木走日記

場末の時事評論

法に裁かれるかどうか以前に、今回の小沢氏の蓄財手法はそもそも批判されて当然

 民主党小沢一郎幹事長は16日の党大会で、自身の資金管理団体陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反容疑で元秘書の石川知裕衆院議員らが逮捕されたことに関して「到底容認できない。断固として毅然(きぜん)として自らの信念を通し、戦っていく決意だ」と強調し、東京地検特捜部と全面対決の姿勢を鮮明にしました。

 また自身の進退は「職責を全力で果たしていく」と続投を正式表明いたしました。

 これを受けての17日付け各紙社説は一斉に小沢氏のこの続投宣言を批判しています。

【朝日社説】小沢幹事長続投―首相も党も一丸の異様
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
【読売社説】小沢幹事長発言 検察批判の前に説明を尽くせ
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20100116-OYT1T01342.htm
【毎日社説】小沢民主党幹事長 説明欠く続投は許さぬ 
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100117k0000m070100000c.html
【産経社説】小沢幹事長 続投は受け入れられない
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100117/stt1001170252001-n1.htm
【日経社説】小沢幹事長続投で理解を得られるのか
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20100116AS1K1600316012010.html

 各紙社説の結語から。

【朝日社説】
 国会開会直前というタイミングで現職議員を含む小沢氏の側近3人を逮捕した検察の手法は確かに異例だ。検察当局にも国民への説明責任がある。しかし、首相と政権党が一丸となってその検察と「対決」するかのような構図は、国民の理解をはるかに超える。

 鳩山首相は、この異様さをどう考えているのだろうか。捜査の進展次第で政権が、党が重大な影響を受ける恐れがあるだけではない。事件はあくまで司法の場で決着をつけるべきことである。一方的に肩入れするかのような軽い姿勢は許されない。首相はこのけじめをはっきりさせるべきだ。

【読売社説】
 昨年の西松建設事件では、有識者による第三者委員会を設置し、独自に真相究明に取り組む姿勢を見せた。ところが、今回はそんな動きもまったく出ていない。

 首相と幹事長の政権トップ2人に政治資金にかかわる疑惑が指摘されている重大事を前に、民主党は黙したままでよいのか。

 このままでは、政治とカネの問題で自浄能力を示すことのできない政党とみなされるだろう。

 あすから始まる国会でも、予算審議促進を口実に、疑惑解明に後ろ向きな姿勢を取り続けることは許されない。

【毎日社説】
 だが、このまま正面突破が可能と首相らが考えているのであれば、あまりにも危機感に乏しい。政権交代を実現し、政治の刷新を国民から期待される鳩山内閣がゼネコン絡みの旧態依然の疑惑の渦中にあることを、首相らはより深刻に受け止める必要がある。事件をめぐり通常国会が混乱し予算案などの審議に支障を来すことがあれば、結果的に影響を被るのは国民の生活である。

 同時に、検察当局も捜査に関する小沢氏らの批判にこたえる必要があるのではないか。捜査の節目では一定の説明を国民に対し行うことを、改めて求めたい。

【産経社説】
 党大会で、小沢氏の続投方針に反対意見が出なかったのもきわめて残念だ。政治責任を不問に付していることは、党が自浄能力を欠くばかりか、政権運営に当たっての健全かつ正常な判断力を失っていることをさらけ出している。
 渡部恒三衆院副議長は「国民のために身を引く判断もあるだろう」と述べた。首相も党大会で小沢氏の説明責任に言及したが、形ばかりの感をぬぐえない。
 事件を受けて小沢氏が幹事長の職務を輿石東参院議員会長に代行させる考えを示しているのも不可解だ。これまで同様、影響力を行使しようという考えのようだが、国民の反発を甘くみているとしかいいようがない。

【日経社説】
 小沢氏とともに党大会で異彩を放ったのは、あっせん収賄罪などで係争中の鈴木宗男新党大地代表だった。鈴木代表は来賓あいさつで「検察のリークで世論誘導されている」などと指摘し、取り調べの全面可視化の必要性を訴えた。

 検察批判のたびに会場からは「そうだ」という掛け声が飛んだ。小沢氏の政治資金問題を不問に付したまま、検察批判だけに傾斜するなら、与党として異様な姿である。

 昨年暮れには首相の元公設第1秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で在宅起訴された。民主党は党のナンバー1とナンバー2が「政治とカネ」の不祥事を抱えるという異常事態に陥っている。政治不信を高めぬためにも、党として事実関係の解明に取り組む必要がある。

 各紙共通で指摘しているのは、「首相と政権党が一丸となってその検察と「対決」するかのような構図は、国民の理解をはるかに超える」「この異様さ」(【朝日社説】)であります。

 また大会前に鳩山首相が会談した小沢氏に対して「(検察と)どうぞ闘ってください」と述べた発言も、「小沢氏におもねったとしか思えない。行政府の長として極めて不適切な発言だ」(【読売社説】)、「行政府のトップである首相が、検察と対決する小沢氏を激励するかのような姿勢はきわめて異常」(【産経社説】)と批判しています。

 ・・・

 このように小沢批判一色となりメディアスクラムとも言える論説が並ぶと、天の邪鬼(あまのじゃく)な不肖・木走は、へそを曲げて考えたくなります。

 たしかに民主党のこの異様な検察との全面対決色は「小沢氏の政治資金問題を不問に付したまま、検察批判だけに傾斜するなら、与党として異様」(【日経社説】)でありましょう。

 だがしかし、検察側には落ち度はないのでしょうか。

 昨年の西松建設事件では、総選挙直前であったにもかかわらず突然、「政治資金規制法違反」を理由に大久保秘書を逮捕、小沢氏は、検察捜査との対決姿勢をとりながら、しかし直後に代表辞任に追い込まれました。

 しかるに同じ西松建設事件で浮上した自民党二階大臣(当時)に対しては、結局は略式起訴でお茶を濁してしまいました。

 そして今回の秘書逮捕劇であります。

 民主党・小沢氏側が検察に「狙い撃ちされている」(民主党幹部)と被害妄想にかられてしまうのも一部理解できます。

 ネットでは、一部の小沢支持派から、これは検察とマスコミが仕組んだ小沢退陣のためのクーデーターであるといった陰謀論も展開されつつあるようですが、私はその論には与しませんが、たしかに検察の民主党・小沢陣営に対する「意地」のような粘着を感じますし、タイミングも合わせてその強引さも感じます。

 検察はもっと国民に捜査説明を十分に尽くすべきですし、まずもって二階事務所など旧政権与党側のほうが遙かに斡旋収賄罪は立件しやすいわけですし、少なくともせめて悪事には平等に対峙していただきたいです。

 多くの国民は金権体質という点では、民主党よりも自民党のほうが本家であると今でも認識していることでしょう。

 ・・・

 さて、本件に対する私の立場は明快です。

 1.検察はたしかに小沢事務所に「意地」と「執着」を見せている(タイミングや手法が強引に思えます)

 2.陰謀論には与しない(検察とマスコミ、確かに両者とも問題有りだと思いますし、ともに最近一般大衆に評判がよろしくないですが、でも彼らを悪玉にするのは本質論とはならないでしょう、また両者は仲良くない(苦笑)ですし)

 3.法に裁かれるかどうか以前に、今回の小沢氏の蓄財手法はそもそも批判されて当然である。

 まず検察は確かに小沢に執着しているが陰謀論はちょっとないだろうというところから。

 根拠の一部を今週発売の週刊文春1月21日号の地検内部リーク記事(東京地検特捜部は小沢を追いつめられるか』)の記述から要約して説明いたしましょう。

 記事によれば、1月8日夜、樋渡利秋検事総長はマスメディアの司法担当者を集めて都内で会食しています。

 その際、当面の焦点であった石川議員の在宅起訴の見通しについて某社記者から質問が出たときに、場の空気は一転して凍り付くことになります。

 「大久保氏の時は「身柄」だったのに、今回は何が違うんですか」

 さらにこの記者が石川氏の「逮捕」になぜ踏み込まないのかと検察上層部の弱腰を指摘始めると、しだいに樋渡総長の顔色が変わり、やがてその場は二人の罵声が響いたのだそうです。

 この情報からもわかるとおり、検察上層部は今年年明けの段階でも石川氏の逮捕には及び腰であったのです。

 実は樋渡利秋検事総長だけではなく大森宏東京高検検事長もこの段階では穏便な決着を望んでおり、それは強引な捜査の反動で検察人事への政治介入を許すことを恐れていたのだと推測されています。

 しかし現場、つまり地検特捜部はこの上層部の弱腰に納得していませんでした。

 検察上層部に対するこの不満が、昨年暮れ当たりからのマスコミを通じた大量のリーク情報流出という形になってあらわれたようです。

 そのリークの中には、水谷建設関係者による「裏金疑惑」という特捜部にとっての「切り札」もあったわけです。(記事の概要ここまで)

 実際には小沢氏のかたくな事情聴取要請拒否や石川氏の供述「土地代金の原資となった四億円については、小沢氏から紙袋で受け取った」が、上層部も「在宅起訴」から「逮捕」へと踏み込んだ決め手になったのでしょうか、その断定は現時点ではできませんが、結局検察側はあえて強行策に打って出たわけです。

 これらの情報から推測できることは、検察は小沢事務所に並々ならぬ「執着」を持っていることは事実ですが、検察内部も決して一枚岩ではなく、またマスメディアに積極的にリークしていたのは事実だとしても、それはクーデーターうんぬんというよりも検察内部の権力闘争的色合いが強いモノであります。

 ・・・

 次に、法に裁かれるかどうか以前に、今回の小沢氏の蓄財手法はそもそも批判されて当然であると私は考えています。

 不肖・木走は3年前からこの問題を追求してきました。

 興味のある方は是非以下のエントリーをご一読あれたし。

2007-01-16 小沢氏、総務省よ、ふざけるな! 3億6千万円の不動産取得が何で人件費なんだ?(怒
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20070116
2007-10-09 「経費」から「収益」が発生する見事な小沢一郎氏の詭弁会計術
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20071009

 どうも忘れやすいのか日本のマスメディアがどこも指摘しないので、当ブログでしつこく指摘させていただきますが、そもそもこの4億近くの土地購入費、つまり明らかにこれは「資産」であるわけですが、このお金を当時小沢事務所では「事務所費」という「費用」計上している、財務処理上でたらめな処置をしていたことです。

 当時の当ブログから。

(前略)

●小沢氏、総務省よふざけるな! 3億6千万円の不動産取得が何で人件費なんだ?(怒

 本件に関しては、総務省見解によれば、総務省側に「明らかな物差しがあるわけでもない」のであり、政治資金規正法施行規則としては「その是非の判断は国民にしてもらうという制度」なのだそうです。

 では、国民の一人として本件に関する「是非の判断」をさせていただきましょう。

 まず総務省に一言。

 ふざけるなよ(怒

 「その是非の判断は国民にしてもらうという制度」とか宣っていますが、いつどこに具体的に政治資金規正法施行に関して国民が判断できる機会や場所を用意したんですか?

 本件に関し、どのような情報開示手段と判断する制度が国民側に用意されているのか、行政側の担当責任者として総務省自治行政局政治資金課は説明していただきたい。

 そんなものどこにもないじゃないですか。

 「その是非の判断は国民にしてもらうという制度」なのか知りませんが、現実としては国民側には何も手段が提供されていないじゃないですか、そんなお飾りの実態の伴わないきれい事を述べてほしくありませんね。

 だいいち、宿舎の建設が「事務所の維持に通常必要とされる」にあてはまると考えにくいと思うが、という記者の質問に対し、「人にかかる経費と考えれば人件費だし、そこは実態判断になる」とか適当なこと言ってましたが、一民間企業経営者として税務署に厳しく毎年会計を洗い出させられている立場から言わせてもらいますが、

 3億6千万円の不動産取得が何で人件費なんだ?(怒

 人件費は「経費」であり不動産は「資産」ですよ、当たり前の会計のイロハも無視してしまうのですか。

 ・・・

 政治にお金が必要なのはよく理解しているつもりです。

 しかし政治資金は税金も投入されている国民の浄財であります。

 最低限の情報開示と当然ですが一般常識を踏まえた国民が理解できるモラルを守った会計処理が求められているのです。

 小沢氏は「秘書の給与が低いから、宿舎を提供してやろうと、(私の自宅の)近所に購入した。(事務所費に)計上するしかない」とたわけたことをぬかしていますが、冗談じゃない、秘書の給与が低いなら、人件費として秘書たちの給与をアップしてあげればいいだけで、なんで小沢氏名義の3億6千万円の不動産取得をしなきゃいけないんですか?

 馬鹿も休み休み言いなさい。

 国民の浄財を、人件費として経費計上するよりも、「秘書の寮」という名目で単に流用可能な不動産を取得して資金プールするという小細工しただけじゃないのですか?

 ・・・

 「その是非の判断は国民にしてもらうという制度」という現行の政治資金規正法なのですが、これではもうなんのチェックにもならない「天下のザル法」なのであります。

 この時点では政治資金規正法自体がまったくザル法であり、その法律の設立趣旨からいってまさか政治団体が浄財を悪用して不動産購入などの蓄財をすることを想定していなかったのです。

 小沢氏のこの行為はしたがって違法ではありませんが脱法行為に等しいと私は痛烈に批判したのであります。

 彼の蓄財行為が脱法行為であった論より証拠は、このときのこの問題は、国会でも大きく取り上げられ、その年の10月にこの問題をきっかけにして、政治資金規正法は改正され、政治団体政治資金団体の不動産購入は違法行為として全面的に禁止にされました。

 つまり、法に裁かれるかどうか以前に、今回の小沢氏の浄財を用いた蓄財手法は、そもそも批判されて当然であるのです。



(木走まさみず)