木走日記

場末の時事評論

安倍政権の改憲論議は決して「性急」ではない〜「性急」どころか、安倍政権に発議成立に残された時間は少ない

 想定外の事態がなければ、今後しばらく安倍政権が続きます。

 第四次安倍改造内閣の一部人事には不安定要素はあるものの、来年の参院選を無事乗り越えれば、同年8月には佐藤栄作元首相を抜いて戦後第1位の長期政権となります。

 そして同11月には戦前も含めて憲政史上第1位の桂太郎元首相を抜くことになります。

 安倍政権は今こそ憲政史上初の改憲発議を目指すべきです。

 憲法96条により、改憲発議には、国会にて衆参共に三分の二以上の賛成を得なければなりません、そのハードルは極めて高いと申せましょう。

第九十六条
この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

 安倍「一強」と呼ばれる現在の政治情勢において、その功罪は確かにあるでしょう。

 罪はといえばもちろん政治的緊張の弛緩が挙げられます、安倍政権を脅かす野党は不在なわけです。

 しかしこの状況は安倍政権の責任というよりも、野党の方の責任でありましょう、あまりにも不甲斐ないのです。

 分裂を繰り返し小選挙区制のもとでただでさえ少ない支持層を四分五裂にしてしまっては、どのような戦略で自公政権に選挙に勝てるというのか。

 現在安倍政権は国政選挙5連勝でありますが、「一強」というよりも「他弱」と表現するのが正確でしょう。

 「安倍一強」のもと衆参両院での改憲案発議に向けた情勢を確認しておきましょう。

 衆院は、昨年10月の衆院選圧勝を受け、自民、公明両党だけで312議席を占め、全議席465の3分の2(310議席)を超えています。

 一方、参院の事情は異なります。

 自民(125議席)、公明(25議席)両党に、日本維新の会(11議席)を合わせても161議席で、全議席242の3分の2(162議席)には一議席届きません。

 希望の党か、改憲に前向きな無所属議員を結集して、3分の2以上を確保できるギリギリの状況です。

 例えば自民党内で石破派20人が造反でもすれば、改憲発議は成立しないのです。

 さらに来年の参院選は、2013年参院選で圧勝した反動で、自民党の苦戦が予想されています。

 改憲発議への道のりはかなり険しいのです、そして時間がない。

 改めて憲法改正までの5つのステップを確認しておきましょう。

1)衆参憲法審査会で改正原案を可決

2)衆参本会議で3分の2以上で可決し、発議

3)国民投票運動期間(60日〜180日間)

4)国民投票過半数で決定

5)天皇陛下が直ちに公布

 1)衆参憲法審査会で改正原案を可決、まずここが最初の関門です、2)衆参本会議で3分の2以上で可決し、発議を睨めば、自民だけでなく、公明、維新、保守系無所属、できれば希望の賛同まで得たいわけです。

 自民党は改正原案で他党の意見を取り入れるなど妥協を余儀なくされそうです。

 しかし憲法自衛隊のポジションを明記する旨の安倍改正案の9条に対する改正骨子さえ守られるならば、ある程度の他党の意見を取り入れることはよろしいでしょう。

 無事に発議が成立したとして、3)国民投票運動期間(60日〜180日間)を経て、4)国民投票過半数で決定をみなければなりません。

 昨年の衆議院自民党圧勝以来、いよいよ改憲発議が具体的政治日程に挙がり始めたわけですが、野党や一部メディアからは、安倍政権の改憲発議への動きは「性急」であると、安倍改憲性急論が大合唱され始めます。

 例えば、昨年9月の朝日新聞記事。

(「安倍政治」を問う 2017衆院選:4)改憲ありき、際立つ性急さ
https://www.asahi.com/articles/DA3S13158207.html

 あるいは、今年1月の東京新聞記事。

性急な改憲議論「首相の趣味」 枝野氏「必要性感じない」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201801/CK2018010502000134.html

 先月にも、内山融(うちやま・ゆう)東京大学教授の論考がネット上で公開されています。

「最後の3年」安倍首相 性急な改憲議論に立ちはだかるハードル
THE PAGE
2018年09月20日22時00分
http://topics.smt.docomo.ne.jp/article/thepage/politics/thepage-20180920-00000016-wordleaf?page=1

 「性急」どころか時間をかけすぎたのです。

 戦後73年、現行憲法発布以来71年、この国の憲法は一言一句変わっておりません。

 この国の憲法が「不磨の大典」と化してしまったのは、憲法改正論議をいつでも「性急」と決めつけ、その改正内容はじっくり議論して「国民の総意」をとり組むべきという、改憲議論が結論を得ることが事実上不可能な高さにハードルを上げてしまっている一部野党や一部メディア勢力の愚かな主張によるものでしょう。

 安倍政権の改憲論議は決して「性急」ではありません。

 堂々とかつ粛々と改憲発議まで政治日程をこなしていただきたいです。

 「性急」どころか、安倍政権に発議成立に残された時間は少ないのであります。




(木走まさみず)