木走日記

場末の時事評論

経済同友会レポート「今後の日中関係への提言」を検証する〜経済界が共有している小泉外交に対する危機感

 前回のエントリーで取り上げた経済同友会の小泉靖国参拝に関する進言ですが、コメント欄でも賛否両論有意義なご意見をいただいたようですが、早速昨日(12日)の朝日新聞産経新聞の社説でも取り上げられメディアでも多様な議論をまねいているようです。

 当ブログのスタンスとしては、前回のエントリーでも明確にしているように、ひとことでいえば、なぜ今一経済団体が政治に踏み込んだ進言をする必要があるのか、ということであります。

 特に私が問題だと思ったのは、靖国参拝問題を経済団体の中国委員会が「日中両国政府へのメッセージ」という形で日中外交問題という括りでカテゴライズしてしまっている点であります。

 そこで前回は経済同友会のレポートの内容を検証をせずメディア報道だけでエントリーしてしまいましたが、今回はレポートの中身を検証しつつ周辺情報も収集して、さらに踏み込んでこの問題を考察してみたいと思います。



●同友会提言 財界も憂える靖国参拝〜朝日社説

 昨日(11日)の朝日社説から・・・

同友会提言 財界も憂える靖国参拝

 経済団体のなかでも活発な政策提言で知られる経済同友会が、首相の靖国神社参拝に再考を求める「今後の日中関係への提言」をまとめた。

 日本の自主的な判断として、首相が参拝を控えるとともに、「民間人を含む戦争の犠牲者を慰霊し、不戦の誓いを行う追悼碑」を国として建立するよう提言した。私たちも共感できる。

 靖国問題では、同友会の代表幹事だった小林陽太郎富士ゼロックス最高顧問が、自宅玄関先で火炎瓶が燃やされるなどの脅しを受けた事件があった。小林氏は新日中友好21世紀委員会の日本側座長をつとめ、首相の靖国参拝に対し「個人的にはやめていただきたい」と語ったことがきっかけになったようだ。

 経済界には、靖国問題で発言することをためらう空気もある。小林氏を継いで同友会の代表幹事になった北城恪太郎・日本IBM会長が、この問題を避けずに提言をまとめたことに敬意を表したい。

 日中間の経済交流は拡大を続け、貿易額では04年以来、中国は日本にとって最大の貿易相手になっている。「政冷経熱」と言われるように、政治関係は冷たくても、経済関係は悪くない。

 それでも同友会があえて靖国問題をとりあげたのは、「いずれこの政治関係の冷却化が、両国間の経済・貿易面にも負の影響を及ぼす」という危機感を抱いたからだ。

 同時に、提言はそこにとどまらず、日本の安全と繁栄、東アジア地域の発展といった広い文脈のなかに対中関係を位置づけ、日本の基本戦略として良好な関係を築く必要性を訴えている。

 同友会の内部には「小泉首相は退くのだから、靖国の提言は不要」との意見もあった。しかし、「提言の実施は次の首相にも求める」ことで押し通したという。「ポスト小泉」の総裁選びに影響を与える狙いも込められている。

 納得できないのは小泉首相の対応だ。「財界の人から、商売のことを考えて、(靖国神社に)行ってくれるなという声もたくさんありましたけど、それと政治とは別です、とはっきりお断りしています」と述べた。目先のそろばん勘定からの提言と言わんばかりの態度はあまりに失礼だろう。

 経済財政諮問会議をはじめ、政府の重要な政策を決める会議などに、首相は盛んに財界人を招き入れている。それは、経営の実務を通じて培われた識見や指導力を政治に生かしたいということではないのか。耳に痛い提言は「商売のこと」と片づけてしまうのはフェアでない。

 経済的な利益だけが国益でないことは言うまでもない。けれど、経済発展を支え、障害を取り除くよう努めるのは政治家の基本的な仕事であることを忘れては困る。

 同友会の提言は、日中の自由貿易協定やエネルギーの共同開発、スポーツ・文化交流など多岐にわたっている。両政府とも真剣に受け止めるべきだ。

http://www.asahi.com/paper/editorial20060511.html

 朝日社説は、「「提言の実施は次の首相にも求める」ことで押し通したという。「ポスト小泉」の総裁選びに影響を与える狙いも込められている。 」と分析した上で、「納得できないのは小泉首相の対応だ」と小泉首相を批判しています。

 これまでも「首相は盛んに財界人を招き入れている」くせに、「耳に痛い提言は「商売のこと」と片づけてしまうのはフェアでない。 」と指摘しています。

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●同友会提言 中国干渉に手を貸す恐れ〜産経社説

 一方、昨日(11日)の産経社説から・・・

■【主張】同友会提言 中国干渉に手を貸す恐れ

 経済同友会小泉純一郎首相の靖国参拝について、日中関係改善のために「再考が求められる」と自粛を求める提言を行った。なぜ、この時期に提言など出したのか、首をひねらされる。

 中国の胡錦濤国家主席は三月末、訪中した日中友好七団体代表団の橋本龍太郎元首相(団長)らと会談し、「日本の指導者が『A級戦犯』をまつる靖国参拝をやめるのなら、首脳会談を開く用意がある」と述べた。秋の自民党総裁選を意識し、次期首相を牽制(けんせい)した発言である。韓国も同じような理由で首脳会談を拒否している。

 日本の政界でも、次期総裁選をめぐり、東アジア外交に絡めて靖国問題を焦点にしようとする動きがある。そんな時期に、経済同友会があえて首相の靖国参拝の自粛を求める提言を行ったことは、中国などの内政干渉に手を貸すことになりかねない。

 同友会は国立追悼碑の建立も提言している。この靖国代替施設構想も中国や韓国に同調したもので、日本国民のコンセンサスは得られていない。

 同友会の幹事会では、「この時期に公表すべきではない」「靖国参拝の再考など促すべきではない」といった異論が続出し、出席した約七十人の幹事のうち十一人が反対したといわれる。多数意見での採択は異例だそうだ。どんな反対意見が出されたのかも、同友会は明らかにしてほしい。

 小泉首相は「(これまで)財界から『参拝してくれるな』という声もあったが、『商売と政治は別だ』とはっきりお断りしている」と述べ、安倍晋三官房長官も「首相の言っていることがすべてだ」と話した。政府の一貫した姿勢を支持したい。

 提言は「中国などアジア諸国に少しでも疑義を抱かせる言動は、戦後の日本の否定につながりかねず、日本の国益にとってもプラスにならない」としている。そういう近隣諸国への過度の配慮が戦後日本の外交を誤らせてきたのではないか。これからは、中国などに疑義を持たれても、言うべきことをはっきり主張する外交が必要だ。

 靖国神社に詣でることは日本の文化であり、日本人の心の問題でもある。誰がいつ、いかなる気持ちで参拝しても、それが妨げられないような静かな環境を保ちたい。

http://www.sankei.co.jp/news/060511/morning/editoria.htm

 この時期に「経済同友会があえて首相の靖国参拝の自粛を求める提言を行ったことは、中国などの内政干渉に手を貸すことになりかねない」と産経社説は批判しています。

 小泉首相の「『商売と政治は別だ』とはっきりお断りしている」発言は、「政府の一貫した姿勢を支持したい」としています。

 「これからは、中国などに疑義を持たれても、言うべきことをはっきり主張する外交が必要だ」と結んでいます。

 結語の「靖国神社に詣でることは日本の文化」とは少しばかり言い過ぎなのではないか(苦笑)と思いますが、ようは産経持論の靖国参拝は「日本人の心の問題」なのだと言いたいようです。

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●「今後の日中関係への提言」を徹底検証してみる

社団法人経済同友会のサイトはこちら。

社団法人経済同友会
http://www.doyukai.or.jp/

 で今回のレポートはこちら。

今後の日中関係への提言
日中両国政府へのメッセージ

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/pdf/060509.pdf

  本文13ページの小レポートですが、さっそく内容を検証していきましょう。

 まず本レポートの目的は次のように示されています。

1.はじめに

 日中両国政府、両国国民の相互信頼と相互尊重は、アジアならびに世界の安定と繁栄に不可欠なものである。
 すなわち、日本と中国が友好関係を確立し、経済貿易関係を発展させることは、単に両国の利益と繁栄に貢献するのみならず、アジアひいては国際社会の平和と繁栄に貢献するものであると確信する。
 現在、中国における在留邦人数は、香港を含め10万人近く、日本からの対中直接投資は、2005年度末までの累計で533億米ドル(実行ベース)、設立された企業数は3万5千社に及んでいる。また、中国側統計によれば、日系企業による中国での納税額は04年度ベース490億元、日系企業による直接・間接雇用人員は920万人と発表されている。
 日本政府の統計でも2005年は対中貿易額が24兆9491億円、対米貿易額が21兆8761億円で、2004年以来、中国は我が国にとって最大の貿易パートナーとなっている。
 このように、互いの経済の発展ならびに両国間の経済・貿易の緊密度の深化にもかかわらず、一方、その政治面および両国の国民感情という面に於いては、極めて憂慮すべき情勢にあり、深刻に受け止めねばならない。いずれこの政治関係の冷却化が、両国間の経済・貿易面にも負の影響を及ぼすであろうことは想像に難くない。
 この状況を打開するためには、日本と中国が両国関係の明確なスタンスを改めて共有し、両国の共通利益を追求・拡大し、WIN-WIN(互恵・共栄)の関係を構築することが肝要である。
 そのために、旧来の「日中友好」を超える新たな基本理念、並びに基本政策に基づく具体的施策を、日本政府ならびに関係各方面、さらには中国政府関係当局に提言し、その実施を要請するものである。

 日中関係の現状を「互いの経済の発展ならびに両国間の経済・貿易の緊密度の深化にもかかわらず、一方、その政治面および両国の国民感情という面に於いては、極めて憂慮すべき情勢にあり」と分析した上で「この状況を打開するためには、日本と中国が両国関係の明確なスタンスを改めて共有し、両国の共通利益を追求・拡大し、WIN-WIN(互恵・共栄)の関係を構築することが肝要である」としているわけです。

 次にレポートは、<基本理念>三つとその理念に基づく基本政策4つをあげています。

<基本理念>
1)過去の反省と相互理解に基づく『未来志向の新日中関係』を構築する。
2)日中友好関係から、相互信頼・相互尊重の精神を深化させ、『包括的戦略的パートナーシップ関係』に発展させる。
3)様々な世界的課題および東アジアの持続的発展に向け、日中両国が連携・協力し、各国と共に発展する『共進化』に積極的に貢献する。
<基本政策>
1)未来志向の新日中関係を一一一一日中両国政府に対して
2)アジア外交の一層の重視を
3)新日中関係構築のために
4)包括的戦略的パートナーシップ関係ヘ

 ここでは各基本政策のコア部分を押さえておきましょう。

 まず「1)未来志向の新日中関係を」では、次のように日本政府に対して「中国等アジア諸国に少しでも疑義を抱かせる言動を取ること」は国益に反するとしています。

 日本としても、中国からのメッセージに応えて、両国関係の改善に努力していくことが大事である。その意味からも、相手側にとって、疑心暗鬼に繋がるような言動は慎むべきである。歴史への反省をもとにした戦後の平和国家への転換とその実績について、中国等アジア諸国に少しでも疑義を抱かせる言動を取ることは、他でもない戦後の日本の否定に繋がりかねず、日本の国益にとっても決してプラスにはならないことを自戒すべきである。

 次に「2)アジア外交の一層の重視を」では、小泉外交の日米関係偏重をふまえてでしょうが、次のように「アジア外交の重視」を加えるよう進言しています。

 日本政府は、現在、外交方針として「日米同盟」と「国連を中心とした国際協調」の二つを掲げているが、これに「アジア外交の重視」を加えて三本柱とすべきである。

 そして「3)新日中関係構築のために」では、「首脳レベルでの交流を早急に実現する上で大きな障害となっているのは、総理の靖国神社参拝問題」とした上で、「戦争による犠牲者すべてを慰霊し、不戦の誓いを行う追悼碑を国として建立することを要請」しています。

 第一の首脳レベルでの交流を早急に実現する上で大きな障害となっているのは、総理の靖国神社参拝問題である。この問題については、わが国が国際社会の中で占めている重要な地位と担っている責任に鑑み、自らの問題として主体的かつ積極的に解決すべきことであると考える。
 参拝の目的が、「心ならずも家族を残し国のために命を捧げられた方々全体に対する衷心からの追悼を行なうことであり、また将来にわたって平和を守り二度と悲惨な戦争を起こしてはならないという不戦の誓いを堅持すること」にあるとの小泉総理の考えは日本国民に広く支持されるものである。
 しかし、「不戦の誓い」をする場として、政教分離の問題を含めて、靖国神社が適切か否か、日本国民の間にもコンセンサスは得られていないものと思われる。総理の靖国参拝の再考が求められると共に、総理の想いを国民と共に分かち合うべく、戦争による犠牲者すべてを慰霊し、不戦の誓いを行う追悼碑を国として建立することを要請したい。

 最後に「4)包括的戦略的パートナーシップ関係ヘ」では、これからの日中関係は従来より「一段格上げした」「イコール・パートーナーシップの関係」を構築すべきであるとしています。

 新日中関係は、従来の友好・協力パートナーという関係から、一段格上げした二国間関係を目指す。対立よりも互恵・共栄を目指して、互いに相手を戦略的に重要な国として認め合い、実際の行動に移す関係を構築したい。
 安全保障上からも、経済面からも、対立よりも共栄が両国の国益に合致していることは言うまでもない。お互いに覇権を求めず、平和共存、共同繁栄、相互協力、内政不干渉といったイコール・パートーナーシップの関係により、両国互いの国益実現に向け協力すると共に、国際社会の安定化、とりわけ、東アジア経済共同体の実現に向け日中両国が主体となった協力関係を構築する。

 この三つの基本理念と四つの基本政策を実現するために、レポートが具体的な4つの提言を19の項目をあげて示していきます。

 提言1:相互理解の促進
 提言2:相互交流の促進
 提言3:日中経済関係の更なる深化を図る
 提言4:日本企業、経済団体としてできる行動

 各提言の詳細はレポート本文を読んでいただくとして、ここでは問題になっている靖国・慰霊碑関連に触れている「提言1」の部分だけ抜粋しておきましょう。

提言1:相互理解の促進

①民間人を含む戦争の犠牲者を慰霊し、不戦の誓いを行う音庫碑を、国として建立し、日本国民ひいては世界の人々が訪れることのできる施設とすることを提案したい。

②日本の中学・高校での近現代史教育の充実を図る。中学・高校では古代史から明治維新までの日本の歴史に相当の時間が割かれ、近現代史教育が十分ではないことから、近現代史の教育に充てる時間配分の再検討を提案する。

③日韓の間で行われた歴史の共同研究と同様、日中両国の歴史学者有識者による歴史問題・教科書問題の共同研究会を発足させることを提案する。
 その際、客観性を担保するため、二国間だけの研究に限らず第三国の有識者を加えた形についても検討すべきと考える。また、その成果を両国の中学・高校における近現代史教育に反映していくよう提案する。

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 全13ページを検証してみれば、総合的に日中の交流促進を進めるべく進言しているレポートであり、特に具体的提言では、スポーツ交流から日中投資協定の早期交渉・締結、東アジア経済共同体構想の推進と通貨面での協力、あるいは環境保全省エネルギー分野での日中協力から観光客の受入れ促進まで、細部まで気を配った経済団体ならではのレポートであると評価できましょう。

 しかしながらやはり、経済団体のレポートとしては、靖国参拝問題と慰霊碑建立問題でここまで具体的に日本政府に進言すると、ここの部分は一歩踏み込んだ提言であると見なされても仕方がないでしょう。

 ・・・



経済同友会会員に聞いてみる

 経済同友会はどのような意図でもってこの内容のレポートをこのタイミングで作成したのでしょうか。

 経済同友会は会員数1379名(2005年7月末現在)を有しています。

経済同友会 会員名簿
http://www.doyukai.or.jp/about/pdf/3member.pdf

 今回のレポートはその中で中国委員会に属する70名ほどの会員が作成したモノであります。

 私は昨日(11日)夜、仕事上でも取り引きさせていただいている、私の大学の研究室の先輩でもあり経済同友会の会員でもあるN氏に、電話でお話をうかがうことができました。

 15分ほどの電話取材でしたが快く応じていただいたN氏にはこの場をお借りして御礼申し上げます。

 匿名を条件にブログで会話の内容を公開することを許可いただきましたのでここにご紹介いたします。

 なお、N氏は中国委員会のメンバーではありません。

 また、ご紹介する発言はN氏個人の意見であり、経済同友会を代表する意見ではもちろんありません。

木「今回のレポートは何故このタイミングなのですか」

N「中国委員会では、今後の日中関係はどうあるべきか、過去10ヶ月近く有識者を招いたり委員の間で討議を重ねてきたと聞いている。したがってタイミングに特別な意図はないだろう。しいてタイミングうんぬんを言えば小泉首相の在任中にレポートを公開したいとは考えていたかも知れない」

木「小泉さんの在任中に?」

N「つまり首相後任人事に参拝否定派を選出してもらうための圧力として」

木「なるほど、しかし、ここまで踏み込んで靖国参拝批判をすることには反対意見はなかったのですか」

N「基本的にはなかったと聞いている。個別の議論は私は情報を持たないが、採決にまで持ち込まれたのはこのレポートの内容そのものではなくこの時期に発表すべきかどうか、発表のタイミングで揉めたと聞いている」

木「私は個人的に小泉首相靖国参拝は凍結すべきだと思っていますが、同時に中国・韓国に言われて参拝を辞めるという印象は、現在の対中国国民感情からいってまずいと思っていたのですが、中国委員会という小委員会が「中国外交問題」として「靖国参拝問題」を取り上げるのは、その意味でやり方がまずいと思うのですが、いかがでしょうか」

N「その質問は私は答える立場でない」

木「Nさんの個人的な意見としてでけっこうですが、どうでしょう」

N「私論でなら・・・ まず結果論になってしまうが、経済同友会として靖国問題を取り上げるとしたならば、中国委員会が一番妥当だったのだと思う。確かに靖国問題は国内問題でもあるし、外交問題としても対中国に限定した問題ではないけれども。まさか、経済同友会として靖国委員会をわざわざ作るわけにもいかない。」

木「なるほど」

N「しかし、今回ここまで踏み込んだのは、本質的には経済界が共有している小泉外交に対する危機感だと思う。日本経済にとってこれ以上つたない小泉外交のために対中国関係が冷やされてはたまらんということ」

木「たしかに「政冷経熱」と言われてますが、別に小泉さんが参拝していても経済界は太く熱い繋がりが中国とはあるじゃないですか。あえて経済団体がここまで踏み込まなくてもという意見も少なくないですが」

N「それは国民の認識が甘いのだと思う。今日、日本経済が長い不況を脱しつつあるのは、別に小泉構造改革が功を奏したからではなく、多分に中国経済の高成長に引っ張ってもらったことが主因であることは実業界ではみな認めていること。今の日本経済の状況は善し悪しは抜きにして国民が思っている以上に中国と相互依存の関係で成り立っている。」

木「なるほど、それは理解できます」

N「問題はこれから5年先、10年先。今回のレポートでも添付資料が添えられていたと思うが、現段階でもすでに日本にとり中国が米国を抜いて貿易相手国第一位なわけだが、添付資料をよく読み解けばわかると思うが、問題は中国の貿易相手国としての日本の地位にある。中国の対日本貿易は、ここ10年毎年シェアを落としており、遠くない将来日本は中国にとり貿易パートナーとしてはその他多くの国と同等のレベルにまで落ち込んでしまうだろうことは確実視されている」

木「数年先には中国にとって日本は主たる貿易相手国にはならなくなると」

N「日本側はますます中国経済に依存し貿易相手国第一位にまで貿易額が伸びてきたわけだが、中国の高度成長のなせるわざだがそんな日本より他の国との貿易のほうがますます盛んになっているから中国にとっては日本との交易の比重が下がっている。日中貿易は絶対額は相当伸びていて日本経済が復調するカンフル剤になったのだが、それはあくまで日本側の話であり、中国にとっては驚異的な成長の中で年々日本は無視できうる相手国になりつつある」

木「うむ、経済分野では将来的にはますます中国が主導権を握るだろうと」

N「私見だが、経済人は日本がまだ対等な立場である内に中国との関係を改善しないと手遅れになると危機感を持っているのだと思う。国の外交を経済だけで論じるなと言われればそれまでだが。」

木「貴重なご意見、ありがとうございました」

 最初にももうしましたがこれはあくまでもN氏の個人的意見であり経済同友会を代表する意見ではありません。

 また、他にもいくつかの貴重な発言がありましたが、上記の内容以外はご本人に公開の許可をいただけませんでした。

 しかしそれにしても日本経済トップの方々が抱えている小泉外交、特に対中関係の危機感は相当なモノであると再認識いたしました。

 この会話は、私にとっても意外な部分があり考えさせられる内容が多かったです。

 どうもこの問題に関して、私の考えをまとめ直す必要がありそうに思いました。

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 この問題を読者のみなさまが考察する上で、当エントリーが参考になれば幸いです。



(木走まさみず)



<関連テキスト>
経済同友会進言とインターネットの虚しい類似性
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20060510