憲法改正を実現するための戦術を愚考する〜9条改正だけに絞ってシンプルに堂々と正直に一点突破を目指せ
さて報道によれば、今度の衆議院選の公約として自民党は改憲4項目盛り込む方針を示しました。
自民党憲法改正推進本部によれば公約に盛り込むのは以下の4項目です。
・9条改正
・教育無償化
・緊急事態条項
・参院選挙区の「合区」解消
(関連記事)
自民衆院選公約「改憲4項目に触れる」保岡・推進本部長
2017年9月20日13時37分
http://www.asahi.com/articles/ASK9N3PHCK9NUTFK006.html
保岡興治本部長も「(改憲)4項目については触れる。具体化の議論をしている姿を国民に訴える」と認めているとおり、党内議論も途中段階であり、この4項目もそのまま公約に盛り込まれるかはまだ確定ではない模様です。
さてこれら4項目の憲法改正項目に対して、賛否いろいろなご意見がありましょうが、今回はこの自民党公約案を土台として、いかに憲法改正を実現していくべきか、読者のみなさんとともに考えてみたいと思います。
考察する前提として両極端の考えは排除いたします。
ひとつは、もちろん護憲は選択しません、憲法は未来永劫一文字も触ってはいけないという考え方はここでは捨てます(いったんです、あしからず)。
もうひとつは、憲法を全面的に改正しようとする、平成24年4月に決定された自民党日本国憲法改正草案、これもここでは廃棄、捨て置きます(ここもいったんです、あしからず)。
当ブログとして、安倍政権において現実的に憲法改正を実現するための論理的に最善のステップ・戦術について考察したいのです。
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さて改めて憲法改正までの改正手続3ステップを、日本国憲法第96条で確認しておきます。
第九十六条
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
改正手続3ステップ。
・国会の発議
・国民の承認
・天皇の公布
実際の民意が関わるハードルは、「国会の発議」と「国民の承認」、このふたつであります。
■第一段階:「国会の発議」は足し算の論理〜改正案は各党改正案が総花的に並ぶ
最初の「国会の発議」を成すためには、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議」しなければなりません。
自民党単独ではこの数に届きませんから、必然的に最初は各党の改正案を総花的に列挙することになります。
自民党公約の4項目、・9条改正、・教育無償化、・緊急事態条項、・参院選挙区の「合区」解消、これも公明、維新の意向を忖度した改正案であることは明らかです。
ここまでは「総議員の三分の二以上の賛成」を確保するために、議員数の「足し算の論理」が支配的です。
改正案は各党改正案が総花的に並ぶことになるわけです。
■第二段階:「国民の承認」
「国会の発議」が史上初めて成されたとして、次は「国民の承認」です。
「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要」とします。
ここで考察を深めましょう、2ケース考えます。
第一段階で総花的改正案が発議されますと、具体的には自民党公約案で説明しますが、4項目の憲法改正案が国民に判断を仰ぐことになります。
ここで国民の投票行為が「最高裁判所裁判官国民審査」みたいに、4つの項目それぞれに賛成反対の判断が下せればよろしいのですが、こんなふうにです。
これならば、いくら項目数が列挙されていても、いくつか個別に改正案が過半数を得る可能性は高まります。
だがしかし、多くの住民投票のように、国民は改憲案全体にYESかNOかを一発で下すことになりますと、「賛成」か「反対」か、こんなふうになります。
この「国民の承認」段階で、国民は改憲にYESかNOか?2つの選択しかできないのです、個別の判断は不可能な訳です。
4つの項目をまとめて改正案全体に対して、「賛成」か「反対」を判断することになります。
この(その2)のケースはシビアとなります。
わかりやすく例えます。
今国民の支持が60%ある改正案Aと70%ある改正案Bがひとつの案として「国会の発議」を通過して、国民投票にかけられたとします。
もし改正案Aと改正案Bがそれぞれ別々に国民の判断を仰げば(その1)のケースですが当然、改正案Aと改正案Bともに過半数の支持を得ますから憲法改正が成立します。
しかし改正案Aを支持しなおかつ改正案Bも支持する国民は数学的には、
70% * 60% = 42% しかいません、少数派です。
一方反対は、100% ー 42% = 58%にのぼります。
つまり(その2)ではこの第二段階である「国民の承認」は掛け算の論理が支配するのです。
国民の支持が60%ある改正案Aと70%ある改正案Bがひとつの案として国民投票にかけられたとして、ともに賛成な人だけが賛成した場合42%と、この案は過半数を大きく下回るのです。
同じ改正案Aと改正案Bですが、投票方式が(その1)か(その2)で結果が大きく異なる場合があるということです。
このあたりはコンピュータシステムの「冗長性」や「稼働率」の計算・考え方にも通じるところです。
改憲に総論として1回だけYESかNOか?を迫る国民投票では、改憲項目が多いほど国民の支持は揺らいでいきます、NOを選択する可能性が高まります。
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さて、実際の国民投票は(その1)の形式に近いようです。
総務省によれば「改正案ごとに一人一票を投じる」とあります。
憲法を改正するところが複数あったら
憲法改正案は、内容において関連する事項ごとに提案され、それぞれの改正案ごとに一人一票を投じることとなります。
http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/syushi.html
あるいは(その2)の形式の投票用紙が4枚用意されるのかもしれませんが。
ここで素直な疑問ですが、自民党日本国憲法改正草案みたいに前文から全面的に改正したら、いったい投票用紙は何枚になるのかしら(苦笑)、ははん、総務省はそもそも自民草案の発議など実現可能性はないとふんでいますね、とりあえず(苦笑)。
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まとめます。
最初の「国会の発議」を成すためには、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議」しなければなりません。
これが高すぎるハードルなのです。
「総議員の三分の二以上の賛成」を無理して確保するために、議員数の「足し算の論理」が支配します、ここでどうしても改正案は各党改正案が総花的に並ぶことになります。
第二段階の「国民の承認」では、憲法の定めるところ、国民は改正案の各論にて個別に判断してまいります、個々にYESかNOかを下すことになります。
「国会の発議」を成すためには総花的な改正案にならざるを得ません、それを国民は個別に「国民の承認」をしていく、ということです。
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今の日本の制度上、いたしかたないことではありますが、やはり憲法改正のハードルは高いといえそうです。
史上一度も憲法改正が行われてこなかったこの国では、残念ながら、現実的に憲法改正を実現するための論理的に最善のステップ・戦術が確立されていません。
ただ、この拙い考察でもひとつ示唆されているのは、憲法改正案は第二段階の国民投票を睨めば、第一段階の「国会の発議」段階で、できるだけシンプルな改正案に絞ること、それが国民にとってわかりやすい判断しやすい親切な案であり、国民投票で過半数の支持を得るためには必要な戦術なのかもしれません。
現在は「国会の発議」を成立させるためにいっぱいいっぱいで総花的改憲案に議論が集中していますが、「国民の承認」すなわち国民投票する国民の立場も配慮すべきでしょう。
あまり総花的にあれもこれもと改正案に盛り込むことは国民にとってわかりにくい国民投票となりかねません、と申しますかそんな不誠実なやり方では正確な民意を広くいただけませんでしょう。
たとえば9条改正だけに絞ってシンプルに堂々と正直に一点突破を目指してみる、国民を信じて項目を絞り込むのも検討に値すると思います。
読者のみなさんは、どうお考えでしょうか?
(木走まさみず)