木走日記

場末の時事評論

この国に若者の自殺が多い理由〜「硬直した諸制度にすがっている一部のオトナたち」が若者を追い詰める

 今回はこの国の若者の自殺について、データを検証しつつ、考察してみたいです。

 ここに政府による「自殺対策白書」が公開されています。

平成24年版自殺対策白書 本文(PDF形式)
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2012/pdf/index.html

 約190ページほどのレポートですが、我が国の自殺者について、推移・年齢・性別・職業・自殺要因など実に多角的に分析されており、参考になります。

 まず平成21年において年間の自殺者総数32,845人の年齢層別分布をグラフ化してみます。

■図1:年齢階級別自殺者数(平成21年)

 平成10年以来、我が国の年間自殺者数は3万人を越えたまま高止まりしているわけですが、年齢階級別に見てみると55〜64歳が6375人とピークを成しており、次いで45〜54歳(5233人)、35〜44歳(4892人)、65歳〜74歳(4424人)と続いています。

 この年齢階級別自殺者数のグラフからは見えてきませんが、年配者ほどガン(悪性新生物)や脳溢血などで病死する人数が増えることなどを考慮すると、年齢階級別の「死因」を分析すると若年層の「死因」で自殺が第一位になります。

■表1:平成21年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合

[第1-16表] 平成21年における死因順位別にみた年齢階級・性別死亡数・死亡率・構成割合

総数
年齢階級 第1位 第2位 第3位
死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%)
10〜14歳 悪性新生物 95 1.6 19.5 不慮の事故 92 1.6 18.9 自殺 55 0.9 11.3
15〜19歳 不慮の事故
自殺
457 7.6 31.2         悪性新生物 143 2.4 9.7
20〜24歳 自殺 1,474 22.1 49.8 不慮の事故 568 8.5 19.2 悪性新生物 222 3.3 7.5
25〜29歳 自殺 1,739 23.9 48.8 不慮の事故 507 7.0 14.2 悪性新生物 339 4.7 9.5
30〜34歳 自殺 2,003 23.9 40.6 悪性新生物 802 9.6 16.3 不慮の事故 546 6.5 11.1
35〜39歳 自殺 2,474 25.9 31.8 悪性新生物 1,694 17.8 21.8 心疾患 774 8.1 9.9
40〜44歳 悪性新生物 2,792 33.1 26.9 自殺 2,418 28.7 23.3 心疾患 1,240 14.7 12.0
45〜49歳 悪性新生物 4,762 61.8 32.7 自殺 2,470 32.1 16.9 心疾患 1,850 24.0 12.7
50〜54歳 悪性新生物 9,084 118.7 40.0 心疾患 2,791 36.5 12.3 自殺 2,763 36.1 12.2
55〜59歳 悪性新生物 19,036 210.1 45.4 心疾患 5,050 55.7 12.0 脳血管疾患 3,501 38.6 8.3
60〜64歳 悪性新生物 29,858 319.1 48.5 心疾患 7,450 79.6 12.1 脳血管疾患 5,074 54.2 8.2
年齢階級 第1位 第2位 第3位
死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%)
10〜14歳 不慮の事故 61 2.0 21.6 悪性新生物 49 1.6 17.4自殺 34 1.1 12.1
15〜19歳 不慮の事故 348 11.3 35.0自殺 297 9.7 29.9 悪性新生物 96 3.1 9.7
20〜24歳自殺1,029 29.950.3 不慮の事故 452 13.1 22.1 心疾患 133 3.9 6.5
25〜29歳自殺1,224 32.951.7 不慮の事故 369 9.9 15.6 心疾患 162 4.4 6.8
30〜34歳自殺1,433 33.644.0 不慮の事故 410 9.6 12.6 悪性新生物 367 8.6 11.3
35〜39歳自殺1,853 38.336.6 悪性新生物 706 14.6 13.9 心疾患 578 11.9 11.4
40〜44歳自殺1,815 42.626.6 悪性新生物 1,201 28.2 17.6 心疾患 949 22.3 13.9
45〜49歳 悪性新生物 2,237 57.7 23.3自殺1,951 50.3 20.3 心疾患 1,474 38.0 15.3
50〜54歳 悪性新生物 5,012 131.1 32.7 心疾患 2,232 58.4 14.6自殺2,180 57.0 14.2
55〜59歳 悪性新生物 11,745 262.0 40.3 心疾患 4,082 91.1 14.0自殺2,650 59.1 9.1
60〜64歳 悪性新生物 19,825 433.4 45.8 心疾患 5,759 125.9 13.3 脳血管疾患 3,500 76.5 8.1
年齢階級 第1位 第2位 第3位
  死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%) 死因 死亡数 死亡率 割合(%)
10〜14歳 悪性新生物 46 1.6 22.4 不慮の事故 31 1.1 15.1 自殺 21 0.7 10.2
15〜19歳自殺 160 5.5 33.8 不慮の事故 109 3.7 23.0 悪性新生物 47 1.6 9.9
20〜24歳自殺 445 13.7 48.7 不慮の事故 116 3.6 12.7 悪性新生物 95 2.9 10.4
25〜29歳自殺 515 14.5 43.2 悪性新生物 186 5.2 15.6 不慮の事故 138 3.9 11.6
30〜34歳自殺 570 13.8 34.0 悪性新生物 435 10.5 26.0 不慮の事故 136 3.3 8.1
35〜39歳 悪性新生物 988 21.0 36.3 自殺 621 13.2 22.8 心疾患 196 4.2 7.2
40〜44歳 悪性新生物 1,591 38.2 44.7 自殺 603 14.5 16.9 心疾患 291 7.0 8.2
45〜49歳 悪性新生物 2,525 66.0 50.9 自殺 519 13.6 10.5 脳血管疾患 415 10.8 8.4
50〜54歳 悪性新生物 4,072 106.4 55.3 脳血管疾患 657 17.2 8.9 自殺 583 15.2 7.9
55〜59歳 悪性新生物 7,291 159.2 56.9 脳血管疾患 1,024 22.4 8.0 心疾患 968 21.1 7.6
60〜64歳 悪性新生物 10,033 209.8 54.7 心疾患 1,691 35.4 9.2 脳血管疾患 1,574 32.9 8.6

注意: 構成割合は、それぞれの年齢階級別死亡数を100とした場合の割合である。
死亡順位は死亡数の多いものからとなっているが、同数の場合は、同一順位に死因名を列記し、次位を空欄とした。
 15〜19歳、20〜24歳、25〜29歳、30〜34歳、35〜39歳、で死因のトップが「自殺」なのであり、40〜44歳、45〜49歳で2位、10〜14歳、50〜54歳で3位となっております。

■図2:年齢階級別死因に占める自殺の割合(平成21年)

 他の国でも若年層の自殺は死因の上位に入りますが、トップというのは日本はかなり特異であるといえます。

■図3:若年層(15〜34歳)死因の上位3位8カ国国際比較

 国際比較しても若年層の自殺が多い日本なのですが、その原因はどこにあるのでしょうか。

 私は閉塞感漂う現在の日本において、若者に逃げ場を与えないその硬直した諸制度にも問題があると思うのです。

 「硬直した諸制度」にすがっている一部のオトナたちがいけないと思っています。

 例えば、企業による採用活動の早期化や新卒一括採用の慣行は、日本の大企業のエゴイスティックな人事慣習を守らんとする極めて保守的な自己中心主義によりこの歪んだ現状の放置がされています。

 硬直したこのような制度のもと、不況下でこの国の学生の就職活動は困難を極めています。

 就職ができなくとも逃げ場があればいいのですが、この国の一部の大人たちは自分達が経験してきた悪しき慣習をなんだかんだいったって結局は守っているのです。

 私たちは、今回の大津いじめ自殺問題で、「硬直した諸制度にすがっている一部のオトナたち」の代表的な悪例を見ることができます。

 陰湿で苛烈ないじめの内容とともに、教師の見て見ぬふりを指摘する回答もあり、「先生は注意したが、後は一緒になって笑っていた」と書いた生徒もいました。

 こうした回答を得ながら、おざなりの対応に終始した学校側の責任は極めて重いです。

 さらに、調査結果の大半を「伝聞によるもの」として調査を打ち切った市教委及び教育長の責任も極めて重大です。

 その真相解明への消極姿勢は、隠蔽と指弾されても仕方がないでしょう。

 最近の会見でもこの教育長は、訴訟は取りやめないとし、訴訟を続ける理由について、「学校については(市教委が)一定の調査をしたが、本人や家庭のことも明らかにされていくべき」と説明しました。

 彼はどこを向いてこのような発言をしているのか。

 本来守るべき生徒や生徒の家族に向いていないことは自明です。

 彼が守ろうとしているのは、自分の属する教育行政・学校組織、そして自分の地位なのです。

 このような「硬直した諸制度にすがっている一部のオトナたち」が、無自覚に、結果としてこの国の若者を逃げ場のない地獄に追い込んでしまっているとはいえないでしょうか。



(木走まさみず)