木走日記

場末の時事評論

北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すという予測〜今回だけは中国もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子

 7月5日の北朝鮮によるミサイル連続発射から3ヶ月を経て、10月9日に北朝鮮は地下核実験を強行いたしました。

 この間、当ブログでは過去3回に渡りアメリカ大使館筋の情報をご紹介してまいりました。

【7月6日】
■[朝鮮]北朝鮮がロシアにすら事前通告しなかった理由〜金正日中枢部に不気味なある種の軍シフトが起こっている可能性

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060706

【7月9日】
■[国際]北朝鮮制裁決議案採決は日本外交の歴史的勝利か?〜戦後国連外交史上初めて日本が中国にチェックメイトしたという見方

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060709

【7月24日】
■[朝鮮]Xデーは今年9月9日?〜北朝鮮が核実験を強行する可能性

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060724

 お伝えした情報筋の話が、その後のメディア報道より一部先行した内容が含められていたことや、【7月24日】のエントリーでは北朝鮮は年内に核実験を強行するだろうという予測をし、不幸にして今回的中(実験時期は予測より1ヶ月遅かったですが)してしまいましたが、結果的にこの情報筋の話の情報精度が高いと判断できるいくつかの事後確認報道もあったために、多くの読者のみなさまの関心をいただきました。

 【7月24日】のエントリーより抜粋。

(前略)

■中国が一気に態度を硬化した可能性

木「北としては決議案に賛成した中国に対して強い不信感が芽生えたらしいが、それが原因なのか」

ス「いやいや北が中国に対する不信感が芽生えたのは結果論で、逆になぜ中国が決議案賛成に回ったのか、そこがポイントなんだよ。 実は正規ルートか裏ルートか定かではないが中国は北外交部からではなく北軍部情報として、北がさらなる軍事的強攻策を用意していることを知らされて、(中国は)一気に態度を硬化した可能性があるんだ」

朝鮮戦争停戦合意以来史上初めての全会一致の北朝鮮非難決議案がますます北外交部を弱めている

木「さらなる軍事的強攻策って?」
ス「ずばり核実験だよ」
木「核実験? それは北にとって外交的にはリスクが高すぎるんじゃないのか」
ス「アメリカ大使館の一部で真剣に憂慮されている筋書きはこうだよ。北の将軍は軍部の意向を無視できないために今回のミサイル連続試射に踏み切った。その結果外交的には中ソ同盟国まで北を裏切る形で国連決議案賛成に回った。日本ではあまり指摘されていないと思うが、今回の全会一致での北朝鮮制裁決議案は北外交部にとっては痛打となってしまったのだ。朝鮮戦争停戦合意以来史上初めての全会一致の北朝鮮非難決議案だからね」
木「外交部の権力はますます弱まっていると」
ス「今回のミサイル連続試射が外交的には何もえるモノがなかったことで、普通なら外交路線を柔軟に切り替える検討がされるべきなのだが、驚くべきことに北は次の軍事的チャレンジを準備してこのチキンレースエスカレートさせようとしている」

■日米相手に戦争勃発の崖っぷちまで追い込み、いっきに日米の譲歩を引き出す戦術

木「それが核実験ということだね」
ス「戦争の危機を助長し、日米相手に戦争勃発の崖っぷちまで追い込み、いっきに日米の譲歩を引き出す戦術なのかも知れない。彼等は過去の成功を忘れてはいないんだよ。これは、1994年に、戦争一歩手前までいった核危機の時に彼等が使った手なんだ。北朝鮮は結果としてカーター元大統領訪朝とジュネーブ合意を手にしている」
木「それにしても今回は当時と状況が違うと思うのだが。ブッシュ政権クリントン政権のような懐柔策を取る可能性は少ないのではないか」
ス「金正日はもはやいまさら弱気な策を取るわけにはいかない可能性がある。軍が収まらないというわけだ。外交的な果実を得るまではこのチキンレースエスカレートしつつ続行される危険があり、そしてその可能性は高い」

■Xデーとして最も危ない日は9月9日だ

木「もし北が核実験を強行するとすればいつなの?」
ス「Xデーとして最も危ない日は、ずばり過去の北の挑発行動から推測して9月9日だ」木「北の建国記念日だね」
ス「チキンレースは互いに正常な精神・判断力があるからゲームとして成立する。もし核実験を北が強行したらブッシュ政権はこのゲームから降りるかも知れない。その時はアメリカの国益のために限定攻撃も選択肢として現実味をもって検討されるだろう」

(後略)

■[朝鮮]Xデーは今年9月9日?〜北朝鮮が核実験を強行する可能性より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060724

北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すだろう

 北朝鮮による核実験が強行された今、再度、スティーブ氏経由でアメリカ大使館筋から新たに間接的に入手した話をご紹介しましょう。

■実験を偽装しても北側にメリットは何もない

木走「3ヶ月前に北朝鮮が核実験を強行する可能性について触れていた情報だけど、結果的に時期は9月9日が10月9日になったけど予測通りになったわけだ。現在の状況をアメリカ大使館側はどう判断しているの?」
ティーブ「近い将来に予想された北朝鮮の行動のいくつかの選択肢の中では、この時期の核実験の強行はまあ「想定の範囲内」だと思うよ、もちろん歓迎はしていないけどね」
木「一部報道によれば、今回の実験で各国で観測された地震波が予想より小さい値であったことやその後の大気中の放射能濃度の値に変化がないことなどから、「本当に核爆発だったのか」として核実験失敗説や偽装説も浮上しているけど、どうなの」
ス「米軍の解析結果がでていない現段階で確定的なことは言えないが、失敗説はともかく、偽装説はないだろうというのが大使館内部の主流の意見だ。理由は二つ。ひとつは核実験成功を広く内外に公表して国際外交的にはリスクを犯してしまってまで実験を偽装しても北側にメリットは何もない。どうせリスクを犯すなら本当の核実験をしたほうが彼らなりに合理的だろう、その能力は十二分にもっているわけだし」
木「つまり、ここまでリスクの高い賭けに出ている北朝鮮からすれば、核実験を偽装する必然性は何もないということだね。」

北朝鮮は高い確率で近日中に核実験を繰り返すだろう

ス「そういうことだ。あともう一つの理由は、アメリカ大使館側では、北朝鮮がかなりの高い確率で近日中に2回目、もしかしたらそれ以上の回数の実験まで行うであろうと危惧していること。続けて行うのだとしたら偽装する意味はないでしょ」
木「え? 高い確率で近日中に核実験を繰り返すと予測しているの? その予測の根拠は?」
ス「根拠というよりも常識だよ。パキスタンやインドの核実験の例を持ち出すまでもなく、1回の核実験だけで技術的に成功を収めることはあり得ないからだ。通常は複数回繰り返すことにより精度の高いデータも蓄積できるし、技術的課題も改良したりしながらはじめてクリアできる。あと、衛星写真からのやつらの動きや中国政府筋の北朝鮮情報などを総合して分析して、核実験を再度彼らが行うことはほぼ間違いないだろうとふんでいるんだ」
木「そして再実験するならば近日中だと」
ス「そうだ。時間をおいても彼らにはメリットは何もない。早ければ数日中に再実験をするはずだ」
木「逆に北が再実験をしなかったとすれば?」
ス「その場合は核実験の致命的な失敗説や偽装説も再浮上するだろうね、我々はその可能性は常識的に見て少ないと予想しているけど」

■状況は決して楽観できる段階ではない

木「ところで、北朝鮮の核開発技術力だけど、日本では今回の実験の成功をもってしても核弾頭としてミサイルに載せる重量にまで小型化するにはまだ技術的に高いハードルがあると分析している専門家もいるのだが、そのあたり北朝鮮の核開発技術力についてはアメリカはどう評価しているの?」
ス「現時点でノドンやテポドンに積むことができる核弾頭の製造能力を有してはいないだろうことはたしかだと思う。ただ、日本や韓国の危機感を不用意に煽るわけではないが状況は決して楽観できる段階ではないと思うよ」
木「どういうことか?」
ス「米ソのような核弾頭ミサイルを製造するのはいましばらく時間が掛かるだろうが、飛行機搭載の核爆弾や放射能を巻き散らかす「汚い核」ミサイルならば、充分に彼らでもつくる能力を有しているはずだ」
木「核弾頭ミサイルの製造技術の確立を待たなくても、現段階でも近隣諸国にとっては十分に脅威となるということか?」
ス「これはあくまで可能性の問題だ。大使館の一部では、もし金正日が手段を選ばず核兵器を持とうとするならば、当然のことながら核弾頭ミサイル以外の実現手段も検討しているだろうしあるいは開発に着手している可能性も完全には否定できない、という意見もあるということだ。もっとも他国への抑止力を考えればあくまでも北朝鮮は核弾頭ミサイルの開発を急ぐだろうから、このことは本質的な問題ではないけれどもね」

■今回だけは中国もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子

木「ところで、中国とソ連も今回は国連安全保障理事会で米国提示の制裁決議案に基本合意するようだね。今日(13日)の報道によれば中国の王光亜国連大使アメリカ案に「今日の話し合いで、互いの理解を深め、広く合意しうる案を作成することができた」と積極的に賛同している。中国は今回の北朝鮮の核実験強行にはそうとう頭に来ているとの話だが、アメリカ大使館としては今回の中国の一連の北朝鮮非難のスタンスを取っている積極的外交をどう評価しているの?」
ス「中国政府の金正日に対する信頼はこの核実験強行により完全に失墜したのは事実だと思う。一部には実は中国が事前に核実験にたいしお墨付きを与えていたという憶測もあるが、最近我々が得ている中国政府とアメリカ政府の協議内容からすると、今回はかなり厳しく北朝鮮に制裁を与えることに中国側が積極的に同意しているのは間違いない」
木「しかしアメリカもブッシュ大統領が軍事攻撃はありえないと明言しているし、中国としても北朝鮮の体制が崩壊して大量の難民が発生したり最悪の場合北朝鮮が自暴自棄になり韓国や日本に攻撃を仕掛けるような最悪のケースだけは避けたいんじゃないのか」
ス「たしかに、今回の制裁措置により北が一気に崩壊するようなことだけは絶対に避けたい点では、アメリカと中国の利害は完全に一致しているね。ただ、今回だけは中国側もある覚悟を持ってアメリカと協議している様子なのがうかがわれるんだ。」
木「中国側のある覚悟?」
ス「我々の入手している情報によれば、正式な決定ではないが、現在、中国政府内で極秘裏に大きな外交政策の転換が図られている可能性があるとのことだ。詳細は不明だがそれは北朝鮮の将来に関わる重大な内容を含んでいるはずで、もしその政策転換が決定すれば、もしかしたら中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動が近いウチに示される可能性ですら、ゼロではないようだ」
木「中国政府として金正日体制との決別を意味する明示的な行動とは具体的には何を指すの?」
ス「もちろん軍事的行動では絶対ないと思うし、その真意とは裏腹に、外交的配慮がなされたゆるやかな表現に加工されるだろう。が、私たちの現在得ている情報はそこまで。今後の中国と北朝鮮の関係は極めて流動的だが、アメリカ政府としては、現在中国政府との北朝鮮に関する情報交換はかつてない良好な関係で推移している。大使館としても冷静に情報収集しながらその関係の推移を見守っているところだ」

 この情報の正誤の判断・評価は読者におまかせいたしますが、みなさまのこの問題に対する考察の一助になれば幸いであります。



(木走まさみず)