、250万本しか達成できていない。
アメリカを含む他の国々は、英国よりさらに備蓄が遅れている。
つまり、世界中でタミフル(Tamiflu)の需要が急増しているにも関わらず、原料である八角の供給不足がネックになり、需要を満たすほどのタミフルの増産はとてもできない見通しであるというわけです。
振り返って、日本政府の行動計画をもう一度見てみましょう。
治療薬「タミフル」の備蓄について、国と都道府県が確保する割合を当初の2割から8割超に引き上げ、「国家備蓄」の色合いを強めた。
・・・
タミフルの備蓄量は、当初の予定どおり2500万人分としたが、1人で3日間服用(1日2錠)する計算を国際的な標準に合わせ5日間服用(同)に見直した。
備蓄量の割り当ては、国と都道府県が2100万人分、病院やメーカーなどの市場が400万人分を持つ。これまでは、市場が2000万人分、国と都道府県が500万人分としていたが、市場分は通常のインフルエンザにも使われているため、大幅に見直した。
・・・
2005年11月12日09時10分 朝日新聞
http://www.asahi.com/life/update/1112/002.html
この備蓄計画は本当に実現できるのでしょうか?
世界的供給不足が予想されるタミフルに頼り切ってよろしいのでしょうか?
タミフル以外の手段の検討も含めて、再度よく国家計画を練らないと実現性が乏しい計画になってしまわないでしょうか。
このエントリーがこの問題に対するみなさまの考察の一助になれば幸いです。
(木走まさみず)