日韓基本条約により『個人の請求権』は「消滅」ではなく「移行」しただけだ
これは非常に重要なポイントだと思うので整理してみたいのです。
BLOGOS上の著名な弁護士お二人が『日韓基本条約』及び付帯する『請求権並びに経済協定』では、個人の請求権は消滅しないと主張しています。
猪野 亨
2018年11月01日 09:34
韓国徴用工訴訟最高裁判決を考える 日本の右翼層が蒔いた種こそが原因 日本政府は本気で解決に向け対応するべきだ
https://blogos.com/article/335678/
橋下徹
2018年10月31日 22:06
無邪気な韓国批判の大合唱だけど、日本の弱点を知らないんだろう - 10月31日のツイート
https://blogos.com/article/335611/
失礼して猪野氏の主張を抜粋。
日本側は、日韓の1965年の請求権協定を根拠に請求権は放棄されているという主張のようですが、とはいえ、個人の請求権まで放棄できるのかは別次元の問題です。国家間の約束であろうと、勝手に国民の財産権(損害賠償請求権も立派な財産権です)を制約できるのかという問題でもあります。しかもこの場合の損害賠償請求権は、自らの人格を踏みにじられてたことによって発生したものです。
失礼して橋下氏の主張を抜粋。
?韓国の徴用工判決。日本側は、政治家もメディアもインテリも無邪気な韓国批判の大合唱だけど、日本の弱点を知らないんだろう。外務省は正直に政治家に説明をするべきだ。過去、日本人の戦後補償を否定するために、平和条約などでは個人の請求権は消滅しないと理屈をこねていたことを。
?日本の最高裁も、個人の実体的請求権の完全消滅までは言い切っていない。外務省は外交保護権の消滅。最高裁は訴権の消滅。さらに世界では宗主国が旧植民地に対して悪しき効果が残存している場合には責任を負う流れにもなっている。この辺を踏まえて、国際裁判所で勝つ方法を考えなければならない。
・・・
ここで反論しておきます。
今一度、『請求権並びに経済協定』の第二条を確認いたしましょう。
第二条では、これにおいて「両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める」と明記されています。
第二条 両国は請求権問題の完全かつ最終的な解決を認める
両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。(以下省略)
データベース「世界と日本」(代表:田中明彦) より
http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPKR/19650622.T9J.html
この第二条は極めて重要です。
これにより国家対国家としては「その国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題」がすべて「完全かつ最終的に解決された」わけです。
これの意味するところは、「個人の実体的請求権の完全消滅」ではなくて、請求権の行為の対象が日本政府から韓国政府に移行した、ということでしょう。
これにより韓国人徴用工などへの補償は韓国政府が行うことになったのです。
この考えは日本政府だけでなく韓国政府も共有しているものです。
まとめます。
確かに日韓基本条約によって『個人の請求権』が消滅したわけではありません。
請求権行為対象者が韓国政府に移行しただけです。
非常に重要なポイントだと思うので整理してみました。
本件で読者の皆さんはいかがお考えでしょうか。
(木走まさみず)