中国政府は金正日体制を見限るか?〜中国政府による中朝友好協力相互援助条約改正の可能性
当ブログでは前回のエントリーにおいて、アメリカ大使館筋の情報として、第一に北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返す、また、第二に今回だけは中国もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子である、という2つの予測をお伝えいたしました。
(前略)
■北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すだろう
木「え? 高い確率で近日中に核実験を繰り返すと予測しているの? その予測の根拠は?」
ス「根拠というよりも常識だよ。パキスタンやインドの核実験の例を持ち出すまでもなく、1回の核実験だけで技術的に成功を収めることはあり得ないからだ。通常は複数回繰り返すことにより精度の高いデータも蓄積できるし、技術的課題も改良したりしながらはじめてクリアできる。あと、衛星写真からのやつらの動きや中国政府筋の北朝鮮情報などを総合して分析して、核実験を再度彼らが行うことはほぼ間違いないだろうとふんでいるんだ」
木「そして再実験するならば近日中だと」
ス「そうだ。時間をおいても彼らにはメリットは何もない。早ければ数日中に再実験をするはずだ」
(中略)
■今回だけは中国もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子
木「しかしアメリカもブッシュ大統領が軍事攻撃はありえないと明言しているし、中国としても北朝鮮の体制が崩壊して大量の難民が発生したり最悪の場合北朝鮮が自暴自棄になり韓国や日本に攻撃を仕掛けるような最悪のケースだけは避けたいんじゃないのか」
ス「たしかに、今回の制裁措置により北が一気に崩壊するようなことだけは絶対に避けたい点では、アメリカと中国の利害は完全に一致しているね。ただ、今回だけは中国側もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子なのがうかがわれるんだ。」
木「中国側のある覚悟?」
ス「我々の入手している情報によれば、正式な決定ではないが、現在、中国政府内で極秘裏に大きな外交政策の転換が図られている可能性があるとのことだ。詳細は不明だがそれは北朝鮮の将来に関わる重大な内容を含んでいるはずで、もしその政策転換が決定すれば、もしかしたら中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動が近いウチに示される可能性ですら、ゼロではないようだ」
木「中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動とは具体的には何を指すの?」
ス「もちろん軍事的行動では絶対ないと思うし、その真意とは裏腹に、外交的配慮がなされたゆるやかな表現に加工されるだろう。が、私たちの現在得ている情報はそこまで。今後の中国と北朝鮮の関係は極めて流動的だが、アメリカ政府としては、現在中国政府との北朝鮮に関する情報交換はかつてない良好な関係で推移している。大使館としても冷静に情報収集しながらその関係の推移を見守っているところだ」
(後略)
■[朝鮮]北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すという予測〜今回だけは中国もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20061014
今回は前回エントリーしてから今日(19日)までの5日間の動向をネット報道で検証しつつ、当ブログでご紹介したこのアメリカ大使館筋の「中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動」が何を意味するのか考察してみたいと思います。
●再度の核実験可能性、米メディア次々と報道〜産経新聞記事
まず、北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すであろうとしたアメリカ大使館筋の情報ですが、今日(19日)現在再実験はされていないようですが、状況は予断を許さないようです。
今日(19日)の産経新聞記事から・・・
再度の核実験可能性、米メディア次々と報道
【ワシントン支局】北朝鮮の再度の核実験の可能性について米国各メディアの報道が相次いでいる。北朝鮮外務省高官も核実験を「自然なこと」とし、否定していない。こうした中、ブッシュ米大統領は北朝鮮からイランや国際テロ組織への売却に強い懸念を示した。NBCテレビは17日、「北朝鮮が複数回にわたる核実験を行うことを中国に伝えた」と報じた。また、CNNテレビは18日、米国の情報当局者の話として、「北朝鮮が今後、3回の核実験を行うことを中国軍に通告した」とし、少なくとも3カ所で実験の準備がされているのを米国の偵察衛星が確認していると伝えた。
ケーシー国務省報道官は同日、「そうした情報は中国から得ていない」と一連の報道を否定。また、米公共ラジオによると、ヒル米国務次官補も、「(2回目の核実験の)兆候があるのは明らかだが、即座に実行されることを示すものはない」と語っている。
一方、ABCテレビは同日、平壌からの報道を交えて、北朝鮮の李根外務省米州局長が「(核実験が再度行われたとしても)自然なことだ」と語ったことを報じた。李局長は実験の日時や場所、規模には触れなかった。
ブッシュ米大統領はこれらに関連し、ABCテレビのインタビューに対し「イランやアルカーイダに核兵器を売り渡そうとするなら、北朝鮮は重大な事態に直面する。核兵器移送の情報があれば、われわれは阻止する」と強く警告した。
(10/19 10:37)
「 CNNテレビは18日、米国の情報当局者の話として、「北朝鮮が今後、3回の核実験を行うことを中国軍に通告した」とし、少なくとも3カ所で実験の準備がされているのを米国の偵察衛星が確認している」と報道したそうですが、「ケーシー国務省報道官は同日、「そうした情報は中国から得ていない」と一連の報道を否定」しました。
「北朝鮮が今後、3回の核実験を行うことを中国軍に通告した」かどうか真相は現時点ではわかりませんが、「少なくとも3カ所で実験の準備がされているのを米国の偵察衛星が確認している」点は事実のようです。
また、北朝鮮の李根外務省米州局長が「(核実験が再度行われたとしても)自然なことだ」と語ったことからも近日中の再実験が危惧されています。
・・・
アメリカ大使館筋の情報としてスティーブ氏が語った内容を信じれば、おそらく「1回の核実験だけで技術的に成功を収めることはあり得ない」ことから、北朝鮮が複数回の核実験を強行する意志を固めており、「時間をおいても彼らにはメリットは何もない」ことから近日中に核実験を行う可能性はきわめて高いと考えられます。
●中国政府の極めて厳しい迅速な対応〜まさに北朝鮮側も当惑するような予想外の行動力
一方今回だけは中国もある覚悟を持って北朝鮮に対峙するとしたアメリカ大使館筋の予測ですが、報道によればその後の中国政府の対応はまさに北朝鮮側も当惑するような毅然とした行動力を示しています。
16日には早くも中朝国境にて、貨物トラックの通関検査を強化します。
中朝国境、貨物トラックの通関検査を強化
(2006年10月16日23時17分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061016id22.htm
中国は国連の北朝鮮制裁決議に基づく貨物検査に不参加を表明していますが、自主的に通常の通関検査強化を行ったことで、北朝鮮と国際社会に対し「中国政府のこれまでにない覚悟」を示す狙いもあったのでしょう。
続いて17日の産経新聞では中国が、北朝鮮国境付近に”鉄のカーテン”を新たに設置していることが報道されいます。
中国、北朝鮮国境付近に”鉄のカーテン” 越境防止か
【2006/10/17 東京朝刊から】
http://www.sankei.co.jp/news/061017/kok002.htm
記事によれば、「脱北者の越境防止を目的としている」とされ、また、「丹東と北朝鮮側の新義州を結ぶ中朝友好の橋でも、物資を積んで北朝鮮へ向かう車両を調べる中国の武装警察官の姿が確認」されています。
さらに翌17日には中国政府は中国の一部金融機関からの北朝鮮への送金停止に踏み切ります。
中国の一部金融機関、北朝鮮への送金を停止
(2006年10月17日11時27分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061017id01.htm
同日、胡錦濤国家主席は訪中した扇参院議長と会談し、北朝鮮の核実験について、「北朝鮮に対しては、国際社会の強烈な反応を知らしめる必要がある」と述べ、異例の強い表現で、北朝鮮の核保有阻止のため強い圧力をかけるとの基本姿勢を表明しました。
胡主席「北朝鮮に国際社会の強烈な反応知らしめる」
(2006年10月17日20時32分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061017i112.htm
続いて翌18日、中国南方航空は北京と平壌を結ぶ定期便の運航を今月28日から停止することを明らかにします。
北京―平壌便を停止へ、再開の日程未定…中国南方航空
(2006年10月18日20時58分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20061018i213.htm
さらに本日(19日)には、中国で北朝鮮への石油輸出を担当する企業、中朝友誼輸油(本社・遼寧省丹東市)が16日から石油供給を削減している事実が明らかになります。
中国が北朝鮮への石油輸出を削減か
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20061019AT2M1802A18102006.html
報道で検証する限り中国政府の対応はまさに北朝鮮側も当惑するような毅然とした行動力を示しており、中国政府の予想外とも言える極めて厳しい決意が示されていると言えそうです。
●中国人研究者「北が侵略されても中国は介入しない」〜朝鮮日報記事
今日(19日)の朝鮮日報記事から・・・
中国人研究者「北が侵略されても中国は介入しない」
中国の学者たちが、北朝鮮と中国のうちどちらか1国が侵略された場合、自動的に軍事介入できるように定めた「朝中友好協力相互援助条約」の改正について話し合っている、と経済専門誌「財経」の最新号が報じた。同誌は「北東アジアの風雲“核兵器”、韓半島(朝鮮半島)に腰下ろす」と題する記事で、多くの学者が「北朝鮮の核兵器開発が原因で戦争が発生する場合、中国には軍事介入の義務がないということをはっきりさせるため、北朝鮮側に条約の改正を求めるべきだ」と考えていることを明らかにした。
ところがこれについて、中国外交部の秦剛スポークスマンは、北朝鮮が核実験を断行する前の今年9月15日、「中国は“朝中友好協力相互援助条約”の改正を検討していない」と否定している。
しかし、中国外交部は「北朝鮮の核実験により、第3国が侵略してくる場合は、相互援助条約による軍事介入の義務を履行しない」という内容の条約改正案を北朝鮮外務部に覚書形式で伝達した、と香港の時事週刊誌「開放」の最近号は報じている。
これと関連し、北京大学国際関係学院の王勇教授は「条約は、北朝鮮が侵略されたときのことを想定して結ばれたもの」としながら、「北朝鮮自身の過ち(核実験)で軍事的制裁を受けた場合には、中国にも介入しなくていい自由がある」と話した。
このほか、「財経」は「中国政府は、▲北朝鮮の核実験による北東アジア地域の軍備拡張競争の触発、▲窮地に追い込まれた北朝鮮による冒険的行為の断行、▲北朝鮮での内乱発生と北朝鮮難民の大規模な流入、▲放射能汚染、などさまざまな可能性を取り上げ、韓半島政策を新たに調整していかなければならなくなった」と伝えている。
北京=チョ・ジュンシク特派員
朝鮮日報
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/19/20061019000030.html
「北朝鮮自身の過ち(核実験)で軍事的制裁を受けた場合には、中国にも介入しなくていい自由がある」(北京大学国際関係学院の王勇教授)とは興味深い情報です。
経済専門誌「財経」の最新号によれば、「多くの学者が「北朝鮮の核兵器開発が原因で戦争が発生する場合、中国には軍事介入の義務がないということをはっきりさせるため、北朝鮮側に条約の改正を求めるべきだ」と考えていることを明らかにした」そうですが、このような情報が公然と報道される状況自体がことの深刻さを顕わしていると言えましょう。
ところで、記事にも指摘あるとおり、中国外交部の秦剛スポークスマンは、北朝鮮が核実験を断行する前の今年9月15日、「中国は“朝中友好協力相互援助条約”の改正を検討していない」と否定しています。(木走注:今年9月15日と記事に書かれていますが9月5日の誤りだと思います)
「中朝友好協力相互援助条約」について 外交部
外交部の定例会見で5日、秦剛報道官が記者の質問に答えた。
――中国は1961年に締結した「中朝友好協力相互援助条約」に基づき、関連する防衛義務を履行する意思があるか?
今年は「中朝友好協力相互援助条約」の締結から45周年にあたる。同条約は中朝両国の友好協力促進に重要な役割を果たしてきた。中国は朝鮮側と共に、引き続き同条約の精神に基づき、両国の善隣友好協力関係の発展を促し、朝鮮半島および地域の平和と安定を守っていく。朝鮮半島の平和と安定の維持は、中国が朝鮮半島問題を処理するうえでの出発点である。中国は他の国々とともに、このために努力していきたい。(編集NA)
「人民網日本語版」2006年9月6日
http://j.people.com.cn/2006/09/06/jp20060906_62780.html
9月5日の時点では、中国当局は「同条約は中朝両国の友好協力促進に重要な役割を果たしてきた。中国は朝鮮側と共に、引き続き同条約の精神に基づき、両国の善隣友好協力関係の発展を促し、朝鮮半島および地域の平和と安定を守っていく」と明言し、「中朝友好協力相互援助条約」を今後も遵守していくことを強調していました。
ところが北朝鮮核実験後の10月10日における中国外交部の定例記者会見において、中国外交部の劉建超・報道局長は、北朝鮮とは「同盟関係ではない」と発言し、それまでの「中朝友好協力相互援助条約」を今後も遵守するという立場から大きく後退する発言をしたのです。
●中国と北朝鮮は同盟を結んでいるという言い方には賛同できない〜そのスタンスに大きな変化が見て取れる中国外交部
11日の中国情報局ニュースから・・・
外交部「核実験で中朝関係悪化」「同盟国ではない」
2006/10/11(水) 13:05:21更新
中国外交部の劉建超・報道局長(写真)は10日に開かれた定例記者会見で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核実験実施は中朝両国の関係に悪影響を与えたと述べた。また、北朝鮮とは「同盟関係ではない」と発言。ただし、朝鮮半島の非核化はあくまでも対話と交渉によるべきだと強調した。中朝友好協力相互援助条約に関しては、現状を維持したいという中国の意向を示した。毎週火曜日と木曜日に開催されている外交部の定例記者会見では、報道副局長(新聞司副司長)が質問に答えることが一般的だが、10日の記者会見は劉報道局長(新聞司司長)が務めた。中国の外交にとって、朝鮮半島情勢が極めてデリケートな局面を迎えているとの認識を示したものだと考えてよい。
劉局長は、北朝鮮の核実験強行を厳しく批判する中国政府の立場を改めて強調した。また、核実験により中朝関係は「悪い影響を受けた」と発言。しかし同時に、問題の解決は話し合いによるべきだとした。そして、「問題の解決がこれほど難しくなってしまった今こそ、我々は冷静に事態に対応する姿勢を保つべきだ」と述べた。
6カ国協議については「失敗ではない」として、「過去数年の努力により、重要な進展もあった」「問題は非常に複雑で解決は難しい。波乱があるのは予想していたことだ」「朝鮮半島の核問題を解決するには、最終的にやはり、(関係国が)6カ国協議のテーブルに着くことが必要だ」と述べた
劉局長は、核実験実施後には6カ国協議の参加国と外交ルートを通して意見交換を行ったと説明した。しかし「北朝鮮のキム・ジョンイル(金正日)総書記と話し合ったか」という質問には答えなかった。
また、「中国は北朝鮮の隣邦であり緊密な同盟国」という記者の言葉に対して、「中国と北朝鮮は同盟を結んでいるという言い方には賛同できない。中国はいかなる国とも同盟を結んでいない。中国と北朝鮮は、国際関係における準則に則った、正常な国と国の関係だ」と説明した。
ただし、対朝食料援助に関しては、人道主義と民生面からの必要性を十分に考えるべきだと述べた。中朝友好協力相互援助条約に関しては「見直すということは聞いていない」と答えた。
更に、「中国は北朝鮮の核開発に協力したことは一切ない」とした。その理由として、「中国は核拡散防止条約の締結国であり、国際的な約束を順守している」と述べた。
「国慶節の連休中、中朝国境が閉じられていたのではないか」という質問に対しては、「現在のところ、中朝国境は正常だ」と述べた。(編集担当:如月隼人)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=1011&f=politics_1011_002.shtml
「中国は北朝鮮の隣邦であり緊密な同盟国」という記者の言葉に対して、「中国と北朝鮮は同盟を結んでいるという言い方には賛同できない」とした中国外交部の劉建超・報道局長の言葉は、それに続く「中国は北朝鮮の核開発に協力したことは一切ない」とし「中国は核拡散防止条約の締結国であり、国際的な約束を順守している」とする説明をも含んで読み解くと実に重みのある発言だと思いました。
これは聞きようによっては中国政府としては、今後、二国間の条約である「中朝友好協力相互援助条約」よりも国際的な約束である「核拡散防止条約」を優先するという決意にもとれるわけです。
「中朝友好協力相互援助条約」に関しては「見直すということは聞いていない」とのみ答えた劉建超・報道局長ですが、9月5日の「引き続き同条約の精神に基づき、両国の善隣友好協力関係の発展を促」すとした中国外交部発言からすれば、そのスタンスに大きな変化が見て取れるわけです。
●中国政府は本当に金正日体制を見限る覚悟を決めたのか?〜中国による中朝友好協力相互援助条約改正の可能性
前回ご紹介したアメリカ大使館筋情報を伝えるスティーブ氏の発言、
「我々の入手している情報によれば、正式な決定ではないが、現在、中国政府内で極秘裏に大きな外交政策の転換が図られている可能性があるとのことだ。詳細は不明だがそれは北朝鮮の将来に関わる重大な内容を含んでいるはずで、もしその政策転換が決定すれば、もしかしたら中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動が近いウチに示される可能性ですら、ゼロではないようだ」
確証はありませんが「中国政府内で極秘裏に大きな外交政策の転換が図られている可能性」は高いようです。
「もしその政策転換が決定すれば、もしかしたら中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動が近いウチに示される可能性ですら、ゼロではない」の意味する行動が、中国政府による中朝友好協力相互援助条約の一方的改正である可能性もありそうです。
「中朝友好協力相互援助条約」は1961年7月11日に調印され、その正式名称は(中華人民共和国と朝鮮民主主義人民共和国との間の友好、協力及び相互援助条約)であり、次のような前文で始まっています。
中華人民共和国主席及び朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議常任委員会は,マルクス・レーニン主義及びプロレタリア国際主義の原則に基づき,かつ,国家主権及び領土保全の相互の尊重,相互不可侵,内政相互不干渉,平等互恵並びに相互の援助及び支持の基礎の上に,全力をあげて両国間の兄弟のような友好,協力及び相互援助関係を一層強化発展させ,両国人民の安全を共同で保障し,アジア及び全世界の平和を守り,かつ,強固にすることを決意し,また,両国間の友好,協力及び相互援助関係の発展強化が,両国人民の根本的利益に合致するのみでなく,世界各国人民の利益に合致するものであることを確信し,このために,この条約を締結することに決定し,それぞれ次のとおり全権代表を任命した。
http://www.panda-mag.net/data/chuchoujouyaku.htm
「マルクス・レーニン主義及びプロレタリア国際主義の原則に基づき」、「全力をあげて両国間の兄弟のような友好,協力及び相互援助関係を一層強化発展させ」る決意が唱われています。
その第二条には双方が第三国に軍事攻撃がされた場合は互いに「直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」ことが明記されています。
第二条
両締約は,共同ですべての措置を執りいずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて,それによって戦争状態に陥つたときは他方の締約国は,直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える。
また、第七条ではこの条約が「両締約国が改正又は終了について合意しない限り,引き続き効力を有する」と、片側だけでは破棄できないように縛りをかけています。
第七条
この条約は,批准されなければならない。この条約は,批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書は,平壌で交換される。この条約は,両締約国が改正又は終了について合意しない限り,引き続き効力を有する。
・・・
中国政府は「中朝友好協力相互援助条約」改正に踏み切るのでしょうか。
それを強行すれば、それは金正日体制を見限ることを意味するのです。
今日(19日)の朝鮮日報の記事から・・・
「金総書記の運命、チャウシェスク氏の二の舞い」
中国が北朝鮮問題の解決に向け、ルーマニア革命のケースについて研究している中で、「金正日(キム・ジョンイル)総書記はルーマニアのチャウシェスク氏に似た運命をたどるかもしれない」といった報道までが出されている。英国のサンデー・タイムズ紙は15日、中国人学者たちの言葉として、「中国は、独裁者チャウシェスク氏が処刑された1989年のルーマニア革命のようなものが北朝鮮で起きてくれることを、切望している」と報じた。
「中国は、ルーマニア革命が起きた政治状況について集中して研究してきたほか、チャウシェスク氏の処刑後に政権を握ったイリエスク元大統領にも意見を求めている」と同紙は報じている。
また、金正日総書記も北朝鮮指導者らにチャウシェスク氏が処刑される過程を収録したビデオテープを視聴するよう指示している、という。
サンデー・タイムズの報道を受け、「ルーマニアのメディアは、金正日総書記がチャウシェスク氏と似た運命をたどるものと予想している」と、AFPが17日報じた。
日刊紙エベニメントゥル・ジレイ紙は「チャウシェスク氏は、1970年代に北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席に会った後、個人崇拝思想を形成し始めた」とし、「ソ連がチャウシェスク氏の排除を願っていたように、中国は金正日総書記の排除を願っている」と報じた。
また、そのほかのメディアも、中国がソ連の選択した内容について研究している、と伝えている。
このほか、ルーマニアのリベラ紙は、北朝鮮特集として「核を開発した金正日総書記、チャウシェスク氏の終末について研究する」という見出しの記事を掲載している。
呂始東(ヨ・シドン)記者
朝鮮日報
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/19/20061019000028.html
「中国が北朝鮮問題の解決に向け、ルーマニア革命のケースについて研究している」と報じているのでありますが、興味深いのは「英国のサンデー・タイムズ紙は15日、中国人学者たちの言葉として、「中国は、独裁者チャウシェスク氏が処刑された1989年のルーマニア革命のようなものが北朝鮮で起きてくれることを、切望している」」点であります。
・・・
「ソ連がチャウシェスク氏の排除を願っていたように、中国は金正日総書記の排除を願っている」のだとすれば、中国政府が「中朝友好協力相互援助条約」改正に踏み切る可能性はあるでしょう。
条約の前文にある「全力をあげて両国間の兄弟のような友好,協力及び相互援助関係を一層強化発展させ」る関係を再構築するためにも、金正日総書記の排除するためには、皮肉なことに中国政府としては条約の第二条を改正しないとならないと考え始めているのかもしれません。
あるいは改正をしなくとも「北朝鮮自身の過ち(核実験)で軍事的制裁を受けた場合には、中国にも介入しなくていい自由がある」(北京大学国際関係学院の王勇教授)といった解釈の変更を北朝鮮側に示すのかもしれません。
中国政府は本当に金正日体制を見限る覚悟を決めたのか、当ブログとしても慎重に事態の推移を見守っていきたいと思います。
(木走まさみず)