天皇陛下即位20年の日の毎日社説と産経社説を比較検証(おまけ付き)
1989年1月7日、当時の小渕恵三官房長官が記者会見で「平成」と大きく墨で書いた紙を掲げるテレビ映像が目に焼き付いている読者も多いことでしょう。
天皇陛下が即位して20年を迎えました。
で、7日付けの社説で毎日と産経がそれぞれ天皇陛下即位20年を取り上げています。
【毎日社説】天皇陛下即位20年 「国民とともに」を実践した
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090107k0000m070137000c.html【産経社説】天皇ご即位20年 陛下の願いは国民の結束
http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/090107/imp0901070237000-n1.htm
朝日、読売、日経の「あらたにすトリオ」(苦笑)は社説では無視でありますか。
それはともかく【毎日社説】と【産経社説】ですが、読み比べて見るとそれぞれの社の皇室へのスタンスとかが見えてきてとても興味深いです。
毎日社説から。
【毎日社説】天皇陛下即位20年 「国民とともに」を実践した
天皇陛下は7日、即位20年を迎えた。1989年のこの日からの「平成の皇室」の歩みに並行して日本社会は大きく変化し、世界の構造も転換した。その中で陛下は、憲法に従い国民とともにある「象徴天皇」像を誠実に実践し、そのあり方は定着したといえよう。
即位の礼(90年)に際し私たちは<昭和天皇も新憲法下では「象徴」であったことは当然だが、最初から「象徴」として即位したのは、天皇陛下が初めてなのだ。その意味では、憲法の予定した象徴天皇制が本格的に機能を始めたことになる>とその意義を挙げた。
陛下は既に即位直後に「皆さんとともに日本国憲法を守り、これに従って責務を果たすことを誓い、国運の一層の進展と世界の平和、人類福祉の増進を切に希望してやみません」と述べており、その意思や決意は固かったとみられる。皇后さまとともに実践した。
天皇として初めての全都道府県訪問は2003年に達成し、さまざまな場で直接国民に接した。阪神大震災や新潟県中越地震など大災害地でひざを突き合わせるように被災者に語りかけ、耳を傾けた。訪問が復旧作業などの支障とならないよう配慮も細やかだった。皇太子時代から友好親善の外国訪問を重ね、即位後では30カ国を超えた。
そして、戦争の傷跡を深く残す地への「慰霊の旅」では、沖縄など国内のみならず「玉砕の島」サイパン島にも赴いた。92年親善訪問した中国では「中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました」と戦争における日本の加害の歴史に言及した。
こうして陛下は「国民統合の象徴」として具体的になすべきことを自らに課すように行ってきた。それは現在・将来だけでなく、戦争という過去にも向き合うようであり、その歴史から目をそらさない真摯(しんし)さが内外の人々の心をとらえているともいえよう。
一方、健康が心配だ。
75歳の陛下は03年に前立腺がんの手術を受け、昨年末は不整脈、胃の炎症などで体調異変があった。公務多忙のほか、羽毛田信吾宮内庁長官は「皇統(皇位継承)問題など」で心労があったとの見方を示した。
これも長い懸案だ。男系男子の継承に限る現行皇室典範のままでは、将来皇位継承資格者を欠く事態さえ憂慮される。05年、首相の私的諮問を受けた有識者会議は、継承安定のため女性・女系天皇を容認する意見をまとめたが、翌年、秋篠宮ご夫妻に悠仁さまが誕生し、改正への動きは事実上凍結されてしまった。
しかし、それは問題の先送りで、将来にわたっての懸念は未解決のままだ。
この節目に、負担をかける公務の軽減や簡素化とともに、皇位継承問題についてもオープンで多様な論議を広げたい。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20090107k0000m070137000c.html
「陛下は、憲法に従い国民とともにある「象徴天皇」像を誠実に実践し、そのあり方は定着した」とまず「国民とともに」を実践してきた天皇陛下の在り方を肯定評価した上で、「阪神大震災や新潟県中越地震など大災害地でひざを突き合わせるように被災者に語りかけ、耳を傾け」たり、「「慰霊の旅」では、沖縄など国内のみならず「玉砕の島」サイパン島にも赴いた」り、「中国では「中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました」と戦争における日本の加害の歴史に言及し」たりしてきたその足跡をたどっています。
そして「一方、健康が心配だ」とし、「公務多忙のほか、羽毛田信吾宮内庁長官は「皇統(皇位継承)問題など」で心労があったとの見方を示した」うえで、「皇位継承問題についてもオープンで多様な論議を広げたい」と、論を結んでいます。
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で、産経社説から。
【主張】天皇ご即位20年 陛下の願いは国民の結束
天皇陛下が即位されてから20年を迎えた。陛下は新年のご感想で世界的な金融危機に触れ、「国民の英知を結集し、人々の絆(きずな)を大切にしてお互いに助け合うことによって、この困難を乗り越えることを願っています」と述べられた。常に国民を思う陛下のお気持ちが察せられる。この20年間、陛下は国家国民のために祈り続けてこられた。
阪神大震災(平成7年)や新潟県中越地震(16年)など大災害のたびに、皇后陛下とともに現地に赴かれた。両陛下は被災者の前にひざをつかれ、直接お声をかけて励まされた。これを「平成流」と見る人もいるが、昭和天皇が戦後のご巡幸(じゅんこう)で示されたお姿を徹底されているように思われる。
また、戦後50年の平成7年夏、長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂の4カ所で原爆や地上戦、大空襲による犠牲者を慰霊された。戦後60年の17年には、激戦地のサイパン島を訪れ、多くの在留邦人や日本兵が命を絶った「バンザイクリフ」などで、皇后さまとともに深々と頭を下げられた。
陛下は昨年12月23日の75歳の誕生日に際してのご感想でも、「働きたい人々が働く機会を持ち得ないという事態に心が痛みます」と述べ、国民の英知の結集を願われた。急速な景気悪化を克服するためには、国民が力を合わせることも大切である。
天皇ご在位20年の間、日本が着実に自立への道を歩んだことも忘れてはならない。平成に入って、自衛隊がカンボジアPKOやイラク復興支援など国際貢献の舞台で活躍する一方、改正教育基本法や憲法改正に向けた国民投票法などの重要法案が成立した。この流れも大事にしたい。
陛下は暮れに体調を崩され、ご健康が心配されたが、2日の新年一般参賀で元気な姿をお見せになり、国民を安心させられた。
陛下は土曜、日曜もないほど多忙な日々を送られている。憲法に定められた国事行為をはじめとするさまざまなご公務のほか、年間約30件の宮中祭祀(さいし)を昭和天皇にならい、厳格に心を込めて執り行われている。陛下のご健康のため、宮内庁にご公務の負担軽減の工夫を改めて求めたい。
また、陛下のご心労の大きな原因は皇位継承問題である。天皇ご即位20年の節目の年に、この問題を白紙から再検討することを麻生内閣に重ねて要望したい。
http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/090107/imp0901070237000-n1.htm
「この20年間、陛下は国家国民のために祈り続けてこられた」とまず「陛下の願いは国民の結束」であるとした上で、「阪神大震災(平成7年)や新潟県中越地震(16年)など大災害のたびに、皇后陛下とともに現地に赴かれた。両陛下は被災者の前にひざをつかれ、直接お声をかけて励まされた」たり、「平成7年夏、長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂の4カ所で原爆や地上戦、大空襲による犠牲者を慰霊され」り、「17年には、激戦地のサイパン島を訪れ、多くの在留邦人や日本兵が命を絶った「バンザイクリフ」などで、皇后さまとともに深々と頭を下げられ」たりしてきたその足跡をたどっています。
そして「暮れに体調を崩され、ご健康が心配された」とし、「陛下のご心労の大きな原因は皇位継承問題である」としたうえで、「この問題を白紙から再検討することを麻生内閣に重ねて要望したい」と、論を結んでいます。
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えーっと、社説の冒頭の入り方から結語まで、毎日と産経の論説の基本構成がウリなんですが(苦笑)どうでしょう。
もっとも基本構成は同じながら文体も含めて細部ではそれぞれの社の皇室へのスタンスの差異とかが見受けられて興味深いですね。
まず、毎日社説ではいっさい天皇陛下に対する敬語が登場してきません(爆)
それに対し、産経社説は社説タイトルをはじめ、「ご即位」、「お気持ち」、「お声」、「お姿」、「ご感想」、「ご在位」、「ご健康」、「ご公務」、「ご心労」と、くどい(失礼)ほどの敬語オンパレードであります。
まあ、以前、当ブログで天皇陛下に対する敬語不使用報道を徹底検証したことがありますが、朝日と毎日は皇室報道で一切敬語を使用しないのは変わってはいないようですね。
2006-06-10 天皇陛下に対する敬語不使用報道を徹底検証
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060610
それはともかく、敬語を使うか使わないかという文体の差以外で、大きな違いは、戦争の傷跡を深く残す地への「慰霊の旅」に対する意味づけです。
毎日社説は、あえて「中国では「中国国民に対し多大の苦難を与えた不幸な一時期がありました」と戦争における日本の加害の歴史に言及」と中国訪問を含めて言及した上で、
こうして陛下は「国民統合の象徴」として具体的になすべきことを自らに課すように行ってきた。それは現在・将来だけでなく、戦争という過去にも向き合うようであり、その歴史から目をそらさない真摯(しんし)さが内外の人々の心をとらえているともいえよう。
つまり、天皇陛下の「慰霊の旅」は、「戦争という過去にも向き合」い「歴史から目をそらさない真摯(しんし)さ」を「内外の人々の心」をとらえている、国際的外交術として評価しています。
これに対し、産経社説では「長崎、広島、沖縄、東京都慰霊堂の4カ所で原爆や地上戦、大空襲による犠牲者を慰霊」とか、「激戦地のサイパン島を訪れ、多くの在留邦人や日本兵が命を絶った「バンザイクリフ」などで、皇后さまとともに深々と頭を下げられた」との記述に留まり、あくまでも日本国民に対する「慰霊の旅」であったことを印象付けています。
そして産経社説は、「ご在位20年の間、日本が着実に自立への道を歩んだことも忘れてはならない」とし、
天皇ご在位20年の間、日本が着実に自立への道を歩んだことも忘れてはならない。平成に入って、自衛隊がカンボジアPKOやイラク復興支援など国際貢献の舞台で活躍する一方、改正教育基本法や憲法改正に向けた国民投票法などの重要法案が成立した。この流れも大事にしたい。
「自衛隊がカンボジアPKOやイラク復興支援など国際貢献の舞台で活躍」するようになったことや「改正教育基本法や憲法改正に向けた国民投票法などの重要法案が成立」したことを取り上げています。
あえて天皇陛下の中国歴訪と「戦争における日本の加害の歴史に言及」には触れず、「天皇ご在位20年の間、日本が着実に自立への道を歩んだこと」を強調しています。
それぞれ毎日と産経のスタンスが見受けられて興味深いのです。
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●おまけ:ついでにコラムも比較検証
日本の大新聞はそれぞれ朝刊一面に名物コラムを載せています。
で、ときにそれぞれの社の論調が、社説などでは堅苦しく表現している内容がむき出しのわかりやすい文章で表出していることがままあります。
これは各紙の名物コラムが論説委員OBなどが担当していることからある意味で当然でありましょう。
で、7日付けの毎日コラムの【余禄】と産経コラムの【産経抄】でありますが、それぞれの社説を補強するように天皇陛下即位20年を取り上げています。
毎日【余禄】の結語から。
▲そして世界不況に直面した今日である。だが積み重なった過去を一つ一つ思い起こせば、苦境を乗り切り、平成を願う心の支えも案外近くに見つかろう。天皇陛下のお歌だ。「戦(いくさ)なき世を歩みきて思ひ出づかの難(かた)き日を生きし人々」
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/
天皇陛下の反戦の思いを「「戦(いくさ)なき・・・」のお歌を結びに持ってくることで強調していますね。
で、【産経抄】の結語。
▼20年で世界情勢は激変したが、日本が攻撃されれば、米国や国連がウルトラマンのごとく助けてくれる、と信じ切っている能天気な国会議員のなんと多いことか。きのうの衆院代表質問も退屈で退屈で、あくびが出た。これでは、高齢にもかかわらず、国民のため日夜尽くされている天皇陛下のご心労が消えることは当分あるまい。
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/090107/trd0901070236001-n1.htm
ぷう、「日本が攻撃されれば、米国や国連がウルトラマンのごとく助けてくれる、と信じ切っている能天気な国会議員のなんと多いことか」と嘆かれております。
なるほど、「これでは、高齢にもかかわらず、国民のため日夜尽くされている天皇陛下のご心労が消えることは当分あるまい」という結びです。
しかし、ウルトラマンって(苦笑)どうでしょう。
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●おまけのおまけ:一方そのころ朝日の天声人語は・・・
一方そのころ、朝日新聞の名物コラム【天声人語】なのでありますが、思わず失笑してしまったので全文ご紹介。
しばらく前の週刊朝日で脚本家の内館牧子さんが「ポニョ」について書いていた。「崖(がけ)の上のポニョ」ではなく、「肘(ひじ)の上のポニョ」の話だ。二の腕に余分な肉がついてポニョポニョしている。これは多くの中年女性が頭を痛める問題なのだという▼ほかにも「腰の上のポニョ」やら「尻の下のポニョ」やら、生息場所は体中にあるそうだ。だから油断は禁物らしいが、それは女性に限らない。正月休みを終えて、わが身のポニョの気になる人が少なからずいるのではないか▼最近は「正月メタボ」などと言うそうだ。体を動かさず、もっぱら口を活躍させた結果である。この年末年始は曜日の巡りで休みが長く、不況で「巣ごもり」が流行(はや)った。ポニョの「作況指数」は、例年を上回る豊作になりそうである▼人の肥満は農耕とともに生じ始めたといい、糖尿病との付き合いも古くさかのぼる。時をへて、今や「国民病」の様相だ。暮れに厚生労働省が、患者とその予備群は推計2210万人にのぼると公表した。40代以上だと3人に1人が該当するそうだ▼運動不足や偏食、過食が大きな要因らしい。症状もなく忍び寄って体をむしばむ生活習慣病である。正月についた「食っちゃ寝」の習慣と無駄な肉は、早めの退治がお勧めだ▼天の配剤というべきか、きょうは七草粥(ななくさがゆ)で無病息災を願う日。胃袋を休め、質素に食べて気を引き締め直すのもいい。七草をとんとん刻めば、音が邪気を払ってくれるという。ズボンやスカートの胴が楽になった気がしたら、それは儲(もう)けものである。
http://www.asahi.com/paper/column.html
天皇陛下のテの字もありませんが、それにしても「尻の下のポニョ」って(苦笑)
・・・
いいんですよネ、朝日はこれでいいんです。
いろんな論説があって、何を社説で取り上げるか、コラムで取り上げるか、それも含めてこれぞ言論の自由というものであります。
全メディアが同じ論調になるほうが恐ろしいというものであります。
それにしても「尻の下のポニョ」って(苦笑)
(木走まさみず)