木走日記

場末の時事評論

内定率が史上最悪なのは馬鹿な学生が増えているから


 就活抗議デモがネット上で話題になっています。

 11月23日付け共同通信記事から。

就活早期化で学生ら抗議デモ 「卒論書く暇ない」

 企業による採用活動の早期化や新卒一括採用の慣行に不満を持つ現役の大学生たちが23日、東京・新宿の繁華街をデモ行進した。

 法政大4年の学生がインターネットなどで呼び掛けた。約50人の学生らが「卒論書くヒマないぞ」「就活期間長すぎ」などと書いた段ボールの切れ端を手に、「大学は就職予備校じゃないぞ」と声を張り上げた。

 明治学院大3年の男子学生(22)はツイッターを見て参加。就活にかかるお金を稼ぐため、週末は居酒屋でアルバイトをしている。「ゼミの勉強が面白くなってきたところなのに。勉強時間を削ってまで就活に時間を取られるのは納得できない」と話した。

 神奈川大4年の本間篤さん(21)は今年2月から就活を始め、約20社に落ちた。「既卒になると就職が不利になるのはおかしい。経歴に穴があっても認められるような制度にして」と訴えた。

http://www.47news.jp/CN/201011/CN2010112301000232.html

 うむ、企業による採用活動の早期化や新卒一括採用の慣行に不満を持つ学生達が新宿の繁華街をデモ行進したわけです。

 背景にあるのは周知の内定率50%以下の大学続出という就職氷河期より厳しい史上最低内定率にあります。

 12月二日付けJ−CASTニュース記事から。

内定率50%以下の大学続出 就職氷河期より厳しい

2011年卒の学生の就職が依然厳しい。文部科学省が出した10月1日時点での内定率は約57.6%。有名大でも「無い内定」状態の学生が続出しているほか、首都圏でも11月〜12月時点で内定率50%以下というところもあり、大学の就職課は「報道よりかなり厳しい」と話している。
2010年11月21日に文部科学省厚生労働省が発表した11年卒予定の学生の10月1日時点の就職内定率で、前年同期を4.9%下回った。男女別にみると、男子は59.5%で、同3.8ポイントダウン。女子は更に厳しく55.3%で同6.3ポイントもダウンした。

(後略)

http://news.livedoor.com/article/detail/5181058/

 で、この就活抗議デモに対するネットでの議論ですが、賛成・反対にきれいに割れていて興味深いです。

 賛成派の意見としては以下の所に代表されます。

就活デモがグッジョブすぎる理由
http://d.hatena.ne.jp/thinking-terra/20101124/1290585632

 「デモという手段は合理的ではない」とか「対案や解決策を用意しなければダメだ」とか「そんなことやってる暇あるなら就活したら?」などの批判は的外れと指摘した上で就活デモはとても有意義だったとまとめています。

こうした勇気ある行動が、人々の意識を変える。問題を解決に導く。対案を出せとか、生産的でないとか言ってる人たちは、やらない理由ばかり探して行動しない(行動させない)から、今まで何も変わらなかったんだってことを知るべきだ。

 そういえば日本の若者は就職などこの種のデモはしてませんでしたよね、適法な手段での自己主張は私も賛成です。

 一方、批判的な意見としては以下の所。

内定をくれない企業を恨む前に
小川浩( @ogawakazuhiro )
http://agora-web.jp/author/hiro_roadster

 うむ、ベンチャー企業の立場からまず学生の持つべき心構えを説いています。

ファッション業界にいるならファッションに詳しくならなくてはならないし、それを愛してなければならない。必死に働くのは当たり前なんですから。 同じように、たとえば僕たちモディファイはベンチャーです。そしてテクノロジードリブンの会社です。ならば、ベンチャーで働くということはどういうことなのかを理解しなければならないし、テクノロジーに強い興味を持たなくてはなりません。

 この意見に不肖・木走も同じ零細企業経営者としてまったく持ってそのとおりと思いました。

 ・・・

 私は零細IT関連企業を経営しながら、20年以上大学・短大・専門学校で講師をしていますので、この問題では、就職活動をする学生の立場も、学生を送り出す学校側の立場も、受け入れる企業側の立場も自分で経験した範囲ですがある程度理解しているつもりです。

 私は今回の学生による就活抗議デモには賛成の立場です、あたたかく応援したい。

 なぜなら彼らの批判するところ、つまり企業による採用活動の早期化や新卒一括採用の慣行は、まったくの正論だと思うからです、この歪んだ現状の放置は日本の大企業のエゴイスティックな人事慣習を守らんとする極めて保守的な自己中心主義がもたらしていることは自明です、馬鹿な大企業のせいです。

 私が読者のみなさんにお伝えしたいのは、メディアでは論じられていない次の深刻な事実です、つまり4年制の大学生が3年秋から就職活動をせねばならないこの現状が、2年制の短大や専門学校では1年の秋あるいは遅くとも2年の春には就職活動をせねばならない現象をドミノ倒しで起こしていることです、滅茶苦茶なことが現場では起こっているのです。

 考えても見て下さい、専門教育を1年しか勉強していない学生が就職活動をするというのはろくに訓練されていない新兵を最前線の戦場に送り込むようなモノです、学生側は業界のことをろくに知らないからターゲット企業を吟味する眼力など持ち合わせていません、あげくに専門知識修得は致命的に未完ですから、面接時に専門的な質問に答えることなどできません。

 企業による採用活動の早期化は適者を選考することを困難にする点で企業側にも最終的には不利益をもたらします。

 早期化はすぐに是正されるべきです、この点で大企業の怠慢は批判されて当然でしょう。 

 ・・・

 ここから私の主張の本論です。

 企業による採用活動の早期化や新卒一括採用の慣行を是正すること、就活抗議デモで学生達が主張したこれらの内容はまったく正論であり、この点は学生側の責任ではなく企業側つまり「大人たち」の責任だと思います。

 しかしです。

 これらの点を改善したとしても、内定率50%以下の大学が続出している現状が劇的に改善されるとは残念ながら思えません。

 「学生側」にも深刻な問題があるからです。

 2つの実話から。

 ある医療系の短大の教授から聞いた話。

 「情けないことにうちの大学では履歴書に貼る写真を本人ではなく就職指導部で貼っているんだ。本人に貼らせるととても企業には出せないような写真を貼ったり、サイズ違いの写真をしかもべたべたと汚く貼ったりトラブルが続出したんで数年前から指導しているんだ」

 履歴書の写真を貼るのを指導するってどこまで面倒見なければいけないのでしょう。

 もうひとつの実話は不肖・木走本人の体験からです。

 あるIT系専門学校の1年生の教室でIT基礎の授業中のことでした。

 20人ほどの小教室で私はちょっとした計算問題を出題して計算に格闘(?)している学生達の周りを一人一人まわって間違いなどを指導していました。

 そのとき一人の学生が解答を「1/2」と分数で記していたので、問題の意図から「この問題では小数に直してこたえなさい」と指導しました、そうしたら消しゴムで消した上でその学生はしばらく考えた後に、小数を書き込みました。

 「0.2」と。

 冗談ではなく実話です。

 大学・短大・専門学校で理数系の授業を持った方なら多くの人が経験していることと想像しますが、分数の計算もできない学生が高校を卒業して大量(少なくても例外的少数ではないと私は感じています)に本来なら専門教育を受けるべき大学や専門学校に入学しているのです。

 馬鹿な学生が増えているのです。

 この学生側の問題も究極的には「大人たち」の責任と言い切っていいでしょう。

 つまりこういうことです。

 少子化にともない、私学高校の経営は大変厳しいのです、多くの高校で本来なら合格水準にない生徒達を大量に合格させています、定員を維持するためです。

 入学させたらさせたで、本来なら留年させるべき水準の学生を平気で進級させます、退学歩留まりを低く抑えるためです、そしてそのような学生が大量に「卒業」して上位の教育機関である大学・短大・専門学校に、これもザルのように「入学」してくるのです。

 高校だけを責めるわけにはいきません、私の勤める学校も含めて特に私学の大学・短大・専門学校ではやはり少子化の影響で定員を維持することが極めて困難なために、合格水準に達しない学生も「入学」させてしまうのです。

 こうして分数の計算もできない「理工系」学生が全国の大学・短大・専門学校に大量に「生産」されているのです。

 分数の計算もできない学生が教室に混じると何が起こるか。

 教室全体の学習レベルの劣化が確実に始まります。 

 分数の計算もできない学生を「卒業」させるには、授業の水準、試験の水準を配慮しなければ不可能だからです。

 こうして本来ならもっと高度な学習内容を勉強できるまともな学生達もその機会を失い、レベルを下げてしまうのです。

 私は理工系しか実態を知りませんが、友人の某大学経済学教授に聞いてみた話では文系も大差ないとのことでした。

 ・・・

 この不況時に長期に及ぶ就職活動を強いられている学生の諸君には気の毒としか思えません。

 ただでさえ一部の学生はそもそも「卒業」できるのか極めて疑わしい学力のままで「卒業見込み」が乱発されています。

 一方企業の側はますます優秀な学生に絞り込みをしています。

 20社30社落ちも当然起こるのです。

 就活抗議デモを表面的に批判したり評価するのではなく、そこから実は極めて深刻な問題がクローズアップされるべきです。

 馬鹿な学生が増えているのです。

 日本の教育をどう立て直すのか、これは「大人たち」の責任です。



(木走まさみず)