木走日記

場末の時事評論

[中国][社会]訪日観光ビザ中国全土拡大に警告する(2)〜やはり深刻な中国農村部のHIV感染者の実態

 昨日のエントリーの追記です。

●訪日観光ビザ中国全土拡大に警告する〜中国のHIV感染者の実態を知っているのか?http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050703/1120380744

 さて、昨日エントリーした内容は、日中両国政府が合意した訪日観光ビザを中国全土に拡大する施策と、中国のHIV感染者の深刻な実態を関連させて警告するものでしたが、コメント欄にて常連読者の皆様に手厳しく関連づけるのは無理があるというご指摘をいただきました。(苦笑
 まあ、反論いただいたりするのは当ブログでは毎回のことであり、そもそも強引に関連づけをした自覚(?)もしっかりあります確信犯でありますが、せっかく関心をいただいたので、多面的にこの問題を再度考察してみたいと思います。



●深刻な中国農村部の現状

 一年前の中国情報局から・・・

中国:エイズ状況が深刻、予防活動を今後強化へ

  新華社が国務院の呉儀・副首相が4月6日に開催された全国エイズ予防工作会議での談話全文を発表、それによれば、呉・副首相は、中国の現在のエイズ状況は非常に深刻で、その伝播などに新たな特徴も見られるようになってきており、現在がエイズ予防の重要な段階であるとの認識を示した。9日付で中国新聞社が伝えた。

  呉・副首相はこの会議で、中国のエイズに関する調査結果のデータを紹介、HIV(Human Immunodeficiency Virus)感染者は中国全土で84万人、そのうちエイズ発症者が約8万例、HIV感染者やエイズ発症者は中国全土に分布しており、青壮年層が主で、農村部での情況が深刻だと語った。

  HIVの成人に対する感染率はわずか0.1%ではあるが、人口の基数が大きいため、感染者や発症者の規模はすでにアジア第2位、全世界でも14位、特に最近、発症者数の増加が目立ってきており、流行の危険性はぬぐえないと指摘、エイズ中国経済や社会に対する損害にも言及した。

  HIV感染者やエイズ発症者の医療費負担増や社会的な差別による失業、あるいは失学、農産品の販売ができないなど、収入減少につながり、悪循環を形成、この悪循環による貧困、あるいは家庭崩壊も見られるとした。

  呉・副首相は、中国では現在、血液感染は基本的になくなり、覚せい剤による注射や母子感染が主流になってきていると指摘、コンドームの使用普及や覚せい剤など麻薬の取り締まり強化など一定の成果は上がってきているものの、中国全土で見れば、まだまだ活動が足りないとした。

  こうした状況に対して、呉・副首相は、全社会的にエイズ予防の重要性を認識させるなど、社会的な雰囲気作りの必要性を強調した。エイズ予防の活動メカニズムの早急な完備、社会的な差別の撲滅などが急務とした。(編集担当:鈴木義純)

2004/05/09(日) 21:10:00 中国情報局
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=0509&f=national_0509_006.shtml

 この昨年5月の新華社電の報道で初めて中国の感染者は中国全土で84万人であり、年率40%の勢いで増加している実態が公式に明らかになりました。
 この報告を受けて深刻な現状に危機を感じ、昨年12月から、中国は胡景濤国家主席自らが先頭に立ちエイズ予防・治療の国家キャンペーンに踏み切ったことは、昨日のエントリーで紹介したとおりです。

 さて上の記事で呉・副首相も語っているとおり、ひとつの問題は、「HIV感染者やエイズ発症者は中国全土に分布しており、青壮年層が主で、農村部での情況が深刻」なことなのです。

 中国は、みなさまもご承知のように、3億人たらずの主要都市を中心とした発展地域と10億人超の貧困にあえぐ農村部に明確に分かれています。



●昨日の読売新聞が伝える『HIVのるつぼ』と化す雲南省の実態

 一例ですが、昨日の読売新聞から・・・

中国のエイズ感染ルート 薬物と合致

「黄金の三角地帯」から流入
 急速に感染者が増える傾向にある中国のエイズは、インドシナ各国と中国国内を結ぶ交易拠点・雲南省を“拠点”とした薬物密売ルートと重なる形で感染を広げている可能性の高いことが、日本の国立感染症研究所チームによるエイズウイルス(HIV)の遺伝子分析でわかった。神戸市で開催中のアジア・太平洋地域エイズ国際会議で4日発表される。

 中国で最初のHIV感染の流行が明らかになったのは1989年。雲南省西部で、注射針を使い回す薬物乱用者の間で広まったとされる。その後、中国北西部の新疆ウイグル自治区や、東南部の広西チワン族自治区でも流行が確認され、感染地域が短期間で拡大した。

 感染研エイズ研究センターの武部豊室長らは、流行ルート解明のため、雲南省の感染者のHIVの遺伝子型を調べ、中国各地やタイ、インドなど周辺の国々で流行したHIVとの関係を推定した。

 その結果、雲南省西部のHIVには、88年からタイで流行した「タイ型」と、インドとタイで流行したHIVが遺伝子組み換えを起こして生まれた「混合型」があることがわかった。

 この混合型から新たに生まれたタイプが新疆ウイグル自治区に感染を広げ、やはりこの混合型から生まれた別の新タイプが広西チワン族自治区に感染を広げたことも判明した。

 この経路は、タイ、ラオスミャンマーの3国にまたがる世界最大級の麻薬生産地「ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)」で製造されるヘロインが中国国内に運ばれる密輸ルートと重なる。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)によると、中国国内のエイズ感染者の数は84万人に上り、このまま放置すると2010年には、1000万人に膨れあがると見られている。

 武部室長は「雲南省ミャンマーは、様々なHIVが存在する『HIVのるつぼ』。新たな流行株が出現し、治療薬が効かない恐れもあり、十分な警戒が必要」と指摘している。

(2005年7月3日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20050703ik07.htm

 中国はいくつもの多様な顔を持っていますが、都市部と農村部の格差は、経済的な面だけではなく、このような問題に置いても多層的に捉える必要があると思います。

 統計をきちんと取れている資料が無くて、数字で実証できないのが申し訳ないのですが、都市部においては、麻薬常習者や男性同性愛者などハイリスクグループがある程度、特定できていますが、雲南省西部農村部においては、薬物ルートをたどり、面的な広がりを持って混沌としているようです。



河南省では100万人以上が感染し、エイズで親を失った孤児は約10万人と推定

 農村部に感染者を拡大させているのは薬物だけではありません。

エイズ感染者支援を妨害・国際人権団体、中国を非難
 【北京15日共同】国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部ニューヨーク)は15日、中国当局が、エイズウイルス(HIV)感染者を支援する国内の活動家らを拘束したり、暴力を加えたりしていると非難し、これらの行為を直ちに中止するよう求める報告書を発表した。

 報告書は、感染者へ独自の支援活動をしたり、マスコミに発言している活動家らに対し、中国政府が組織的な嫌がらせを行っていると指摘。同性愛者にエイズ関連情報を提供するウェブサイトに反ポルノ法を適用し、情報面でも規制していると述べた。売血による感染が深刻な河南省では、地元当局が活動家ら数十人を拘束したと指摘した。

 専門家によると、中国のHIV感染者は2010年までに1000万人を超える可能性がある。河南省では100万人以上が感染し、エイズで親を失った孤児は約10万人と推定されている。 (12:51)

2005.06.15 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20050615STXKD027015062005.html

 この日本経済新聞の記事によれば、売血による感染が深刻な河南省だけでも、100万人以上が感染し、エイズで親を失った孤児は約10万人と推定されています。

 このような2次ソース(情報源)でしか数字を裏付ける資料が見あたりませんのですが、おそらく実数に近い推定なのではないでしょうか?
 もし、この数字が事実であるならば、中国政府の公式発表である84万人を河南省の感染者だけで越えてしまうわけです。



●避けられない観光ビザによるHIV感染者の流入

 中国当局も公式に認めている、都市部より深刻であるとされる農村部のHIV感染者の実態ですが、情報があまりにも少なく正確なところはわかりません。

 しかし、北京・上海などの主要都市に限定していた観光ビザ発行を、中国全土に広めた場合、当然ですが中国人観光客は急激に増加すると予測されますが問題は、以上触れてきたように、中国農村部から流入してくる観光客のHIV感染者の割合です。

 さらに踏み込んで言えば、今までの上海などからの高所得者層ではない層を迎え入れた場合の不法滞在・不法就労行為を行う者の割合への影響度であります。

 今までも観光ビザで来日しそのままオーバーステイし、風俗業などに従事する者が後を絶たなかったのでありますが、今回の中国全土日本ビザ解禁により、どういう事態が起こるのでしょうか?

 そのようなことを十分に検討すべきことなのは、日本政府として当然のことだと私は思うのです。

 もちろん、事実としてHIV感染者を完全に水際でくい止めることは不可能であります。
 しかし、日本での実現性は議論あるところでしょうが、空港でのHIV陽性検査ならば可能ではあります。

 皮肉なことに中国政府自身自国人にHIV感染者チェックを行っているのです。


●帰国ラッシュの北京空港、HIVなど陽性反応続出

 昨年末の中国情報局から・・・

帰国ラッシュの北京空港、HIVなど陽性反応続出
  北京市にある首都国際空港では、元旦や「春節旧正月)」を前に、帰国ラッシュを迎えている。その中、北京検験検疫局は、HIV(Human Immunodeficiency Virus)ウイルスと梅毒の陽性反応者が続出していることを明らかにした。29日付で華夏時報が伝えた。

  北京首都国際空港では、12月15日から20日にかけて、3人の中国人乗客がHIVウイルスあるいは梅毒に感染していたことが明らかになった。

  15日にはデトロイト発のCA982便の乗客1人でHIVウイルスの陽性反応、16日はローマ発のCA942便の乗客1人で梅毒の陽性反応、20日はアジスアベババンコク経由ET628便の乗客でHIVウイルスの陽性反応が確認された。(編集担当:田村まどか)

2004/12/30(木) 17:10:01 中国情報局
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2004&d=1230&f=national_1230_009.shtml

 このニュース、なんともせつないのが、海外からの帰国した者だけチェックしていて、出発する者はチェックしていないのですが・・・(苦笑

 少し掘り下げて考察してみました。

 みなさまのこの問題に対する考察の一助となれば幸いです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●訪日観光ビザ中国全土拡大に警告する〜中国のHIV感染者の実態を知っているのか?
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050703/1120380744