木走日記

場末の時事評論

東京労働局長からの「ブラック」な手紙

 昨日(8月3日)、不肖・木走の会社にハローワークから封筒が届きまして、何だろうとあけてみたら中に何枚かの書類と共に東京労働局長からのお手紙が入っておりました、読んでみましたら思わず苦笑いしてしまったので、テキスト化してここでご紹介。

事業主の皆様へ

 拝啓

 盛夏の候 貴社ますますご盛栄のこととお喜び申し上げます。
 事業主の皆様には、日頃から東京労働局の雇用対策の推進に格別のご理解とご協力を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、一昨年来の世界的な金融・経済危機により、深刻な影響を受けた我が国の経済は、海外経済の改善や緊急経済政策を初めとする政府等による政策効果を背景に、着実に持ち直し傾向が続いております。
 しかしながら、雇用失業情勢につきましては、完全失業率が5%台に高止まる中、有効求人倍率は0.4倍台に低迷しており、依然として極めて厳しい状況が続いております。
 東京都内の状況につきましても例外ではなく、本年5月の有効求人倍率は0.62倍と、厳しい状況が続いており、また、本年3月からの平成23年3月大学等卒業者の求人受理状況につきましても、6月末現在の求人数が対前年比で3割強の減少、対前々年比では7割強の減少となるなど、中途採用求人と同様に大変厳しい逼迫した雇用情勢が続いております。
 こうした状況下、東京労働局及び東京都では、一昨年12月に「東京緊急雇用対策本部」を設置し、密接に連携しながら、労働基準法の遵守及び労働契約法に係る周知啓発並びに雇用維持及び雇用創出に努める事業主を支援する助成金制度の周知啓発、ローラー的求人開拓による求人需要の掘り起こし、就職未内定の学生・生徒の雇用促進を図るための就職面接会の機動的開催、公共職業訓練の大幅拡充等、各種雇用施策を総動員し、厳しい状況の改善に向けた取組を進めておりますが、一層の対策効果を上げるためには、何にも増して雇用の場を提供していただく事業主の皆様のご理解、ご協力が必要不可欠と考えております。
 景気先行きへの懸念など事業主の皆様におかれましては、採用の拡大に慎重にならざるを得ない事情も多々あるかと拝察いたします。
 しかしながら、このような厳しい時期こそ、企業活力の維持及び持続的発展を下支えする人材確保の好機であり、新規学卒者等若年者に対する雇用の場の提供、及び社会連帯の理念に基づく障害者の自立支援のための雇用の場の提供等、是非とも多面的かつ中長期的視点に立った人材戦略について改めてご検討いただき、「平成23年3月新規学校卒業者求人(大学・短大・高校等卒業予定者求人)」、「一般中途採用求人」、「障害者求人」の募集枠拡大につきまして、是非ともご理解、ご協力を賜りたいと存じます。
 ハローワークにおきましては、同封の「主な雇用助成金のご案内」のとおり、人材確保及び雇用維持に関する各種助成制度、並びに雇用管理の改善等に関するご相談を承るとともに、求人募集のご用命につきましては、同封の「求人情報連絡票」によりご一報をいただくことで、ハローワークの担当職員が事業所まで赴き求人をお預かりする訪問サービスを展開している点、加えて、労働基準関係法令の遵守につきましても併せて周知いただきますよう重ねてお願い申し上げます。
 末筆ながら、貴社のご一層のご発展と、事業主の皆様、従業員の皆様の今後のますますのご活躍とご健勝を祈念申し上げます。

                        敬具
平成22年7月
                                東京労働局長 東 明洋

 お役所らしい固くて長い文章ですが、言いたいことはとっても簡単で、要は、「政府の緊急経済政策の効果とかもあって景気がだいぶ回復してきたのに、完全失業率は高止まってるし有効求人倍率も厳しい状況が続いているんだけど、なんで求人しないの? おたくの会社に求人票送るから求人してよネ!」て、それだけなのであります。

 私が苦笑いするしかなかったのは、失業率や有効求人倍率が厳しいのは、一部の大企業を除けばおおくの企業がいまだ「不況」に喘いでいて業績が厳しいからに決まってるのに、時候の挨拶が「貴社ますますご盛栄のこと」に始まって、末筆でも「貴社のご一層のご発展」と、まあ決まり文句ですから仕方ないですが、これじゃ病気リハビリ中の人に「ますますご健勝のこと」とあいさつしちゃうみたいな間抜けさが漂っていたからです、このお役所的お堅いあいさつどうでしょう。

 ・・・

 まじめな話。

 求人率では全国平均に比べてまだ高いだろう東京都の労働局長が、前例主義のお役所としては異例とも言えましょう、東京都下の法人にこのようなお願い文書を送付するぐらいです、たしかに雇用情勢は厳しいのであります。

 労働局長は「このような厳しい時期こそ、企業活力の維持及び持続的発展を下支えする人材確保の好機」と文中で檄を飛ばしていますが、しかしですね、これは事業主側の言い訳ですが、デフレ経済のもと作業単価もいっこうにあがらず売り上げが回復するめどが立たないのに、安易に従業員を増やすことはできないわけです、正直な話。

 これは我々零細企業の永遠のジレンマでも実はあるのです。

 求人を出す体力のある好況の時には、いくら求人しても人材は大企業に流れてしまいます。

 で今回のように不況時に大企業が求人を絞ってきているときには、確かに我々零細企業にとって有能な人材を確保するチャンスなのですが、肝心の企業体力がありません、求人したくても見合う売り上げのめどが立ちません。
 
 ふう。

 あーあ、世間の景気が悪かろうと堂々と求人するぐらい、ハローワーク様のおっしゃるように「ますますご盛栄のこと」に早くなりたいと思うのでした。

 ・・・

 しかし、余計なお世話ですが、ハローワークももうすこし空気読んだ時候のあいさつにしたほうがいいんじゃないかと老婆心ながらご注進申し上げときます。

 だって、この手紙、おそらく都下のかなりの数の法人に送付しているのでしょう。

 だとすると、赤字で四苦八苦している会社にとっては、かなり「ブラック」なあいさつですよね、赤字で心に余裕のない事業主にはキツイですよ、「ますますご盛栄」ってのは。



 末筆ながらハローワークのご一層のご発展と、東京労働局長様、職員の皆様の今後のますますのご活躍とご健勝を祈念申し上げます。(←ん? 「職安」のご発展ってこの国にとっていいことなのかな???)



(木走まさみず)