木走日記

場末の時事評論

小泉スピーチ〜日本に残された課題

●評価分かれる小泉スピーチ

 前回のエントリーで、小泉お詫びスピーチに関し当ブログとしてはまあ肯定的評価をさせていただいたわけですが、さっそく興味深いトラックバックを頂戴いたしました。

 玄倉川の岸辺
「アジア・アフリカ首脳会議における小泉総理大臣スピーチ」を論じたブログいろいろ
http://blog.goo.ne.jp/kurokuragawa/e/96ad87826ed2d9949a2394ac32ccfc7d

 小泉スピーチに対する賛否を多くのブログのURLを列挙し紹介しています。
 いやあ、ご苦労様です。数えたら90余りのブログの論説を、否定的32、中立的15、肯定的43に分けておられます。

 余談ですが、この試みはネットリテラシー論的にすばらしいと思いました。既存メディアに対しネットメディアの優位性のひとつとして、情報発信数が圧倒的に量的に多いことが上げられますが、これはいわば既存メディアが出来事をほぼ単一の点として発信するしかないのに対し、ネットメディアたとえばブログ群は事象を点ではなく面的に捉えることにより、理論的にはより多角的視点での考察・検証が可能であるはずであります。

 現状は当ブログも含めて情報の精度とか課題はまだまだありましょうが、こういう試みはとても有益だと思いました。

 で、小泉スピーチは、肝心の国民に支持されているのか否かでありますが、朝日新聞から・・・

中国主張「納得せず」71% 靖国参拝「中止を」48%

 中国での反日感情の高まりを受けて日中首脳会談が開かれた直後の24日、朝日新聞社は、緊急の全国世論調査(電話)を実施した。両首脳は日中関係改善へ向け対話を促進していくことで合意したが、今後の両国関係の修復に向けては「前進しない」(50%)と「前進する」(47%)とで受けとめ方が分かれた。日本の歴史認識について反省を行動で示すよう求めた中国側の主張には71%が「納得できない」としながらも、小泉首相靖国神社参拝については「やめた方がよい」が48%とほぼ半数に上った。

 小泉首相は会談で反日デモについて、中国側に適切な対応を取るように要請したものの、謝罪や補償には触れなかった。こうした首相の姿勢を56%が「評価しない」と答え、「評価する」(27%)を大きく上回った。

 中国の胡錦涛(フー・チンタオ)国家主席が、日本の歴史認識に関し「中国国民の感情を傷つけた」として、反省を行動に移すよう求めたことについて、「納得できる」は19%にとどまった。

 ただ、小泉首相靖国神社参拝については、「やめた方がよい」が「続けた方がよい」(36%)を上回り、中止を求める意見が多かった。昨年11月の日中首脳会談後の調査では、39%対38%と拮抗(きっこう)していた。

 今回は、すべての世代で「中止」が「継続」を上回った。中国側の主張に納得できない層でも、「中止」が「継続」と4割強でほぼ並んだ。一方、自民支持層では「継続」が51%を占めたが、「中止」も31%と、昨年11月(継続60%、中止24%)よりも接近した。

 反日感情が高まった背景に中国国内の歴史教育がどの程度影響していると思うかも聞いた。51%が「大いに影響している」とみており、「ある程度」を足すと8割以上が「影響している」と受けとめている。

 相次ぐデモなどを受け、3年後の北京五輪の開催について「不安を感じる」人は61%に達し、「平穏に行われる」(32%)の倍近かった。

 内閣支持率は43%で、不支持率は36%だった。調査方法が異なるため単純に比較できないが、前回調査(今月16、17の両日)の内閣支持率は42%で、今回の会談は支持率にはあまり影響しなかったといえる。

      ◇

 〈調査方法〉24日、全国の有権者を対象に朝日RDD方式で電話調査した。対象者の選び方は無作為3段抽出法。有効回答は808人、回答率は49%。

朝日新聞 2005年04月25日06時18分
http://www.asahi.com/special/050410/TKY200504240134.html

 引用していて批判するのも大人げないのですが、新聞発表のアンケート結果というものは しっかりリテラシーしないと読者として誤誘導されてしまう危険な代物であり、私としてはあまり信用していません。問題は大きく3点あると思っています。

 ①数学的統計学的処理の問題
 母集団の数、選択方法により、調査する側の意図が反映されることがある。
 ②設問自体の誘導性の問題
 設問のしかた、並び方により、ある主の誘導設問が可能である。
 ③結果の持つ意味づけの問題
 そもそもアンケート結果は参考情報にすぎない。

 ②に関してだけ具体的に少し述べますと、例えば「小泉首相靖国神社参拝についてやめた方がよいか?」という設問でも、反対意見を導こうと思えば簡単な設問の日本語のテクニックで結果を意図的に操作できる可能性はたえずあるといえます。


 「国際的に強く批判されている小泉首相靖国神社参拝についてやめた方がよいか?」

 こう質問すればこれで数%は変動しましょう。(苦笑)


 話を戻しますが、朝日のアンケートによれば、中国の主張を納得していない国民が71%、また靖国参拝中止を求めている国民が48%とのことのようですが、木走としては、今後の両国関係の修復に向けては「前進しない」(50%)と「前進する」(47%)とで受けとめ方が二分されたことのほうが興味が有ります。

 もちろん、肯定派・否定派とひとくくりにまとめても、各意見は極めて多様でありますが、今日は、読者のみなさまと冷静に肯定派、否定派それぞれの意見を検証してみましょう。

 それぞれ良識的な意見であると思われる主張を取り上げてみました。ここで良識的というのは、当然ですが極論(たとえば盲目的中国賛美論とか逆に狂信的中国排他論とか)を排し、一般読者から見て違和感がなくうなずける論説というぐらいの意味です。



●肯定派〜日経社説

 まず、日経社説から・・・

社説1 双方の努力で日中関係の修復を急ごう(4/24)

 小泉純一郎首相と中国の胡錦濤主席が23日、日中関係の打開策を巡りインドネシアで会談した。中国で大規模かつ過激な反日デモが続発するなど、日中関係は国交正常化以来の最悪状態にある。両国首脳にはこれを機に相互訪問などを通じ本音の意見交換を定期的に行い、日中の中長期的な友好協力関係を再構築してもらいたい。そのためには双方の努力が必要だ。

 中国には反日デモにおける破壊・暴力行為の非を認め、再発防止に全力をあげるよう求める。また未来志向の日中関係を構築するために、日中戦争に過度に偏した近代史教育を見直してもらいたい。一方、日本は近隣諸国との対話を深めると同時に、戦前の歴史を直視し、過去を肯定していると疑われないように言動を戒めるべきだ。

 一連の過激なデモの先頭には、江沢民政権が推進した愛国(反日)主義教育を受けて育った若者たちが数多く見られた。インターネット世代の彼らは学校教育をもとにネット論壇で日本非難を競い合い、日ごろの憂さ晴らしを行ってきた。観念の世界で反日意識を増殖し、今回はそれを大々的に行動に移した形だ。

 この数日間、共産党政権はデモ沈静化のため、各地で日中関係の学習会を開いた。その中では毛沢東周恩来トウ小平の歴代指導者がいかに日中関係を重視し、善隣友好政策をとったかを強調している。反日教育の行き過ぎや誤りを修正せざるを得なくなった、とも受け取れる。

 共産主義イデオロギーの正当性を失った政権にとって、国家の統合を維持するためには愛国主義教育が必要かもしれない。しかしそれが隣国への敵がい心を増殖し、激しい対立が日常化するなら決して中国のためにならないはずだ。

 中国政府には戦後の日本が過去への反省のもとに、平和国家として中国の経済発展に協力を惜しまなかったことを公平に教えてもらいたい。 小泉首相は22日のアジア・アフリカ首脳会議で10年前の村山富市首相(当時)談話を引用し、戦前の日本の植民地支配と侵略戦争への反省とおわびを再表明した。

 国際会議でのこうした謝罪は異例であり、日本国民としてはやりきれない思いも残る。しかし小泉首相の4年連続の靖国神社参拝が近隣諸国の国民感情を刺激したことは疑いない。第2次大戦戦勝国である欧米の旧連合国も、この問題では中国や韓国に同情的である。小泉首相靖国問題の解決なしに謝罪を繰り返しても、事態の打開策とはならない。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20050423MS3M2301523042005.html

●否定派〜産経正論

 次に、産経正論から・・・

【正論】初代内閣安全保障室長 佐々淳行 責任は愛国教育と土下座外交にあり

終りにしたい日中双方の悪循環

≪「内憂」の「外患」への転嫁≫
 中国各地に燃え上がった反日運動に中国側は、「責任は日本にあり」「小泉総理の靖国参拝が諸悪の根源」「海底ガス油田試掘は重大な挑発」「まだ文書による謝罪をしていない」等、一方的に日本非難の公式見解を繰り返し、一向に謝ろうとしない。

 中国側の高飛車な姿勢に日本国民は怒っているが、日本側は政治も外交もホンネを言いそびれている。だから筆者が国民に代わって言おう。日本側に責任はない。全責任は中国指導部と警備当局にあり、その最大の責任は江沢民前主席にある、と。

 江沢民前主席は、人民解放軍文化大革命も知らないポスト天安門の若い世代の支持を得るため、日本を悪者に仕立て、独裁者の常套(じょうとう)手段である「内憂」の「外患」への転嫁を十数年続けた。

 「頭は共産主義、体は資本主義」という自己矛盾に満ちた一国二制の捩(ねじ)れ現象が生み出した貧富の差、汚職の横行、都市部と内陸部の格差拡大、権力の腐敗などへの不平不満、体制批判を、日本の「靖国」「教科書」「南京虐殺」等のせいにしたのだ。ネットも反体制エネルギー吸収のため活用した。

 サッカーアジア杯重慶大会や、いま連日、北京や上海で「愛国無罪」と叫んで暴れている群集心理に酔った集団ヒステリー状態の暴徒の姿は、三千万人の犠牲者を出したといわれる、あの文化大革命の「造反有理」と絶叫する紅衛兵の姿にそっくりである。

 中国は日本の歴史認識や教科書問題に内政干渉する前に、「文化大革命」を一切封印し、「天安門事件」とともに中国の歴史から抹殺しようとしている中国共産党の偏った歴史観反日愛国教科書こそを反省すべきだ。

≪未来志向は何処へ行った≫

 ここまで中国を付け上がらせてしまった日本側に責任があるとすれば、それは自虐的土下座外交を続けてきた外務省のチャイナスクールと、それを容認し、江沢民前主席の反日外交、反日愛国教育に屈従した親中派の政治家と、そして迎合的自虐的反日批判を続けてきた朝日新聞などのマスコミにある。

 日本政府の対外広報も同罪だ。なぜ長い間、天皇や歴代総理が謝罪した事実や、三兆三千億円に達する政府開発援助(ODA)や平和日本の現状を十三億人民に知らせよと言わなかったのか。

 最近筆者は先方から請われて、ある中国要人と会談した。果せるかな、彼は舌鋒(ぜっぽう)鋭く「急激な日中悪化はすべて小泉総理のせい。これまですべてうまく行っていたのに、小泉総理は竹島問題で韓国と、拉致問題北朝鮮と、そして靖国・教科書問題、国連常任理事国入りなどで中国を敵に回している」とまくしたて、「貴見如何」と問うた。

 筆者は「言責一切、浪人である私にある」と断った上で、次のように述べた。

 私は日中国交正常化の折、右翼から中国側を守り抜いた警察庁警備課長であり、天安門事件での直言では人民解放軍副総参謀長だった徐信元帥から「真の友」といわれた。爾来、日中友好の“井戸掘り”の一人と自任しているが、この際あえて言う。周恩来トウ小平時代は「過去を忘れ、未来を志向しよう」というのが日中友好の流れだったはず。それを変えたのが江沢民時代の反日愛国教育だ。

≪未来永劫責任負わすのか≫

 中国も教科書で人民に「文化大革命」や「天安門」、日本のODA拠出、天皇や歴代総理の謝罪の事実を教えるべし。総理の靖国参拝については、どこの国でも国のため戦死した兵士たちを弔うのは当然のことである。

 歴史認識については、私たち昭和一ケタ世代は終戦時十代で、中国やアジアを侵略したり、南京で中国人を殺したりしたこともないが、父の世代の過ちと不利な遺産は我慢して相続し、謝り、損害も償ってきた。だが、何の罪もない子供や孫に未来永劫責任を負わせる気は毛頭ない。私たちの世代で悪循環を断とう。

 日本での中国人犯罪は、日中関係悪化の一因だ。「蛇頭」など真剣に取り締まれ。六カ国協議については、アジアの平和のため真剣に金正日を説得し、朝鮮半島の非核化を実現すべし。なぜなら「核武装した反日・南北統一朝鮮」は日本の悪夢であり、それが現実化したとき、日本の世論は一夜にして「自衛のための核武装論」に転じること必定である。中国は「中朝軍事同盟第二条」の即時参戦条項を削除して北朝鮮を牽制(けんせい)してほしい。

 中国要人は黙って聞いていた。国際社会では、率直にホンネを語る者こそが尊敬されるのだ。(さっさ あつゆき)

●興味深い検証〜実は2つの主張は1点を除きほとんど同じ主旨である

 相反する意見ではありますが、私としてはそれぞれ真摯に冷静にこの問題を捉えており考えさせられました。
 ここでは、ふたつの論説を、日本への評価と中国への評価という国別に、また過去の評価と将来の評価という時間軸も考慮して、4つの観点から比較検証してみます。


①「戦後日本の評価」

 日経社説:肯定
 「中国政府には戦後の日本が過去への反省のもとに、平和国家として中国の経済発展に協力を惜しまなかったことを公平に教えてもらいたい。 小泉首相は22日のアジア・アフリカ首脳会議で10年前の村山富市首相(当時)談話を引用し、戦前の日本の植民地支配と侵略戦争への反省とおわびを再表明した。」

 産経正論:肯定しかし外交政策は否定
 「ここまで中国を付け上がらせてしまった日本側に責任があるとすれば、それは自虐的土下座外交を続けてきた外務省のチャイナスクールと、それを容認し、江沢民前主席の反日外交、反日愛国教育に屈従した親中派の政治家と、そして迎合的自虐的反日批判を続けてきた朝日新聞などのマスコミにある。
 日本政府の対外広報も同罪だ。なぜ長い間、天皇や歴代総理が謝罪した事実や、三兆三千億円に達する政府開発援助(ODA)や平和日本の現状を十三億人民に知らせよと言わなかったのか。」

 産経正論では、「自虐的土下座外交を続けてきた外務省のチャイナスクール」と「迎合的自虐的反日批判を続けてきた朝日新聞などのマスコミ」に対する個別の批判はあるものの、概ね論旨は同じです。
 「戦後日本の評価」に関しては両論とも、「平和国家として中国の経済発展に協力を惜しまなかった」や「天皇や歴代総理が謝罪した事実」に関しては肯定的に評価しているようです。


②「戦後中国の評価」

 日経社説:否定
 「一連の過激なデモの先頭には、江沢民政権が推進した愛国(反日)主義教育を受けて育った若者たちが数多く見られた。インターネット世代の彼らは学校教育をもとにネット論壇で日本非難を競い合い、日ごろの憂さ晴らしを行ってきた。観念の世界で反日意識を増殖し、今回はそれを大々的に行動に移した形だ。
 この数日間、共産党政権はデモ沈静化のため、各地で日中関係の学習会を開いた。その中では毛沢東周恩来トウ小平の歴代指導者がいかに日中関係を重視し、善隣友好政策をとったかを強調している。反日教育の行き過ぎや誤りを修正せざるを得なくなった、とも受け取れる。」

 産経正論:否定
 「江沢民前主席は、人民解放軍文化大革命も知らないポスト天安門の若い世代の支持を得るため、日本を悪者に仕立て、独裁者の常套(じょうとう)手段である「内憂」の「外患」への転嫁を十数年続けた。
 「頭は共産主義、体は資本主義」という自己矛盾に満ちた一国二制の捩(ねじ)れ現象が生み出した貧富の差、汚職の横行、都市部と内陸部の格差拡大、権力の腐敗などへの不平不満、体制批判を、日本の「靖国」「教科書」「南京虐殺」等のせいにしたのだ。ネットも反体制エネルギー吸収のため活用した。」

 この点も両論に大きな評価の差は見られないようです。「江沢民政権が推進した愛国(反日)主義教育」を強く批判したうえで、「貧富の差、汚職の横行、都市部と内陸部の格差拡大、権力の腐敗などへの不平不満、体制批判を、日本の「靖国」「教科書」「南京虐殺」等のせいにした」と分析しています。


③「これからの日本政府への要望」

 日経社説:有り
 「国際会議でのこうした謝罪は異例であり、日本国民としてはやりきれない思いも残る。しかし小泉首相の4年連続の靖国神社参拝が近隣諸国の国民感情を刺激したことは疑いない。第2次大戦戦勝国である欧米の旧連合国も、この問題では中国や韓国に同情的である。小泉首相靖国問題の解決なしに謝罪を繰り返しても、事態の打開策とはならない。」

 産経正論:無し

 「これからの日本政府への要望」ですが、じつに興味深いことですが、大きく異なっています。

 日経社説は「小泉首相靖国問題の解決なしに謝罪を繰り返しても、事態の打開策とはならない」と強い調子で主張しています。
 対して産経正論は、一部日本の外務省やマスコミに対する批判はあるものの、「これからの日本政府への要望」に該当する個所は私が読み解いた限りありません。


④「これからの中国政府への要望」

 日経社説:有り
 「中国政府には戦後の日本が過去への反省のもとに、平和国家として中国の経済発展に協力を惜しまなかったことを公平に教えてもらいたい。 小泉首相は22日のアジア・アフリカ首脳会議で10年前の村山富市首相(当時)談話を引用し、戦前の日本の植民地支配と侵略戦争への反省とおわびを再表明した。」

 産経正論:有り
 「中国は日本の歴史認識や教科書問題に内政干渉する前に、「文化大革命」を一切封印し、「天安門事件」とともに中国の歴史から抹殺しようとしている中国共産党の偏った歴史観反日愛国教科書こそを反省すべきだ。」
 「日本での中国人犯罪は、日中関係悪化の一因だ。「蛇頭」など真剣に取り締まれ。六カ国協議については、アジアの平和のため真剣に金正日を説得し、朝鮮半島の非核化を実現すべし。なぜなら「核武装した反日・南北統一朝鮮」は日本の悪夢であり、それが現実化したとき、日本の世論は一夜にして「自衛のための核武装論」に転じること必定である。中国は「中朝軍事同盟第二条」の即時参戦条項を削除して北朝鮮を牽制(けんせい)してほしい。」

 ここでも両論の指摘はほぼ一致しており、「中国政府には戦後の日本が過去への反省のもとに、平和国家として中国の経済発展に協力を惜しまなかったことを公平に教え」るべきであるとしています。産経正論はさらに踏み込み「「文化大革命」を一切封印し、「天安門事件」とともに中国の歴史から抹殺しようとしている中国共産党の偏った歴史観反日愛国教科書こそを反省すべき」であるとしています。



●重要な視点は日本自身に残された課題であるということ

 細かく検証してみると、日経社説と産経正論は、具体的に言えば靖国神社参拝問題に代表される「これからの日本政府への要望」だけが大きく違っているようです。

 この点に関しては、それぞれの主張の結語がよく象徴的にしめしています。

日経社説:
小泉首相靖国問題の解決なしに謝罪を繰り返しても、事態の打開策とはならない。

産経正論:
国際社会では、率直にホンネを語る者こそが尊敬されるのだ。

 すべては日本の過去の問題に遡ることであり日本自身が反省すべきであるといった狭い意味での靖国神社参拝絶対反対の主張は、国内世論からも国際世論からも遊離するだけで力を持つことはないでしょう。
 しかしまた、靖国神社参拝問題は国内問題であり他国の干渉は絶対許さないと言う内向きの頑固な論理も、国際的には日本への支持を失うこととなりましょう。


 2つの主張を比較するだけで結論を出すことは早計であり愚かなことではありましょう。


しかし、サンプル数は少なくてもこの代表的な異なる主張を検証した結果は、今後の日本の振る舞いを考察する上で重要な視点を与えてくれると思うのです。


 まず、この問題を解く本質的な鍵は中国に対する批判や要望ではなく、日本自身の今後の行動にあるということです。これは、中国の過去や現状に問題がないといっているのではありません。また、中国に対して批判しないと言っているのでもありません。


 今も検証したとおり日本国内においては現在の中国に問題が多いことに関しては、まず異論はないでしょう。ただ、一部否定派の中にはややもすると、中国の現在の振る舞いに全てが起因するとして議論を停止してしまうきらいがありますが、中国の振る舞いがいかに問題が有ろうとも、あるいはそれがいかように今後変化しようとも、日本は日本自身の問題としてしっかり議論すべきであるということです。


 日本自身の問題として考察する際に、参考になるのは第三者の意見、特に中国以外の海外メディアの論調でありましょう。


 当ブログでは、繰り返し述べてきましたし前回も指摘したとおり、海外諸国は決して敗戦国日本の戦争関連の行為(教科書問題や靖国参拝問題)に賛同してくれているとは言えません。しかし、それ以外、過去50年間の国際貢献や戦後日本の平和主義に関しては極めて高く評価している論調が多いのです。日本は決して孤立してはいません。


 日本がこれからも資源小国であり貿易立国として国際協調の中でしか生存していけない観点から考察した場合、「自虐史観」とか「国家主義」という刺激的な言葉に振り回されずに、過去50年の日本の歩みをしっかり振り返り、その上で、日本自身の将来の行動の指針を冷静に検討しかつ粛々と決定すべきでありましょう。


 私達一人一人が、感情的議論は一切排し、冷静に真摯にそして深く、この問題について考えてみることが必要なのだと思います。

 読者のみなさまはいかがお考えでしょうか?



(木走まさみず)



<関連テキスト>
● 小泉スピーチと日本が有する対中国2つのアドバンテージ
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050424