「いじめをなくす」から「いじめはなくならない」に発想を転換すべき〜教育現場にリスクマネジメント手法を導入してはいかがか
「いじめを撲滅する」とか「いじめ件数を5年間で半減させる」とか数値目標を掲げてこの国の教育行政が安直な「成果主義」を導入した結果が今日の学校・教育委員会の隠蔽体質をまねいたのだとする、当ブログの前々回のエントリーはネット上で少なからずの議論をいただきました。
■[社会]学校がいじめを隠ぺいする本質的理由〜教育現場に成果主義を導入した悲惨な結果
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120712/1342052468
現状をただ批判するだけでは建設的ではないので、今回は具体的な対策を考察したいと思います。
そもそも論になりますが、「いじめをなくす」という非現実的な目標をまず放棄すべきです。
「すべての学校からいじめをなくす」のは「日本社会から犯罪をなくす」のと同程度の空疎な理想論であり、実現可能性はゼロでありましょう。
国際比較では日本は外国に比較して治安はすこぶるよろしい国のようですが、それでも犯罪が絶えることは有りません、強盗事件、傷害事件、殺人や強姦や放火などの凶悪事件も発生しています。
ある人数の人間集団ができれば一定の割合で反社会的人間、ルールを守らない人間が存在することは避けられません。
教育現場だけに特別な理想論を唱えても仕方ありません。
いじめや校内暴力を「なくす」など教師に求めても、そんなことは永遠に不可能であり、ぜいぜい書類上「いじめの発生はゼロ」と上位機関に事なかれ主義的に偽りの報告するという悪習がはびこるだけです。
今回の大津の事件のように実際にいじめが発生しても組織的に現実を隠そうとするだけです。
「いじめは必ず発生する」という現実主義に則って、教育現場で科学的に対処方法が構築できるように制度改革をすべきでしょう。
多くの企業が導入している、リスクマネジメント(risk management)手法を導入することを提案したいです。
いじめや校内暴力をある確率で必ず発生するリスクととらえて、それをマネジメントするのです。
リスクを組織的にマネジメントし、ハザード(発生原因)、損失などを回避もしくは、それらの低減をはかるプロセスを確立するのです。
リスク・マネジメントとは各種の危険による不測の損害を最小の費用で効果的に処理するための経営管理手法でありますが、ここでいう費用とは、単に金額だけを指すのではなく、投入する人的資源や時間を効率的に圧縮することも含まれます。
リスクマネジメントは別に民間企業の専売特許であるわけではなくリスクに対処しなければならないあらゆる組織に当てはまる手法なのです。
リスクを把握・特定することから始まり、把握・特定したリスクを発生頻度(発生確率、possibility)と影響度(酷さ、severity)の観点から評価した後、発生頻度と影響度の積を評価の尺度とした、リスクの種類に応じて対策を講じ、また、仮にリスクが実際に発生した際には、リスクによる被害を最小限に抑えるという一連のプロセスを構築します。
まず、リスク分析によりリスク因子を評価し、リスクアセスメントによりリスク管理パフォーマンスを測定し、改善を行います。
例えば、リスクの発生頻度や、リスク顕在化による被害を最小化するための新たな対策を取ります。
リスクファイナンスによりリスク顕在化に備え、またこれらのプロセスはPDCAサイクルを取ります。
具体的には次のような手順を取ります。
発生しうるいじめの酷さを徹底的に分析し、その発生確率を事前分析しておきます。
仲間はずれにするなど軽度のいじめであるならば、組織内で対応します、この場合リスクは教育現場でリスク保有します。
教育的指導など再発防止策を講じ発生確率を低める改善を施します。
暴力行為や万引きの強制など重度のいじめが発生したならば、その行為をただちに抑制、精査の上犯罪行為と判断された場合、厳格な基準で評価したうえで必要なら警察にただちに通報いたします、この場合はリスクは教育現場から、警察にリスク移転されるのです。
重要なことは、このような対応を徹底的にすべての教育現場で行い、そこで具体的に効果のあった改善策は上位に報告され、上位から全ての教育現場にフィードバック、情報共有がなされることです。
このように「いじめの発生件数の抑制」を「成果主義」によって競わせる現状から、「いじめの対応件数」やその「改善策」の内容を競わせるように教育行政そのものを改革します。
こうすれば、いじめを隠蔽することに意味がなくなります、いじめに効果的に対応したことにインセンティブを与えるのです。
いじめに対するマネジメント能力・対応能力を現場に高めさせ、かつ「いじめを隠す」ことがインセンティブになっている教育現場の現状を質的に改善することが必要です。
いじめをなくすことは不可能だとしても、その発生確率を抑制し、万が一起こってもいじめにより被害者が命を絶つ最悪の事態に至らなくする対処法をしっかりと確立していくことは可能です。
そのために教育行政は、「いじめをなくす」から「いじめはなくならない、しかししっかり対処はできる」と発想を大きく転換すべきだと考えます。
(木走まさみず)
<参考サイト>
リスクマネジメント
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88