木走日記

場末の時事評論

中国人船長釈放という最悪のチキン外交を選択する民主党政権

 ちょっと驚きました。

 24日付け朝日新聞電子版速報記事から。

尖閣諸島沖での衝突事件、逮捕の中国人船長を釈放へ
2010年9月24日14時27分

 東シナ海尖閣諸島沖で中国漁船と石垣海上保安部(沖縄県石垣市)の巡視船が衝突した事件で、検察当局は、同保安部が公務執行妨害の疑いで逮捕した中国人船長、せん其雄(せん・きゆう、せんは憺のつくり)容疑者(41)を、近く処分保留のまま釈放する方針を固めた。那覇地検が24日、発表する。

 海保によると、せん船長は7日午前10時56分ごろ、尖閣諸島久場島の北西約15キロの日本領海上で、巡視船「みずき」(197トン)の停船命令に応じず、急に方向を変えて左前方のみずきに左舷を衝突させ、海上保安官の公務の執行を妨害した疑いで逮捕されたが、中国側が解放を求めて激しく反発している。

http://www.asahi.com/international/update/0924/TKY201009240180.html

 記事によれば、政府は公務執行妨害の疑いで逮捕した中国人船長を「近く処分保留のまま釈放する方針を固めた」とあります。

 この報道が事実とするならば日本の対中国外交史に汚点を残すことになり、それだけでなくこれからの対中国外交において悪しき前例を作ることとなりましょう。

 日本政府のこれまでの立場は、尖閣諸島は純然たる日本固有領土であり日本と中国の間には一切の「領土問題」は存在しない、という一貫したものであります。

 そして、日本の実行支配下にある尖閣諸島沖における衝突事件は、相手が誰であれ公務執行妨害の疑いが強いのですから粛々と国内法により逮捕・処分をすすめればよいだけでした。

 どのような外交判断にせよ政府が中国人容疑者を「処分保留のまま釈放」するとするならば、まさに法を超える判断、すなわち超法規的措置であり、このタイミングから日本政府は中国政府による圧力に屈したのだと、国際的にみられるとしても仕方ないでしょう。

 「外交問題で圧力を掛ければ日本政府は譲歩する」という誤ったシグナルを中国政府に送ってしまうわけで、中国との今後の外交交渉上、日本政府の大きなハンデキャップとなる可能性が高いのです。

 さらに問題は対中国政府だけに留まりません、中国との領土問題を抱えているフィリピンなど東南アジア諸国にも悪影響を与えてしまいます、日本の脆弱な態度は彼らの対日観を悪化させ、さらに中国がますます傲慢になることへの彼らの懸念は強まることでしょう。

 今回の妥協で短期的には当面の中国の圧力をかわすことはできたとしても、長期的には日本国家にとり大きな損失となる可能性が高いでしょう。

 ・・・

 外交というのは原理原則に従えばいいというものではありません。

 ときに柔軟にときに狡猾に振る舞う必要もあります。

 しかしながら単なるチキン外交では話になりません。

 あまりにもタイミングが悪い、脅かされたから釈放するというではただのチキン(臆病者)です、この図式は国家としては絶対に避けなければならないはずです。

 このタイミングで中国人船長を処分保留のまま釈放するならば、日本政府は誤ったシグナルを中国政府や他国に送ることになります。

 「日本政府は臆病者です」と世界に宣言するようなものです。

 

(木走まさみず)