木走日記

場末の時事評論

米国保守派からの警告〜「海洋国家」米国の対日政策は決して一枚岩ではない

●海洋勢力との連携こそ日本の選択〜先週の産経正論から

 5月10日付け産経新聞正論記事から・・・

■【正論】拓殖大学学長 渡辺利夫 海洋勢力との連携こそ日本の選択

近代史に学ぶ同盟の成功と失敗

中央アジア的暴力の脅威≫
 日本を取り巻くアジア地政学の現在をどう読み解くか。振り返っておくべきは極東アジアの近代史である。

 近代日本における最大のテーマは、巨大なユーラシア大陸の中国、ロシアに発し、朝鮮半島を伝わって張り出す「等圧線」からいかにして身を守るかにあった。

 この等圧線のことを、梅棹忠夫京都大学名誉教授はかつて、著書『文明の生態史観』において、“文明世界を嵐のように吹き抜けて癒(いや)すことのできない打撃を与える”「中央アジア的暴力」だと表現したことがある。

 日本が中央アジア的暴力と恒常的に対峙(たいじ)させられるようになったのは、十九世紀の末葉以降のことである。この暴力は朝鮮半島を通じて日本に及ぶというのが、極東アジア地政学的な構図である。

 李氏朝鮮において農民暴動「東学党の乱」が起こるや、李朝は直ちに清国に援軍を要請し、これを機に日本が出兵。日本が提出した日清共同による李朝内政府改革草案を清国が拒否して日清戦争が勃発(ぼっぱつ)した。

 日本はこれに勝利して、遼東半島、台湾、澎湖諸島などの割譲を得たが、強圧的な三国干渉によって、遼東半島の返還を余儀なくされた。そのことは読者諸兄周知の歴史であろう。

 山東省で蜂起した漢人の排外主義武力集団が北京に迫り、清国に進出していた列強の連合軍がこれに抗して戦ったのが「義和団事件」である。これを奇貨として、ロシアは満州に大量兵力を投入、ここに居座ってしまった。

 満州がロシアの手に落ちたという事実は、すなわち朝鮮半島において日露が直接対峙することと同義であった。

 ロシアの満州での権益拡大に強い嫌悪感を抱いたのが英国であり、ここに日英同盟が成立。日英同盟によって日本は独仏を牽制(けんせい)しながら強大な大陸勢力・ロシアに挑戦して、これにも勝利した。

 日清、日露の両戦役は、朝鮮半島地政学が日本にとって宿命的であることを心底知らしめた。

 両戦役に勝利した日本は、その後、対支二十一カ条条約の強圧的要求などを通じて大陸勢力の深い懐に進入していった。

東アジア共同体の危険性≫

 しかし、この事実が中国への勢力拡大を急ぐ「後発国」米国との関係を悪化させ、ワシントン海軍軍縮条約の締結と同時に、日本は日英同盟を廃棄せざるを得なかったのである。

 米国は太平洋と大西洋に挟まれた巨大な「島」であり海洋勢力である。日本は海洋勢力の支持を失い、ユーラシア大陸の中心部・中国で泥沼に足を取られて自滅した。

 一言で要約すれば、日本は海洋勢力の背後支援を受けて日露戦争に勝利し、その後、大陸に攻め入り、協調と同盟の関係を築くべき海洋勢力・英国との関係を断ち切られ、もう一つの巨大な海洋勢力・米国とも対決して、無残な敗北を喫したのである。

 第二次世界大戦での敗北によってユーラシア大陸との断絶を強要された日本は、一転して日米同盟を結び、西側世界の一員として迎えられ、穏やかな「戦後六十年」をうち過ごすことができた。

 「東アジア共同体」という妖怪がさまよっている。東アジア共同体構想には、中国の地域覇権主義が色濃く投影されており、共同体の形成は、日本はもとより、周辺アジア諸国にとっても危険なものとなろう。

 中国が東アジアにおいて覇権を掌握するための障害が日米同盟である。中国は自らの主導により共同体を形成し、これに日本を招き入れることによって、日本の外交ベクトルを東アジアに向かわせ、そうして日米離間を謀(はか)るというのが中国の戦略である。

≪地球儀を見て分かること≫

 日本が大陸勢力と連携し、海洋勢力との距離を遠くすることは、日本の近代史の失敗を繰り返すことにならないか。私の危惧(きぐ)は要するにこれである。

 私どもは、子供のころから真ん中に日本が位置する四角の平面地図を頭の中に刷り込まれてきた。

 平面図ではなく、地球儀を北極の方から眺めると、一段と巨大な中国、ロシアというユーラシア大陸を、北米、日本、台湾、東南アジア、西ヨーロッパなどの周辺部が取り囲むという図柄が見えてくる。日本の近代はこの図柄の中に凝縮されている。

 大陸を取り囲む周辺国家群が「協働」し、大陸を牽制しながら相互の繁栄を図るというのが賢明な選択であることを、日本の近代史の成功と失敗は教えている。(わたなべ としお)

平成18(2006)年5月10日[水] 産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/seiron.htm

 興味深い主張です。

 記事は、日本を取り巻くアジア地政学の現在を、中国、ロシア、韓国等の「大陸勢力」と、北米、日本、台湾などの「海洋勢力」に分けた上で、過去の歴史からタイトルの示すとおり、「海洋勢力との連携こそ日本の選択」だと主張しています。

 記事の結語。

 大陸を取り囲む周辺国家群が「協働」し、大陸を牽制しながら相互の繁栄を図るというのが賢明な選択であることを、日本の近代史の成功と失敗は教えている。

 国際政治をときに巨視的に地政学的要素を踏まえて論じることも決して無駄なことではないでしょう。

 考えてみれば、日本が最後に国際戦争に勝利したのは、第一次大戦のドイツ領占拠とか小競り合いはこの際無視しますと、101年前の日露戦争にまで遡らなければならないわけです。

 明治維新以後の主な日本の国際戦争と交戦国と勝敗をおおざっぱに考察しても、イギリス、米国などの「海洋勢力」と同盟関係にある間の、日清戦争日露戦争と続いた「大陸勢力」との戦争には勝利し、「海洋勢力」と敵対関係に陥ってしまった「日中戦争」は勝利することなく泥沼化してしまったわけです。

 結果、日本は「海洋勢力」英米に宣戦布告する無謀な太平洋戦争へと突入し、最後にはこてんぱんに負けてしまったわけですね。

 このような歴史から、日本が大陸に手を出したときにはろくな目にあっていないわけで、中国・韓国とは距離を置いて、「海洋勢力との連携こそ日本の選択」と主張するのも、私などは違和感はありません。

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 この大陸国家VS海洋国家の図式は、なにも拓殖大学学長渡辺利夫氏の専売特許ではなく、古くは帝国主義全盛の日露戦争当時の日英同盟のときから論じられてきたわけですが、当ブログでも昨年11月に韓国外交政策について考察した際に日経記事より引用していました。

大陸国家であることを思い出した韓国人

 7日付けの『NIKKEINETプロの目』では、鈴置高史編集委員のコラム『異なる道を歩み始めた日韓(11/7)』で、このあたりの韓国側の事情を以下のように説明しています。

大陸国家であることを思い出した韓国人

 あれほどまでに親米、反共国家だった韓国の急変心。それは驚きだが、よく考えれば、説明材料にはこと欠かない。「60年間も保護者づらをしてきた米国」への反発。そして、北朝鮮との和合路線を進めるには米国と距離を保つ必要があるとの判断。さらには、伝統的にも地政学的にも深い中国との関係だ。

 「日本からは36年間植民地支配を受けた。米国の保護を受けたのは60年間。だが、中国を宗主国にいだいたのは数百年」。韓国の知識人はしばしば中国の影響をこう説明する。

 それは「今」も続く「歴史」だ。一昨年、韓国の対中輸出額は「対米」を超えた。中国への外国からの投資額は、香港などの中華圏や、バージンアイランドなどタックスヘブン地域を除けば、韓国からが一位だ。 韓国と中国の関係は「日本と中国」とは比べものにならないほど深まった。

 地政学的に言っても、日本人が見落としがちなのは、韓国が島国ではなく大陸国家であり、北朝鮮をはさんで中国と接しているという事実だ。中国の精神的圧迫感は、海で守られている日本人にはなかなか分かりにくい。

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『異なる道を歩み始めた日韓(11/7)』より抜粋
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/suzuoki/20051105n58b5000_05.html

 「大陸国家であることを思い出した韓国人」とは興味深い切り口であります。

「左向け左」の韓国外交政策についての一考察 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051107

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 しかしながら、このようなマクロな視点で国際政治を捉え直すこともたしかに興味深いのですが、少しマクロすぎて決め付けが強すぎる点が難点と言えば難点でありましょう

 上記のエントリーでも私はこの図式のみに執着するのは少し国際政治力学を単純化しすぎているのではと疑問を投げていました。

 このような単純化したステレオタイプの見方はジャーナリズムがよく陥る甘い罠なのでありますが、実際の韓国人の思考はもう少し複雑なのではないでしょうか。

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 今回は今後の日米関係のあり方について少し考察してみたいと思います。



ブッシュ政権支持率30%割り「危険水域」に〜産経記事

 13日の産経新聞記事から・・・

米大統領支持率30%割る 政権運営「危険水域」に

 米リサーチ会社ハリス・インタラクティブは12日、今月5日から8日に行った世論調査で、ブッシュ大統領が「優れた、または非常に良い」仕事をしているとした人が前月を6ポイント下回る29%になったと公表。2001年1月の政権発足以来、支持率が初めて3割を切り、政権運営を行う上で「危険水域」とされるレベルに達した。
 大統領は先月から進めてきたホワイトハウスの幹部人事刷新で人気回復を狙ったが、泥沼化の続くイラク情勢や流入を防げない不法移民問題、1ガロン(約3.8リットル)当たり3ドルを超えるガソリン価格高騰が支持率急落の要因となった。

 11日には国家安全保障局(NSA)による国内通話記録の極秘収集活動疑惑も発覚し、元NSAトップで中央情報局(CIA)長官に指名されたヘイデン国家情報副長官の上院指名公聴会を18日に控える中、今後の政権運営はさらに厳しさを増しそうだ。(共同)

(05/13 21:25)
http://www.sankei.co.jp/news/060513/kok105.htm

 米国ブッシュ政権の支持率の低下傾向は歯止めが効かなくなってきたようです。記事にも指摘があるように、その原因は「泥沼化の続くイラク情勢」、「流入を防げない不法移民問題」、そして「ガソリン価格高騰」の3点セットでありますが、どの問題も一朝一夕には解決策を見いだせそうもない難問であるだけに、ブッシュ政権は今後厳しい政権運営を強いられそうです。

 かたや日本でも9月でポスト小泉政権が誕生する予定ですが、心配なのは、5年の長きに渡って続いてきたブッシュ・小泉の友好関係が終焉のときを迎えつつある今、新たな時代の日米関係の姿がいまだよく見えてはいず極めて不透明であることです。

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●「ブッシュ後」に必ずしも盤石な日米関係が継続するという保障はどこにもない〜毎日特集から

 13日の毎日朝刊土曜特集から・・・

日中、日韓、米はどう見る=ワシントン・及川正也

 ◇「靖国」で深入り避ける

 小泉純一郎首相の靖国神社参拝などで政治的対立が続く日中、日韓関係。ぎくしゃくする東アジア情勢を米国は、本音ではどう見ているのか。

 半年前の昨年11月、「同盟強化」と「自由と民主主義の拡大」の二本立てで東アジアを歴訪(日中韓など4カ国)したブッシュ大統領にはもう一つの狙いがあった。日中、日韓関係を未来志向へと転換させる「仲介外交」である。

 ブッシュ大統領は父ブッシュ元大統領が太平洋戦争で旧日本軍と戦ったことを引用し、「かつて日米は敵同士だったが、今はコイズミは私の大の友人だ」と歴史問題の克服を求めて回ったが、盧武鉉ノムヒョン)韓国大統領や胡錦濤中国国家主席先の大戦での日本の侵略の歴史にさかのぼり、首相の靖国参拝を批判。対立の根深さを浮き彫りにさせた。

 もともと米政府内の東アジア専門家には、アジアの戦後処理問題には口出ししないという慎重な姿勢が強かった。日本に肩入れすれば中韓の反発は必至だし、日本を批判すれば日本国内の保守派を触発し、対立をあおるからだ。この問題に深入りすれば日米間の歴史問題にも発展する。

 ドイツで議論が続く米英軍によるドレスデン大空襲と同様、米軍が行った東京大空襲や原爆投下をめぐる市民殺傷の戦時国際法違反問題が蒸し返される可能性もある。米国内の「靖国静観論」は日米関係への飛び火を避ける思惑が込められていた。

 一方、日中摩擦は米国にとって戦略的利益になるとの側面もあった。マイク・モチヅキ・ジョージワシントン大アジア研究所長は「北朝鮮核問題、対テロ戦争、中国抑え込みなどで日本がより米国との協調を強めるからだ」と指摘する。

 しかし、昨年の首相の靖国参拝でこの戦略は岐路に立たされた。中韓が日本の国連安保理常任理事国入り問題に歴史カードを絡めることで足並みをそろえ、「日本をアジアの悪玉に仕立てる」(マイケル・グリーン前米国家安全保障会議アジア上級部長)戦略に出たことで、日本がこの地域で孤立化する懸念が増大したためだ。

 また、01年の同時多発テロ以降、米国のアジア戦略は、同盟国や友好国との2国間関係を重視した「ハブとスポーク」論から同盟国間の協調関係を車輪やクモの巣状に張り巡らせる「ホイールとウェブ」論に転換した。

 中国を抱き込み対ソ連をけん制した均衡論が有効だった冷戦期とは異なり、非対称的な対テロ戦争ではPSI(大量破壊兵器拡散防止構想)など多国間協力が不可欠。ブッシュ政権高官が「良好な日中、日韓関係が米国にとっての利益になる」と強調し続けている背景にもこの戦略転換がある。

 今年4月の胡主席訪米前、ブッシュ大統領は改めて日中間の対話促進に意欲を示したが、米中首脳会談では日中問題は取り上げられなかった。自民党総裁レースが始まる中、この問題を取り上げれば「次期総裁は歴史問題を解決できる人」(日米外交筋)とのメッセージを送ることにもなる。

 「日米同盟重視」路線のブッシュ政権だが、米政界全体では「親中国派7割、親日本派3割」との見方もある。「ブッシュ後」に必ずしも盤石な日米関係が継続するという保障はどこにもない。

(後略)

毎日新聞 2006年5月13日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/eye/kaisetsu/

 ブッシュ政権が「日本に肩入れすれば中韓の反発は必至だし、日本を批判すれば日本国内の保守派を触発し、対立をあおる」ために、靖国参拝問題などで「アジアの戦後処理問題には口出ししないという慎重な姿勢」に終始してきたことは事実でありましょう。

 またマイク・モチヅキ・ジョージワシントン大アジア研究所長が指摘しているとおり、「日中摩擦は米国にとって戦略的利益になるとの側面もあった」のは当然でありましょう。

 振り返れば戦後の米国政権の東アジア政策は、ときに親日的に振る舞い、ときに親中的に行動することで、うまくバランスをとってきたとも言えます。

 記事の結語。

「日米同盟重視」路線のブッシュ政権だが、米政界全体では「親中国派7割、親日本派3割」との見方もある。「ブッシュ後」に必ずしも盤石な日米関係が継続するという保障はどこにもない。

 「米政界全体では「親中国派7割、親日本派3割」との見方もある」とはどこから出てきた数字なのか興味深いですが、「「ブッシュ後」に必ずしも盤石な日米関係が継続するという保障はどこにもない。」ことは事実でありましょう。

 特に共和党から民主党政権に変わった場合、私たち日本人には、クリントン政権時代、米国が日本を無視して中国と直接向き合った「ジャパンバッシング」という過去に苦い経験があるわけです。

 昨年の11月に当ブログでエントリーした内容から抜粋いたします。

(前略)
 
 したがって、日米関係を基軸に考えること自体全く異論はありません。

 しかし、ただあまりアメリカの外交政策を盲信して追随していると、いつはしごをはずされるとも限らないかも知れません。

 もう少し外交面で柔軟に多様な選択肢を担保しておく必要はないのでしょうか?

 ・・・


 私達日本人はクリントン政権時代のアメリカ政府のとった『ジャパンパッシング』政策を思い出すことが必要なのかも知れません。

 当時と今では中国の経済力も軍事力もちがいますし、単純に比較することはできないでしょう。また、ブッシュ政権以後これから将来のアメリカ政権がどのような外交政策をとるかは全くの未知数でありましょう。

 だがしかし、当時もクリントン政権が日本を無視して『米中蜜月』時代を構築し始めた時、日本政府もマスコミも予想しなかった出し抜かれた感じの狼狽ぶりであったのは、まだ私達の記憶に新しいところです。

 ただでさえ不況下にあった当時の日本メディアの、とても自虐的で惨めな論調を私たちは自戒を込めてけっして忘れてはいけないのでしょう。

(後略)

『日米蜜月』の今だから思い出したい『ジャパンパッシング』の頃 より抜粋
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051119

 日米関係を基軸に考えること自体全く異論はありませんが、「外交面で柔軟に多様な選択肢を担保しておく必要」はあるのでしょう。



●日本は次の大統領選までに日中韓の歴史問題をある程度解決すべき〜マイケル・グリーン氏の興味深い分析

 13日の読売新聞から・・・

小泉・ブッシュ後の日米同盟、日中韓歴史認識がカギ

 【ニューヨーク=大塚隆一】米ブッシュ政権国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を昨年末まで務めたマイケル・グリーン氏は12日、ニューヨークの日本クラブで講演し、小泉首相ブッシュ大統領が退任後の日米同盟について、楽観的な展望を示しながらも、中国、韓国との歴史認識問題が影を落とす恐れがあると警告した。

 日本語で講演したグリーン氏によると、日中韓の歴史問題については米国内でも意見が割れている。具体的には、<1>靖国参拝も支持する強硬な反中右派<2>日本に中国、韓国との関係改善を望みつつも、米国の介入は事態を複雑にするとして控えるブッシュ政権<3>基本的に親日だが、日本の役割が重要だからこそ米国が介入すべきだとする民主党右派<4>日本に批判的で、日米安保を強化すると米国もアジアで孤立すると主張する民主党左派やニューヨーク・タイムズ紙の論説委員会――などに分裂しているという。

 同氏は「日本は2008年の大統領選までにこの問題をある程度解決すべきだ。民主党政権ができたら、人にもよるが、正直に言って(日米関係への影響が)心配だ」と述べた。

 日米同盟の将来を総体として楽観している理由としては、日本で名前が挙がっている次期首相候補は反米でないこと、米国でも主流派の間では日米同盟の重要性について「超党派のコンセンサス」ができていることなどを挙げた。

(2006年5月13日11時20分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20060513i204.htm

 この元米ブッシュ政権国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長であったマイケル・グリーン氏の意見ですが、きわめて妥当な分析であると評価できましょう。

 先の毎日記事の「米政界全体では「親中国派7割、親日本派3割」との見方もある」は数字の根拠に多少疑問がありましたが、少なくともマイケル・グリーン氏のこの米国世論の分析は的確であると考えます。

<1>靖国参拝も支持する強硬な反中右派
<2>日本に中国、韓国との関係改善を望みつつも、米国の介入は事態を複雑にするとして控えるブッシュ政権
<3>基本的に親日だが、日本の役割が重要だからこそ米国が介入すべきだとする民主党右派
<4>日本に批判的で、日米安保を強化すると米国もアジアで孤立すると主張する民主党左派やニューヨーク・タイムズ紙の論説委員

 この保守派米国人の分析は信頼してよろしいでしょう。

 氏はブッシュ政権下で日米同盟強化を推進してきたキーマンであり、ブッシュ政権の東アジア外交の政策立案に深く関わってきた人物です。

 余談ですが、彼は9.11同時テロが起こる半年前の(社)国際経済政策調査会のシンポジウムで、すでに極めて先見性のあるオピニオンを掲示していました。

 そのシンポジウムのレポートより氏の発言部分を抜粋してご紹介いたしましょう。

(前略)

 私が日本の立場に立って対米戦略を立案すれば、

 ①いかにアメリカに日本を頼らせるか、

 ②いかにアメリカを日本の戦略に巻き込んでいくか、を考えることでしょう。

 たとえば、日本の戦略的発言力が、ワシントンで高まりつつあるが、これは、ワシントンが日本に依存しつつある証拠です。依存できるような相手だからこそワシントンは日本に依存することになる。

 ②については、日本の対韓国、対東南アジア戦略に、いかに上手に米国を巻き込んでいくかを考えることである。

 日本国家の安全保障政策をもっと明確にすることが、「自立性を高めること」だと私は思う。有事法制、共同演習、秘密情報法の制定は、「自立性を高めること」と同時に、日米同盟を効率的に機能させる道具でもある。「自立性を高めること」と「同盟の強化」は、それぞれ切り離せないのです。一方が他方を強化するいわば一石二鳥の効果を持つことになる。日本は、日米同盟関係を強めると同時に独自の安全保障政策をも強化することができるのです。

(後略)

United States-Japan Strategic Dialogue:
Beyond the Defense Guidelines
「21世紀の日米同盟:その具体的な形をさぐる」の中で より抜粋
http://www.okazaki-inst.jp/zak2ju/zak2juf.front.html

 このような軍事同盟重視の発想は、実は私の考えとは少し考えに隔たりがあるのですが、それはともかく、氏の指摘する心配事、「<3>基本的に親日だが、日本の役割が重要だからこそ米国が介入すべきだとする民主党右派」勢力や「<4>日本に批判的で、日米安保を強化すると米国もアジアで孤立すると主張する民主党左派やニューヨーク・タイムズ紙の論説委員会」勢力が米国政権として登場したときに、日本の「中国、韓国との歴史認識問題が影を落とす恐れがある」可能性は否定できないでしょう。



●米国保守派からのいつまでも靖国に執着していてよいのかという警告

 国際外交は「しなやかに、したたかに」が基本であると思っています。

 「しなやかに」国際世論が同調してくれるような、一貫性を持った信義と行動原理や主張を展開しつつ、あらゆる可能性を睨みながら「したたかに」多様な選択肢を担保しておくべきです。

 マイケル・グリーン氏の意見、「民主党政権ができたら、人にもよるが、正直に言って(日米関係への影響が)心配だ」という指摘に、ポスト小泉政権は真摯に対峙し外交施策を立案するときに参考にすべきでしょう。

 氏の警告、「日本は2008年の大統領選までにこの問題をある程度解決すべき」は傾聴に値するのではないでしょうか。

 私は、この米国保守派からの、日本政府はいつまでも靖国に執着していてよいのかという警告は、極めて重大なメッセージだと考えます。

 ブッシュ政権の次の政権が「基本的に親日だが、日本の役割が重要だからこそ米国が介入すべきだとする民主党右派」や「日本に批判的な民主党左派やニューヨーク・タイムズ紙の論説委員会」勢力である可能性は、無視してはいけないと思うのです。

 ・・・

 日本政府は、外交面で柔軟に多様な選択肢を担保しておくべきだと考えます。

 少なくとも「海洋国家」米国の対日政策は決して一枚岩ではないことを念頭に置くべきでしょう。
 


(木走まさみず)



<関連テキスト>
■「左向け左」の韓国外交政策についての一考察
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051107

■『日米蜜月』の今だから思い出したい『ジャパンパッシング』の頃
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20051119