木走日記

場末の時事評論

「手抜き除染」問題は安倍政権への絶好の試金石になる


 前回のエントリーで1月4日付け「手抜き除染」朝日スクープ記事を取り上げました、ネット上で少なからず注目をいただき議論を呼びました。

■[原発]「手抜き除染」朝日スクープ記事が現出させた事〜この国の醜悪な税金をむさぼるゼネコン構造が何もかわっていない事実
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20130104

 現在のところ朝日新聞以外のメディアのフォロー記事が私が知る限り見当たらない点、朝日記事においても「発注元の環境省は契約違反とみて調査を始めた」としており、事態の解明にはまだ時間がかかるものと思われますが、朝日スクープの「東京電力福島第一原発周辺の除染作業で、取り除いた土や枝葉、洗浄に使った水の一部を現場周辺の川などに捨てる「手抜き除染」が横行していることが、朝日新聞の取材でわかった。元請けゼネコンの現場監督が指示して投棄した例もある」ことが事実だとした仮定にたってこの問題について考えてみたいと思います。

 この「手抜き除染」問題では、3層の次元の異なる論じるべき点があると考えます。

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●徹底的な事実の究明を急げ、その上で不正行為に対する厳重なペナルティーを与えよ

 朝日記事によれば今回の手抜き作業が発覚した除染作業の胴元ゼネコンは前田建設工業大日本土木大成建設、鹿島を中心とした共同企業体(JV)複数であります。

 これまで4市町村の本格除染をゼネコンの共同企業体(JV)に発注した。楢葉町前田建設工業大日本土木など(受注金額188億円)、飯舘村大成建設など(77億円)、川内村大林組など(43億円)、田村市が鹿島など(33億円)。

 環境省はこれらゼネコンの共同企業体(JV)らに発注する時点で、除染作業における守るべき「作業ルール」を契約しています。

 環境省が元請けと契約した作業ルールでは、はぎ取った土や落ち葉はすべて袋に入れて回収し、飛散しないように管理しなければいけない。住宅の屋根や壁は手で拭き取るかブラシでこする。高圧洗浄機の使用は汚染水が飛び散るため雨どいなどごく一部でしか認めていない。洗浄に使った水は回収する決まりだ。

 ならば「手抜き除染」は明らかに契約違反であるばかりでなく、汚染物質を川に垂れ流すなどの行為などは、汚染廃棄物の扱いを定めた特別措置法に違反する可能性もあります。

 「手抜き除染」作業がどこまで組織的に行われたのか、現場責任者の独断だったのか、下請け会社の判断だったのか、それとも胴元ゼネコン社員からの指示がたあったのか、ケースごとに徹底した事実検証が必要です。

 巨額の税金が投入されているのです、環境省は徹底した実態の解明をしなければなりません。

 その上で、契約違反をした共同企業体(JV)に参加しているゼネコンは、厳重にペナルティを科すべきです。

 特に悪質な場合は何年間か期間を設けて公共事業への入札参加禁止も検討すべきです。

 不正が疑われた以上、徹底的な事実の究明とそのうえで明らかになった不正行為に対し厳重に罰を与えなければなりません。

 私たち国民も大切な税金の使われ方に関心を持ち続けることが必要です。

 あいまいな調査でお茶を濁すようなことを許してはいけません。

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●「除染作業」計画の全面見直しが必要

 もうひとつ今回の「手抜き除染」記事で明らかになったことは、そもそも1兆円もの税金を投じて行われている当初除染作業ですが、はたして今のやり方で作業効果はあるのか、限られた税金の使い道として最適解なのか、しっかりとした科学的見地に立った議論が必要なのではないか、ということです。

 私は「除染作業」計画の全面見直しが必要と考えます。

 そもそも当該エリアを100%除染することなどは科学的に不可能です。

 どのような方法でどの地域をどの程度除染することが経済的・科学的に最適解なのか、専門家の知見をしっかりと踏まえた国民的議論を早急に行い、費用対効果の高い、かつ科学的知見に裏付けされた適正規模の「除染作業」計画を再構築すべきです。

 例えば裏山が近くにある集落では集落周辺をいかに除染しても汚染源とも言える裏山を除染しない限り、時間とともに再び数値は上がり、再除染を繰り返さなければならないといったいたちごっこの不毛な作業が発生することは明らかになっています。

 今回の環境省がゼネコンに委託した「除染作業」においても道路から20m以内のエリアに限定しての作業であり、いわばエリアを「線」形に除染しているにすぎず、「面」形に除染できているわけではありません。

 もちろん「面」形に「除染作業」をするのが理想ですが、予算的にも導入人員的にもそれは不可能です。

 そもそも山林を除染するには、その山の落ち葉や表土を完全に取り除き草木も刈り取らなければ不可能です、つまりほぼハゲ山にしなければなりません、現実的ではないのです。

 今の「除染作業」の方法がはたして最適解なのか、作業効率からも科学的視点で再検討すべきではないでしょうか。

 科学的に見て無駄な作業に税金を投入する余裕は今の日本にはないはずです。

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●安倍政権への試金石

 安倍政権は10年間で200兆円を投入する「国土強靭化計画」を公約として掲げています。

 もしこの計画が実行に移されるならば、多くの公共事業工事がゼネコンに委託されることになるでしょう。

 過去の自民党の政治を思い出せば、当然ながら巨額の利権構造がそこに生じるのは必定です。

 その意味で今回の「手抜き除染」問題は、安倍政権に取りよい試金石となることでしょう。

 税金を投入する公共事業に対し、以下に透明性を確保し、ゼネコンら参画企業の不正を許さず厳しく対峙するのか、正に「手抜き除染」問題に対する安倍政権の対応が注目されます。

 もしこの問題をうやむやにし国会でも取り上げないようならば、今後10年間で200兆円を投入する「国土強靭化計画」でも、旧来の自民党政治に戻り金権腐敗の魑魅魍魎(ちみもうりょう)達が跋扈(ばっこ)してしまい、200兆円は国民に還元されることなく一部業者の懐を潤すだけで終わることでしょう。

 安倍政権はこの「手抜き除染」問題に正面から正々堂々対峙していただきたいです。

 事実の検証能力、不正への厳しき態度、科学的知見を取り入れた柔軟な再計画立案能力、議論の公開性・透明性、この問題をどう対応していくか、正に「国土強靭化計画」を公約として掲げている安倍政権への絶好の試金石なのであります。



(木走まさみず)