木走日記

場末の時事評論

中国反日デモ〜国際的に日本支持を広めるために

kibashiri2005-04-16


●なぜ、日本のマスメディアは読者が必要な情報を提供しないのでしょうか?

 当ブログでは、過去3日連続3回に渡り中国反日デモに関しての情報を、いろいろな角度から冷静に検証してきました。

●1回目:2005-04-12
[メディア][中国]メディア相転移説実践編(1)〜中国反日デモをブログ検証してみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050412

●2回目:2005-04-13
[メディア][中国]中国反日デモを新聞コラムで検証してみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050413

●3回目:2005-04-14
[メディア][中国]中国反日デモについて「世界の民の声」をBBCで検証してみる
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050414

 そもそもは、いわゆる日本のテレビ報道・新聞報道などマスメディアの表面的な報道だけでは捉えられないだろう今回の事件の側面を、ネットメディアならではの、柔軟な視点から検証してみようと思ったのがきっかけでありました。

 一回目には、北京一万人デモを実際に現地で経験した北京在住の日本人ブロガーの情報を網羅して、検証してみました。たとえば朝日新聞社説などの日本のマスメディアのワンパターン報道に比べて、各ブロガーのみなさんはとても冷静にデモと町の様子を捉えていて、北京のリアルな状況がよく理解できました。

 二回目には、日本の全国紙5紙のコラム欄(朝日の『天声人語』、読売の『編集手帳』、毎日の『余録』、産経の『産経抄』、日経の『春秋』)で、今回の中国反日デモがどのように取り上げられているのか、比較検証してみました。なぜ、社説ではなくコラム欄を検証対象にしたのかと言えば、残念ながら各社説には取り上げるに値する情報がほとんどないことと、コラム欄はときに社説には書けない各紙のホンネのようなオピニオンが表出していることがあるからでした。
 各紙コラム欄の検証の結果は燦々たるモノでありまして、一回目にご紹介したブロガーのみなさんのテキストに比べ、論理性のない感情論むき出しの検討に値しないテキストがほとんどでありました。

 三回目には、日本のマスメディアが取り上げていない世界の評価、広く世界の一般の人々のこの件に関する意見を検証するために、BBCニュースの意見投稿コーナーから、27人のご意見をご紹介いたしました。
 そこには実に多様な意見があり、私達日本人の立場からは耳の痛い意見から嬉しくなるような日本支持の意見、はたまた日本では聞かれない斬新な意見まで、実に有益な情報を得ることができました。

 このように、1ブログの試みとしてささやかですが、中国反日デモに関連して既存メディアが捉えきれない情報の検証に挑戦してきたのですが、この3回の検証で当ブログのアクセス数は日を追うごとに増加し、多くのみなさまに御覧いただいているようです。読者が求めている情報をすこしは提供できたのかなと嬉しく思っています。



●海外の報道はどのように伝えているのか

 海外の報道の代表的な例として、以下はイギリス「The Guardian紙」4月11日のレポートです。

Tokyo makes protest after anti-Japanese violence in China
Jonathan Watts in Beijing
Monday April 11, 2005

中国反日暴動に対し日本政府が抗議
ジョナサン・ウォッツ(北京)
2005年4月11日月曜日

Relations between Japan and China have plunged to their lowest point in more than a decade after a weekend of violent anti-Japanese protests in Beijing and other cities.
In the biggest demonstration in the Chinese capital since 1999, at least 5,000 people joined a rally on Saturday in support of a boycott of Japanese goods, kicking Japanese cars and stoning the embassy.

 日本と中国との関係は、週末に起きた北京や他の都市の乱暴な反日抗議により過去10年間で最悪の状態となりました。土曜日、1999年以来の中国の首都で最も大きいデモに、少なくとも5,000人が、日本の商品のボイコットを支持して集会に加わり日本車を蹴ったり大使館に石を投げたりしました。

The protesters, most of whom were in their teens and twenties, destroyed billboards for Canon cameras, waved Chinese flags and sang the national anthem as they marched through the streets of a city where large-scale political demonstrations are usually forbidden.

 デモ参加者は、10代と20年代がその大部分でありましたが、本来ならば大規模な政治的デモが禁じられる都市の大通りを通って行進し、キヤノンカメラの広告掲示板を破壊し中国の旗を振り国歌を歌いました。

"We must show the Japanese pigs how we feel," said a Mr Liu, an IT engineer in his thirties who had never previously joined a political protest.
Yesterday 10,000 protesters surrounded a Japanese-run supermarket in the southern city of Shenzhen, a spokesman for the Japanese embassy in Beijing said.

 「日本のブタ達に、我々がどんな思いなのか示さなければならない」と、30代の以前に政治的な抗議に一度も参加したことがなかったIT技術者であるリュウさんは言いました。北京の日本大使館のスポークスマンが言うには、 昨日は1万人のデモ参加者が深川市南部の日系スーパーマーケットを取り囲みました、


They shouted "Boycott Japanese goods" and some threw plastic bottles of water at the store.

 彼らは「日本の商品ボイコット!」を叫び、そして、或るものはペットボトルを店に投げ込みました。

In the city of Guangzhou, about 3,000 people marched toward the Japanese consulate for a "spontaneous demonstration".

 広州市では、およそ3,000人が「自然発生的なデモ」に参加し、日本領事館に向かって行進しました。

Tokyo has demanded an apology, compensation and a promise that it would not happen again.

 日本政府は、謝罪と補償および再発させない約束を要求しました。

The Japanese foreign minister, Nobutaka Machimura, told reporters after summoning the Chinese ambassador, Wang Yi: "I told him that the vandalism is an extremely serious problem."

 日本の外務大臣である町村信孝は、中国大使であるワング・イーを呼び出した後に、レポーターにこう述べました: 「私は、(今回の)破壊は非常に重大な問題であると彼に言いました。」

The march was spurred by Tokyo's approval of a new history textbook which whitewashes Japan's wartime atrocities, including the forced recruitment of thousands of sex slaves, and biological weapons experiments on civilians.

日本の戦時下の、何千人もの性的奴隷の強制連行および民間人の生物兵器実験などを含んでいる残虐行為を美化した、新しい歴史の教科書に関する日本政府の承認が、デモ行進に拍車をかけました。

In the past two weeks, similar protests have broken out in several other Chinese cities, including a march yesterday by several thousand people in the southern city of Guangzhou, where Japanese restaurants were pelted with eggs.

 昨日の広州市南部の数千人の行進では日本料理店が卵で投げつけらましたが、過去2週間の間で、同様の抗議デモは他のいくつかの中国の都市に発生している状況です。

 China's textbooks also cover up or underplay some of the darkest moments in the history of the Communist party, including the famines of the Great Leap Forward, the excesses of the Cultural Revolution and the Tiananmen Square massacre in 1989.

 とはいえ、中国の教科書は、共産党政府の歴史で最も暗い瞬間のいくつか、大飢饉、プロレタリア文化大革命の不条理、1989年の天安門広場の大虐殺などを、全く記述しないか、または控え目に記述しているのです。

But the current downturn in relations is about a lot more than history. The leaders of east Asia's two most powerful countries have not visited each other since 1998; they are locked in a territorial dispute over the Senkaku/Daiyou islands in the East China Sea, and their competition for energy resources and regional diplomatic influence is growing more heated.

 しかし、現在の冷え切った両国関係は、歴史問題だけでなくさらにいろいろな事に起因しているのです。1998年以来、東アジアの2つの最も強力な国のリーダーは互いに訪問しておらず、 それぞれのリーダー達は東シナ海尖閣諸島の領土紛争に拘束され、エネルギー資源と領域の問題は、さらに彼等の紛争を加熱させているのです。

Tokyo recently announced that it would end economic aid to China. Beijing has moved to block Japan's attempt to become a permanent member of the UN security council, a bid which has been opposed by more than 20 million people in an online petition.

 日本政府は、最近、中国への(ODA)経済援助を終わらせると発表しました。中国政府は国連安全保障理事会常任理事国になろうとする日本の試みを阻止するために動きだしましたが、2000万人以上の中国人がオンラインで反対署名したのでした。



(訳:木走まさみず)

 この記事ですが、中国の非民主的な問題点も冷静に指摘している点は評価できますが、日本の戦争犯罪に対する記述はやはりかなり誤解されていると思いました。

 ひとつの記事から全てを語るわけにはいきませんが、全体的傾向として、欧米の論調は、中国は人権抑圧的で今回の反日デモ以前に多くの問題があることは指摘しつつ、しかし、日本の戦争犯罪も教科書から隠してはいけない、という喧嘩両成敗的なものが多いようです。



●起こっていることを冷静に分析してみる。

 ここでは、感情的に中国の振る舞いを批判するのではなく、冷静に起こっていることを分析したいと思います。

 今、日本と中国の経済的な結びつきは極めて強く双方とも国家経済を維持するためにはその経済的相互依存関係を絶つことは不可能といえます。つまり、中国は日本に対し、現実的選択としては経済断絶とか軍事的示威行動などの強硬手段は全く取れないでしょう。
 そのことを踏まえて、日本と中国の間に起こっている諸問題を列挙しながら日本が中国に取りうる可能な対抗策を分析してみましょう。

 ①日本の安保理常任理事国入り問題
 ②日本の歴史教科書問題
 ③日本の小泉首相靖国神社参拝問題
 ④日本の尖閣諸島領有問題
 ⑤中国の東シナ海ガス田開発問題
 
 こうして主だったところを並べてみてもその殆どが中国ではなく日本に関わる問題として表出しています。つまり、東シナ海ガス田開発問題以外、ほとんどの主導権は実は日本にあるのです。中国には有効な対抗策がほとんどないようです。

 なぜ日本のマスメディアがこの観点からこの問題を論じないのか不思議なのですが、日本は実は東シナ海ガス田開発問題以外、余裕に構えていても何ら当面困ることはないのであり、それよりは中国以外の国際世論を日本支持に導くべく外交努力をすべきなのです。

 ここからは私見ですが、上記の各問題の日本の取るべき行動を述べてみたいです。

 ①日本の安保理常任理事国入り問題

 おそらく中国は最後まで反対するでしょう。ここで重要なのは日本にとって、安保理常任理事国入りが国益にかなう重要な案件であるかどうかです。たまたま小泉首相が意思表明して国際問題にまでなってしまったわけですが、別に国民投票でもって私達がその意志を彼に託したわけではありません。冷静に議論したいのですが、木走としては日本は安保理常任理事国入りにこだわる必要は全くないと思っています。
 ならば、別になれなくても構わないのですから、国際世論を日本有利に持っていくための外交カードとしてこれを利用すべきです。 具体的には、あせらず時間を掛けて、強行に反対する国々を孤立せしめるように冷静にふるまえばいいのでしょう。
 国際政治外交は非常なモノであり、どちらが正論を論じているかではなくどちらが多数派になるかが重要なのでありますから。

 ②日本の歴史教科書問題

 これも冷静に対応すればいいことです。本当にどちらの教科書が過去の事実に忠実なのか、共同で研究する機会があってもいいでしょう。
 ただ、日本が慎重に振る舞わなければならないことは、日本が第二次世界大戦の敗戦国であり、戦争の話題は国際的には日本に不利になりがちであるという事実です。
 中国や韓国のことを話しているのではありません。アメリカやEU、東南アジア諸国など、この場合の国際的とはまさに、世界的視野にたってということです。
 ですから、この問題は日本から強く自己主張するのはさけるべきでしょう。それよりも冷静に、例えば日本が過去に全く謝罪していないという誤解などを解く努力を続けて行くべきでしょう。

 ③日本の小泉首相靖国神社参拝問題

 これも本来国内問題であり冷静に対応すればいいことです。ただ、やはり日本が慎重に振る舞わなければならないことは、日本が第二次世界大戦の敗戦国であり、戦争の話題同様、国際的には日本に不利になりがちであるという事実です。
 アメリカやEU、東南アジア諸国や中東諸国など、広く国際的支持を得るためには、この問題も日本から強く自己主張するのはさけるべきでしょう。
 もし、可能ならば政権が変わり靖国参拝しない首相が誕生したりすれば、日本の民主主義の健全性を示すことにもなり、日本外交上有効であると思います。

 ④日本の尖閣諸島領有問題

 現在日本が実行支配しており、なにも日本からあせって行動する必要性はないのでしょう。冷静に中国の動向を見定めながら対処していけばよいでしょう。

 ⑤中国の東シナ海ガス田開発問題

 このガス田開発問題は主導権が中国にあります。その意味で、緊急に対処すべき問題であるといえましょう。日本政府は、必要な実現可能な対抗策をまようことなく実行すべきだと思います。



●冷静に行動して国際的に日本支持を広める努力をすべき・・・

 中国が反日デモを繰り返し、日本の国旗を焼いたり大使館に投石したりする暴力的行為を世界に示せば示すほど、実は日本に取り有利な状況が生まれてくると思います。

 したがって、日本人は中国民衆の低い民意レベルに合わせることなく、あくまで冷静沈着にふるまえばいいと思うのです。そうすれば、国際世論は決して中国支持にはならないでしょう。
 もちろん、一部のリベラル派のように中国に媚びを売るような振る舞いは、何も問題の解決にはなりません。日本は主張すべきは主張すべきであります。
 ただ、同様に自民党の一部から感情的中国批判があるようですが、このような状況で感情的発言をしても、何も得るものはないと思われます。

 ここ7〜8年、政治面での対中国関係は大きく後退してきたのは否定できない事実です。イギリス紙が伝えるとおり、「1998年以来、日本と中国というアジアの2つの最も強力な国のリーダーは互いに訪問してい」ないのであります。

 現状の日中関係を冷静に考えるに、政治家レベルの意志の疎通が希薄であることは、相互にとり不幸であるばかりでなく、今後事態を収拾していくためにも、必要であろうと考えます。 

 私としては、国際的に日本支持を拡大させれば、中国の冷静な対応も引き出せるのではと期待をこめて考えています。

 以上は、木走の個人的見解であります。

 読者のみなさまの、この問題についての考察の参考になれば幸いです。



(木走まさみず)

<関連テキスト>
●中国反日デモ〜問われる日本の民度
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050417
●中国反日デモ〜ニューヨークタイムスのマッチポンプ報道を検証する
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050418
●中国反日デモワシントンポストに対する読売新聞のプチ偏向
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20050420