木走日記

場末の時事評論

産経新聞の誤報記事と事後処理を検証〜ネットの掟(おきて)を全然理解してない大新聞(追記付き)

 別に当ブログだけではないですが、ネットでは間違った内容のエントリーを掲載すれば、それに気づいた読者がすぐにコメント欄、トラックバック、ブックマーク、ツイッターいろいろな手段で指摘してもらえますよね、ときにしばしば手荒く(苦笑)ネガティブに。

 で、ネチケットとして間違ったエントリーをした側は「てにをは」ぐらいならば元文を替えちゃいますが、大きく間違ったときには元文を残して正しい文を載せて、変更した時間のタイムスタンプもできれば残して修正履歴が読者にわかるようにするのが親切なわけです、ていうかネチケットでしょうね。

 紙の媒体なら一度たくさん印刷してしまった文章を書き換えるなんてことは不可能なわけですが、電子媒体であるネットでは簡単にテキストを修正できますから、この修正履歴をオープンにすることはその文章の信頼性をキープするためにとっても重要なことなんであります。

 特に間違った内容が誤って特定の人を誹謗・中傷してしまっていたときなどは、謝罪文の掲載も怠っては絶対にいけません。

 まあ当ブログなどはしょっちゅう間違いを指摘されていまして修正だらけですし、こっそり一カ所直したら「あ、こっそり直してる」とその姑息な行為までサラされてしまって大恥かいています(苦笑)が、それはともかく、この情報を発信した人ではなくそれを受信した側が発信者のバグフィックス・つまりミスを指摘してくれる、結果情報の精度が高まる、これってほんとうにすごい特性であり、すばらしいことだと思います。

 これってとても重要なことで、ネットという媒体の特性である情報がインタラクティブに双方向に飛ばし合うことが可能だからこそできる自浄作用のようなものなんですよね。

 大新聞がネット批判する耳タコの悪口のひとつに「ネットの情報の精度が低い」というのがありますが、これはネットでは限られたプロの記者だけが情報発信する権利を有しているTVや新聞などの既存メディアとは違って、誰もが情報発信者になれるネットという媒体の優れた特性の負の遺産ともいえるわけで、当然ながら不特定多数の発信者が増えれば情報精度の劣化は免れないわけで、互いに誤りを指摘しあう、それにより情報の精度を少しでも高めていく、これってネット民達が考えた一つの「自浄作用」なのでもあります。

 一方「紙」媒体である既存メディアの新聞社(の記者)の場合、記事のミスに対する事後対策はまったく異なります。

 まず記事の修正とか修正履歴という概念は彼らにありません。

 一度輪転機に掛けた記事は二度と修正できませんからそれは当然です。

 で、記事のミスの内容によってその後の対応はおおよそ2つに事後処理にわかれます。

 ひとつは、これはネットでも新聞でも替わりませんが、間違った内容が誤って特定の人を誹謗・中傷してしまっていたときなど影響が深刻な場合です。

 訂正記事を起こし必要ならばお詫び記事を添えます。

 そしてもうひとつは、何事もなかったようにばっくれます。

 後日しれっと正しい記事を掲載し、誤報のことはあたかもその存在すら認めないがごとく一切触れません。

 で、実際、この何も対応しないという事後処理が大半なのですね。

 修正が何度も効く電子ファイルとは違い一度発行したら直せませんし、紙の新聞の場合発行部数も多いですので、クレームも多いです、実はミスをいちいち訂正記事なんか起こしていたら大変なことになっちゃうわけで、この当たりは理解してあげたいところです。

 で、今回は何がテーマなのかというと、古いメディアの代表格である大新聞が新しいメディアのネット上で間違いをエントリーすると、とっても興味深い現象が起こるのでありましてそのあたりを産経新聞の例の誤報記事を題材に読者のみなさまと検証してみたいのであります。

 今回産経新聞誤報記事をネット上で掲載したのは2日の13時55分です。

都内2高校生が関与 1人は外で中継 京都府警ほぼ特定
2011.3.2 13:55
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110302/crm11030213560020-n1.htm

 翌3日には産経を含む各紙朝刊で仙台の予備校生の関与が一面トップに並ぶことから、おそらく産経もこの記事が大誤報であることは2日の夜には気づいていたことでしょう。

 ちなみにこの記事は関西で夕刊トップでぶっ放してしまっていますが、夕刊を発行していない関東では多くの人の目にはまったくこの時点でははいっていなかったのであります。

 で、産経新聞幹部はおそらくこう考えたのでしょう、幸いこの誤報記事には特定の固有名詞は一切使用されておらず誰かにわびを入れる必要はぎりぎりない、ようしここは「紙」では常態化している「ばっくれ」作戦で行こう、とこう判断したのでしょう。

 ところが「紙」で通用するルールが「ネット」で通用するとは限りません。

 翌3日、「仙台の予備校生の関与」で大騒ぎする中で堂々と放置されていた産経の「都内2高校生が関与 1人は外で中継 京都府警ほぼ特定」記事は、ネット上否が応でも目だちました、当ブログでも削除しないのは偉いとほめた上でせめて訂正しようよ、と指摘しました。

(前略)

 産経新聞が立派なのは、朝日や毎日だとネット上で誤報記事を掲載してしまうと、誰にも知れずにそっと記事を「削除」し、そのあと何食わぬ風にしれっとするネチケット無視の厚顔無恥をさらすのが普通なのですが、この記事、今(3日正午)も堂々と閲覧可能なことです。

 でもね、訂正を入れるかしたほうがいいと思います、一応「社会の公器」たる報道機関を名乗っているんですから。

 誤報は仕方ないにしても訂正もせず放置プレーなのはいただけません。

(後略)

2011-03-03 「入試問題ネット流出」報道がダメダメな産経新聞 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20110303

 当ブログだけでなくネット上から非難轟々(ごうごう)となるわけですが、産経新聞は今回のは誰にもお詫びする必要がないという今までの自分達のリアル基準を守り、「ばっくれ」大作戦を強行します、つまり、誤報記事も手つかず、訂正もわびもしない、「紙」での対応と同様なことをネットでしでかしてしまうのです。

 紙の読者なら数日もたてば古い記事のことを忘れてくれる人が大半でしょう。

 しかしネット民はリアル民よりしつこいです、某掲示板でもスレが乱立し、4日午後には当該記事のツイートは遂に2000件を越えています。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110302/crm11030213560020-n1.htmのリアルタイム結果
http://twitter.com/search?q=http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110302/crm11030213560020-n1.htm

 ご覧になれば一目ですが、そこでは「 産経はこの誤報の訂正なりお詫びなり出してないんじゃなイカ?」とか「ガセネタ引き続きタレナガシ。それが3Kクオリティ。」とか「日本の報道は謝らなくていいらしい。」とか囁かれてるのは産経批判一色です。

 「紙」では通用してた「ばっくれ」作戦が通用しないのであります。

 産経新聞幹部は狼狽します。

 「紙」では一方通行だった情報発信が、ネットでは読者であるはずの一般人がツイッターやブログなどで批判を返してきやがる、素人連中が束で情報発信仕返してくるわけです。

 うーむ。

 産経新聞のオレサマ基準では当該記事は「訂正」とか「お詫び」とかをする必要はないわけです。

 でも、ネットでは産経にとって気分の悪いことに大炎上なのであります。

 あ、そうかと、産経新聞幹部は気づきます、というか勘違いします。

 で、現在問題の誤報記事の下の方に罫線一本でしきって次のような注釈が追加されたのであります。

※上記記事は3月2日午後1時55分に掲出しました。その後の展開については「仙台の予備校生を偽計業務妨害容疑で逮捕」などをご参照ください。 
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110302/crm11030213560020-n1.htm

 なんと、「訂正」も「わび」もせず、正しい記事に誘導しようと試みているのです。

 ・・・

 ふう。

 ああ、ネット上のルールを全然理解していないようなのです。

 これでは逆に反発を買いかねないと思うのですが大丈夫でしょうか。

 ネットではエントリーに大きな間違いがあれば訂正するのがルールなことに気づいていないようです。

 ・・・

 今回検証できたことは、産経新聞は、ミスをしたときのネットの掟(おきて)を全然知らないんだな、ってことであります。

 特権階級であるプロの記者達が唯一の情報発信者である既存メディアの大新聞は情報とは一方的に垂れ流すモノであり下々は受信だけしてればいいんだと勘違いしています、双方向で情報が飛び交い誰もが情報発信者になって媒体に「参加」できる、ミスがあれば互いに指摘しあい必要なら訂正しその精度を高めていく、媒体としてのネットの素晴らしい特性を、まったく理解できていないようです。



<追記>3月5日 14:51

 5日8:27分ネットにて謝罪文が掲載されましたので追記します。

2日掲載の記事について
2011.3.5 08:27

 京都大などの入試問題がインターネットの質問サイトに投稿された事件は、仙台市内の男子予備校生が京都府警に逮捕され、大きく動きました。MSN産経ニュースは2日午後、「都内2高校生が関与1人は外で中継京都府警ほぼ特定」と伝えましたが、誤報になってしまいました。読者の皆様におわびするとともに、当該記事を削除します。

 産経新聞の記者は2日朝、ネットに投稿した携帯電話の契約者が特定されたという情報を捜査関係者らへの取材でキャッチしました。犯人に直結する情報であり事件が大きく動くことになるため、その契約者が誰かなどさらに取材を続けた結果、東京の男子高校生2人が関与していたとの情報を得て同日午後、MSN産経ニュースに記事を掲載しました。

 しかし、捜査の進展で同日夕方になって携帯の契約者は東北地方の女性で、その息子が京都大を受験していたことが分かりました。

 この誤報には多くの読者の皆様からおしかりや問い合わせの電話、メールをいただきました。正しい情報を集めて記事にしなければならない新聞社にとって、この誤報は痛恨の極みです。情報の真偽についてクロスチェックを強化するなど、今回の件を教訓として今後に生かしたいと思います。(大阪編集長竹田徹)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110305/crm11030508270006-n1.htm

 うむ、紙面ではなくネット上だけの関西では5日付夕刊にも掲載された(※1)「お詫び」記事でありますが、ということは産経関係者もここを読んでくれたのかしら(まさかね)。

 BLOGOSコメント欄m_akkie様、情報提供ありがとうございます。

 ネットの情報の双方向性という素晴らしい特性を取り上げたエントリーでまさに読者の情報提供で記事が補記出来て嬉しいです。



(木走まさみず)



(※1)修正履歴 3月6日8:45
コメント欄のご指摘で知りましたが、関西では夕刊紙面に掲載されていた模様なので訂正いたします。
(・∀・)様、情報提供ありがとうございます。