木走日記

場末の時事評論

ストーカー犯罪:日本でも「犯罪者GPS監視」制度の導入を検討すべきではないか

 東京都小金井市で昨年5月、音楽活動をしていた大学生の冨田真由さん(21)が刺されて一時重体となった事件で、殺人未遂罪などに問われたファンの無職、岩埼友宏被告(28)の裁判員裁判の判決公判が28日、東京地裁立川支部で開かれました。

 阿部浩巳裁判長は、岩埼被告に懲役14年6月(求刑懲役17年)を言い渡しました。

 公判では冨田さんが「普通に過ごすはずだった毎日を返してほしい。傷のない体を返してほしい」と意見陳述、その際、岩埼被告が「じゃあ殺せよ」などと大声を出し、退廷を命じられる場面もあったことは、私たちの記憶に新しいです、と言いますか強烈なかつ鮮烈な印象が記憶に残ってしまっています。

 さて、被害者の冨田さんは「今から不安と恐怖しかない」と訴えています。

 判決について、代理人の弁護士を通じて、「たった約14年後には、犯人が塀の外を歩いている、そう思うと、今から不安と恐怖しかありません」というコメントを出しました。

 また、法廷でみずから意見陳述を行ったことについては、「自分にしか言えないことを伝えたいと思っていたし、ちゃんと自分の口から話さないと後悔すると思ったので、なんとしてもやり遂げたいという気持ちでした。法廷に入ったあとも、ついたて1枚の向こうに犯人がいると思うだけで、さらに恐怖が襲いかかってきて、声もなかかなか出すことができませんでした」と記されています。

 冨田さんの意見陳述の際に岩崎被告が「じゃあ殺せよ」などと一方的な発言を繰り返し、裁判長に退廷を命じられたことについては、「突然、犯人からどなられたので、本当にびっくりしました。怖かったけれど、負けてはいけないと自分に言い聞かせて、絶対に聞いてほしいところまでは読むことはできました。最後まで読むことはできませんでしたが、私にできることはすべてやり遂げられたと思っています」とコメントしています。

(関連記事)

音楽活動の女子大学生刺傷 懲役14年6か月の判決
2月28日 16時47分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170228/k10010892981000.html

被害の女子大学生 意見陳述書の全文
2月23日 15時17分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170223/k10010887421000.html

 芸能活動をしていた女子大学生が刃物で刺された本事件は、警察が被害者から事前に相談を受けながら、防ぐことが出来ませんでした。

 過去のストーカー事件を教訓に導入された未然防止のためのシステムは、今回、思い込みやミスから機能せず、警察の危機意識の欠如が浮き彫りになっています。

 一方で、今回のストーカー的行為はツイッターというSNSへの書き込みで、過去の事件とは異なる面もあり、対策を改めて考えなければならない現実も突きつけられています。

 本件は、・事件を防げなかった警察の対応の問題点、・SNSによるストーカー行為の危険性、・新たなストーカー対策として何が必要か、など、多くの早急に改善されるべき行政側の課題が浮上していると言えましょう。

 と同時に、今回取り上げたいのは、このような凶悪なストーカー事件における、事後の被害者側に対する、残念ながらほとんど検討・実践されていないのが現状ですが、この国の司法や行政によるストーカー被害者に寄り添うようにあるべき「配慮」や「医療的ケア」を伴う、凶悪ストーカー被害者に対するサポート体制についてです。

 犯罪の被害にあわれた方やそのご家族は被害によって大きなこころの傷を受けます。

 今回の富田さんもご自身で語ってらっしゃますが、このような犯罪の被害者やご家族の中には、肉体的後遺症に苦しむだけでなく、PTSD(外傷後ストレス障害)やうつ病などのこころの問題を抱える場合も少なくありません。

 中・長期的に、被害者やご家族にどう配慮していくべきか、どう接すべきか、どのような制度を用意すればそのメンタルヘルスに関して二次被害を与えないで適切に治療できるのか、心の安寧をもたらすことが可能なのか、あくまで被害者視点によるサポートについて早急に検討すべきではないでしょうか。

 具体的に二点、問題提起をさせていただきたいです。

 ひとつは「被害者参加制度」についてです。

 2008年12月から、これまでは傍聴席で見守るしかなかった殺人や傷害事件などの被害者やご遺族などが、刑事裁判の場で発言するなど、直接裁判に参加できる「被害者参加制度」がスタートしました。

 今回もこの制度により、富田さんは法廷でみずから意見陳述を行ったわけですが、その状況自体がこのような凶悪なストーカー事件の場合には、被害者にとって極めてハードルの高い苦痛の伴うリスキーな状態を現出させてしまうことについて、もう少し配慮があってしかるべきではないでしょうか。

 「自分にしか言えないことを伝えたいと思っていたし、ちゃんと自分の口から話さないと後悔すると思ったので、なんとしてもやり遂げたいという気持ち」とご本人は述べていますが、「法廷に入ったあとも、ついたて1枚の向こうに犯人がいると思うだけで、さらに恐怖が襲いかかってきて、声もなかかなか出すことができませんでした」と、その恐怖は察して余りあるわけで、ましてや
冨田さんの意見陳述の途中で岩崎被告が「じゃあ殺せよ」などと一方的な発言を繰り返し、ご本人による陳述は中断を余儀なくされたわけですが、これでは新たなPTSDうつ病などの発病要因になりかねません。

 「ついたて1枚」の隔たりのみによる、このような「加害者」と「被害者」の接触は、今回のケースのような場合、「被害者」にのみ負荷がかかり「加害者」にはむしろどのような形であり被害者と関わりたいというその歪んだ「願望」が一部かなうことになりかねません。

 被害者が意見陳述する場は別室に用意し、加害者がいかに不規則発言を繰り返してもその音は被害者には全く届かない、というような配慮がなされるべきではないでしょうか。

 この点に関しては早急に具体的な改善策を検討可能だと思われます。

 ・・・

 二点目は、「たった約14年後には、犯人が塀の外を歩いている、そう思うと、今から不安と恐怖しかありません」という富田さんの切実な悲壮なコメントに対して、私たちは具体的に社会の制度をしっかりと整えていくべきではないか、という点です。

 このような凶悪犯罪被害者の側に立った支援体制について、具体的な策の検討を始めるべきでしょう。

 自分に対して、病的な執着を示し無慈悲なストーカー行為を繰り返し、そして待ち伏せて何十回も包丁でもってさしまくった凶悪犯罪者が、数年後、無罪放免、野に放たれるわけです。

 富田さんおよびご家族の不安と恐怖はいかばかりでしょう。

 検討すべき制度として「性犯罪者GPS監視制度」、すなわち凶悪な性犯罪などを犯した前歴者を、GPSを利用して監視する制度を日本でも導入することです。

 現在特定の前歴者にGPSの取り付けを義務付ける制度がある国はアメリカ合衆国(半分以上の州)、大韓民国、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、スウェーデンなどで実施されております。

(関連サイト)

性犯罪者GPS監視
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%80%A7%E7%8A%AF%E7%BD%AA%E8%80%85GPS%E7%9B%A3%E8%A6%96

 具体的には端末と充電器がセットになっている「足輪」をはめます、足首のブレスレットが外れたり切断されたりすると同じく通報されるしくみになっています。

 完全防水機能付きでプールも入浴も問題ないですが、短いズボンを履くと一目でわかるため夏の暑い日でも靴下の下に付けたり長ズボンを履いたりするようです。

 出所後「GPS監視」を行えば、たとえば被害者の現在生活圏の100キロ以内に近づかないような指導が可能になります。

 加害者の現在位置が把握できれば、なによりも被害者側のメンタルな安心感につながります。 

 実は日本では宮城県が性犯罪者に対して条例制定を目指しています。これに対し、仙台弁護士会は新たな刑罰を課すに等しいとして、反対声明を発表しています。

 「加害者」の人権を重視して反対しているのです。

 確かに「GPS監視」が性犯罪の再発抑止にどこまで有効なのか、議論があることは事実です。

 しかし、元加害者の居場所がリアルタイムに把握できることは、ストーカー犯罪被害者のメンタルケア、心の「安心」には寄与することは間違いないでしょう。

 今回の事件を契機として、このような凶悪ストーカー犯罪の、被害者やご家族にどう配慮していくべきか、どう接すべきか、どのような制度を用意すればそのメンタルヘルスに関して二次被害を与えないで適切に治療できるのか、中・長期的にも「心の安心」をもたらすことが可能なのか、あくまで被害者視点によるサポートについて早急に検討すべきではないでしょうか。

 読者の皆様はこの問題いかがお考えでしょうか。



(木走まさみず)