木走日記

場末の時事評論

訪日観光ビザ中国全土拡大に警告する〜中国のHIV感染者の実態を知っているのか?

今日の新聞の社説と記事を読んで、とても深く考えさせられることがありました。



●深刻な事態〜エイズ爆発的な感染拡大への入り口

 今日の読売社説から・・・

7月3日付・読売社説(1)
 [エイズ]「深刻な感染者拡大ペースの加速」

 多くの人が油断し、現状を甘くみているのではないか。エイズをめぐる日本の状況は極めて深刻なのに、社会の危機感があまり感じられない。

 昨年、新しく報告されたエイズウイルス(HIV)の感染者とエイズを発症した患者の数は、1165人に達し、初めて年間1000人を超えた。これまで確認された感染者・患者の累計も1万人を突破した。

 欧米などに比べて絶対数はまだ少ないが、安心するのは大間違いだ。先進国の多くで、新たな感染者の数は横ばいになっているのに、日本では、ペースを速めながら増加し続けている。

 特に問題なのは、エイズを発症してから発見される例が3割もあることだ。感染したまま気づかない人が、かなり存在することを物語っている。

 2010年には感染者が5万人に達する、という厚生労働省研究班の推計もある。爆発的な感染拡大への入り口が、目の前に迫っているのではないか。予防啓発と検査体制の拡充を急ぎ、ここで踏みとどまらなくてはならない。

 最も重要なのは、若年世代への働きかけである。最近5年間の感染者は、20歳代以下が35%、30歳代が40%を占め、若い世代を中心に感染が拡大している。

 原因は無防備な性行動の増加だ。

 1990年代後半まで年間3万件前後だった未成年の中絶が、2000年以降は4万件以上に増えた。

 高校生は女子で5割近く、男子で3割以上に性体験があり、うち1割がクラミジアに感染しているとの報告もある。学校や家庭で、性の知識やエイズ予防を、しっかりと教える必要がある。

 エイズ相談や感染者を支援している非政府組織(NGO)と行政の連携も強化しなければならない。

 神戸市で「アジア・太平洋地域エイズ国際会議」が開かれている。各国のNGOと行政担当者らが集まり、予防教育の取り組みや、感染者の治療と支援などに知恵を出し合っている。

 エイズの流行の中心は、アフリカからアジアに移りつつある。中国やインドで感染爆発が懸念される一方、タイのように、国を挙げた取り組みで拡大阻止に成功しているケースもある。

 小泉首相が「世界エイズ結核マラリア対策基金」に5億ドルの拠出を表明するなど、日本は発展途上国エイズ対策を資金支援しているが、途上国の経験を国内対策に生かすことも重要だ。

 エイズにかかわる団体や機関の幅広い協力体制を築き、社会に危機意識を呼び戻す機会としたい。

(2005年7月3日2時6分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20050702ig90.htm

 「昨年、新しく報告されたエイズウイルス(HIV)の感染者とエイズを発症した患者の数は、1165人に達し、初めて年間1000人を超えた」わけですが、事態が深刻なのは「先進国の多くで、新たな感染者の数は横ばいになっているのに、日本では、ペースを速めながら増加し続けている」点ですね。

 予防啓発と検査体制の拡充を急がなければなりません。



●訪日観光ビザ、中国全土拡大で合意

 ところで朝日新聞から・・・

訪日観光ビザ、中国全土拡大で合意 関係改善に配慮

 中国を訪問した北側国土交通相は2日、邵●偉国家観光局長と北京市内で会談し、同市や上海など3市5省に限定している日本訪問の団体観光ビザの発給について、25日から期間を限定しないで中国全土に拡大することで合意した。

 険悪化した両国関係を改善する契機とするため、ビザ拡大を愛知万博期間中に限らず恒久的に運用するよう求めていた中国側の要求に日本側が応じた。

 また、ビザ発給拡大に伴って懸念される旅行者の失踪(しっそう)や不法滞在などの問題について、両国間で対策を協議する場をつくることでも合意した。

 引き続いての呉儀(ウー・イー)副首相との会談では、呉副首相が「日中間では政治関係が緊張し、国民感情にも影響を与えている。友好の懸け橋である観光を発展させていくことは重要だ」と述べた。5月の小泉首相との会談取りやめについては触れられなかったという。(●は「王」へんに「其」)

2005年07月02日22時18分 朝日新聞
http://www.asahi.com/politics/update/0702/004.html

 「友好の懸け橋である観光を発展させていくことは重要だ」という意見には異論はありませんが、中国からの観光客が急増した場合の日本国内の受け入れ態勢は大丈夫なのでしょうか。

 特に防疫面での検査体制の拡充は行政として急務でありましょう。

 私は昨年、JANJANにてある記事をきっかけに中国のエイズ感染の実体を調べたことがありましたが、それは想像を超えた危機的状況を呈しており、あれから半年たった今でも事態はむしろ悪化しているようなのです。



●中国衛生部が認めたHIV感染者年率40%ペースで爆発的に拡大

 これが問題のJANJANの記事であります。

中国マスコミスキャン〜エイズ漢方薬 2004/12/03

国家主席 エイズ患者と握手

 12月1日・「世界エイズデー」の前日になる11月30日、中国衛生部(日本の厚生省にあたる)は、「2004年中国エイズ聯合報告」を発表した。

 報告書には、中国人を驚かす数字が多い―「国内のHIV感染者が年間40%増加しており、増加率は世界14番目、アジアで2番目」「今年4月までに確認されたHIV感染者は84万人で、エイズ患者(発症者)は8万人」。感染規模の大きさから、報告書は「危険度の高い特定層から一般市民層への流行の抑制」を最大の課題にしている。

 深刻な現状に危機を感じ、中国はエイズ予防・治療の国家キャンペーンに踏み切った。
 12月1日のテレビニュースと主要紙は1面で、胡景濤国家主席が見舞い先の病院でエイズ患者と握手を交わすシーンが写されていた。胡主席は、エイズの予防と治療を「党の機関と各地方政府の政務の重要な一環」と位置づけた。
http://news.xinhuanet.com/photo/2004-12/01/content_2279522.htm

 各紙の報道によると、スーパー、商店などにコンドームの自動販売機を設置し、ホテルなどの宿泊施設でも宿泊客にコンドームの自主使用を勧めるなど、様々な案が検討されている。「エイズ予防が小中高校の教育プログラムに盛り込まれた」との報道もあった(『北京週報』(04年48号)。

「市民権」を得たコンドーム

 中国新聞社(9月27日)の写真付き記事は、コンドームの広告が福建省・福州市の街頭に堂々と登場したと伝えた。コンドーム製造会社が繁華街の道端に設置した赤の広告箱に「“愛に安全保障を”エイズ予防は自分から」が書かれており、通行人たちの目を引く。同市では2年前にもコンドームの広告が現れたが、当時は、公共の場に相応しくないとの理由で半日も経たずに撤去されたという。

 また、同市は12月1日、コンドームの無料配布イベントを行った。地元の『海峡都市報』(2日付)によると、「7万個を1時間で配布しても足りなかった」ほどの盛況ぶりだった。同記事には、「市の衛生機関が3、4年前にもコンドームの無料配布を試みたが、どんなに職員たちが大声を張り上げても、興味を示す市民は非常に少なかった」とも書かれている。

 コンドームが一応は「市民権」を得たことから、性とエイズに関して中国の世相に起きた変化が窺えるのではないか。

エイズ治療に漢方薬

 現在、「カクテル療法」(3剤併用療法)という方法がエイズ治療の主流となっているが、一人当たり年間200〜1000USドルの費用が必要だ。途上国のエイズ患者のわずか数パーセントしか、この治療を受けていない。(※1)

 中国では、エイズ患者に、漢方薬と西洋医学を融合させた療法を試みている。漢方薬は患者の免疫力を高め、副作用が少なく、値段も安いなどの利点がと指摘されている。中国では、漢方医学は人間のもつ免疫力、回復力を高めることで治療する「涵養(かんよう)の医療」として親しまれている。

 中国国家漢方医薬管理局は今年6月、国内15省・自治区エイズ患者3万600人に無料治療を提供し、そのうち5省のエイズ患者2300人に対し漢方薬による治療を行うことを決定した。『北京週報』(04年48号)が伝えている。

 また、『経済日報』(11月26日)の記事によれば、中国の研究者が独自に開発した複合型エイズ予防ワクチンが25日、臨床試験実施認可を得た。現在、中国を含む世界19の国で約30種類のエイズワクチンについて初歩的な臨床実験が行われている。

参考資料

※1 「ダーバンからバルセロナへ〜全てのHIV感染者への治療実現を」【アフリカ日本協議会(AJF)】

(曾理)

インターネット新聞JANJAN
http://www.janjan.jp/media/0412/0412021227/1.php

 この記事が載ったとき、私は84万人という感染者数と中国のHIV感染者増加率が年率40%という驚愕の数字に声を失いました。
 統計学を持ち出すまでもなく年率40%の感染者数拡大というのは、尋常の増え方ではなく何らかの対策を早急に施さなければ歯止めの効かない事態になる可能性が大きいのではないかと思いました。

 そこで、インターネットで少し調べてみたのですが、調べれば調べるほど、中国の事態は深刻であることがわかってきました。



●10年後の中国のHIV感染者は2500万人という試算

 私は当記事のご意見板に当時、自分の調べた範囲でコメントしました。

[5553] かなり深刻な事態のようですね。
名前:木走正水
日時:2004/12/04 11:07
 中国で起こっていることは、そこに現れる数字の大きさに驚かされることが多いです。最近でも炭鉱事故で毎年5000人以上の人が死亡していると報道で知ってびっくりしましたが、この記事にある、HIV感染者は84万人という数字もショッキングでした。
 
 84万人という感染者数の多さもさることながら、年間40%というとんでもない増加率にこそ、危機的な深刻な現状があらわれているのでしょう。このペースで感染が拡がるとして試算すると、10年後の中国のHIV感染者は2500万人という天文学的数に至るわけです。
 だいいち、この報告書の数値そのものの信憑性も、私としては鵜呑みにできないと思っています。新型肺炎SARSの時の感染者数の過少申告という「前科」がある中国の発表にいまひとつ信頼をおけない(失礼)こともありますが、HIV感染者の場合は、実際感染はどこまで拡大しているのか、中国当局も完全に把握し切れていないのではないでしょうか。この報告書の数字はこれでも控えめな数と考えるのが妥当だと思われます。

 さて、
記事から引用=============
感染規模の大きさから、報告書は「危険度の高い特定層から一般市民層への流行の抑制」を最大の課題にしている。
===============引用終了
 にある、「危険度の高い特定層」に関心を持ちました。

 すこし調べてみましたところ、やはり、ハイリスクグループの1番は薬物(麻薬)使用者で、2番は男性同性愛者でありました。


http://news.searchina.ne.jp/2004/0120/national_0120_008.shtml
「広東:エイズまん延、最大の原因は麻薬の吸引」

 この記事によれば、
引用開始=============
  姚・庁長によれば、最も大きな原因は麻薬の吸引で、そのうち売春婦の麻薬常習者が増えていることが粘膜感染の増加につながっているという。売春婦のHIVエイズウイルス)感染率は現時点で2.25%、麻薬常習率は25%で、そのうち78%以上が静脈注射による麻薬中毒であることが確認されている。
=============引用終了
 深刻な数字が並んでいますが、さらに問題は多方面にわたっているようです。
引用開始=============
  また姚・庁長は、同省が人口流動の激しい地域であること、人口と比較して衛生物資が欠乏していること、住民らの性に対する意識が開放的な傾向にあること、エイズ防止政策が行き届いていないこと、感染者に対する蔑視が根強く存在し、治療に訪れる者が少ないことなど問題は多方面にわたっていると述べた。
=============引用終了


http://www.people.ne.jp/2004/12/01/jp20041201_45658.html
「同性愛者の中国人男性、エイズ感染率1.35%」

 この記事によれば、
引用開始===============
同調査によると、性的に活発な時期にある中国人男性のうち、同性愛者の割合は2〜4%。つまり、中国には500万〜1千万人の男性の同性愛者がいるとみられる。
===============引用終了

 同性愛者の中国人男性のエイズ感染率1.35%でありますが、深刻なのはその推定人数です。この記事では、男性同性愛者の推定数が500〜1000万人ですが、別の記事での推定数では3000万人との記述もありました。

 中国では長い間、「同性愛者は精神病である」とされ、政府側においても住民側においても、彼らは放置されタブー視されてきたようです。
 そのことも、ここまで事態が深刻になった要因のひとつと思われます。

http://www.milkjapan.com/2001jn05.html
「【中国】 「同性愛は病気ではない」精神科医連盟が満場一致で決議」
引用開始===============
これまで「同性愛は精神病である」としてきた中国の精神科医連盟はこのたび、過去の方針を改め、同性愛は病気ではないとすることを満場一致で決定した。来月発表される「中国精神障害の分類と診断基準」第3版に、精神病の診断基準としてその旨が記述される。また、同性愛についての病理的な記述もすべて取り外されることになる。「同性愛は異常なもの」とみなされてきた中国でようやく、同性愛が公式に精神病とみなされなくなる日が訪れようとしている。
===============引用終了


 調べるとそこに登場する数字の桁違いの大きさに驚かされますが、中国当局が危機感を強めて、エイズ予防・治療の国家キャンペーンに踏み切ったのは、まずは評価したいと思います。しかし、コンドームキャンペーンと漢方薬治療では、なんとも心許なく感じられます。
 エイズ予防・治療の分野でも、日本からの支援はできないものでしょうか。
 個人的にはこの記事を読んでその必要性を強く感じました。

インターネット新聞JANJAN コメント欄
http://www.janjan.jp/media/0412/0412021227/1.php

 私は、「訪日観光ビザ、中国全土拡大で合意」を短絡的に反対するものではありません。広い意味で日本に来る外国人が多くなることは、日本の国益とも合致すると確信しています。しかしながら、日本政府の場当たり的な政策決定には大いに不満もあります。一部政治家と外務省の思惑だけで、例えば一例に過ぎませんが防疫体制も不備のままこの合意がなされていること事態、そのことをとても危惧するのです。

 読者のみなさまはいかがお考えでしょうか?



(木走まさみず)



<関連テキスト>
●訪日観光ビザ中国全土拡大に警告する(2)〜やはり深刻な中国農村部のHIV感染者の実態
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050704/1120473371